

1.急増するテレビ番組制作会社の倒産
11月16日、東京商工リサーチが「テレビ番組制作会社の倒産が高水準 2023年は過去10年間で最多を更新」という調査結果を発表しました。
それによると、2023年1~9月のテレビ番組制作会社の倒産は14件に達し、前年同期(6件)の2.3倍のペースで増加中とのことです。通年での比較でも2014年以降の10年間で、最多だった2018年の13件を超えました。
倒産したのは、いずれも代表者を含めた従業員が数人の小規模業者ばかりで、14社のうち、従業員が「5人以上9人未満」は1社だけ。残り13社はすべて「4人以下」です。資本金別で見ても、78.5%の11社が資本金1000万円未満でした。
負債額も5000万円未満が12社。最大の負債額は6800万円で、1億円に達していません。通常の事業会社と異なり、商品在庫を抱える必要はなく、機材コストや人件費が大半で、負債額は限定的です。
地域別でみると、14社のうち、東京都が11社、大阪府が2社、愛知県が1社で、テレビ局や関連の制作会社が集まる都市部で発生していて、業態をみると、特に「旅番組」や「グルメ番組」「街歩き」など、比較的少人数のスタッフ、少額予算で作ることができる番組をメインに請け負う会社が目立って倒産しています。
2020年のコロナ禍前から人気だった「街歩き企画」「グルメ特集」「旅行企画」を主力にしていた制作会社は、外出自粛要請の長期化により、番組は中止に追い込まれるなど、受注減少が影響したとみられています。
また、番組制作費の減少も直撃した可能性も指摘されています。電通グループの「日本の広告費」によると、2022年のテレビの広告費は1兆8019億円で、前年比2.0%、10年前の2013年からは約5.3%減少しています。テレビの広告全体に占める割合も約25%に縮小しています。
このため、テレビ局の番組制作費は減少の一途をたどり、上場する在京キー局5社の制作費は、2022年度と2017年度を比較すると、テレビ東京を除く4社で減少。唯一、番組制作費が増加したテレビ東京も、強化コンテンツは主にアニメや配信が中心で、従来のテレビ番組制作からは大きく変容しているそうです。

2.風下から消えていく
これについて、東京商工リサーチ情報本部の二木章吉氏は、J-CASTニュースBiz編集部のインタビューに次のように答えています。
――倒産したのは、本当に小さい会社ばかりですね。テレビの広告減収と番組制作費削減という環境の中、スタッフが数人しかいない小規模制作会社が倒産しているというのですね。まぁ仕方ないといえばそうかもしれませんけれども、環境が変わらない限り、この流れはそう簡単に変わらないのではないかと思います。
二木氏:社長も含めて、従業員が4人以下というところがほとんどです。しかも大半が、大きい番組制作会社やスタジオから仕事を受注する「孫請け」という形です。仕事の形で目立つのは、バラエティーやドラマなどの制作を受け持つのではなく、「旅」や「グルメ」「街歩き」といった外に出るロケハンのスタイルです。2~3人のごく少人数で出来る内容です。そこに、コロナが直撃しました。外出自粛要請の長期化から「旅」や「街歩き」の番組そのものがなくなったり、番組を続ける場合でも、テレビ局が外部スタッフからの感染を恐れて、自分の局のスタッフで制作を行なったりするケースもありました。仕事がどんどん減ってきたのです。
――バラエティーやドラマに切り替えることはできなかったのでしょうか。
二木氏:いきなりバラエティーをやれと言っても、スタッフが数人しかいないし、番組制作会社ごとに得意分野があります。それぞれ競争が激しいから、割り込むのは難しいと思います。受注の相手先を調べると、実質1、2社というところがほとんどで、そこから仕事がもらえなくなったらピンチです。資金繰りに行き詰まり、コロナ禍の期間中は何とかコロナ関連の給付金やゼロゼロ融資などを活用して事業を継続して、行動制限の解除まで何とか持ちこたえていましたが、旅やグルメ番組の数は、コロナ以前ほどには回復しなかったと聞きます。コロナ禍の2021年には3件しかなかった倒産が、2023年になって急激に増えたのは、持続化給付金などの助成金もなくなり、ここに来て「息切れ」したのだと思います。
――ところで、「SMILE‐UP.」(旧ジャニーズ)をめぐる問題は、テレビ番組制作会社にどんな影響を与えるでしょうか。
二木さん:テレビ番組制作の業界全体としては大きな問題になると思いますが、こと倒産に関しては、いま問題になっているのは業界の「風下」(かざしも)といわれる規模が非常に小さな会社です。従業員が数人規模の会社が「SMILE‐UP.」と直接取引をするのか、あるいは所属タレントを番組に使うのか......。ちょっと考えにくいので、わからないというのが率直な答えです。
――テレビ番組制作会社の倒産は今後も増えるでしょうか。
二木さん:9月以降の10月も、複数の倒産が報告されています。テレビの広告減収と番組制作費削減が続いていますから、今後も倒産が高い水準で発生するでしょう。みんな業界の「風下」で、現場に出てテレビ業界を支えてきた会社です。何とか、小規模経営の会社でも採算がとれる番組制作単価になる、テレビ業界全体が考えてほしいと願っています。
3.激減する視聴率
では、なぜテレビの広告が減収になり、番組制作費も削減されているかというと、そもそもテレビ番組自体が見られなくなってきているからです。
こちらのサイトでその分析がされていますけれども、どれほどの比率の世帯がテレビ放送をリアルタイムで視聴しているかを示す、テレビの総世帯視聴率(HUT:Households Using Television)が近年激減しています。
テレビの総世帯視聴率は、インターネットテレビによるテレビ番組の視聴はカウントしますけれども、録画した番組の再生、家庭用ゲーム機でテレビ画面を使っている場合は該当しません。またパソコンやスマートフォンなどによるワンセグの放送視聴も当てはまりません。
テレビの総世帯視聴率の値の変遷を見ると、2000年以前では、ゴールデンタイムで70%を超えていた総世帯視聴率は、2022年下期で50%に落ち込み、全日では、2000年以前は45%を超えていたのが2022年下期で32.4%に減少しています。
もっとも、2020年だけ、ゴールデンタイムも全日でも総世帯視聴率が上昇していますけれども、これは武漢ウイルス流行による巣ごもり需要によるものと指摘されていますけれども、2021年から再び下落を始めていることから、その通りだと思われます。

4.多様化する媒体
テレビの視聴率が下がった原因として媒体の多様化が挙げられているのは、多くの人が指摘するところです。
ADKマーケティング・ソリューションズは、「ADK生活者総合調査2022」から「テレビ画面の使われ方」に関する調査結果を発表しているのですけれども、それによると、テレビ画面におけるYouTube利用がBS・CS・CATV放送の視聴を上回り、地上波テレビ放送をほとんど視聴しない層でも、テレビ画面でのYouTube利用率は30%を超えることが分かりました。
テレビのインターネット接続率は全体の約半数に当たる45.5%。テレビ画面上で週1日以上視聴・利用しているサービスについては、「放送のみ」が47.7%、「放送・インターネット配信両方」が40.1%、「インターネット配信のみ」が5.4%、「週1日以上の視聴・利用なし」が6.6%となりました。
年代別では、34歳以下の約10%(15~19歳9.5%、20~34歳11.5%)がインターネット配信のみを利用。「週1日以上テレビを利用していない」という人も約10%(15~19歳12.0%、20~34歳10.8%)おり、若年層のテレビ離れが顕著となっています。
テレビ画面で週1回以上利用しているサービスについては、最も利用率が高かったのは地上波テレビ放送(リアルタイム視聴・録画再生)の視聴で87.2%。次いで、YouTubeが34.5%でBS・CS・CATV放送(リアルタイム視聴・録画再生)の33.0%を超え、Amazonプライム・ビデオやTVerがそれに追随しています。
また、「ボストン コンサルティング グループ」が公表した「メディア消費者行動調査」によると、1日あたりの平均利用時間は、60代はテレビを平均2.1時間見るのに対し、10代は1.2時間と半分程度。また、SVOD(サブスクリプション型動画配信)とAVOD(広告型動画配信)の合計では、60代0.9時間、10代2.3時間と、余暇の過ごし方は年代により異なり、若年層ほど動画視聴サービスにシフトしつつあることが明らかになっています。もっともスポーツは同じ場所でのコミュニケーションを重視することを理由にテレビで視聴する傾向が強く、10代でもOTTよりテレビでの視聴が主流のようです。
更に、ビデオリサーチ社によるインターネットに結線接続されたテレビであるコネクテッドTV(CTV)の視聴実態調査によると、動画視聴シェアの時系列変化を武漢ウイルス禍の前後で確認したところ武漢ウイルス禍前2019年の1.7%からウイルス禍中2020年の4.8%と大きく増加していることが分かりました。
このトレンドは2022年まで続いていることからも、コネクテッドTVでインターネット動画を視聴する習慣が加速・定着していると報告しています。
武漢ウイルス禍を奇貨として、インターネット動画を視聴する習慣が加速したということは、相対的にテレビのリアルタイム視聴は減ることになります。これは先述した2021年以降にテレビの総世帯視聴率が激減していることを裏打ちしています。
視聴媒体が増えるということは、コンテンツも増えるということですから、より魅力あるコンテンツに人が流れていくのは当然のことです。畢竟、テレビ広告は増々減収となり、それに連動して番組制作費も削減。その結果、中小テレビ制作会社が倒産するという悪循環が繰り返されることになります。
今、芸人や著名人が自身の動画チャンネルを作って配信していますけれども、今後は中小テレビ制作会社も、ネット動画制作を請け負うなど、業界再編というか、業界形態も変わっていくのではないかと思いますね。

この記事へのコメント
HY
みどりこ
マスコミが儲けられたのは商品を売るコマーシャルを流すための広告料で、芸能人はその媒体です。
両者が今後どうなっていくか、興味を持って見ています。
日比野
おっしゃるとおり、最近はテレビで地上波でなくネットを見る人が多くなってきたように思います。要するに他チャンネル化してしまった訳です。ただ芸人がネット動画でそれなりに動画数を稼いでいるところをみると、やはり「人に見せる、見られる」才能があるのだな、と改めて思わされるところもありますね。
日比野
ジャニーズ問題で、芸能界とテレビ局の忖度と癒着ぶりが露わになりました。これまでは政治系のクラスタでしか知られていなかったのが、一般層にまで知られてしまったのが大きいと思います。今後、テレビ番組制作スタッフがネット動画に移ってくるようになれば、業界の構図も大分変るのではないかと思います。