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1.寄付金を着服した日テレ局員
11月28日、山陰地方を放送エリアとする日本テレビ系列の「日本海テレビ」は、同社の経営戦略局の53歳の局長が、売上金など1118万2575円を着服していたとして、前日の27日に懲戒解雇処分にしたと発表しました。
着服金の内訳は、同社資金から853万6555円、「24時間テレビ」寄付金から264万6020円。元局長が「日本海テレビ」への税務調査をおそれ、みずから11月初めに申告したことから発覚し、その後の社内調査で寄付金の着服もわかったとのことです。
調査によると、元局長の着服は2014年に開始。寄付金からは2014〜20年の7年連続と、今年に着服されていました。募金終了後に、本社内で保管していた募金の一部を、みずからの銀行口座に入れていたそうです。
今回の不正発覚を受けて、代表取締役会長の田口晃也氏は辞任、同社長の西嶌一泰氏は3ヶ月分の報酬報酬返上するとしています。着服された金については、すでに448万4200円が返還されており、元局長は残金も弁済すると話しているとのとこで、寄付金については全額、日本海テレビが責任をもって、24時間テレビチャリティー委員会に届けるとしています。
記者会見した日本海テレビの田口会長は「寄付金という皆様の善意を着服したことは悪質で言語道断な行為であり、申し訳ありません」と謝罪していますけれども、SNSでは「10年間も気づかないなんて」といった声など、「言語道断」と切り捨てる論調で溢れています。
2.報じた局とスルーした局
この件はタレントやアナウンサーなども批判の声を上げています。
11月29日、『羽鳥慎一モーニングショー』では、長年『24時間テレビ』総合司会を務めてきた羽鳥アナが「もう、ありえません」「寄付はみなさんの思いを預かっているわけで、この、ひとりの人間が完全に裏切った。単なる着服ではすまされない、非常に悪質な事案」と怒りをにじませました。
また、12月2日、元日本テレビのフリーアナウンサー徳光和夫氏は、ニッポン放送「徳光和夫 とくもり!歌謡サタデー」で、「『24時間テレビ』、46年間たずさわってまいりました私としては、本当に許せないことでありまして。『24時間テレビ』では何度も”みなさまからお預かりしました募金”というふうに言ってるわけでありますから、それを着服の中に入れていたとなりますと、最初から『24時間テレビ』を、そういう疑いの目を持って、各局それぞれ調査しなければならない…というようなたぶん状況だと思うんですね……同時にですね、存続も危ぶまれるんじゃないかなと思うような感じですね……ニッポン放送で欽ちゃんがやっていた『ラジオ・チャリティー・ミュージックソン』をヒントにして『24時間テレビ』ができたわけですからね。そういう意味では本当に言語道断どころではない、許し難いな、というふうに思えて成りませんね」と憤りを露わにしています。
更に、12月2日、お笑いタレントのほんこん氏は、ラジオ大阪「土曜の午後は、トコトンほんこん!」に出演し、「善意のそのお金でパチスロとかそういうとこ行ったらアカンよね。それで奢っててんやろ、部下とかに……『そんなもん?』って思ってまう。『なんで10年近く分からへんかったやろうな?』とか思いますけど……こういうのっていろんな局であるかも分からん。これだって何で分かったかっていうたら、局長が自ら言うてんやろ? 税務調査があるからビビッて。それがなかったらずーっと。ほんならあるんちゃう?って疑ってまうやん」とさらに問題が波及する可能性を指摘しました。
また、今回の事件について、扱うワイドショーと、一切報じないワイドショーに分かれていることについても、ほんこん氏は「ワイドショー、俺らの仲間とかの不倫とか事故とかはめっちゃやるけども、こういうことでやらないワイドショーもあるやん。これはどういうことやねん。だから日本の報道、ジャーナリズムというのは何やねんと思ってまう。傾きすぎちゃう?って。不倫とかでもそれで葬られた人おるやん。家庭で奥さんは許してるけども。そやけど徹底的にやるやん。そんなんに対しては。何なの!やめてよ!って思ってまうねん……24時間テレビっていうのは、存続というのにも……これで一番被害被るのは、車いすとか設備のある車を寄付されへん人」とコメントしました。
ほんこん氏が指摘したワイドショーの扱いについて、11月29日の時点では、日テレ系列の番組では『news zero』などで触れられたものの『ZIP!』『DayDay』『ミヤネ屋』では、ほとんどスルーされていました。
当然、SNSでは《日テレ終わったな。あれだけの不祥事が発覚したのに今DayDayで韓国のオーディション番組を放送している。チャリティー番組の24時間テレビの信頼が根本から揺らいでいるのに危機感ないのだろうか。》、《#24時間テレビ すっぱりさっぱりきれいにスルーのZIP 報道機関じゃなかったのね日テレ》、《#DayDay 出演者は悪くなくてあくまで局の方針なのかもだけどいつもより明るい雰囲気で全く24時間テレビの問題に触れずにやってるとトップから報道にかなりの圧力あんのかな?と思っちゃう。吉本とかジャニーズとか宝塚とか他のデカイ組織の不祥事だと意気揚々と30分以上掛けて特集するのになぁ、変なの》と視聴者から怒りの声があがっています。
3.時代に取り残された24時間テレビ
『24時間テレビ』寄付金着服の裏で“ジャニーズだらけ”“お涙頂戴”で築いた過剰な「募金スキーム」
このように番組存続すら危ぶまれている24時間テレビですけれども、ネットメディア研究家の城戸譲氏は、この件に対するネットの反応が日本海テレビへの批判のみならず、「24時間テレビ」に対し、「そろそろ潮時だろう」「終えるべき時がきた」といった、番組の存続そのものを問う声どころか募金着服以上に、「番組そのものが、もはや時代にそぐわない」と、「24時間テレビ」のあり方を疑問視する声のほうが多い印象を受けたとして、その理由について次のように述べています。
【前略】城戸氏は、もともと視聴者が24時間テレビに対して感じていた「偽善」や「募金」に対する価値観の変化があり、それが今回の問題を切っ掛けにして一気に噴き出したとし、24時間テレビも時代の変化に合わせてアップデートすべきだ、と述べています。
とはいえ、この一件だけで、24時間テレビの存在価値を否定するのは、個人的にはちょっと一足飛びな印象も受ける。あくまで番組やチャリティー委員会は、個人の私腹を肥やすために利用された「被害者」であり、不正の片棒を担いだわけではないからだ。
ではなぜ、ここまで番組の存続が話題になっているのか。その根底には、ネットユーザーなどが、長年にわたって「24時間テレビに対するモヤモヤ」を秘めていたことがあるのだろう。そこへ募金着服という、想定しうる最悪の形が訪れたことで、「いまこそ言うべきタイミングだ」と、視聴者の不満が噴出したのではないか。
以前から、毎年8月の放送が近づくたび、SNS上では「偽善だ」といった声が増えていくのが風物詩だった。それは出演者のギャラ(出演料)しかり、芸能人が長時間にわたってマラソンを走る必要性しかり、あらゆる角度から「たたく材料」となる。
加えて近年は、いわゆる「感動ポルノ」の観点からも、批判の的になっている。健常者を「感動させるため」に、障害者をコンテンツとして消費する。24時間テレビに長年抱いていた違和感を、明快なフレーズで言語化してくれたと、胸がすく思いがした視聴者もそれなりにいるだろう。
24時間テレビの裏番組(放送時間が重なる他局番組)にあたる、NHK Eテレの「バリバラ」も、例年こうした角度から切り込んでいて、好評を博している。
そして、ここ数年で、エンタメ業界の構造も変化した。ここ30年近く、24時間テレビはパーソナリティー(司会)に、旧ジャニーズ事務所のタレントを起用してきた。ジャニー喜多川氏による性加害問題によって、公共性が重んじられるチャリティー活動への影響も、まったくゼロとは言えないはずだ。
加えて、スマートフォンなどの普及による「テレビ離れ」も叫ばれて久しい。今年で46回目となる24時間テレビだが、そろそろ今後について考え直すタイミングだったのではないか。
番組の根幹となる「募金」に対する価値観も、変わってきている。規模の大小を問わず、社会福祉団体みずからが公式サイトを持つようになり、これまで以上に「何に使われているか」が、よりリアルタイムでわかるようになった。
クラウドファンディングなどの普及も背景に、「貢献の可視化」が求められている風潮もある。なお日テレ系列局でも、毎週5分間の「チャリティー・リポート」が流れているが、週末の早朝や深夜など、あまり視聴者ファーストな時間帯ではない。
そこへ来て、今回の事案だ。潔白なはずである全国の日テレ系各局にも「ここでも寄付金が着服されているのではないか」といった疑惑の目がむけられた以上、その汚名を払拭するには、それなりの労力が必要になる。
今年は約8億2100万円だった「募金」は、どう使われているのか。
ちなみに日本海テレビの公表値では、山陰での募金額は例年400〜700万円程度。そのうち年によっては、1割近くの額が着服されていたとなれば、使途への疑念は募るに違いない。
すでにチャリティー委員会は、日本海テレビの公表直後に「当委員会を構成する民間放送31社では、皆様からお預かりする寄付金について、さらなる厳重な管理を行い、徹底して再発防止に努めて参ります」と発表し、初期消火にはげんでいる。しかし、具体的な防止策が提示されない限り、うがった見方は続くだろう。
すでに冷ややかに見ている人が、より離れるだけなら被害は少ない。今回の不正事案は、これまで長年にわたって、番組を信頼していた人こそ、「裏切られた」と嫌悪感を示すはずなのが問題だ。
心の奥底から「愛は地球を救う」と思っていた人たちを落胆させないよう、時代にあわせた形へのアップデートする、よきタイミングなのかもしれない。
4.躍動する暗部ちゃん
城戸氏は募金について「規模の大小を問わず、社会福祉団体みずからが公式サイトを持つようになり、これまで以上に「何に使われているか」が、よりリアルタイムでわかるようになった……クラウドファンディングなどの普及も背景に、「貢献の可視化」が求められている風潮もある」と指摘していますけれども、これなども募金に対する意識が、その使い方を任せるどんぶり勘定での「良きに計らえ」では通じなくなり、何に使ったのかをより明確にするよう「細分化」されてきている現れではないかと思います。
もしかしたら、この流れは番組作りそのものにも求められてくるかもしれません。つまり、何某かの番組という「結果」ではなく、番組の制作意図や目的、そしてそれに伴う取材方法や編集などすべてひっくるめて可視化していかないと許されなくなってくるのではないかということです。
SNSでNHK問題の告発を続ける「暗部ちゃん」というX(旧Twitter)アカウントが話題になっているそうです。
NHK内でも、若手・中堅を中心に多くの職員がこっそり閲覧し、内部告発の受け皿にもなっているとも言われており、ある30代記者職の男性は、「2カ月くらい前、社会部記者の不正経費疑惑が発信された時は、職員の間でスクショが飛び交いました。いまNHK局内ではとかく若手の不満が溜まっているんです。残業代が昔に比べて減り、給料がガクンと下がってしまったのと、前田晃伸・前会長時代に行なったハチャメチャな人事改革制度で不公平極まりない人事評価が横行してしまったことが主な原因です。だからこそ、“暗部ちゃんがんばれ!”という気持ちで若手・中堅はみんな応援しているんです」と語っています。
デイリー新潮は、この「暗部ちゃん」に取材を敢行し、記事にしています。
一部引用すると次の通りです。
【前略】暗部ちゃん氏は、「復讐心」からこの活動をやっていると語っていますけれども、注目すべきは、彼の情報源となっている45人にも及ぶ“暗部ちゃん応援団”のNHK現役職員たちの存在です。
待ち合わせ場所に現れたのは、40代に差し掛かったばかりの男性だった。
「本社のディレクター職はみんな僕の正体を知っています。ただ今働いている職場には内密にしているので、実名や顔写真は勘弁してください。もちろん、今の仕事と完全に切り分けて、SNSの発信は通勤時間や休日などに行っています」
2007年にディレクター職で入局。地方局勤務を経て、東京の制作局で約10年間、昼の中継番組や朝の情報番組、「NHKスペシャル」などを担当してきた。最後の1年間は上司からCP(チーフプロデューサー)業務を任され、70本以上の番組を制作したという。
「Nスペにいた頃にコロナ禍が始まったんですが、それからは科学番組を作った経験を活かし、コロナ報道に明け暮れました。僕はNHKが国民から一番求められている役割は緊急報道だと思っています。未曾有の事態の中で、コロナについての正しい情報を発信し続け、国民生活に貢献できた満足感があった。視聴率も良く、上司からも早く正式にCPとして番組を引っ張ってほしいと言われていたので、昨年1月に昇進試験を受けたのです」
前田晃伸・前会長が「年功序列や縦割りを是正する」と2021年1月に人事制度改革を行なった際に新たに導入された昇進試験である。管理職は基幹職と名称変更され、アルファベットでTM(トップマネジメント)、M(マネジメント)、Q(品質・業務管理)、P(専門)の4ランクに区分された。
「僕はPという実務力が評価される職種に応募しました。すでに制作現場で実質的に管理職の仕事をしていましたので楽勝だと思っていたんですが……」
だが、結果はまさかの不合格。そして、暗部ちゃんはブチギレたのだった。
「それまで僕の人事査定は最上位で、さらに職員の中でも数人にしか与えられない特別加算を2回連続で得ていました。適正検査はすでにパスしているので、そもそも実務能力についてとやかく言われる筋合いなんてないんです。試験結果にはフィードバックもあったんですが、開けてみて唖然としました。評価が高かったところに『人財育成』とあり、悪かった点にも『人財育成』とある。意味がわからないじゃないですか。コスト意識とも書かれてありましたが、僕ほどコスト意識を持って視聴率を取っているディレクターはいないという自負もあった。それで人事に納得できないと駆け込んだんです」
実はこの昇進試験に対して不満に思ったのは暗部ちゃんだけではない。「評価が高い人間がなぜか落とされ、評価が微妙な人が受かる」とあらゆる部門で不満が渦巻き、局内は一時大混乱に陥ったのだ。あのころ、記者たちは『もう夜廻りはやめて作文教室に通おう』と不貞腐れていたという。
「僕はどうしても納得いかず、前田会長に“直訴メール”まで送った。直属の上司も同情してくれ、最後は制作局の幹部が人事に抗議してくれたんですが、結局、結果は覆りませんでした。前田さんはあの人事制度改革を利用して管理職に若い女性を増やしたかっただけだった。登用したい人は最初から決まっていたんです。馬鹿馬鹿しくなって、昨年の7月に辞めました」
沸点に達した怒りが退職後の告発活動に火をつけた。辞める前から「一生NHKと戦い続ける」と覚悟を決めて、ネタを仕込み、退職1カ月後の8月にSNS活動を開始。これまでの10カ月間でnoteに書いた記事は200本を超える。最初の3カ月間は毎日一本、勤務後に深夜2時くらいまで家にこもって執筆し続けていたという。
その原動力は何かと聞くと、暗部ちゃんは臆することなく「復讐心です」と答えた。
「公共放送としての使命に忠実に働き、実績を残した人間に対して無能のレッテルを貼り、逆に、不正をしたり社内不倫して遊んでいるような輩たちを厚遇するあの組織が許せなかった」
最近は“スクープ”も放った。12日にBPO審議入りした「ニュースウォッチ9」の“捏造VTR”問題を誰より早く呟き、世に知らしめたのは暗部ちゃんである。ツイートはTwitterのトレンド入り。実は、各社、暗部ちゃんからの情報提供がきっかけで取材に動いていた。
「いまは仕事の関係で、第一報として情報発信はできても、当事者に当たる裏取り取材や当て取材はできません。だから、貴重だと思う情報は付き合いのある記者さんたちに振って動いてもらうようにしています」
情報源は“暗部ちゃん応援団”の現役職員たちだ。
「コアメンバーとなった45人くらいが定期的に情報提供してくれています。彼らは匿名Twitterから連絡してくるので、実は僕は相手が何者か知らないし、聞かないようにしています。NHKが僕のアカウントを常時監視しているからです。実際、実名アカウントで『いいね』を押して、上司から呼び出されて大目玉を喰らったという報告を受けたことがある。もちろん、匿名情報についてはなるべく複数に当たり、ウラ取りしてから発信するよう努めています」
かくして実績を積み重ねてきた暗部ちゃんではあるが、この先、どこへ向かっていくつもりなのか。
今年1月にNHK会長は前田氏から稲葉延雄氏にバトンタッチ。稲葉氏は就任早々、「改革の検証」を前面に打ち出し、4月には前田政権下に行われた人事制度改革を検証するチームも立ち上げた。立ち向かうべき“巨悪”は去った。
「確かにあの時、前田さんが今の稲葉さんのように改革に対して一歩立ち止まって考えていてくれていれば、辞める必要はなかった」
こう語った後、暗部ちゃんは意外な“本音”を漏らした。
「僕が今一番望んでいることは何かと言われれば、絶対に叶わないとわかってはいるけれどNHKに戻ることですかね。あの仕事が好きでしたから」
だが、もう後戻りはできない。活動を支援してくれる顔も知らない45人の仲間の思いも背負っている。だから、「やれるところまで活動を続けていきます」と決意を語る。
「まだ前田体制の混乱は続いていますし、今も局内には、受信料で私腹を肥やしたり、適当な取材で歪んだ報道をする職員が何百人も巣食っています。NHKの看板を背負うに相応しくない職員を告発し続け、外部からNHKの健全化を図っていくのが僕に課せられた使命だと思っています。この活動をお金に変えようなんてまったく思っていません。NHKの隠蔽体質と僕の取材力。どっちが勝つかぶっ倒れるまで勝負しようぜって気持ちでやっています」
活動の源泉にあるのは、復讐心であり、男の意地であり、そして胸の底に今なお横たわる“NHK愛”なのである。
45人もの現役職員が自らの組織の「暗部」を告発する、とは、よほどのことだと思いますし、組織としてガタがきているのではないかとも思ってしまいますけれども、受信料なるものを徴収する以上は、その使途や編集方針など詳らかにしていかないと、国民から見放される一方ではないかと思いますね。
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