

1.米中首脳会談
11月15日、アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席が首脳会談を行いました。
会談は、アメリカ・サンフランシスコから南へ約40km行った庄園「フィロリ邸」で、昼食を挟んで約4時間にわたって行われました。両首脳の対面での会談は昨年11月14日のインドネシア・バリ島以来1年ぶりのことです。
バイデン大統領は右手にブリンケン国務長官以下5人、左手にイエレン財務長官以下5人を従え、習近平主席は、右手に蔡奇党常務委員兼中央弁公庁主任以下4人、左手に王毅党中央政治局委員兼党中央外交工作委員会弁公室主任兼外相以下5人を従え、行われました。
ホワイトハウスの発表から、米中首脳会談の要点を纏めると次の通りです。
協力分野の議論: 二国間および世界的な問題について議論し、潜在的な協力分野を含む。論点は多いものの、合意にまで至った内容は、今後も話し合いを続けましょうというくらいで、殆どないという印象です。会談後、バイデン大統領は「我々は直接的でオープンかつ明確なコミュニケーションを取る関係に戻っている」と述べ、互いに直接コミュニケーションが取れる連絡線を確立することで、習氏と合意したと明らかにしていますけれども、裏を返せば、それくらいしか言うことがなかったということです。
競争関係の強調: 米国と中国は競争関係にあり、米国は自国の強さに投資し、同盟国やパートナーと連携していくと指摘。
軍対軍連絡再開: 高レベルの軍対軍連絡や軍事海事協議協定の再開を歓迎。
AIシステムの安全性: 高度AIシステムのリスクに対処し、安全性を向上させる必要性を確認。
地域的・世界的課題に対する協力: インド太平洋における米国の支持強調、気候変動への協力など。
人権侵害への懸念: 中国の人権侵害に対する懸念を表明、台湾に関する立場を一貫して強調。
貿易政策への懸念: 不公正な貿易政策や非市場経済慣行に対する懸念を引き続き表明。
国際協力の推進: 気候危機への取り組みや国際的な課題に対する協力の重要性を強調。
米中関係の原則の策定: 米中関係の原則の策定に向け、議論を進めることを合意。
外交・交流の継続: サンフランシスコでの協議をフォローアップし、ハイレベルの外交・交流を継続することで合意。
バイデン大統領は、コミュニケーション不足は「事故が起こる原因」になるとし、両首脳は「電話を手に取れば、直ちに直接、話を聞くことができる」ようになったと語りながらも、習近平主席との間には多くの意見の相違が残っているとしています。
また、バイデン大統領が記者会見の壇上から降りる際に、習近平主席が独裁者だという見方はいまも変わらないのかと記者から問われると、「我々とはまったく異なる政治形態に基づく国を率いる人物という意味で彼は独裁者だ」と語り、注目を集めています。
2.地球二分割論
では、一方の中国側の発表はどうなのか。これについて、11月16日、人民日報が記事にしています。
その概要は次の通りです。
会談の概要:両首脳は中米関係や世界の平和と発展に関する戦略的な問題について意見交換。習近平主席は、世界には協力か対立かという2つの選択肢があり、協力こそが地球規模の課題への対処の鍵であると強調した。こちらも、中国側の主張や議論したことばかりが目立ち、合意したのはやはり、今後も話し合いましょうということくらいです。
中国の発展と方針:習近平主席は、中国の発展には独自の論理と法則があり、他国を圧迫する意図はないと述べた。互恵協力、相違点の効果的な管理、大国の責任を共有することが必要と強調した。
中米関係の柱:両国は正しい理解を確立し、相違点を効果的に管理し、互恵協力を進め、大国の責任を果たし、人的・文化的交流を促進する必要があると合意した。台湾問題についても議論し、中国は米国に対し台湾支援の制裁解除を求めた。
バイデン大統領の発言:バイデン大統領は米中関係の重要性を強調し、冷戦や中国の体制変更を求めず、相互依存の重要性を強調した。両国は気候変動、麻薬取締り、人工知能などで協力を強化する意向を示した。
合意と今後の展望:両首脳は中米関係の指針を確立し、気候変動などの協力を進めることで合意した。サンフランシスコでの会談を中米関係の新たなスタートと位置づけ、バリでの合意を実践することを強調した
国際・地域問題:会談では、国際・地域問題にも焦点を当て、パレスチナ・イスラエル紛争などについても議論した。
今後の取り組み:両首脳は今後も定期的な接触を維持し、合意内容の追加実行を図ることで合意した。
ただ、記事では、習近平主席が「中国と米国が互いに交流しないことは不可能であり、お互いを変えようとすることは非現実的であり、紛争と対立の結果には誰も耐えることができない。大国間の競争では中国、米国、そして世界が直面する問題を解決することはできない。この地球は中国と米国を収容できる。中国と米国のそれぞれの成功は、お互いにとってチャンスとなる」と述べたと記されていますけれども、これは中国が10年前から主張している地球を二分割してそれぞれ統治しよう案です。
3.ユスリも媚びもしたが失敗に終わった
今回の米中首脳会談に関する両国の声明を見る限り、あまり成功したとはいえないという印象ですけれども、評論家の石平氏は、自身の動画チャンネルで、中国はアメリカに対して強請りも媚びもしたが、結局失敗に終わったと評しています。
件の内容の概要は次の通りです。
・米中首脳会談の背景: 11月に行われた米中首脳会談に先立ち、中国は数ヶ月前からアメリカに対する関係改善の取り組みを行っており、アメリカとの経済、気候変動、安全保障などの問題に対する自身の立場を強調していた。石平氏の解説をみると、習近平主席は大分バイデン大統領にやられたようです。バイデン大統領にしても、来年の大統領選を控え、点数を稼ぐ必要がありますし、中国に甘い顔を見せると、議会が黙っていませんからね。
・アメリカ側の姿勢: アメリカ側は、中国の要求に対して抵抗し、具体的な行動を取らなかった。アメリカは中国の要求を飲まなかったことが、後にアメリカ側によって報道された。
・失敗した外交戦略: 中国はアメリカに対して何度も要求を伝え、アメリカに対するゆすりをかけたが、アメリカは中国の要求を飲まず、中国の外交戦略に屈しなかった。
・王毅の発言と反応: 習近平の外交担当者である王毅は、アメリカの対応に対して失望の意を表明し、サンフランシスコ会談が期待できないとの立場を強調した。
・最終的な会談の発表: 首脳会談の実現がギリギリのタイミングで正式に発表されたが、中国外務省はアメリカに対し、具体的な行動を求めるコメントを発表した。
・アメリカとの関係への影響: この失敗により、中国とアメリカの関係が一層緊張し、外交的な努力が実を結ばなかったことが示唆されている。
・アメリカ側の狙いと目標: バイデン大統領の主要な目標は、米中の競争が衝突に発展することなく、双方が責任を持って管理すること。アメリカは特に台湾問題に焦点を当て、バイデン政権は台湾との対話再開を期待していた。
・バイデン大統領のコメント: バイデン大統領は、アメリカと中国の競争が衝突につながり、それを管理する必要があるとの立場を表明した。台湾に対するアメリカの関心と、台湾との対話再開の重要性を強調した。
・合意事項: 台湾問題に関して、アメリカと中国は対話を再開し、緊張を緩和する合意に達したと報じられた。医療用麻薬の供給についても協力することで合意され、これがアメリカにとっての成果とされた。
・アメリカの評価: 米国家安全保障会議のカービー氏は、バイデン大統領が習近平との会談内容に非常に満足していると述べ、アメリカ側は成果を手に入れ、バイデン大統領が満足している様子を示唆した。
・中国の対応: 中国もアメリカと同様に合意を発表し、台湾問題などでの対話再開を強調した。医療用麻薬の供給についても協力するという点で一致したとされている。
・注目すべきポイント: 会談前にアメリカが台湾に対する関心を公言しており、この点での合意が成果となった。台湾問題以外にも、医療用麻薬の供給など様々な分野で協力合意が成立。総じて、バイデン大統領はアメリカの利益を手に入れ、台湾問題や他の分野での協力に成功し、その結果に満足しているとされている。
・バイデン大統領の狙い: 米中の競争を衝突に発展せずに管理し、台湾問題に対処。会談の成果として台湾問題や医療用麻薬の合意が報じられる。
・習近平の要求と結果: 習近平は台湾に対するアメリカの支援停止や対中国の輸出制限の緩和を求めた。しかし、これらの要求に対してアメリカ側はほぼ無反応。バイデン大統領は具体的な合意を取らず。
・習近平の「成功アピール」: バイデン大統領は習近平に対し、会談後に散歩や玄関口までの見送りを行い、中国メディアがこれを大々的に報道。これにより、習近平の外交的失敗を隠蔽し、成功アピールをする一方的な動きが見受けられた。
・バイデン大統領のコメント: バイデン大統領は習近平を「独裁者」と評し、中国はこれに反発。中国の外交姿勢には厳しいコメントがなされた。
・結論: 米中首脳会談はアメリカが台湾問題に対して関心を示し、一部合意が成立したが、習近平の要求にはほとんど応じなかった。習近平は外交的に失敗し、バイデン大統領はその後のアピールに対しても厳しいコメントを残した。
筆者は、台湾を巡って「グランドバーゲン」をするんじゃないかと警戒していたのですけれども、今のところはそれはなさそうです。
ただ、もちろん、中国のことですから、いつそれを反故にするか分かったものではありません。日本は粛々と台湾有事に備え、防衛力強化に励むべきだと思いますね。
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