戦術レベルでの勝利が戦略レベルでの敗北をつぐなえないというのは軍事上の常識だ

今日はこの話題です。
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1.ガザ南部に攻撃を始めたイスラエル軍


12月2日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するハマスとの戦闘を再開したイスラエル軍はガザ南部への激しい空爆を行いました。本格的な地上侵攻の開始に向けた準備とみられています。

11月24日からは、双方が拘束・拘留している人を解放するとして、一時的に戦闘休止されていたのですけれども、12月2日、ハマス政治部門幹部は中東の衛星テレビ局アル・ジャジーラのインタビューで、停戦するまでは人質を解放しないと述べ、同日、イスラエル側もカタールでの交渉を担当していた対外情報機関モサドのチームに帰国を命じたことから、戦闘休止交渉は完全に決裂したとみられています。

戦闘再開後、イスラエル軍は空爆の主要対象をガザ北部から南部に移しており、2日夜から3日未明にかけ、北部から数十万人の住民が避難する南部ハンユニスなどを攻撃。ロイター通信によると、南部ラファにイスラエル軍の地上部隊が展開したとの情報もあるようです。

また、この日、北部ではハマス幹部が潜伏しているとされるシェジャイヤ地区、ガザ最大のジャバリヤ難民キャンプを重点的に空爆。AP通信によると、60
人以上が死亡し、300人以上ががれきの生き埋めになっているようで、ガザの保健当局によると、戦闘再開以降の死者数は316人に上っているとしています。

対するハマスは2日、各国の大使館や空港があるイスラエル中部テルアビブにロケット弾を集中的に発射しました。

イスラエル国内では、人質救出を優先するべきだとする意見に対し、戦闘休止はハマスを利するとの主張が出ており、世論が二分。2日夜にはテルアビブで、残された人質の解放を求める大規模な集会が開かれたのですけれども、イスラエルのネタニヤフ首相はこの日の記者会見で「ハマスを排除し、人質を解放するためには、地上侵攻を続行し、勝利する以外に道はない」と述べています。


2.民間人を守ることでしか市街戦には勝てない


そんな中、アメリカのロイド・オースティン国防長官は、イスラエルがハマスとの戦争で「戦略的敗北」を喫する危険性があると発言しました。

これは、12月2日にカリフォルニア州シミバレーで開催されたレーガン国防フォーラムでの基調講演での発言です。

講演内容は国防総省のサイトで公開されていますけれども、イスラエル・ハマス戦争に関する部分を抜粋すると次の通りです。
【前略】

ご存知のように、この瞬間に求められているようなリーダーシップを提供できる国は地球上で1つだけです。そして、革新、創意工夫、理想主義、そして自由な精神、自由な企業、自由な人々の強力な組み合わせを一貫して提供できる国は1つだけです。

そしてそれがアメリカ合衆国です。

そこで今日は、いくつかの重要な国家安全保障上の課題について、そして国防総省がそれらに対処するまさにアメリカ的な方法についてお話したいと思います。

そして、私たちの使命について率直に言わせてください。

米軍は我が国の戦争に勝つため、そして決定的に勝利するためにここにいます。

私たちは常に紛争を阻止するよう努めます。しかし、もし私たちが国を守らなければならないなら、私たちは戦います、そして私たちは勝ちます。

【中略】

私たちは困難な時代を生きています。これには、民主主義の仲間であるイスラエルとウクライナが直面している主要な紛争も含まれます。ますます自己主張を強める中国からのいじめと強制。そして民主主義と独裁主義の間の世界規模の戦いです。

ですから、今は私たちの友人もライバルもアメリカに注目している時代なのです。

今こそ、アメリカ国民が指導者たちが団結することを期待している時代です。

そして今は、世界の安全保障がアメリカの団結とアメリカの力に依存している時代です。

【中略】

アメリカのリーダーシップによって構築された世界は、アメリカのリーダーシップによってのみ維持することができます。

バイデン大統領が述べたように、「アメリカのリーダーシップこそが世界を一つにまとめるものである」。

ロシアから中国、ハマスからイランに至るまで、私たちの敵もライバルも米国を分断し弱体化させ、同盟国やパートナーから米国を引き離そうとしている。したがって、歴史のこの曲がり角において、アメリカは揺らいではなりません。

米国の指導者は、共通の安全保障を守るために同盟国やパートナーを結集させています。そして、それは世界中の一般の人々に、より明るい未来に向かって協力するよう促します。

しかし、私たち全員の安全を守ってくれるルールに基づいた国際秩序を守るための、強力かつ着実なアメリカのリーダーシップがなければ、私たちの時代の問題はさらに悪化するばかりです。

そして、私たちが責任ある立場を放棄すれば、ライバルや敵は喜んでその穴を埋めるでしょう。

どの世代においても、アメリカ人の中には関与よりも孤立を好む人がおり、彼らは跳ね橋を引き上げようとします。彼らはアメリカのリーダーシップの基礎を揺るがそうとしている。そして彼らは、大国間の戦争なしに数十年間の繁栄を生み出してきた安全保障構造を弱体化させようとしている。

そして、米国の責任からの撤退を大胆な新しい指導者だと決めつけようとする人もいるだろう。

したがって、これを聞いたら誤解しないでください。それは大胆ではありません。新しいものではありません。そしてそれはリーダーシップではありません。

古いことわざにあるように、教育にお金がかかると思うなら、無知であることを試してみてください。そして、もしアメリカのリーダーシップが高価であると思うなら、アメリカの撤退の代償を考えてみてください。

アメリカの長い歴史の中で、勇気の代償は常に臆病の代償に比べて小さく見えてきました。

そして、退くコストは常にリーダーシップのコストをはるかに上回っています。

暴君やテロリストが大規模な侵略と大量虐殺で済むと信じている場合、世界はさらに危険になるだけです。

そして、独裁者たちが民主主義を地図から消し去ることができると信じれば、アメリカの安全はさらに弱まるでしょう。

そして、独裁者や狂信者が自由な人々に恐怖の中で暮らすことを強制できると信じている場合にのみ、米国はより高い代償を払うことになるでしょう。

そして、その核となる洞察が、中東危機、ロシアのウクライナ侵略、そして中華人民共和国からの戦略的挑戦という3つのまったく異なる課題への私たちのアプローチに働いていることがわかります。

10月7日、ハマスのテロリストは1,200人以上のイスラエル人を殺害し、少なくとも35人のアメリカ人を殺害し、200人以上の人質を取った。

それはイスラエル史上最悪のテロ攻撃であり、ホロコースト終結以来、ユダヤ人の歴史の中で最も血なまぐさい日となった。

ハマスはイスラエル国境内で罪のない民間人を虐殺した。この事件では、病気のパレスチナ人をガザからイスラエルに治療のために車で送り込んでいた74歳のカナダ系イスラエル人の平和活動家と祖母が殺害された。幼児やホロコースト生存者を誘拐した。

そこで、ハマスの攻撃からわずか6日後、私はイスラエルに飛んで、私たちの団結と決意を強調し、イスラエルの安全に対するアメリカの取り組みが断固としたものであることを明確にしました。

そこで私たちは、イスラエルが自国民と領土を守るため、そしてハマスが10月7日に見たような残虐行為を二度と起こせないようにするために、イスラエルへの米国の安全保障支援を急いでいる。

米国指導部は数十人の人質の解放を支援した。そして私たちは、アメリカ国民を含む、ハマスに捕らえられたすべての男性、すべての女性、すべての子どもの解放を確保するために、できる限りのことを引き続き行います。

私たちはまた、中東における軍事態勢を急速に強化しました。そしてそれは地域的な抑止力を強化し、我が国の軍隊をより良く保護し、イスラエルを守るのに役立ちます。

そして私たちの駐留には現在、2つの空母打撃群、水陸両用即応集団、海兵遠征部隊、誘導ミサイル潜水艦、統合防空軍とミサイル防衛軍、そしてさらに多くの戦闘機と爆撃機が含まれています。

しかし、我々が地域の安定化に努める一方で、イランは緊張を高めている。

そして、イラクとシリアの米軍人に対する攻撃の後、米軍はイランの革命防衛隊とイランと提携する民兵組織が使用するイラクとシリア東部の施設を繰り返し攻撃した。

私たちは米国人への攻撃を容認しません。

したがって、こうした攻撃は止めなければなりません。

そして彼らがそうなるまで、私たちは軍隊を守るために、そして軍隊を攻撃する者たちにコストを課すために必要なことを行うつもりです。

今、イスラエルは、地球上で最も人口密度の高い地域のひとつで、残酷な敵との厳しい戦いを強いられています。

しかし、私たちのような民主主義国家は、戦争法を守ることで、より強く、より安全になります。だから私たちは、民間人を保護し、人道援助の確実な流れを確保するよう、イスラエルに圧力をかけ続けます。

何よりもまず、それが正しいなのです。けれども、それは良い戦略でもあるのです。

私はイラクで戦い、ISISを倒す作戦を指揮した経験から、市街戦について学びました。

ハマスのように、ISISは都市部に深く入り込んでいました。そして、ISISに対抗する国際連合は、最も厳しい戦いの最中でも、民間人を守り、人道的回廊を作ることに尽力しました。

つまり教訓は、民間人を保護すれば市街戦で勝てるということではありません。民間人を守ることでしか市街戦には勝てないということです。

この種の戦いでは、重心は民間人なのです。もし彼らを敵の手に引き渡せば、戦術的勝利を戦略的敗北に置き換えてしまうことになります。

だから私は、イスラエルの指導者たちに、ガザのパレスチナ市民を保護することは道徳的責任であり、戦略上の必須事項であることを繰り返し明言してきました。

そして、民間人の犠牲を避け、無責任なレトリックを避け、ヨルダン川西岸での入植者による暴力を防ぎ、人道援助へのアクセスを劇的に拡大するよう、イスラエルの指導者たちに強く求めてきました。

今週、米空軍のC-17が5万4000ポンドを超える国連の医療物資、防寒着、食料をガザ地区の人々に空輸しました。そして今後も同様の飛行がさらに増えることが予想されます。

したがって、2つのことが真実です。どの国も 10月7日のようなテロ攻撃に対応する義務があるということです。そしてすべての国家には、武力紛争中に民間人を保護する義務があります。

そして、イスラエルがガザ地区のハマスのテロインフラの解体に取り組んでいる中で、これは極めて重要です。これは、紛争終結後の同盟国やパートナーとの協力にとっても極めて重要となるでしょう。

さて、この悲惨な戦争の終わりにイスラエル人とパレスチナ人を待っていたのが、さらなる不安、さらなる怒り、そしてさらなる絶望だけだったら、この悲劇はさらに悪化するでしょう。イスラエル人とパレスチナ人はどちらも、10月6日に戻るにはあまりにも苦い代償を支払いました。

したがって、1967年の六日間戦争以来のすべての米国政府と同様に、イスラエル人とパレスチナ人は、お互いが故郷と呼ぶ土地を共有する方法を見つけなければならないと私たちは信じています。そしてそれは、相互安全のもとに共存する2つの国家への道を意味します。

今、私たちはすべての困難を理解しています。しかし、2国家による解決は、これまで提案されてきたこの悲劇的な紛争を解決する唯一の方法であることに変わりありません。そして、希望の地平がなければ、イスラエルとパレスチナの紛争は、不安定と不安、そして人間の苦しみの原動力であり続けるでしょう。

ご列席の皆様、米国はイスラエルにとって世界で最も親しい友人であり続けます。

イスラエルの安全保障に対する我々の支持は譲れません。そして今後もそうあり続けるでしょう。

【以下略】
オースティン国防長官は、この講演で、「中東危機」、「ロシアのウクライナ侵略」、「中国の戦略的挑戦」というアメリカの今、抱えている3つの課題について述べたのですけれども、彼はISISとの市街戦の経験から得た教訓として、市民を守れば勝てるのではなく、守ることでしか勝てない(So the lesson is not that you can win in urban warfare by protecting civilians. The lesson is that you can only win in urban warfare by protecting civilians.)と述べているのですね。

そして、市民をハマス側につかせてしまったら、今の戦術的勝利が、戦略的敗北に変ってしまう、と警告しています。

この発言についてブルームバーグは、「オースティンの発言は、ガザ地区での死者数について、米政府高官たちがイスラエルへの警告をますます声高にする中で飛び出したものだ。以前は非公開の会議に限られていたこうした警告は、イスラエルのアラブ近隣諸国、人権活動家、そしてジョー・バイデン大統領率いる民主党の左派を含む国内世論からの圧力の高まりによって、公然と行われるようになった。オースティンをはじめとするアメリカの指導者たちは、イスラエルを支援し続けることを誓っているが、民間人の犠牲が増え続ければ、アメリカの支援は成り立たなくなるのではないかと懸念している」と指摘しています。

ただ、ブルームバーグは、ミシシッピ州選出の共和党上院議員ロジャー・ウィッカー氏が、オースティン国防長官のコメントについて、「私ならそんなことは言わない……イスラエルと西側の同盟国は、民間人の犠牲を最小限に抑えるよう細心の注意を払ってきた」と述べていることも紹介しています。


3.イスラエル軍が民間人を銃撃した


一方、パレスチナ人からの視点を提供する、イスラエルとパレスチナの紛争を扱うオンラインサイト「エレクトロニック・インディファーダ」は、11月19日、イスラエルのミュージックフェスティバル「スーパーノヴァ・レイブ」で、イスラエル軍のヘリコプターが民間人を銃撃したとする記事を掲載しました。

このミュージックフェスティバル「スーパーノヴァ・レイブ」は、10月7日、イスラエルが364人死亡したと発表したあの事件のことですけれども、記事ではおおよそ次のように報じています。
・イスラエルが10月7日に364人が死亡したと発表した「スーパーノヴァ・レイブ」で、イスラエル軍のヘリコプターが民間人を銃撃した。
・イスラエルの捜査当局は、その日ガザから境界線を越えたハマスの戦闘員は、ガザの数キロ東にあるイスラエルの植民地入植地キブツ・レイム近くで開催された音楽祭について事前に知らなかったと結論づけたと、テルアビブ紙「ハアレツ」は土曜日に報じた。
・「警察筋によれば、現場に到着してテロリストに発砲したイスラエル国防軍の戦闘ヘリコプターが、フェスティバルの参加者にも命中したらしいという。
・ヘリコプターによって何人の祭りの参加者が死傷したかは記されていない。
・「ハアレツ」が報じた警察の調査は、イスラエル軍が10月7日以降に自国の民間人の一部を殺害したことを、イスラエル公式が初めて直接認めたものと思われる。
・ここ数週間で、これがまさに起こったことだという証拠が増えつつある。
・キブツ・ベエリでイスラエル軍による虐殺を生き延びたイスラエル人女性、ヤスミン・ポラトの証言がある。
・彼女の証言によれば、イスラエル軍がパレスチナ人戦闘員によって占拠されていた小さなキブツの家屋に戦車砲弾を含む重火器で発砲し、多くのイスラエル市民が殺害された。その時点まで、パレスチナの戦闘員はイスラエルの民間人を "人道的に "扱っていたと、ポラトはイスラエルの公式放送局Kanに語った。
・イスラエル空軍は、10月7日に20機以上の攻撃ヘリコプターを送り込み、大量の大砲弾とアメリカ製のヘルファイア・ミサイルを発射したことを認めている。
・イスラエルの『Ynet』は先月、イスラエル空軍の調査を引用して報じた。
・イスラエル空軍の調査を引用して、イスラエル『Ynet』が先月報じた。
・イスラエル軍が公開したビデオには、ヘリコプターが民間人の車と思われるものを無造作に標的にしている様子が映っている。
・そして木曜日、イスラエル政府のマーク・レーゲフ報道官はMSNBCのインタビューで、10月7日にイスラエル軍がパレスチナ人戦闘員とイスラエル民間人を区別しない無差別爆撃で数百人を焼き殺したことを、おそらく意図せずとも認めた。
・イスラエルは、軽火器で武装しただけのパレスチナ人戦闘員が、家屋が瓦礫と化したいくつかの入植地で見られたような大規模な破壊を引き起こしたり、数百人を焼死させたりして、人知れず死に至らしめたことを説明したことはない。
・しかし、これらはハマスの襲撃に対応したイスラエル軍が保有し、使用した能力である。
・イスラエルが最近、主張する死者数を1,400人から「約1,200人」に減らしたことも、公式のシナリオに疑念を抱かせている。
・10月7日以来、地上からも空からも、相当数のイスラエル人が自軍によって殺害されたという証拠が増え続けている。
・ハマス側は、10月7日にイスラエルの民間人が殺害されたことは否定していないが、自軍の戦闘員が民間人を殺害しようとしたことは否定している。
・死者の責任を特定するには、徹底した独立調査が必要だが、イスラエルの国際的支持者も国連もそれを求めていない。
・イスラエルの公式シナリオを支持するために、イスラエル政府高官とロビイストは、ジョー・バイデン大統領が繰り返した、イスラエルの赤ん坊が何十人も首をはねられたという、悪名高い論破された話を含む、複数の虚偽の残虐物語を流布してきた。
・イスラエルはまた、パレスチナ人がイスラエル人女性に対して広範でおぞましい性的暴力やレイプを行ったと主張しているが、当局は、そのような攻撃を確認する法医学的証拠が何も出てこない理由を言い訳にしかしていない。
・「警察のドゥディ・カッツ警視総監は、女性がレイプされるのを目撃したという人々の証言を含め、襲撃事件に関する1000件以上の証言と6万件以上のビデオクリップを収集したと述べた」とCNNは金曜日に報じた。
・しかし、カッツ氏によれば、捜査官は直接の証言を持っておらず、レイプ被害者が生存しているかどうかも不明だという。
・しかし、西側諸国の政府やメディアは、イスラエルの証言に大きな食い違いがあることを示す証拠を無視してきた。
・彼らは、ハマスの戦闘員を、10月7日にイスラエル軍自慢のガザ師団を打ち負かすことを目的としたレジスタンスの戦士としてではなく、むしろ最も陰惨な方法でできるだけ多くの人々を殺害しようとする血に飢えた野蛮人として描く公式の物語に固執することを好んだ。
・ハマスの残虐行為に関する未検証の、誇張された、そして全くの虚偽の証言は、イスラエルがガザで続けているパレスチナ市民の大量虐殺を扇動し、正当化するために使われてきた。
・10月7日直後、イスラエルはハマスとISISを比較するプロパガンダ・キャンペーンを開始した。
・欧米の政府やメディアには成功したが、テルアビブのプロパガンダ・キャンペーンは一般市民には不評だったようだ。特に、イスラエルがガザで市民を容赦なく殺戮しているため、自らを被害者と位置づけようとする試みは影を潜めている。
・ロイター/イプソスの新しい世論調査によれば、ガザを破壊するイスラエルを米国が支持すべきだと考えているアメリカ人はわずか32%で、1カ月前の41%から低下している。
・これとは対照的に、アメリカ人の39パーセントは、アメリカが中立的な調停者であることを望み、68パーセントは即時停戦を支持しているという。
・10月7日に実際に何が起こったのかを解明するのは、これまでは『エレクトロニック・インティファーダ』のような一握りの独立系出版物に委ねられてきたが、土曜日の『ハーレツ』紙による暴露は、遅まきながらこの問題に対する国際的な注目を集めることになった。
・土曜日の記事に先立ち、Haaretz紙自身は、10月7日の少なくとも何人かのイスラエル市民の死はイスラエルに責任があるとの報道を、"陰謀論 "や "フェイク・ニュース・キャンペーン "と表現していた。
まぁ、自ら「パレスチナ人からの視点を提供する」というだけあって、そちらの見方であることは留意するにしても、世界各地でイスラエルに対するデモが起こっていることをみれば、イスラエルが自らを被害者と位置づけ、ハマスとISISを比較するプロパガンダは失敗に終わっているという「エレクトロニック・インディファーダ」の主張は当たっているように思われます。

また、前述したアメリカのオースティン国防長官が講演で「ISISとの市街戦の経験から得た教訓として、市民を守れば勝てるのではなく、守ることでしか勝てない」と指摘したことは、イスラエルに対し、ハマスをISISに擬えるのであれば、市民を守ることでしか、勝利はないぞ、と暗に批判しているようにさえ見えます。


4.ネタニヤフとハマスはどちらも退場する


現在、イスラエル軍はガザ南部にも空爆を掛け、ハマス掃討に向かって前進しているように見えますけれども、11月26日、アメリカのワシントンポストは、「ネタニヤフ首相とハマス首相は互いに依存していた。どちらも退場するかもしれない」という記事を掲載しました。

記事の概要は次の通りです。
・2009年、ベンヤミン・ネタニヤフ首相がイスラエルの首相に返り咲いたとき、彼は地域の大きな変化に直面した: その3年前、イスラム過激派組織ハマスがガザ地区で政権を獲得していたのだ。
・ハマスは当初からイスラエルを破壊すると宣言しており、ネタニヤフ首相も2009年の選挙戦でハマスを破壊すると宣言した。その代わりに起こったのは、10年半にわたる不穏な共存だった。ネタニヤフ首相の連立政権とハマスの指導者たちは、互いがそれぞれの目的のために有用であることを見出していた。
・この奇妙な共生関係は、エスカレートと融和、平穏の希望と混沌の時期を経て、ハマスとネタニヤフ首相がともに政権維持の終焉の可能性に直面する現在まで続いている。
・ハマスの指導者たちは、10月7日に少なくとも1,200人のイスラエル人を殺害した攻撃を指揮した後、イスラエル軍によって爆撃され、追われている。パレスチナ当局によれば、ガザで11,000人以上が死亡した壊滅的な攻撃のさなか、一部のガザ市民でさえ、10月の攻撃についてハマスへの批判を公にし、市民を軍の猛攻撃にさらすという珍しい行動に出た。
・ネタニヤフ首相は先月、政敵と非常時の戦争権限を共有することに同意したが、10月の攻撃を防げなかったこと、そしてその余波で政府の対応が乱れたことで、かつてないほどの国民の怒りに直面している。世論調査では、イスラエル国民の75%が、今すぐ辞任するか、戦闘が止んだら交代するよう求めている。
・首相と過激派組織との関係を研究しているイスラエルの歴史家アダム・ラズは、「奇妙な同盟関係はもう限界だ」と言う。「ハマスがガザの政府になることはない。ネタニヤフ首相は政治家としてのキャリアを終えようとしている。
・状況は急速に変化しており、どちらの運命も確かなものではない。イスラエルとハマスが合意した4日間の戦闘休止が金曜日に始まった。イスラエル人の人質50人のうち最初の1人は、取引の一環として同日解放された。ネタニヤフ首相は "ハマス撲滅 "を目標に、一時停止後も戦闘を継続すると宣言した。
・ラズや他のオブザーバーは、ネタニヤフ首相が10月7日のハマスの攻撃と約240人のイスラエル人の拘束を予期していなかったことを明らかにした。
・しかし、候補者として「ガザにおけるハマスの支配を打ち砕く」と公約していたネタニヤフ首相は、政権を奪還するや否や、パレスチナ住民の分断という現状を打破することなく、ガザではハマスの支配に任せ、ヨルダン川西岸では対立するパレスチナ自治政府の支配に任せるという戦略をとったのだという。
・この分裂は、イスラエルの占領に反対するパレスチナ人の能力を弱体化させることで、ネタニヤフ首相と交渉による2国家間紛争の解決に反対する人々の目的を果たした、とアナリストは言う。
・「統一されたリーダーシップがなかったため、ビビは和平交渉を進めることはできないと言うことができた」と、イスラエルの世論調査員で政治アナリストのダリア・シャインドリンは、ネタニヤフをニックネームで呼んだ。そのおかげで、彼は "話す相手がいない "と言うことができた」。
・この状況によってネタニヤフ首相は、過去40年間のイスラエル指導者の在任期間を形作ってきた「パレスチナ問題」をほとんど脇に置くことができた。ネタニヤフ首相の伝記作家アンシェル・プフェファーによれば、ネタニヤフ首相はその代わりに、イランやその他の脅威、そしてイスラエルの経済大国への発展を重視した。
・「ネタニヤフ首相は常に、パレスチナ紛争はイスラエルのくさび問題として利用されている気晴らしだと感じていた。彼はそれを "ウサギの穴 "と呼んだ。
・ネタニヤフ歴代内閣は毎年、ハマスへの圧力を緩和するような動きを承認してきた: イスラエルは、定期的な囚人の釈放、カタールからの送金によるガザの公的給与の支払い、インフラの改善、批判的な意見ではハマスの軍事作戦への資金提供などに同意した。
・首相は、2018年にハマスとパレスチナ自治政府が和解に近づいたときでさえ、ハマスとパレスチナ自治政府の和解を阻止することを望んでいた。
・「この10年間、ネタニヤフ首相はガザのハマス解体の試みを妨害してきた」とラズ氏。
・ネタニヤフ首相の事務所は、オフレコでの回答を拒否した。しかし、匿名を条件に語った政府高官は、首相がハマスの政権維持政策を追求したことはないと否定した。
・「彼は歴史上最も引用された首相であり、ハマスの強化を促すような彼の発言は一つも見当たらないだろう。「その反対だ。彼は歴史上のどの首相よりもハマスに厳しく当たった。彼は2012年、2014年、2021年の3回、ハマスに対する大規模な軍事作戦を指揮した」。
・「10月7日の残虐行為の後、彼の戦争内閣が(イスラエル国防軍に)指示したのは、ハマスの壊滅ではなかった。「今、イスラエル国防軍がやっているのはそのことだ」。
・その間、不安定なデタントが生まれた。ハマスがイスラエルに向けてロケット弾を発射し続けたが、そのほとんどは高度な航空防衛システムによって迎撃された。戦争は勃発したが、いずれも交渉による停戦で終わった。ハマスが政権を維持し、全面戦争ではなくガザの建設に焦点を当てた、より信頼できる統治組織へと進化しているとの期待が高まった。
・この状況にメリットを感じていたのはネタニヤフ首相だけではない。イスラエルの穏健派は、ガザが安定し、生活水準が向上する未来を思い描き始めた。ビジネス界は、ユダヤ国家とのより強い結びつきを築こうとするアラブ近隣諸国とのイスラエルの関係改善を歓迎した。
・ガザからの輸出は増加した。そして近年、ネタニヤフ首相も、保守的でない野党が率いる1年半に及ぶ政権も、イスラエルでの就労許可をガザ人にどんどん与えた。その数は10月7日までに18,000人を超えた。
・今、ハマスがガザに根を下ろしたままの戦略は、心に傷を負ったイスラエル人によって精査されている。政治的な領域全体にわたる怒りが、ネタニヤフ首相の支持率を歴史的な低水準にまで押し下げている。シャインドリンによれば、現在、世論調査で彼が首相に最もふさわしい政治家だと答えた有権者はわずか25%だという。
・「右派は彼がハマスの一掃を望み、中道と左派は彼が交渉路線を取りやめなかったことを望んでいる」と彼女は言う。
・2006年以来選挙が行われていないガザでは、ハマスへの支持を測るのはより難しい。戦争前は、ハマスの報復を恐れて、政権批判はほとんどささやかなものにとどまっていた。今では、砲撃と避難による大規模な混乱が、世論調査をほとんど不可能にしている。最近の調査では、軍事攻撃が続く中でイスラエルへの怒りが高まり、ハマスへの支持が続いているものもある。
・しかし、ソーシャルメディアやワシントン・ポスト紙のインタビューでハマス批判をするガザの人々は増えている。
・「私はそれを言うことを恐れていません: 戦争が起きたからというだけでなく、何年も前からです」と、ガザ中心部のディール・アル・バラに住む薬剤師のアフマドさん(44)は言う。報復の可能性から彼を守るため、『ポスト』紙は彼のフルネームを使用していない。「有能な統治者がいないために、私たちは貧困と悲惨の中に置かれ、この壊滅的な戦争によってさらに悪化している。イスラエルの行動は、ハマスの関係者であろうとなかろうと、誰一人惜しむものではありません」。
・モタズ(39歳)は、ハマスのイスラエル攻撃は彼を「恐怖」に陥れ、彼の家族を先月カーン・ユーニスで彼の食料品店を破壊したイスラエルの攻撃にさらした。
・彼はハマスが生き残れるとは思っていない。しかし、ガザの指導者が変わったところで、荒廃した市民にとって何が変わるのか、彼にはわからない。
・「ハマスが政権を維持したとしても、ここにいる私たちに何が残るのでしょうか?とモタズは尋ねた。「住む家もなければ、私たちを支える仕事もない。私は唯一の生活の糧を失ったのです」。
記事によると、2国家解決したくないネタニヤフ首相は、ガザをハマスの支配に任せ、ヨルダン川西岸はパレスチナ自治政府の支配に任せて、イスラエルの占領に反対するパレスチナ人の能力を弱体化させることで、紛争解決したくとも、パレスチナ側の交渉相手がいないという言い訳をしてきたというのですね。

けれども、イスラエル世論は、ハマス一掃と交渉による解決で二分し、ネタニヤフ首相の支持率は25%という歴史的低水準になっていると伝えています。

また、記事は、ガザの人々の中からもハマスを批判する声が増えていることを紹介し、結局は、ネタニヤフ首相もハマスも、どちらも退場するかもしれないとしている訳ですけれども、結構この可能性はあるように思います。

ネタニヤフ首相とすれば、ハマスをISISに擬え、イスラエルを被害者とすることでハマス撲滅の正当性を得ようとしたところ、世界は逆に民間人の虐殺をするな、と猛批判を食らうことになるとは計算外だったかもしれません。無論、ハマスもやっていることはテロですから同じく批判の対象です。

11月7日のエントリー「イスラエルの核攻撃発言と非核兵器地帯条約」で、筆者は「国際的孤立が抑止力として成立する可能性」について述べましたけれども、イスラエルとハマスに対する国際的批判が、部分的であるにせよ抑止力となって、戦火の拡大を防ぐ力になることを期待したいですね。



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この記事へのコメント

  • おじじ

    カタールに亡命中のハマスのリーダーは、七千五百億円の資産を持つと、米フォーブズが暴露している。この莫大な資産は、どうやって蓄積することだ出来たのだろうか。それは、テロビジネスでしかありえないだろう。一方、イスラエルは労働者不足に以前から悩んでおり、パレスチナ人に依存してきた事実がある。実は、パレスチナ人もユダヤ人は嫌いでも、日々の生計が稼げるのであれば、越境して働きに出かけるわけである。こうして、パレスチナ人の富は、被害者意識を巧妙に煽ったハマスに収奪されていく。世界の支援によって構築された上水道を、ハマスがロケット砲を密造するために水道管を掘り起こして使うという悪循環は避けたい。しかも、テロにより開戦通告なく攻撃したのがハマスである。ハマスは粉砕されて当然だろうし、ガザ地区を占領されたとしても仕方ない。
    2023年12月06日 09:11