

1.青木率を割り込む岸田内閣
岸田内閣の支持率が続落しています。
時事通信が11月11~13日に行った11月の世論調査によると、岸田内閣の支持率は前月比5ポイント下落し、2012年の自民党政権復帰後最低となる21.3%、不支持率は7ポイント増の53.3%になったと明らかにしました。自民党の政党支持率も19.1%に下落しています。
この結果に保坂展人世田谷区長は自身のX(旧ツイッター)で「『青木率』も大きく割っている。まるで日が短くなるように支持率が落ちている」とツイートしています。青木率とは、内閣支持率と政党支持率の合計が50を割ると政権運営が厳しくなるとされる青木幹雄元官房長官の経験則のことで、保坂氏が「大きく割っている」としたのは、今回の時事通信の世論調査での青木率が40.4となっていることを指していると思われます。
また、11月11~12日に実施された産経新聞社・FNNの合同世論調査でも、内閣支持率は27.8%と前回10月に比べ、7.8%も減り、不支持は9.2%増で、過去最高の68.8%に達しています。
この結果に、ネット上では「まだ、こんなにあるの? 衝撃的」「内閣支持率が過去最低だろうが選挙は自民党が勝ちます。何故なら政治無関心不参加層という実質支持層が日本の大半を占めてるからです」など、さまざまな感想が寄せられています。
2.政党支持層の法則
先述の「青木の法則」以外にも、興味深い「法則」もあるそうです。それは「政党支持層の法則」と呼ばれるものです。
「政党支持層の法則」とは、総理が退陣に追い込まれる目安のことで、ある自民党重鎮によれば「世論調査で首相を輩出する政党の支持層の内閣支持率が6割を切ると、次の衆院選や党首選挙で勝利する戦略が描けなくなり、政権は持たなくなる」のだそうです。
今回の産経新聞社・FNNの合同世論調査では、岸田内閣の自民支持層の支持率は前月比9.1ポイント減の64.5%でした。
岸田内閣の支持率は6月以降、下落傾向が続いていたのですけれども、自民支持層に限れば、先月まで7割台の支持を保っていました。自民支持層に批判の多いLGBT理解増進法が成立した直後の6月も、自民支持層の支持率は78.6%もありました。
この法則について、自民党重鎮は「自らの支持政党が輩出した首相に嫌気がさした層は、衆院選で棄権に回る傾向がある……選挙で与党が苦戦する可能性が高まれば、党首選で支えようとする党内勢力も弱含みとなり、退陣に追い込まれやすい」と説明しています。
実際、菅義偉前首相の例をみると、令和3年8月の調査で自民支持層に限った菅内閣の支持率は、前月比8.6ポイント減の61.4%。当時は衆院議員の任期満了が目前に迫り、「菅氏では次の衆院選を戦えない」という声が党内で高まった結果、菅前総理は翌月に次期総裁選への不出馬を表明することになりました。
こういった経緯から、自民党幹部や党の事務方の中には年内にもという”早期解散論”を唱える声もあるそうです。
これについて、デイリー新潮の政治部デスクは「先の通常国会の会期末に、さる自民党幹部が火元となって解散風が吹き荒れました。今月9日には、各メディアが”解散見送り”を報じるも、党内には”早く解散すべきだ”という声があったのも事実です。しかし、政権の副大臣や政務官が次々更迭される中で、頼みの綱だった減税策も世間では総スカンを食らっている。こんな状況では解散などできるはずもなく、このまま来年に解散を持ち越していけば、ますます解散できない状況が続いていく。そこへきて、青梅市長選のショッキングな結果が舞い込んだわけですから、岸田さんが麻生さんや菅さんと同じような状況になってしまう可能性はより高まったと言えるでしょう」と指摘しています。
3.高市殿の13人
こうなると、党内政局は避けられない流れになってきます。
11月16日のエントリー「敗退する自民と保守派の逆襲」で、高市早苗経済安全保障担当相が自身の勉強会「『日本のチカラ』研究会」を立ち上げたことを取り上げましたけれども、15日に国会内で初会合が開かれています。
勉強会には、高市経済安保担当相に加え、岸田派を除いて、派閥横断の13人が出席しました。出席した議員は次のとおりです。
安倍派 堀井学衆院議員、杉田水脈衆院議員、山田宏参院議員見事に岸田派以外の各派閥から出席しています。まるで、ちょっと様子見てこいとばかり、派閥から送り込まれているようにすら見えてしまいます。あるいはもしもの時のために保険としてパイプ役を作っておいたということかもしれません。
麻生派 山本左近衆院議員、有村治子参院議員
茂木派 小野田紀美参院議員
二階派 高木宏寿衆院議員
森山派 鬼木誠衆院議員
無派閥 石川昭政衆院議員、土井亨衆院議員、黄川田仁志衆院議員、三谷英弘衆院議員
高市経済安保担当相は勉強会について、外交、防衛、情報など、国力を勉強する議員連盟とする考えで、FNNによると、44人の議員が入会したそうです。
これについて、ジャーナリストの門田隆将氏は自身のX(旧Twitter)に《出席者13人、入会者44人になった事で政界衝撃。有村治子、小野田紀美、杉田水脈の各氏ら保守・現実派が揃い、「この面々なら自民の岩盤支持層が戻るかも知れない」との期待の声も。面白くなってきた》と投稿。SNSでは、出席者が13人となったことで、《参加者は山田宏さんに有村さん、杉田さん、小野田さん等錚々たる13人、正に高市殿の13人です。更に入会者は既に44人、総裁選に向け高市丸が出航です》と、『鎌倉殿の13人』にかけて、《高市殿の13人》なる言葉も出現しています。
ただし、ネットでは、《これまで多くの政治家が「勉強会」と銘打って同士を集めてきた。それが、結局は派閥になってきたという経緯がある。木曜会が宏池会、清和会が安倍派がというように。「日本のチカラ」が高市派になるんじゃないのかな。頑張れ高市早苗大臣》と期待の声がある一方で、《発足人21人の進次郎のライドシェア勉強会にも負けてるじゃありませんか。安倍という後ろ盾がないと、この程度の存在でしかなかったわけですね》とか《「高市殿の13人(少な)」のなかには「杉田水脈」の名も。それがすべてを語っている勉強会、近寄りたくない議員がいるのも当然だろう》という批判的な声もあります。
また、11月10日、インターネット番組「帰ってきた虎ノ門ニュース」で総裁選出馬を明言した青山繁晴参院議員は、出馬に必要な20人の推薦人について、自身が、93人が参加する自民党の保守系グループ「日本の尊厳と国益を護(まも)る会」の代表を務めることから集まるでしょうとしつつも、現実には、ここから各派閥からの猛烈は引き剥がしがある筈とし、例のLGBT理解増進法の時でも、引き剥がしがあったと述懐しています。
4.若者がどんどん離れていく理由
このように、岸田降ろしの政局が始まりつつあるのも、ひとえに支持率が下落しているからですけれども、16日、読売新聞は「3年目の岸田内閣、若者がどんどん離れていく理由」というコラムで、支持が失われた背景について次のように指摘しています。
支持が失われた背景を、(1)発足当初の2021年10月、(2)絶頂期の22年7月、(3)過去最低を更新した23年10月の三つの調査データから考えてみよう。続いて、記事では支持が上向かない要因として次の3点を挙げています。
まずは発足時。内閣支持率(全体56%)を年代別にみると、18~39歳の若年層で62%、40~59歳の中年層で54%、60歳以上の高齢層で53%となり、若年層の支持が最も高かった。
しかし、絶頂期の22年7月調査(全体65%)にはすでに、年代別の支持に変化が見られる。中年層が9ポイント増の63%、高齢層に至っては21ポイント増の74%へと支持率が高まったのとは裏腹に、62%だった若者の支持率は8ポイント減の54%に低下した。中高齢層の支持が全体の支持率を押し上げる一方、年代別の支持の構造は「若高老低」から「若低老高」に切り替わっていたことが分かる。
過去最低となった23年10月調査(全体34%)でも、この「若低老高」の傾向は変わっていない。若年層が26%、中年層が29%、高齢層が43%と、全体的に目減りしながらも、引き続き高齢層が内閣支持率を下支えする構造となっている。
早稲田大学の遠藤晶久教授(投票行動論)は、「伝統的な自民党政権は、高齢層の支持が強いのが特徴だった。若年層の支持率が高かった時期の岸田内閣は、第2次以降の安倍内閣とその後継の菅内閣と同様の支持構造だったが、現在は安倍内閣以前の支持構造に回帰している」と指摘。その要因については、「安倍政権は『改革的』というイメージが若者の中にあったが、岸田政権にはそのようなイメージがもたれておらず、『自民は支持しないけど安倍さんは支持』といったパターンが減ったのではないか」と分析している。
・少子化対策・物価高対策への軒並み低い評価この記事で筆者が気になったのは、早稲田大学の遠藤晶久教授が指摘した「安倍政権は『改革的』というイメージが若者の中にあったが、岸田政権にはそのようなイメージがもたれておらず、『自民は支持しないけど安倍さんは支持』といったパターンが減ったのではないか」という分析です。
・増税への拒否感が若年層でも顕著
・高齢層の支持も盤石ではない
仮に、「自民は支持しないけど高市さんは支持」という層があったとしても、自民党員ではない人の支持がいくら集まっても、高市氏は自民党総裁にはなれません。自民党総裁は自民党員と所属議員の投票で決まるからです。
先述したジャーナリストの門田隆将氏は、高市経済安保担当相の勉強会について、「この面々なら自民の岩盤支持層が戻るかも知れない」との期待の声もあるとツイートしていますけれども、総裁選に対する投票権を持つ自民党員の岩盤支持層がどこまで戻るのかが、そのまま高市経済安保担当相の総裁の目に直結することになります。
それを考えると期待は高まれども、現時点では、総裁への道は中々厳しいものになるのではないかと思います。
筆者は、期待をしつつ、成り行きを見守っていきたいと思います。
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