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1.今日の化石賞
12月3日、世界各国の環境NGOが作るグループ「気候行動ネットワーク(CAN)」は、UAEのドバイでの国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、気候変動対策に消極的だと判断した国に贈る「今日の化石賞」に選んだと発表しました。
1位は海底石油・天然ガス開発を再開するニュージーランド、2位は化石燃料に公的資金を提供する日本、3位は「損失と損害」基金にあまり資金を出さなかったアメリカです。
「今日の化石賞」は1999年に始まり、COP期間中、気候行動ネットワーク(CAN)のメンバーが投票して決めています。ニュージーランドは2018年に先住民の声に耳を傾け、海底石油・ガス開発を禁止したものの、新政権はこの方針を撤回する方針で、環境団体から厳しい目が向けられています。
日本が「今日の化石賞」に選ばれたのは実に4回連続のことで、「気候行動ネットワーク(CAN)」は「岸田文雄首相は『世界の脱炭素化に貢献する』と主張する2つのイニシアチブでグリーンよりもグリーンであるかのように見せたいようだが、国内およびアジア全域で石炭とガスの寿命を延ばそうとしているのが透けて見える……これは水素やアンモニアを化石燃料と混焼し、火力発電所をずっと先まで稼働させるグリーンウォッシュ以外の何ものでもない。アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)イニシアチブを通じ、混焼技術を使って石炭・ガス火力発電所を稼働させ続けるよう東南アジアに売り込みをかけ、自然エネルギーを3倍にする世界的な目標達成を妨げている」と批判しています。
化石賞のトロフィーを受け取るパフォーマンスをした日本の環境NGOのメンバーの長田大輝氏は「気候変動の影響が世界中で出ていて、一刻も早く脱化石燃料をしないといけない中、日本はそれができていない。脱化石燃料に向けて具体的な行動をしないといけない」とコメントしています。
「化石賞」に選ばれたことについて、日本政府関係者は「民間団体の活動に、政府としてコメントすることは差し控える……日本政府が進める温室効果ガスの排出削減対策が講じられていない石炭火力発電所の新規建設は行わないという日本の脱炭素の取り組みを世界に発信していきたい」と話し、
松野官房長官は記者会見で「石炭火力は、安定供給を大前提にできるかぎり発電比率を引き下げていく方針で、まずは2030年に向けて非効率な石炭火力のフェードアウトを着実に進めるとともに、2050年に向けて水素やアンモニアなどを活用した脱炭素型の火力発電への置き換えを推進する。加えて排出削減対策の講じられていない新規の石炭火力発電所の建設を終了していく」と述べています。
2.消極的な業界団体
この連続での「化石賞」受賞について、在ロンドン国際ジャーナリストの木村正人氏はNEWSWEEKへの寄稿記事で次のように述べています。
【前略】木村氏によると、日本の取り組みが進まないのは、国内総生産(GDP)の1割にも満たない鉄鋼、電力、自動車、セメント、電気機器、石油・石油化学、石炭関連業界が後ろ向きで、中でも日本鉄鋼連盟と電気事業連合会が特にそうだというのですね。
日本の気候変動対策がここまで遅れた理由はいったい何なのか。ロンドンを拠点にする世界的な非営利シンクタンク「インフルエンスマップ」が2020年8月に発表した報告書「日本の経済・業界団体と気候変動政策」で気候変動・エネルギー政策に対する日本の経済・業界団体の立場を分析している。
それによると、業界団体を通じて気候変動・エネルギー政策への働きかけを徹底して行っていたセクターは国内総生産(GDP)の1割にも満たない鉄鋼、電力、自動車、セメント、電気機器、石油・石油化学、石炭関連業界だった。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の提唱する政策と比較すると、こうした業界団体からの働きかけは概して後ろ向きだ。
業界団体の中で最も後ろ向きで激しい働きかけを行っていたのは日本鉄鋼連盟と電気事業連合会。これに対してGDPの7割を超える小売、金融サービス、物流、建設、不動産を代表する業界団体は働きかけをほとんど行っていない。さらにイオンをはじめ数多くの企業が事業の電力を100% 再エネで賄うという明確な目標を掲げていた。
化石燃料からクリーンエネルギーへの移行を促進する国際組織オイル・チェンジ・インターナショナルの報告書によると、日本は海外の化石燃料事業にカナダに次いで世界第2位の公的資金を提供している。20~22年にかけ、カナダ、日本、イタリアはそれぞれ少なくとも年平均105億ドル、69億ドル、29億ドルを供与していた。3カ国でG7全体の8割だ。
カナダは22年末までに化石燃料への国際的な公的資金提供を打ち切るという公約を果たし、23年末までに国内の補助金も打ち切ることを約束している。1位のカナダが化石燃料事業への資金提供を大幅に減らすことになるため、2位の日本、3位のイタリアが最大の化石燃料資金供与国となる可能性が高い。
ガスでは日本が世界最大だ。オイル・チェンジ・インターナショナルは4月、別の報告書で日本が12~26年、海外で建設されるLNGプロジェクトに提供する資金は世界最大の397億ドルにのぼると指摘している。「化石燃料にさよならと言うべきなのに日本は怠ってきた。日本は気候危機の悪化を金銭面で支える世界最大の国だ」とFoE Japanの長田大輝氏は語る。
過当競争や収縮傾向の市場で競争相手が撤退した後、生き残った企業が市場を独占することを「残存者利益」という。議長国UAEは世界で再エネ容量を3倍にし、エネルギー効率改善率を2倍にする目標を掲げる。これを受け、118カ国政府が30年までに世界の再エネ容量を3倍にすると約束した。日本は化石燃料にしがみつき、残存者利益を狙うつもりなのか。
3.二酸化炭素排出増加量を誤魔化していた中国
「化石賞」では、日本の取り組みが進んでいないと批判しているのですけれども、では取り組みが進めば、世界の二酸化炭素排出量が減るのかというと、大したことはありません。世界でみれば、日本の排出量は多くないからです。
次の図は2020年の世界の二酸化炭素排出量比率ですけれども、1位は中国の30.5%、2位はアメリカの13.4%、3位はインドの6.3%で、日本は5位の2.8%です。仮に日本がこれから排出量を半分にしたとしても、2.8%が1.4%と少し減るに過ぎません。
やはり、世界の3割もの二酸化炭素を排出している中国をなんとかすべきでしょう。
けれども、ここにきて、中国が自身の二酸化炭素の増加を改竄していたことが明らかになりました。
環境省は、中国の二酸化炭素(CO2)濃度の年間増加量が、中国が公表している排出源などの情報を基に計算された数値の約1.5~3倍に上るとする報告書をまとめました。報告書は9日にも、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で発表するとしています。
報告書によると、日本の温室効果ガス観測衛星「いぶき」が、中国の約7万7000地点で、2009~2022年のCO2濃度の年間増加量を観測したところ、0.6~1.2ppm(1ppmは1万分の1%)だったのに対し、各国が公表する化石燃料使用量や発電所数などの情報に基づいた国際的なデータベースによると、中国のCO2濃度の年間増加量は0.2~0.8ppmと、衛星観測の値が約1.5~3倍に上ったそうです。一方、日本とアメリカについても同様の条件で調べたところ、衛星観測とデータベースの数値に食い違いはなかったそうですから、やはり報告値を低くしていた可能性があります。
環境省幹部は「温室効果ガスの削減目標を定めても、誤差の範囲を超える数値の不一致があっては意味がない。日本は衛星観測でデータの透明性確保に貢献していく」と話していますけれども、温室効果ガスの削減を目指すには、やはり中国に改善させるのが一番効果があります。
「化石賞」が、気候変動対策への取り組み姿勢を問うものであるならば、二酸化炭素(CO2)濃度の年間増加量を誤魔化していた中国の姿勢も問われてしかるべきだと思います。
4.電源の6割を石炭に依存する中国がEVを増やしたとしても脱炭素化につながるか疑問です
脱炭素への貢献が期待されるものとして、よく電気自動車(EV)が取り上げられることがありますけれども、ガソリンの代わりに電気を使うというだけで、その電気をつくるのにCO2を排出するのなら、やはり同じことです。
中国では消費者向けの購入促進策や企業への直接融資といった政府の支援策に後押しされ、過去10年間でEVを手掛けるスタートアップ企業が大量に誕生しました。
自動車メーカー各社は補助金を得るためEVを大量生産し、EVを中心とする「新エネルギー車(NEV:New Energy Vehicle)」の市場占有率は3割を突破しています。けれども、その電源自体は石炭火力への依存度が高いままで、脱炭素化にはつながってはいません。
中国政府は、経済成長の牽引車としてEVの成長に期待をかけてきました。
中国自動車工業協会(CAAM)のデータによると、2023年上半期の同国輸出台数は214万台で、前年同期比75.7%増。このうち新エネルギー車(NEV)の輸出台数が160%と最も大きく伸びて53万4000台となりました。
けれども、中国EV市場の飽和懸念が指摘されています。
中国の国内自動車販売は、2017年をピークとして、小幅な増減を繰り返しているのですけれども、2023年上期の新車販売に占めるEVの割合は3割を
超え、当初政府が2025年の目標と定めていた20%を前倒しで達成しています。
中国政府は、メーカーに対するEV生産義務を強化する一方で、今年6月に新エネルギー車に対する自動車取得税の減免措置を2027年末まで延長すると発表し、売り上げ促進を後押ししてきました。それでも自動車メーカーは製造を義務付けられているEVを売るために価格を下げるという値下げ競争に陥っています。
当然ながら、各社はEV輸出に力を注ぎ、中国EVの輸出台数は、2022年に前年比2.2倍の67.9万台へと急増。2022年の世界の電気自動車(EV)販売台数ランキングによると、上位15社のうち、中国企業が6社を占め、比亜迪股份有限公司(BYD社)の販売台数は185万台とグローバルシェアが18.3%に達し、テスラの131万台を抜いて世界1位に躍進しました。このようにEV輸出拡大は、中国の自動車輸出全体の拡大に大きく寄与しています。
ただ、EV輸出の増加は、貿易摩擦の引き金になることもあります。実際、EUは中国EVのダンピング調査を始めるなど警戒姿勢をみせています。
国内では過当競争、海外では貿易摩擦懸念と、巷で持て囃されている割には、その内情は結構厳しいものがあります。
中国には、純粋なEVとプラグインハイブリッド車(PHV)を製造しているブランドが約50あるのですけれども、専門家によれば、2030年までに中国の自動車メーカーは、10~12社に減るだろうと予想されているそうです。米銀大手シティグループの5月のアナリストリポートによると、中国全土にあるEV工場の23年の年間稼働率は、わずか33%だとしています。
EVを作るために、石炭を燃やしまくってCO2を発生させるのでは、なんのための脱炭素なのか分かりませんし、そのEVも値下げして売りまくっては、飽和させている。
「化石賞」を出している環境NGOの「気候行動ネットワーク(CAN)」は、120以上の国々の1100以上の非政府組織からなる組織だそうですけれども、中国に対して、もっとモノ申してもよいのではないかと思いますね。
電源の6割を石炭に依存する中国がEVを増やしたとしても脱炭素化につながるか疑問です。サプライチェーンの特定国への依存を低減する「デリスキング」を進め、同志国と連携を通じサプライチェーン強靭化を進めます。不透明な産業補助金や緩い環境規制などによって不当に安価な製品の大量生産に対しても… pic.twitter.com/YXfNkOywMQ
— 西村やすとし NISHIMURA Yasutoshi (@nishy03) December 6, 2023
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