ポスト岸田を見据えるロシア

今日はこの話題です。
画像

 ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。


2023-12-17 191300.jpg


1.今年の総括~プーチンと共に~


12月14日、ロシアのプーチン大統領は、モスクワのゴスティヌイ・ドヴォルでウクライナ侵攻後初めてとなる年末恒例の大記者会見と、国民との対話との合同イベントを実施しました。

この中でプーチン大統領は「ほぼ全ての前線で我々の軍は、控えめに言っても優位に立っている」と述べる一方で、ウクライナ軍は兵器を「ほぼ何も生産せず、すべて輸入しているが、いつかは終わる」と断言しました。

これは、会場で、テレビ司会者のP.ザルービン氏から、ウクライナ戦争についてどう評価しているかと問われたときの答えで、その主な内容は次の通りです。
・平和は、目標を達成したときに訪れるだろう。目標とは、ウクライナの非武装化、非軍事化、中立化だ。
・ウクライナの非武装化と中立化については、協定の草案が作成された後の交渉プロセスでは、キエフの政府関係者は、ある種の非武装化が必要だという意見には概ね同意せず、ファシズム化もなければ、そのような感情の高まりもないと言っていた。どうしてそうならないのか? 国民的英雄が単なる民族主義者ではなく、ナチスとして知られているのだから。バンデーラ(ウクライナ民族解放運動の指導者)は国民的英雄の地位に昇格した。どうしてそうならないのか?
・今日のキエフ政権のトップが、ホロコーストに直接関与した元ナチス親衛隊の兵士にスタンディングオベーションを送る。これはナチズムの現れではないだろうか? 従って、非ナチス化の問題は重要だ。交渉の過程で、私たちは交渉官から、原則としてウクライナで何らかの立法行為が採択される可能性は排除しないと言われていたのは事実だ。それはイスタンブールでの交渉中のことだ。
・非武装化について、もしウクライナが合意を望まないのであれば、我々は軍事的なものを含む他の手段を取らざるを得ない。
・今日、ウクライナはほとんど何も生産していない。彼らは何かを維持しようとしているが、ほとんど何も生産していない。
・しかし、これもいつかは終わるかもしれないし、どうやら少しずつ終わりつつあるようだ。
・そんなことよりも、彼ら(西側)はまだ与えると思うが、破壊が起こっている。航空機や防空システムに関する数字を思い出すつもりはない。400台の戦車、420~430台の戦車を約束通り供与した。
・西側諸国が約束したすべてをウクライナは手に入れた。しかし、いわゆる反攻作戦以降、我々は747両の戦車を破壊した。これは昨夜の数字だ。ほぼ2,300両の様々なクラスの装甲車が破壊された。これが非武装化だ。
・ちなみに、イスタンブールでの交渉では、私たちはそれについて合意したが、その後、合意事項はストーブの中に投げ込まれてしまった。合意に達するか、武力で解決するか、他の可能性もある。これが私たちの目指すところだ。
プーチン大統領はあくまでも、当初の目標である、ウクライナの非武装化、非軍事化、中立化が為されるまで戦争を終わらせる積りはないと述べています。

2023-12-17 191301.jpg



2.プーチン健在


今回のイベントに参加したメディアは、これまでと違って、ロシア大統領府からの招待制でした。西側からはアメリカやフランスのメディアが参加したようです。

イベントで、プーチン大統領はジャーナリストのほか、ロシアの一般市民からの質問にも答え、その様子はロシアのほとんどの主要チャンネルで放送されたのですけれども、BBCは自身は質問する機会が与えられなかったと伝えています。

この模様について、ロシア在住ジャーナリストの江谷入也氏は、JBpressへの16日付で次の寄稿記事を寄せています。
【前略】

ドミトリー・ぺスコフ大統領報道官がニューヨーク・タイムズを指名しようとしたところ、プーチン氏が中国の新華社通信を優先させたシーンでは笑いが漏れた。

一方、日本メディアは会場に入ることさえできなかった。

会見の中で日本が出てきたのは、天然ガスのアジアへの供給に話が及んだ際、日本がまだロシアのガスを買っているというところくらいである。

今回は「今年の総括」と題したイベントの枠内で、「大記者会見」と国民との「直接対話」を同時並行で行った。

本来、この2つは別のイベントで、例年であれば時期をずらして開催していた。

今回は両者を混ぜこぜにしたため、いつもにも増して話題があちこちに飛んだ。

トルコのジャーナリストと国連の役割について話したかと思えば、一般市民から卵や鶏肉、高速道路の通行料が高すぎるというクレームが出たりする。

話のスケールが瞬時に変わるので、ずっと集中して聞いているだけでも大変だが、4時間以上答え続ける方も大変だろうと思う。

言葉に詰まるシーンが全くないわけではなかったが、それでもこれだけの会見をこなすのは、十分プーチン健在のアピールになっただろう。

西側に対する外交姿勢に関しては、これまでの主張と大きく変わるところはなかった。

発言をまとめると、ロシアが生き残っていくために大事なのは主権強化であり、米国との関係は「米国は重要であり必要な国だが、米国が他国を敬うようにならない限り、関係復活の条件は整わない」と考えている。

また、欧州の多くの国は、かなりの程度まで主権を失ってしまったとプーチン氏は考えている。

ウクライナ戦争については「ウクライナにおける平和は、ロシアが目的を果たしたときに訪れる」として次のようにのべた。

「ウクライナにおける非ナチ化は、現実の課題として残っている、彼らはカネをせびりに外に出ていき、その目的のために反転攻勢があたかも成功しているかのように見せている」

このように、外交分野で何も新しい話題がなくても、プーチン氏の支持者はそれを喜んで、むしろ大きな変化がないことに安心感を持ちながら見ている。

生粋のプーチン・ファンの男性に聞くと、欧米への敵対を通して、ロシア国民であることの誇りを感じているらしい。

その気持ちは、世界の超大国であったソ連を彷彿とさせるのだという。

日本の読者から「ものすごい数の犠牲を出して、勝てるか分からない戦争をしているじゃないか」と言うツッコミが入りそうであるが、そのことは、誇りを感じる阻害要因にはならないようだ。

そして彼は、プーチン氏が「オデッサはロシアの町である」と言ったことと、ノルド・ストリームの爆破について「やったのはおそらく米国」とはっきり述べたことについて、大いに満足していた。

特にオデッサは、ソ連にノスタルジーを感じる、一定以上の年代のロシア人のハートを掴んだと思う。

【以下略】
BBCは質問できなかったとはいえ、イベントに参加したのに対し、日本のメディアは会場に入ることさえできなかったとのこと。ロシアからみればそういう扱いで十分ということなのでしょう。

ただ、筆者注目したのは、プーチン大統領は「米国は重要であり必要な国だが、米国が他国を敬うようにならない限り、関係復活の条件は整わない」としている部分です。要するに、今の世界の混乱の根源はアメリカにある、とみているということです。

また、今回のイベントでプーチン大統領は4時間以上に渡って、答え続けていたことから、プーチン健在のアピールに十分なったという指摘もポイントかと思います。

これまで、ネットやマスコミ等でプーチン重病説が飛び交っていましたし、10月には寝室で心停止状態に陥り、心肺蘇生法を受けたという噂まで流れていましたからね。影武者でないとすると、驚くべき体力と回復力です。


3.日本は拒否せず受け入れている


江谷氏は、このプーチン大統領の会見で「日本が出てきたのは、天然ガスのアジアへの供給に話が及んだ際、日本がまだロシアのガスを買っているというところくらい」と述べていますけれども、ロシア大統領府からの発表文を見ても、「日本」という単語が出てくるのはわずか2ヶ所しかありません。

件の箇所を引用すると次の通りです。
【前略】

E・ベレゾフスカヤ(ロシアのジャーナリスト兼テレビ司会者):ウラジーミル・ウラジーミロビッチ、道路の話です。パヴェルと私がプログラムに向かう途中、渋滞、ラッシュアワー、膨大な数の中国車、まさに現実的な拡大に注意を払わないわけにはいきません。専門家によれば、文字通り市場の60%はすでに中国車に占領されていると言われています。中国車は決して安くないだけでなく、私たちの車もそれに匹敵しています。なぜアフトワズ(ロシア連邦最大の自動車メーカー)製品の価格は高騰したのですか?

V.プーチン:高騰したのではなく、40%上昇したのだと思うが。

P.ザルービン(テレビ司会者):中産階級では、100万ルーブルを超えるような車はほとんど残っていません。

プーチン:確かに。しかし、40%というのも相当な額だと理解している。それでどうするのか? ここで説明する必要はないと思うし、すべてのことは誰の目にも明らかだと思うが。それでも、もしそのような疑問があるのなら、私はあなたに答えよう。もちろん、ヨーロッパ、日本、韓国のブランドがロシアを去ったとき、いくつかの疑問が生じた。もちろん、彼らは部品を持って出て行った。私たち自身の拠点を開発することに疑問が生じたのだ。「アフトワズは、生産量には対応できると思うが、生産台数が増えれば価格も下がる。

ある種のコストは、メーカーが輸入した部品を別の価格で販売するという事実に関連付けられている。しかも少量で済む。「アフトワズはこの道を歩んでいる。しかし、最も重要なことは、独自のプラットフォームを作り、それを発展させることだ。これはアフトワズや他のメーカーがやっていることだ。これには時間がかかる。私は、これが実現され、価格が下がることを強く望んでいる。

というのも、私たちはいわゆるパートナーに "信頼を委ねて "しまい、自動車部品産業はほとんど完全に失われてしまったからだ。産業貿易省はこれに取り組んでおり、課題は達成されつつある。私は慎重に話すようにしている。

E・ベレゾフスカヤ:安心させるためではありません。

ウラジーミル・プーチン:そう、明日と言えば、彼らは明日実行する時間がなくなり、「約束したと言ったのに実行しなかった」と言うだろうから。しかし、産業貿易省は非常に積極的に取り組んでおり、メーカーも懸命に働いている。私は、彼らが結果を出すと確信している。

【中略】


P.ザイツェフ:こんにちは、ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ! プリモリエ公共テレビのパーヴェル・ザイツェフです。マガダン出身の私の同僚ほど若くはありませんが、それに劣らずエネルギッシュであることを願っています。ウラジーミル・ウラジーミロビッチ、「東方化」は世界戦略であり、以前から議論されていましたが、現在では特に経済的な面で、組織的かつ段階的に実行に移されています。鉄道輸送、航空輸送、自動車産業など、極東の人々にとって大きな関心事です。

しかし、主な指標のひとつは、友好的なアジア諸国へのロシアの天然ガスの供給です。ガス化の話もありましたね。これも極東を含めて非常に重要なポイントです。我が国にとってアジア市場はどの程度有望なのでしょうか?また、極東地域にとってはどのような優遇措置があるのでしょうか?

同時にお聞きしたい。現在の地政学的状況において、ロシアに対する莫大な制裁圧力があるにもかかわらず、なぜわが国の最も重要な資源のひとつである天然ガスが、ウクライナを経由してヨーロッパに供給されることも含め、モルドバに言及された西側諸国に供給され続けているのでしょうか? アジアの友好的なパートナーに目を向け、地域のガス化に注意を払う方が簡単ではないでしょうか?ありがとうございました。

ウラジーミル・プーチン:最初に、私たちはガス化に取り組んでいる。45万世帯がガスネットワークに接続され、100万世帯が技術的に接続できるようになった。なぜヨーロッパにガスを供給するのか?「ガスプロムは信頼できるパートナーであり、契約上の義務を負っている。

ヨーロッパに十分なガスが供給されていないのは、彼らの問題だ。奇妙に見えるかもしれないが、彼らは私たちのせいにしようとしている。私たちがヤマル-ヨーロッパのガスパイプラインを閉鎖したわけではなく、ポーランドが閉鎖したのだ。ウクライナを通るガスパイプラインの第2支流を閉鎖したわけでもなく、ウクライナが閉鎖したのだ。ドイツはやらないし、やりたくないし、やる必要もない。そこでは価格が高騰し、全産業が停止している。ガラス産業、化学産業、冶金産業が苦しんでおり、それに応じて、それに関連するすべての人々が苦しんでいる。そこには現実的な問題がある。

ほとんどの場合、ドイツ経済はマイナスになるだろう。しかし、これは彼らが決めることであり、我々が決めることではない。ガスプロムは、ウクライナ経由のトランジットも含め、すべての義務を果たしている。

しかし、我々はお金も受け取っている。もちろん、ウクライナは通過のための資金を受け取っている。私たちがウクライナにガスを供給していないのと同じことで、実際にはウクライナは私たちのガスを消費しているの だ。

ソ連時代からウクライナのガスネットワークがどのように構成されているか知っているだろうか?主要なガスパイプラインの入り口がある。実際、私たちのガスはウクライナ領内に入るとすぐに国中に配給さ れる。そして、ウクライナが夏の間に西側国境のUGS施設に蓄積したものは、あたかもガスプロムから直接送られてくるかのように、そこに行き渡り、このようにして消費者に対する義務が果たされるのだ。

まず何よりも、今は南ヨーロッパだ。なぜハンガリーやスロバキアにペナルティを科す必要があるのか。彼らはきちんとお金を払っている。だから政治的な理由で何かをしたことはないし、これからもするつもりはない。

東方化については。すでに何度も言っているように、ウクライナ方面の情勢が悪化したからそうなったわけではない。そうではなく、かなり前から始めていたの だ。パワー・オブ・シベリアのガスパイプラインは、ウクライナに関連して建設されたのではない。もっと前から建設が始まっていたのだ。なぜか?世界経済の発展のトレンドを見ているからだ。経済成長の新たな中心地が生まれ、そこで主要な消費者が出現している。そこで石油、ガス、石炭を購入する。私たちのエネルギーを消費し、その対価として私たちにお金を支払ってくれるこれらすべての経済の健全な発展に神のご加護を。私たちは中国への供給をさらに拡大することを考えているし、他の消費国についても考えている。

ちなみに、日本は拒否せず、受け入れている。是非これからもそうしてほしい。私たちは気にしない。 北極圏では、ノヴァテク(ロシア国内2位の天然ガス会社)はヨーロッパやアジアのパートナーと関係を深めている。中国も北極圏に進出しており、積極的に活動している。この点で、私たちは安定した状況にあり、それは今日の政治状況に基づくものではなく、成長する世界経済の中心であるというロシアの基本的な関心に基づくものだ。

【以下略】
会場から質問がなければ、日本など話題にもならなかったのではないかと思いますけれども、ロシア国内の自動車市場の60%が中国車になっているということ、車両価格が4割アップしていること。自動車部品産業はほとんど完全に失われてしまっているという指摘は注目に値します。資源国とはいえ、自国で供給できないものに関しては、いざサプライチェーンを切られると、やはりそれなりの影響があるということです。

また、ガスについては供給を続ける積りがあると明言したことにも注目しておくべきだと思います。


4.日本と対話を続ける見通しはない


今や、すっかり関係が冷え込んでしまった日露関係ですけれども、12月16日、インターファクス通信は16日、ロシア外務省で日本などアジア太平洋地域を担当するルデンコ外務次官とのインタビューを報じました。

この中でルデンコ外務次官は、ウクライナ侵攻を受けて日本側がロシアに制裁を科していることについて、「岸田政権がロシアを敵視する政策を放棄しないかぎり、本格的な2国間の対話は不可能だ。われわれも最も厳しい対抗措置をとり続ける……友好と協力に関する条約締結について日本と対話を続ける見通しはない」と、日本との北方領土問題を含む平和条約交渉などを続けることは難しいとの認識を改めて示しました。

ただ、ルデンコ次官は、両国の実務的なやりとりまでなくなっているわけでないとした上で、空席となっているロシアの駐日大使が近く着任するとの見通しを示しています。

けれども、日本とまったく交渉する積りがなければ、駐日大使を派遣する必要もない訳で、実際、ガルージン前駐日大使が昨年11月に離任してから、いままでロシアの駐日大使はいなかった訳です。

それを今の時期になって派遣するということは、交渉する環境が整いつつあると見ているということです。

確かにルデンコ外務次官は、日本と対話を続ける見通しはないと発言していますけれども、その前に「岸田政権がロシアを敵視する政策を放棄しないかぎり」という枕詞がついています。つまり、岸田政権がもう長くないとみて、岸田後の政権に期待をしているということだと思います。

また先述したように、プーチン大統領が会見で「米国が他国を敬うようにならない限り、関係復活の条件は整わない」という趣旨の発言をしていることと合わせて考えると、バイデン後のアメリカをも見据えているようにさえ見えます。

要するに、プーチン大統領は、来年以降、アメリカおよび日本の政権が変れば、関係改善の道が見えるかもしれないと考えているということです。

その意味では、日本も岸田後、バイデン後の対露関係について、今から準備すべきではないかと思いますね。



  twitterのフリーアイコン素材 (1).jpeg  SNS人物アイコン 3.jpeg  カサのピクトアイコン5 (1).jpeg  津波の無料アイコン3.jpeg  ビルのアイコン素材 その2.jpeg  

この記事へのコメント