松野官房長官不信任決議案と問われる派閥政治

今日はこの話題です。
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1.松野官房長官不信任決議案


12月11日、立憲民主党が政治資金パーティーをめぐる問題を受け、内閣の情報発信者としての機能が完全に停止し国益が大きく損なわれているなどとして、松野官房長官に対する不信任決議案を衆議院に提出しました。

決議案は12日午後1時からの衆議院本会議で審議され、立憲民主党の稲富修二氏が趣旨弁明で「派閥ぐるみで違法行為と脱税を繰り返していたとすれば、国会議員として不適格と言うべきだ。説明責任を果たせない官房長官を代えることから、政治への信頼を取り戻す一歩目が始まる。松野氏はただちに辞任すべきだ」と述べ賛同を求めました。

これに対し自民党の井上・元万博担当大臣が反対討論で「松野官房長官は、岸田内閣の要として政策に真摯に取り組んでおり不信任にはあたらない。岸田内閣の一員として職責を果たすにあたり、捜査に支障が出ない範囲で国民への説明責任を果たすことを強くお願いしたい」と反論しました。

このあと不信任決議案は、記名投票による採決が行われ、野党側は立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党、れいわ新選組などが賛成したのに対し、自民・公明両党などの反対に回り、結果反対多数で否決されました。

この日の午後の記者会見で、松野官房長官は「引き続き緊張感を持って与えられた職務を果たしていきたい」と述べました。また、自民党の井上・元万博担当相が反対討論で松野氏に国民への説明責任を果たすよう求めたことについて「会見では国民に政府の方針や見解を理解してもらえるよう、できるだけ丁寧にわかりやすく答えることを心がけている。政治資金に関しては派閥で事実確認がされている最中で、刑事告発がなされ捜査が行われており、そうしたことを踏まえ、私の政治団体についても精査し適切に対応したい」と躱しました。

岸田総理は官邸で記者団に対し「不信任案は反対多数で否決された。この否決を受けて松野官房長官に職務にあたっていただきたいと考えている」と述べています。


2.検察に立件される可能性が高いなら代える


一方、パーティ券裏金問題で、言われていた安倍派所属の閣僚、副大臣、大臣政務官の政務三役を全員交代させる件については、見送る方向で調整に入ったと報じられていますけれども、12月13日夕方、岸田総理は記者会見を行い、「人事の内容についてはいま調整を続けており、あす明らかにしていきたい。さらに問題のある人間が出たらどうするのかという指摘については、そうした懸念が生じないよう諸課題に対してどう対応していくのか、体制はどうあるべきなのか真剣に追求し判断していきたい」と述べました。

複数の政府・与党関係者が12日に明らかにしたところによると、どうやら閣僚4人と副大臣5人は交代させる一方、政務官は疑惑への関与が薄ければ続投させる意向のようで、14日にも交代させる模様です。

また、11日の時点で「政調会長の責任は大きい。出処進退は自分で決めたい」としていた萩生田氏は、辞表を提出する意向を固めたと13日に関係者が明らかにしています。

現在、安倍派所属の政務三役は松野博一官房長官、西村康稔経済産業相、鈴木淳司総務相、宮下一郎農林水産相、副大臣5人に加え、政務官6人の計15人。鈴木、宮下両氏らは裏金の受領を否定しているのですけれども、東京地検特捜部の捜査がどこまで広がるか読み切れないため、政権内では全員を交代させてリスクを減らすべきだとの声が出ているのですけれども、岸田総理は政務三役について「全員交代を求めることはできない……疑惑への関わりを精査する。検察に立件される可能性が高いなら代える」と周辺に語っています。

ただ、松野官房長官についていえば、不信任決議案を否決しておいて、交代させるというのは、ちょっと都合が良すぎないかという気がしないでもありません。




3.激怒した安倍元総理


今回のパーティ券疑惑については、何かと安倍派ばかり報じられていますけれども、ジャーナリストで千葉大学客員教授の岩田明子氏は、関係者への取材から、パーティ券収入のキックバックについて、細田博之前衆院議長がトップだった2014~2021年の時代では、政治資金収支報告書にどう記載するかについて、派として統一方針が提示されることはなかったと述べています。

その時も、派内からは「このままでいいのか」と疑問の声が上がっていたのですけれども、細田氏側からは明確な指示は示されなかったとしています。

ところが、2021年11月に安倍元総理が初めて派閥会長となった後、翌年2月にその状況を知り、「このような方法は問題だ。ただちに直せ」と会計責任者を叱責、2ヶ月後に改めて事務総長らにクギを刺したのだそうです。

それを受け、2022年5月のパーティーではその方針が反映されたものの、安倍元総理は凶弾に倒れ、そのまま改善されずにいたようです。

ただ、キックバック疑惑は安倍派だけではありません。

岸田総理は11月27日の参院予算委員会で、「宏池会としては訂正を要するような案件はなかったと報告を受けている。他派閥の政治団体についてはそれぞれ独立して会計を行っているので、責任を持って説明をするべきであると考えている」と大見得を切ったものの、後に宏池会も過少記載していたとバレる始末です。

12月7日、岸田総理は、「私自身が先頭に立って、政治の信頼回復に向けて努力したい」と語っていますけれども、であれば、まず岸田派・宏池会のパーティ券キックバック問題について、文字通り先頭に立って、説明すべきではないかと思います。


4.本当に心が折れそうでした


今回の裏金疑惑について、それを明るみにした切っ掛けをつくった人物の一人として、神戸学院大学の上脇博之教授がいます。

上脇博之教授は、MBSのインタビューに答え、自身が収支報告書をチェックした体験を次のように述べています。
――上脇教授は、収支報告書のどの部分をチェックしたんでしょうか。

(上脇博之教授)政治団体側の収支報告書で、20万円を超えた明細が書いてあるページをチェックするんですよ(20万円を超えた購入は記載しなければいけない)。20万円を超えて買ったのに、こっち(買った側)は書いてて、こっち(売った側)は買ってもらったにも関わらず書いてないなど、もう全部、一つ一つをチェックした。もう正直言ってね、心が折れそう、本当に心が折れそうでしたね。

――細かい照らし合わせをした結果、5つの派閥で5880万円(これまでの総計額)の不記載があることがわかった、実態を知ったとき、上脇教授はどのように感じられましたか。

(上脇博之教授)これはどう考えても単純なミスではない。一つか二つだったら、まだ単純なミスもあるかな、でも何件もある、かつ毎年ある。5つの主要派閥で、どう考えても組織的だと。手口が大なり小なり蔓延してほぼ共通する手口。どう考えてもおかしいんじゃないかと。明細、20万円を超えるやつに気づかないはずがないですから、あえて書かないということは、裏金が作られてるんじゃないかと。ただ、「裏金がある」と断定して告発しても受理してくれないので、とりあえず20万円を超えた明細不記載で刑事告発して、最後の方に、「どうも裏金が作られてる可能性があるからそこも捜査してください」というふうに言ったんです。

――そもそもですが、政治資金パーティーの不記載にどうやって気付いたんでしょうか。

(上脇博之教授)去年10月、「しんぶん赤旗」日曜版の記者が私に取材で電話してこられた。派閥の政治団体の収支報告書と、パーティー券を買っている政治団体の収支報告書をチェックされたそうです。北海道から沖縄まで、収支報告書は選挙管理委員会や総務省がネット公表していますから、それをチェックしたそうで、膨大な量です。ただ、告発するためには、私も再度チェックして、告発状を書かないといけないので、1つ1つを確認して、去年の11月から今年の正月にかけて。ある告発状は元日の日付になっていますので、要するに去年の年末年始をこれに使って、告発状を書いたということです。

――上脇教授の告発を受けた東京地検特捜部が捜査を始めました。

(上脇博之教授)これほど悪質となると、事務方ではできないです。事務方が勝手に裏金作ったとなったら、政治家に怒られますよね。となると検察は、やっぱり事務方だけを立件するのではなくて、高度な政治的判断に相当する裏金作りを認めて、あるいは指示した、そういう人たちまで、やはり立件して欲しいです。事務方だけの立件で終わってしまったら、トカゲの尻尾切り、あるいは弱い立場の人だけを起訴して、強い立場の政治家を起訴しないということになるので、ぜひ政治家までやっていただきたいと思いますね。

(上脇博之教授)僕はやっぱり、大きな約束違反があると考えています。どういうことかというと、1994年に「綺麗な政治にしましょう」と言って、政治改革があったんです。リクルート事件とかゼネコン汚職とかそういうのがあったので、(企業献金をやめて)政党交付金という税金を各政党に交付しましょう。それによって綺麗な政治を実現しようとなった。ところが、こんなことが起きたわけですから、国民の税金を、政党交付金として交付するのをやめてもらうのがまず第一。パーティについても、こんなことが起こるんだったら、パーティーもやめる。やるとしても、企業が大量にパーティー券を買うのはやめる。あるいは政治団体が大量にパーティー券を買うのをやめさせないと、同じことを繰り返すと思います。

――岸田文雄総理は、政治資金パーティーの自粛方針を明らかにしたり、安倍派を政府の要職から外すというような対応も考えているようです。

(上脇博之教授)何のためにそんなことを。自粛は”一時的にやめる”という意味です。ほとぼりが冷めたらまたやる、反省していないんですよ。仮に、閣僚とか党の役員を交代させるとしても、その前に説明責任を果たす必要があるんじゃないですか。自民党の5つの派閥はきちんと記者会見をしてない。「精査して説明します」って言うけど、そこで終わっちゃってる。きちんと政治改革をやり直すような案を出してください。やっぱり、党できちんと処分します、ということをやらないと、信頼は回復しないと思います。


このように上脇教授は、収支報告書への不記載が、何件も、毎年あることから「どう考えても組織的だ」と判断したと述べています。


5.問われる派閥政治


今回の問題に関して、当初示された「安倍派一掃」の方針に対しては、当然ながら、安倍派から強い反発があったようです。

安倍派幹部は「衆院当選1期生まで交代というのは気の毒だ。彼らは全然関係ない。見せしめだ」と不満をぶちまけ、別の幹部も「『説明しろ』と言われるが、調べる時間が必要で、来年1月ぐらいまでかかる。一人一人に事情を聴いて精査した上で交代させる人、させない人を決めるべきだ。首相は急ぎすぎだ」と批判。

また、安倍派幹部の一人である世耕弘成党参院幹事長も12日の会見で「清和政策研究会所属だから交代させるという話にはなっていないのではないか」と牽制し、第3派閥を率いる茂木敏充幹事長も会見で「派閥によって一括の対応といった報道は必ずしも正しくないと思っている」と語っています。

更には、無派閥の石破茂元幹事長でさえ、11日のテレビ番組で「何もわからないまま、安倍派の人は全部、辞めてもらいます、というのはどうなのか」とコメントしています。要するに「安倍派切り」は安倍派はもとより、他派閥からも賛同されていない状況です。

なぜなら、今回の件で安倍派を除外することで、派閥に問題が生じた場合、所属議員が連帯責任を負う前例になってしまうからだと思われます。

前述した、神戸学院大学の上脇教授は、パーティの自粛は「一時的にやめる」に過ぎず、自民党の5つの派閥はきちんと記者会見をせず、「精査して説明します」って言うけど、そこで終わっている。それでは信頼は回復しないと厳しく批判していますけれども、筆者もそう思います。

今のところ岸田総理は、中規模の交代で済まそうとしているようですけれども、ジャーナリストの須田慎一郎氏は、キックバックは、安倍派だけではなく、ほとんどすべての派閥が行っているとした上で、「内閣改造を行って三役から安倍派を外す」と閣僚交代したあと、また他の派閥から出てくれば、岸田政権は立ち往生すると指摘しています。

まぁ、筆者としては、派閥政治もそろそろ役目を終えたのではないかと思っているのですけれども、今回の問題は、改めて国民に「派閥政治」の在り方を問いかけるものになったのではないかと思いますね。



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この記事へのコメント

  • 簑島

    自民党さんは民主党さんよりはましだと思っていましたが、もは
    2023年12月14日 13:06
  • HY

     いよいよ古い自民党政治の限界が露呈したようで何よりです。繰り返すように岸田文雄氏の歴史的使命は古い戦後日本政治の限界を露呈させ、それと運命を共にすることにありますから。
     願わくば野党サイドからも安住氏のような汚点を洗いざらい曝してほしいものです。さらに日本共産党の赤旗公費購入問題にもメスが入ってほしいものです。
     政局や政党間闘争でお茶を濁すことは許されません。もう古い政治のやり方はこれからの世界情勢には通用しないのです。動乱の時代が近づいております。
    2023年12月14日 16:13