

1.JAUKUS
11月13日、自民党の麻生太郎副総裁は訪問先オーストラリアのシンクタンク「オーストラリア国際問題研究所」主催の会合で講演を行いました。
麻生副総裁は、その中で、日米豪が結束して中国の力による現状変更を容認しない姿勢を示す必要があると強調しました。主な内容は次の通りです。
・中国の習近平国家主席がすぐにでも台湾本島に軍事侵攻を仕掛ける可能性は低いものの、中国本土に近い台湾の金門島や馬祖島を占拠する可能性はあり得る麻生副総裁は、米英豪の安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」に日本を加えてはどうかと協力拡大を提起したのですけれども、この提案に会場は笑いと拍手がわき起こったそうです。
・そのような事態に日米豪の反応が弱ければ、中国が都合の良いように解釈し、次は台湾本島に狙いを定めたとしてもおかしくない
・厳しい安全保障環境の中で、米国を除けば日本が協力すべき相手はオーストラリアだ
・野心的なアイデアを提案したい……AUKUSを日本も含めて拡張してJAUKUSにしてみたらどうか?
・防衛同盟の加盟国を拡大することは、米国、オーストラリア、日本が台湾問題について声を一つにして話せることを意味する
・ただし、日本政府を代表して発言しているわけではない
・当然、米国と協議する必要がある
・オーストラリアの新型潜水艦取得に日本は貢献できる
・中国からの過度の移民を許可することが大量の中国共産党工作員の受け入れにつながる可能性を日本は懸念している
・日本に住む外国人の4人に1人が中国本土出身であり、これら中国人のうち10人か12人に1人は中国共産党員である可能性が非常に高い
・中国共産党の憲章によれば、近くに他に党員が2人いる場合は党支部を結成しなければならない
・外国人に日本を開放するということは、我々の場合、自動的に多数の中国人を歓迎することを意味する。これはひいては日本における中国共産党の影響力を高めることになるだろう
・多くの日本企業が中国人労働者を雇用している……同様のことがオーストラリアを含む他の国でも起こる可能性がある
・中国では日本企業の社員や研究者が拘束されるリスクが常にある
・これまで以上に警戒することが重要だ
・日本やオーストラリアのような自由で民主的な国家が、中国と競争して負けるわけがない
2.マイク・ギャラガー
現在、米中関係が緊迫していますけれども、アメリカの対中政策の鍵を握る人物として注目されている人物として、共和党の対中強硬派で、下院・中国特別委員会の委員長を務めるマイク・ギャラガー議員がいます。
10月25日、NHKの国際ニュースナビは、このマイク・ギャラガー議員にインタビューを行っています。
インタビュー概要の一部を抜粋すると次の通りです。
――米中首脳会談の成果、期待できる?このようにギャラガー議員は、中国に対抗するために、限定的なデカップリングを追求しながら、日本のようなもっとも緊密な同盟国と、経済的にも技術的にも連携を深めなければならない、と提言していますけれども、これは、麻生副総裁が提示したAUKUSに日本が加わる案と軌を一にします。
私は、バイデン政権が中国共産党との外交的、経済的な関与を復活させようとするがあまり、すべてにおいてこの首脳会談の実現を優先し、本来とるべき自衛のための措置を遅らせてきたことを懸念しています。
例を挙げれば、HUAWEIのような中国企業に税制上の免除が与えられないよう、抜け穴をふさぐ作業だとか、中国の偵察用気球が飛来した事件に関する情報や、新型コロナウイルスの起源に関する情報の公開です。
これらのことを何もやろうとしてこなかったことこそが私の懸念です。中国側と会談の席に着いて話をすることを優先し、必要な行動を遅らせてきたのです。中国共産党が会談の席で約束したことは信じるに足ると考えてしまっているのです。
したがって、私がバイデン大統領に求めるのは、いくつかの単純なことだけです。
それは、習近平国家主席に対し、
・まず、台湾への脅しをやめるよう言うことと、
・(中毒性が強く、アメリカでは過剰摂取で亡くなる人が急増している)薬物のフェンタニルの製造につながる物質がアメリカに流入しないようもっと行動を起こすよう言うこと、
・また、人権の問題、とりわけ新疆ウイグル自治区で続くジェノサイドの問題も取り上げるべきです。
・そして、これは日本にも関係してくることですが、世界規模で中国によって行われている経済的威圧、特にいま日本を標的としている威圧行為をやめるように言うべきです。
【中略】
そして、私たち議員の多くが、いま日本がやろうとしていることを注視しています。私たちは、日本がみずからの防衛産業、そして非対称兵器システムの構築のために長期的な投資を行う決定をしたことにとても感謝しています。強固な同盟国である日本に対する感謝の気持ちはことばでは言い表せません。
中国に対し、私たちが決定的に優位なのは、同盟国や友好国とのネットワークがあることです。アメリカが日本だけでなく、オーストラリアや地域内のほかの主要な同盟国と統合を強めれば強めるほど、短期的には戦争を抑止し、長期的には冷戦に勝利できる可能性が増すのです。
――中国に対抗する上で優先すべきことは?
防衛産業を再構築させることと合わせて、もっとも重要なのは、先端技術分野での中国への依存を減らすための方法を考え出すことです。
ここでも私たちは日本の経験に着目してきました。日本は、自国で重要製品を生産できるよう投資することで、経済的威圧行為に対する脆弱ぜいじゃく性を改善してきました。先端半導体や先端的な医薬品の成分といった本当にコアとなる技術を用いた製品は、中国に過度に依存することはできません。私たちは自分たちが自国や近隣地域で先端技術製品を生産することができるよう、もっと投資をするべきですし、一段と強い規制をかけるべきです。
最終的には、中国からの限定的なデカップリング(=切り離し)を追求しながら、同時に日本のようなもっとも緊密な同盟国と、経済的にも技術的にも連携を深めなければなりません。中国に対抗するだけの戦略では成功しません。私たちは同時に、先を見据えて、関係国どうしで貿易や経済面でのパートナーシップの構築や技術の共有を進めるべきです。
ほとんどのアメリカ人は、中国共産党がアメリカ国内で私たちの制度や主権に害を与えるために何をしているのかにまったく気づいていません。それはすなわち、ニューヨークのマンハッタンに(アメリカに住む中国の反体制派の監視などを行う)違法な警察署を設置したり、知的財産を盗んだり、(ハッカー集団がアメリカの)電力網を危険にさらしたりしていることを指します。
私たちは注意を喚起し、中国共産党による侵略行為から私たちを守る必要があるのです。
【中略】
――台湾有事の可能性は?
私は、もっとも危険な時期に入ったと見ています。その危険は、2024年1月の台湾総統選挙のあと、さらに増すと見ています。
もし与党・民進党が総統選挙に勝てば、習氏は政治闘争を通じては台湾を征服できないと結論づけて、実際の戦争を通じてそれを果たさなければならないと考えるかもしれません。私はこの10年、危険はどんどん増していくと見ており、だからこそ私たちはもっとも緊密な同盟国と、できる限りの協力をして戦争を抑止しなければならないし、最悪のシナリオを想定して計画を立てなければならないのです。
【以下略】
3.沖縄十二万人避難計画
ギャラガー議員は、台湾有事の危険は、来年1月の台湾総統選挙の後にもっと高まると述べていますけれども、日本政府も台湾有事に備えた動きを始めています。
政府は台湾有事などの際に沖縄・先島諸島の住民ら12万人を島外に避難させ、九州と山口の8県で受け入れる計画を立てているのですけれども、11月15日、仁井谷興史内閣参事官が大分県庁を訪れ、岡本文雄防災局長らと会談しています。
この中で、仁井谷参事官は、「関連する部局で横断的な検討体制の立ち上げ、また県だけで受け入れが出来るというものでもありませんので、県と市町村とで協力した形での検討体制の立ち上げについてお願いしたいと思っています」と政府が避難住民の収容先や医療の提供など受け入れ規模の調査を依頼した場合に協力するよう要請しています。
また、遡ること10月17日には、松野博一官房長官が、熊本県庁で蒲島郁夫知事と面会し、台湾有事を念頭に、沖縄県の離島住民の避難先として、移動手段の確保や受け入れ施設の整備などの計画を2024年度中に策定するよう要請し、蒲島知事も「国民保護の拠点としても役割を果たしたい」と応じました。
沖縄県は、2023年3月に住民や観光客計12万人を航空機や船舶で九州に避難させる想定で政府と共に図上訓練を実施していますけれども、熊本、鹿児島両県でも、国民保護法に基づく武力攻撃事態を想定した図上訓練を24年1月に予定しているとのことです。
政府は台湾有事の際の受け入れ態勢構築について来年度中に初期段階の計画を取りまとめる方針とのことで、やはり来年以降、台湾有事が発生することを想定しているようです。
ただ、避難計画が纏まる前に、台湾有事が起こってしまうことなのですけれども、中国は、ロシア・ウクライナ戦争、ハマス・イスラエル戦争でアメリカの力が削がれている隙を狙って、電撃的に事を進めてしまう可能性だって考えられます。
避難計画が前倒しできないのであれば、せめて、AUKUSに日本も参加して、対中牽制を強めておく算段をすべきではないかと思いますね。
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HY