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1.セントラルパーク拿捕
11月27日、アメリカ国防総省のライダー報道官は記者会見で、イエメン南部アデン沖で26日にタンカーが一時拿捕された事件を巡って、アメリカ軍が逃走を図ったソマリア人5人を拘束したと明らかにしました。
拿捕されていたタンカーは、イスラエルが所有するZodiac Maritime Ltd(ロンドンに本社を置く国際船舶管理会社)が管理している、リベリア船籍で1万998トンの小型石油タンカー「セントラルパーク」。
ライダー報道官によると、タンカーからの救難信号を受けて、アメリカ軍や同盟国の艦艇が現場に向かい、拿捕されたタンカーを取り囲んで解放を要求。武装した5人は小型ボートで逃走を図ったが、アメリカ軍に拘束されたとのことです。
11月19日、「反イスラエル」を掲げるシーア派武装組織フーシ派が、紅海で日本郵船がチャーターして運航する自動車運搬船「ギャラクシー・リーダー」を、「イスラエル人の船だ」として拿捕する事件が起きているのですけれども、アメリカ国防総省のライダー報道官は拘束した5人は、周辺海域で活動する海賊の可能性が高いと指摘し、フーシ派の関与には否定的な見方を示しています。
ただ、海賊への対処中にフーシ派の支配地域から弾道ミサイル2発が発射され、駆逐艦などからおよそ18キロ離れた海域に着弾したのですけれども、被害はなく、ライダー報道官はミサイル発射が「何を標的にしたのかは不明」と調査を続けるとしています。
2.海賊対処行動
また、ライダー報道官は、今回の海賊への対処は「同盟国の艦船とともに活動していた」として、海上自衛隊による支援があったことを明かしています。
これについて、11月28日、木原防衛相は定例記者会見で記者の質問に次のように答えています。
Q:イエメンの南部のアデン沖でイスラエルが関係する石油タンカーが乗っ取られたとの報道がありますが、防衛省が把握している事実関係と対応状況についてお願いします。実にあっさりしたコメントですけれども、P-3Cと護衛艦「あけぼの」を現場に急行させて、警戒監視・情報収集をしてそれらを米軍に提供したとしていますから、それなりに重要な役目を果たしたと思われます。
A:11月の26日にですね、イギリスの会社が運航するリベリア船籍タンカー「セントラルパーク」が、アデン湾東方海域において何者かに乗っ取られたという情報を得ました。海賊対処部隊の海上自衛隊のP-3C及び護衛艦「あけぼの」を現場に急行させて、警戒監視・情報収集を行いつつ、海賊対処を任務とする第151連合任務群に対して、迅速に現場で得た情報を提供するなどの対応を実施しました。また、本件については、米軍は、民間タンカーである「セントラルパーク」の乗員の無事を確認し、乗っ取りに関与した5名が投降した旨を公表しているものと承知しております。防衛省・自衛隊としては、引き続き、関係省庁や諸外国の部隊を含む国際社会と緊密に連携しながら、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動を実施してまいります。
3.ゾーンディフェンスオペレーション
今回、乗っ取りが行われた海域は、スエズ運河を介してインド洋と地中海をつなぐ航路にあり、ソマリアなどを拠点にする海賊の被害が起きやすいため、各国が艦艇を派遣して警戒に当たっています。
防衛省はこれら海域における海賊対処として、次のように公表しています。
□ソマリア沖・アデン湾における海賊対処の概要海賊に対する警戒・護衛の方法には、民間船舶を直接護衛するエスコート方式と、割り当てられたアデン湾内海域で警戒にあたるゾーンディフェンス方式の2つがあるとのことですけれども、今回の海賊対処はCTG151(Combined Task Group151)が主に行ったことを考えると、ゾーンディフェンス方式での対応であったと思われます。
ソマリア沖・アデン湾の海域は、年間約1,600隻の日本関係船舶が通行するなど、日本の暮らしを支える重要な海上交通路です。ソマリア沖・アデン湾及びその周辺の海域では、平成20年以降、海賊事案が多発し、その発生件数は、平成21年から平成23年まで年間200件以上となっていました。近年は、自衛隊を含む各国海軍等による海賊対処等の国際社会の様々な取組の結果、海賊事案の発生件数は低い水準で推移しています。しかし、海賊を生み出す根本的な原因とされているソマリア国内の貧困などはいまだ解決されておらず、また、ソマリア自身の海賊取締能力もいまだ不十分である現状を踏まえれば、国際社会がこれまでの取組を弱めた場合、この状況は容易に逆転するおそれがあります。このように、わが国が海賊対処を行っていかなければならない状況に大きな変化はありません。
自衛隊は海賊対処法(平成21年7月施行)に基づき、派遣海賊対処行動水上部隊(護衛艦1隻(平成28年11月までは2隻))を派遣し、この海域を通航する船舶の直接護衛を実施するとともに、広大な海域における海賊対処をより効果的に行うため、派遣海賊対処行動航空隊(固定翼哨戒機2機)を現地(ジブチ共和国)に派遣して海域の警戒監視を実施しています。
平成23年6月からは、航空隊を効率的かつ効果的に運用するため、ジブチ国際空港北西地区に活動拠点を整備し運用しています。
【中略】
自衛隊が海賊対処行動を行うために必要な業務を行う派遣海賊対処行動支援隊は、海上自衛官と陸上自衛官により編成され、陸上自衛官は活動拠点におけるP-3C哨戒機やその他の装備品の警備を行っているほか、同隊の司令部要員としても活動しています。このほか、航空自衛隊も、本活動を支援するため、C-130H輸送機やKC-767空中給油・輸送機等からなる空輸隊を編成し、輸送任務を行っています。
□警戒・護衛について
水上部隊は、護衛艦1隻により、アデン湾を往復しながら民間船舶を直接護衛するエスコート方式と、状況に応じて割り当てられたアデン湾内の特定の区域で警戒にあたるゾーンディフェンス方式により、航行する船舶の安全に努めています。
直接護衛では、まずアデン湾の東西に一か所ずつ定められた地点に、護衛艦と護衛対象の民間船舶が集合します。
アデン湾を護衛船団が航行する際には、船団を護衛艦が守るとともに、護衛艦に搭載された哨戒ヘリコプターも上空から船団の周囲を監視しています。
このように昼夜を問わず船団の安全確保に万全を期しつつ、アデン湾約900kmを2日ほどかけて通過していきます。
また、護衛艦には8名の海上保安官が同乗し、必要に応じて司法警察活動ができるよう、自衛隊は海上保安庁と協力して活動しています。
一方、ゾーンディフェンスでは、CTG151司令部との調整に基づき護衛艦が担当する海域が割り振られ、護衛艦がその海域の中にとどまって警戒監視を行うことで、わが国を含む各国船舶の安全を高めることに貢献しています。
なお、令和3年5月31日現在で、延べ4,051隻の船舶が、自衛隊による護衛のもとで、1隻も海賊の被害を受けることなく、安全にアデン湾を通過しています。
自衛隊は、平成25年から、諸外国の部隊と協調してこのゾーンディフェンスを実施を開始し、翌26年には航空隊も参加。各国の部隊との連携を強化しています。
ゾーンディフェンスを行うCTG151には、日、米、英、韓、トルコ、パキスタン、シンガポール等が参加。その他にも、独、スペイン、オランダ、仏等が参加するEUのゾーンディフェンスオペレーション「EUNAVFORアタランタ作戦」があります。
その他、各国独自の活動として、エスコート方式で日、印、中、韓等が自国の艦船を派遣しています。
アメリカ国防総省によると、今回の海賊対処では、周辺海域に中国の艦船もいたのですけれどもが、タンカー拿捕への対応には加わらなかったようです。
まぁ、中国は、ゾーンディフェンスの国際枠組みに入っていないですから、タンカー拿捕に加わる義理もないといえばありませんけれども、周辺海域にいるのに知らんぷりでは、世界での評判も分かるというものです。
今回、イスラエルが所有するタンカー乗っ取りから奪還した訳ですけれども、気になるのは、19日にフーシ派に拿捕されたとされる日本郵船がチャーターして運航する自動車運搬船「ギャラクシー・リーダー」の行方です。
報道では、日本人とイスラエル人の乗組員はいないようですけれども、フーシ派の軍事部門広報官は、イスラエルに関係する全ての船は合法的な標的になるとし、「パレスチナ人への攻撃や卑劣な犯罪が止まるまで、イスラエルへの軍事作戦を続ける」と主張しています。
従って、また同じように日本が関わる船舶がいつ拿捕されないとも限りません。
自衛隊ならびにCTG151には、この海域を通過する船舶の安全確保に努めていただいていることに感謝したいと思います。
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