ガザ即時停戦決議案否決とグテーレスの深謀

今日はこの話題です。
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1.ガザの即時停戦決議案


12月8日、国連安全保障理事会はパレスチナ自治区ガザ地区での人道目的の即時停戦を求める決議案の採決を行いました。

これは、グテーレス事務総長が12月6日に、滅多に使用されない国連憲章の条項を引用し、安全保障理事会に対し、ガザでの「人道的大惨事を回避するよう圧力をかけ」、イスラエルとパレスチナ過激派の間の完全な人道的停戦を求めて団結するよう呼びかけたことが発端です。

国連憲章第15章の第99条には、「事務総長は、国際の平和と安全の維持を脅かす可能性があると考える事項を安全保障理事会に通報することができる」となっているのですけれども、グテーレス事務総長は、安保理への書簡の中で、この条項を発動させた訳です。

これについて国連ニュースは次のように報じています。
【前略】

・ステファン・デュジャリック国連報道官は書簡とともに記者らに宛てた声明で、2017年の就任以来、グテーレス氏が第99条の発動を強いられていると感じたのは今回が初めてだと述べた。
・デュジャリック国連報道官は、国連事務総長が「ガザとイスラエルにおける短期間での人命損失の規模を考慮して」措置を講じたと説明した。
・デュジャリック国連報道官は、グテーレス氏が第99条の利用を「劇的な憲法上の動き」と表現し、グテレス氏が安保理と国際社会全体に、紛争当事国間の停戦を要求する圧力をさらに強めることを望んでいたと述べた。
・デュジャリック国連報道官は国連本部で記者団に対し、「これはおそらく最も重要な発動だと思う」とし、「私の意見では、彼(事務総長)が持つ最も強力な手段だ」と語った。
・書簡は水曜午前遅くにニューヨークの安全保障理事会議長に送られた。
・グテレス氏は評議会議長に宛てた書簡の中で、8週間を超える戦闘全体が「イスラエルとパレスチナ占領地全域に恐ろしい人的苦痛、物理的破壊、集団的トラウマを生み出した」と述べた。
・同氏は、10月7日に過激派によって33人の子供を含む1,200人以上が「残忍に殺害」され、130人が今も拘束されていると強調した。
・「彼らは直ちに無条件に解放されなければなりません。これらの攻撃中の性的暴力の報告は恐ろしいものである」と国連事務総長は付け加えた。
・イスラエルがハマスの戦闘員を標的にし続けているため、ストリップ全域の民間人が深刻な危険に直面しており、伝えられるところによると1万5000人以上が死亡し、そのうち40%以上が子供であると同氏は述べた。
・ガザ人の約80%が避難民となっており、110万人以上が国連パレスチナ難民機関(UNRWA)の避難所への避難を求めている。
・グテーレス氏は、民間人に対する効果的な保護はまったくなく、安全な場所はどこにもないと述べた。
・同氏はさらに、「病院は戦場と化している」と付け加え、ガザ全土が絶え間なく砲撃を受けている中、「避難所や生き残るための必需品がなければ、近いうちに治安が完全に崩壊すると予想している」と述べた。
・11月15日の理事会決議2712に目を向け、同氏は、現在の状況では、決議が要求しているように、民間人の膨大なニーズを満たすために人道物資を拡大することが不可能になっていると述べた。
・「私たちはガザ国内で困っている人たちに会うことがまったくできていない」と彼は書き、「人道システム崩壊の深刻なリスク」に直面していると述べた。
・その結果はパレスチナ人および地域全体の平和と安全に取り返しのつかない影響を与えると彼は主張した。
・「これは緊急です……そのような結果は何としても避けなければなりません。国際社会には、さらなるエスカレーションを防ぎ、この危機を終わらせるためにあらゆる影響力を行使する責任があります……私は人道的停戦の宣言を改めて訴えます。これは緊急です。民間人はさらなる被害から救われなければなりません。」
・同氏は、停戦により希望が生まれ、「安全かつタイムリーに人道支援を提供できる」と強調した。

【以下略】
グテーレス事務総長がこの99条を発動したのは2017年の就任以来初めてのことということですから、どれだけ今の事態を深刻に考えているか分かります。


2.残念という言葉を超えた


グテーレス事務総長の呼びかけを受け、アラブ首長国連邦(UAE)が決議案を策定・提出。国連加盟国97ヶ国が支持を表明していました。

投票に先立つ議論でグテーレス事務総長は、「ガザの人々は奈落を見下ろしている」と述べ、国際社会は「できる限りの方法で、彼らの苦難を終わらせなければならない」と強調し、イスラエルの隣にパレスチナ人の独立国家を作る「2国家共存構想」が「平和な未来を作る唯一の有効な可能性だ」として、「世界中の目が、そして歴史の目が見ている。行動の時だ」と強く促すと共に、10月7日のハマスの攻撃を「全面的に非難」し、ハマスに連れ去られたイスラエル人の人質の即時解放を求めました。そして更に、「同時に、ハマスによる残忍な行為は、パレスチナ人への集団的懲罰を決して正当化できない」と結びました。

決議案の可決には少なくとも安保理9ヶ国の賛成と、常任理事国のアメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスが拒否権を発動しないことが必要だったのですけれども、この決議案は否決されました。理由は常任理事国のアメリカが拒否権を行使したからです。その他は、イギリスが採決を棄権しただけで、それ以外の国は全部賛成票を投じました。その中には日本も含まれています。

決議案について、アメリカの代表は、「残念ながら、我々の勧告はほとんどすべて無視された」、「この性急なプロセスの結果、現実からかけ離れたバランスのかけた決議案が提出された」と、拒否権発動の理由を説明。特に、決議案が「無条件停戦」を求めている点が最も非現実的だと指摘し、「これではハマスが自らを立て直し、10月7日と同じことを繰り返すようになる」と主張。また、ハマスによる10月7日のイスラエル襲撃について、自分たちが求めた非難の文言が含まれていないとし、アメリカとしては、「次の戦争の種をまく」だけの「持続不可能な停戦」を支持できないと述べています。

また、投票を棄権したイギリスの代表も、10月7日のイスラエル人に対するハマスの残虐行為を非難しない決議案に賛成することはできなかったと、アメリカに呼応。「イスラエルはハマスの脅威に対処する必要がある」と述べたうえで、イスラエルは国際法を順守しなければならないと付け加え、パレスチナ人への援助と、ハマスに拘束されているイスラエル人の人質を解放するために、より長い人道的な戦闘休止をさらに行うべきだと述べました。

一方、アメリカの拒否権発動を受け、決議案を提出したUAEの代表は、人道的停戦を要請できなかったことに「深く失望した」と述べ、「同じような状況」に置かれている世界中の市民に対して、自分たちはどのようなメッセージを送っているのかと問いかけました。

中国代表は、民間人の命に配慮しながら停戦草案への支持を拒否するアメリカを「自己矛盾」と非難。ロシアの代表もアメリカは「無情」だと述べ、停戦決議への反対はパレスチナ人への「死刑宣告」だと批判しました。

フランス代表は、ガザで起きている「人道的悲劇」と呼ばれる事態を「非常に憂慮している」ため、決議案に賛成したと発言。「テロとの闘いと、国際人道法を厳格に尊重した民間人の保護に矛盾はない」としました。

そして、パレスチナ自治政府のリヤド・マンスール国連大使は、決議案の否決は「残念という言葉を超えたものだ……これは真実の瞬間だ……これは歴史の転換点だ」と批判し、「数百万のパレスチナ人の命が瀬戸際にある。その一つ一つが神聖であり、助けるに値するものだ……明日の今頃にはさらに何百人もの人々が殺されているだろう……子どもたちは殺され、孤児となり、傷つき、障害者として一生を過ごす。偶然ではなく、(イスラエルによって)意図的に。殺人者たちは、パレスチナ人の命などまったく考えていないので。ゆりかごから墓場まで、そしてその先まで……安保理にとってひどい日だった……人間性が勝利しなくてはならない」と訴えました。


3.アメリカの信頼がさらに損なわれた


一方、イスラエルのギラド・エルダン国連大使は、アメリカの拒否権の発動について、SNSに「今日、我々の側にしっかりと立ち、リーダーシップと価値観を示してくれたアメリカとバイデン大統領に感謝する。このハヌカの祝日に、少しの光がたくさんの闇を払拭した」と感謝のコメントを投稿しました。

エルダン大使は安保理での採決の前、停戦要請を断固として拒否すると発言。「停戦はハマスのガザ支配を強固にし」、「ハマスの意図的な残虐行為を許す」というメッセージを送るものだとし、「ハマスに軍事的圧力をかけなければ、どんなに外交を重ねても人質の解放を確保できない」と述べていましたから、強気に見えて、それなりに国連決議されることは気にしていたものと思われます。

ただ、国連安保理決議で、イギリスですら棄権し、腰が引けたコメントをする中。アメリカだけが拒否権を発動して否決したことは、アメリカがイスラエルべったりであることを改めて世界に示した形になります。

ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)で国連代表を務めるルイス・シャルボノー氏は、「アメリカ自身がイスラエルとパレスチナの武装集団に要求してきたいくつかの要求」を、安保理が求めることを、アメリカの拒否権が阻止したと指摘。「イスラエルがガザ地区でパレスチナ市民に集団的懲罰などの残虐行為を行うなか、武器や外交的援護を提供し続けることで、アメリカは戦争犯罪に加担する危険を冒している」と批判しました。

また、国際NGOオックスファムのアメリカ支部は声明で、バイデン政権は、「人権とルールに基づく国際秩序を支持するという高邁なレトリックを実際に実現する」機会を逸したと指摘。拒否権を発動したことで、「人権問題におけるアメリカの信頼がさらに損なわれた」と述べています。

確かに、ウクライナでは侵攻を続けるロシアを非難するけれど、ガザへの攻撃を続けるイスラエルは擁護するアメリカに対しダブスタではないかという批判が出ていることも事実ですし、少なからずアメリカへの信頼が損なわれている面はあるかと思います。


4.グテーレス事務総長の深謀


このアメリカの拒否権行使について、BBC国際編集長のジェレミー・ボウエン氏は次のように述べています。
【前略】

「ガザの人道支援体制が完全に崩壊する」おそれが極めて高いと、事務総長は強調した。そしてパレスチナ側は、それこそがイスラエルの望むところなのだと言う。すべてのパレスチナ人をガザから追い出すことが、イスラエルの狙いなのだからと。

イスラエル政府は、報道関係者が外からガザ地区に入ることを認めていない。そのため、私はガザで直接、取材できない。けれども、目にしている写真や動画の内容、そしてさまざまな人から聞いた話の内容に照らせば、事務総長の言っていることはかなり正確なように思える。

どのような尺度で測るとしても、ガザにいる民間人の状況はとてつもなく悲惨だ。情け容赦ない軍事作戦にさらされているのだ。イスラエルは民間人の命を守るためにできる限りのことはしていると言うが、民間人を人間の盾にしているハマスにこそ責任はあるのだと主張する。

国連では、アメリカ代表がいつも通り、停戦を求める安保理決議案に拒否権を行使した。多大な人命喪失を心配する立場からすると、空虚な対応だ。イスラエルは交戦法規を順守し不要な民間人の死亡を避けると言っているのだと、アメリカは主張する。ただし、イスラエルの言うこととやることの間には溝があるとも、アメリカは言う。

事務総長は、今回もおそらく拒否権で否決されると承知の上で、今回の安保理採決を求めた。そのねらいは、時間を早送りすることだったのだろうと私は思う。つまり、アメリカがついにイスラエルに「もう十分だろう。もうたっぷり時間をかけて、たっぷり人を殺したのだから、もう停戦の時だ」と言わざるを得ない、その避けがたい時が来るのを早めようと。

私が話をした外交官の中には、イスラエルにはあと1カ月ほど猶予を与えるかもしれないと話す人たちもいた。おそらくグテーレス氏は、それをさらに早めようとしているのだと私は思う。国際社会の圧力を高めることに加え、アメリカに恥ずかしい思いをさせることで。アメリカが自分たちの今の立場は日に日に維持できなくなり、これ以上は続けられないと思うように。

その圧力は今日、いっそう高まった。イスラエル国防軍(IDF)が大勢のパレスチナ人男性を拘束し、下着姿にしてトラックで連行する映像が明らかになったからだ。戦争の残酷な姿だ。ソーシャルメディアに流れる地元情報によると、拘束された男性は700人に上るかもしれない。

男性たちの家族を含む地元情報によると、男性たちは避難していた国連運営の学校で襲撃され、拘束された。逃げようとした人たちは殺されたのだという。

さらに昨日出回った別の恐ろしい動画には、男性たちが拘束されたのと同じ地域で、国連学校の近くだという路上で、6人が遺体となって倒れていた。そのうち1人は血まみれになって、白旗の上に倒れていた。おそらく本人が白旗を掲げていたものと思われる。

IDFは、誰が容疑者で、誰が10月7日の悲惨な攻撃の責任者なのか、把握しようとしているのだと説明する。そして、自分たちの行動はすべて、紛争に関する国際法に沿ってのものだと述べている。

しかし、イスラエルのすることにほとんど共感しない人や、ガザ地区での甚大な殺害の規模のせいで共感できなくなった人にとって、遺体は語りかけている。これもまた、イスラエルがいかにパレスチナ人の尊厳と健康を、どうでもいいと思っているかを示しているのだと。

この地域はもうかなり寒い。なので動画で見たように、下着姿で、中には目隠しをされて、中には両手を後ろ手に縛られて、そうやって道を歩かされるのは、疑いようもなく不快なはずだ。

避けられないことなのだと、イスラエルは言う。かなり野蛮だと、それ以外の人たちは言う。
ジェレミー・ボウエン氏によると、グテーレス事務総長は、決議案は拒否権で否決されると承知の上で、採決させた。それは、国際社会の圧力を高め、アメリカさえもイスラエルに停戦しろと言わざるを得なくなる時期を前倒しさせるためだから、というのですね。なるほど、だとすれば、グテーレス事務総長は結構な策士のようにも思えます。

ボウエン氏によると、外交官の中には、イスラエルにはあと1カ月ほど猶予を与えるかもしれないと話す人もいたそうですけれども、プロの目からみれば、その辺りが「落としどころ」だと見ている向きもあるということです。

一刻も早い停戦を望みます。


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