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1.東京地検特捜部は会計責任者を立件へ
12月19日、東京地検特捜部は政治資金規正法違反(不記載、虚偽記載)容疑で最大派閥の清和政策研究会(安倍派)と志帥会(二階派)の両事務所を家宅捜索しました。
パーティー券収入のノルマ超過分のキックバックに関する収支を政治資金収支報告書に意図的に記載しなかった疑いがあり、不記載の規模も大きいことから、特捜部は強制捜査が必要と判断したとしています。
会計処理に関与したとされる両派閥の会計責任者はいずれも不記載とした経緯を特捜部に説明しているとされ、特捜部は両派閥の会計責任者を同法違反で立件する方針とみられています。
特捜部による自民派閥への強制捜査は、日本歯科医師連盟からの1億円の裏献金事件で2004年に当時の平成研究会を家宅捜索して以来、約19年ぶりのことで、特捜部は既に、派閥の会計責任者の他に裏金化が疑われる議員側への事情聴取を実施。今後は、派閥の事務を取り仕切る事務総長経験者ら派閥幹部へと対象を広げ、会計責任者との共謀の有無についても捜査するとみられています。
さらに、数千万円と高額な裏金化が疑われる議員本人への事情聴取も進めており、議員側の刑事責任も慎重に検討しているとのことです。
2.捜査の前段階で騒ぎ過ぎ
連日テレビを賑わせている裏金問題ですけれども、政治資金収支報告書の不記載・虚偽記載は、これまでもたびたび立件されています。けれども、議員本人が訴追されるケースはあまりありません。
過去の例では、小渕優子元経済産業相の資金管理団体から関連政治団体に架空の寄付を行ったり、後援会主催の観劇会の収支を少なくしたりして収支報告書に嘘の記載(虚偽記載総額約3億2000万円)をしたとして、2015年に元秘書2人が在宅起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受ける一方で、小渕氏本人は嫌疑不十分で不起訴となっています。
また、小沢一郎衆院議員の資金管理団体「陸山会」の土地取引を巡る事件では、小沢氏から借り入れた土地購入費4億円を同会の収支報告書に記載しなかったなどとして、2010年に石川知裕元衆院議員を含む元秘書3人が逮捕、起訴されました。3人は執行猶予付きの有罪判決を受けたものの、検察審査会の起訴議決に基づき強制起訴された小沢氏は無罪となりました。
更に、2022年、薗浦健太郎元衆院議員が収支報告書に資金管理団体のパーティー収入など計約4600万円を過少に記載したとして、略式起訴されました。薗浦氏は起訴前日に議員辞職し、東京簡裁は罰金100万円、公民権停止3年の略式命令を出しています。
東京地検特捜部で捜査経験のある元検事で弁護士の郷原信郎氏は、国会議員の立件について次のように述べています。
国会議員を立件するのは相当ハードルが高いと思います。その割には、あまりに捜査の前段階で大きな騒ぎになりすぎている。特に議員個人は、一体どこの政党支部、政治団体、資金管理団体で処理することが前提だったかっていえば、「裏金ですから、何にも考えてないはず」です。ということは、どこで記載すべきだったかってことが特定できないで、結局、政治資金規正法違反が立件できないっていう可能性も十分あるわけです。このように郷原氏は「裏金」の使用目的が特定できない状況では立件は難しいと指摘しています。
3.ガサ入れの段ボールの中は紙切れ一枚
今回の問題に関連して、2002年、政治資金規正法違反など4つの罪で東京地検特捜部に逮捕・起訴され、懲役2年の実刑が確定して収監された経験がある、元維新の会の鈴木宗男議員は、12月18日、MBSテレビ「よんチャンTV」で、インタビューに応じ、次のように答えています。
――鈴木宗男さんは、自民党時代に平成研究会(現在の茂木派)に所属されていましたが、当時から「ノルマやキックバック」はあったんでしょうか?鈴木宗男議員によると、そもそも政治資金規正法で、企業献金に上限が掛かったことから、パーティー券で金を集めるようになったとその背景を説明した上で、特捜部の捜査にもパフォーマンスの部分があると指摘しています。確かにあの段ボール一杯に文書が入っていれば、一人で簡単に持てる筈もありません。
(鈴木氏)組織を運営する以上は経費がかかりますから、派閥も当初は幹部がそれぞれ、資金を拠出して運営してきました。ただ、政治資金規正法が改正されて企業献金でも政党支部には50万円とか上限が決まってくると、幅広く政治活動する場合、資金が足りなくなって、パーティーという手法が用いられたんですね。
――鈴木さんは派閥からパーティー券収入のキックバックを受けていた経験はありますか。
(鈴木氏)派閥からは、何枚という割り当てが来ます。その割り当ての何倍もの額を私は売り上げています。ただ私は、1円もそういった還流資金は、いただいておりません。
――それは全部派閥に入れていたってことですか。
(鈴木氏)そうです。当時の野中広務先生や、青木幹雄先生は、普段から政策集団に協力をしている政治家と、何もしない政治家、そういった政治家に対する評価がしっかりしておりましたから、私なんかは、人よりも汗をかくのは当然のことだと思って、活動してきました。
【中略】
――鈴木さんは、過去に特捜部の捜査を受けました、どういう捜査だったんでしょう。ダンボールに入れて持っていかれるような状況でしたか。
(鈴木氏)東京地検特捜部の担当副部長は、極めて紳士的に対応してくれました。ダンボールはたくさん抱えていきますね、あのダンボールには、例えばノート1冊だとか、紙切れ1枚だとか、のこともあるんです。これもパフォーマンスで、私は良いことじゃないと思っています。あのダンボールに全部書類を入れてるとすれば、1人じゃ持てませんよ。これもですね、私は検察のやり方で、「はい、ガサ入れしました、ダンボール何十箱です」、なんて持ってくるけど、全く意味のない話です。
4.国会議員の逮捕はハードルが高い
今回の特捜部の捜査のポイントについて、元東京地検特捜部の高井康行弁護士は、12月19日放送の「報道ステーション」で次の主旨を述べています。
・強制捜査のタイミングはやや遅い。本来だったら、臨時国会が閉じてから直ちにやりたかった。ただ、証拠がそろうか、態勢がそろうかなど、色んな準備があり、それで若干、遅れた。それで、さあやろうと思ったら、前打ち記事が出た。そういうこともあって、このタイミングにずれ込んだこのように、会計責任者が逮捕されても、国会議員の逮捕はハードルが高いと指摘しています。
・ブツを押収して解析するのに、量によっては2~3週間から、1カ月以上かかる場合もある。来年1月は、通常国会が開催される。今のタイミングでいくと、通常国会が始まるまでに、ブツを十分に活用した捜査が終結できるかというと難しい。通常国会が始まると、国会審議への影響を避けるため、検察は捜査の手足を縛らる。だから検察は、それまでにやりたいのだと思うが、最悪なケースとして、通常国会が始まってからも捜査が続いてしまうことも視野に入れている
・今だったら、議員本人や秘書をフリーで呼べるが、国会が始まって『会期中はやめてくれ』と言われたら、そうですかと言わざるを得ない。フリーハンドで捜査をするわけにはいかなくなる
・捜査のポイントは、会計責任者について、故意があるかどうか。その次の問題は、会計責任者と議員の間に共謀があったかどうか。大きく言えば、この2点
・故意が成立するためには、問題になっている資金が、政治資金パーティーの収益の一部であること。これが客観的要件。次に主観的要件として、収益の一部だと当事者たちが認識していること。それに連なって、その金は収支報告書に記載すべき金だと認識していること。にもかかわらず、意図的に記載しなかったこと。意図的に不記載にした報告書を提出したこと。これらが要件になる
・客観的に、派閥開催の政治資金パーティーの収益の戻りだという認識があったかどうか。今までの報道によると、客観的には収益の戻りのようだと。次に、会計責任者が収益の戻りだと認識していたのかどうか。それについては『政策活動費だと思っていた』『制作活動費は記載する義務がないので、記載しなかった』と言っている。
・いくら議員と共謀しようが、会計責任者に故意がないといけない。物的証拠があれば、それに越したことはないが、会計責任者の供述が詳細かつ具体的で、共謀の肝心な場面は取れなくても、その周辺の事実については、全部裏が取れるような、信用性の非常に高い供述だと認定できれば、共謀認定することも不可能ではない。
・会計責任者だけではなく、派閥幹部らが関与していると言えりかどうかについては、20年前からの慣習だということになっている。そうであれば、会計責任者レベルで済む話で、いちいち事務総長や議員の判断を仰ぐ必要はない。そのため、共謀の筋は薄いということになる。
・ところが、その一部で異常なことが起きている。だから、ルーティーンではなくて、特殊なことがあった。その段階で、議員や事務総長の判断を仰いだのかもしれないという見方になる。仮にそれが1回だけなら、議員や事務総長の判断があったかなとなるが、常にルーティーン化していたとなると、会計責任者が判断していたとなるかもしれない
また、今回、清和会を狙いうちするかのような捜査が行われていることについて、前述の郷原信郎氏は次のように述べています。
・これまで安倍元総理と、その派閥が強大な政治権力を持っていた。それに対する、いろんな反発が生じていたものが、ここにきて裏金疑惑っていう言葉で、国民の怒りが全て安倍派っていう存在に向かっていったことを、検察が利用している面もある。
・逮捕者が全く出ないことも可能性としてはある。基本的に収支報告書の記載義務は会計責任者だから、国会議員の責任を取るためには相当、意思決定に深く関わったということが立証できないといけない。ハードルは低くない。その割にはちょっと期待が高まりすぎてるなという印象だ。
5.ギャグなのかと思った
こういった中、12月19日、岸田総理官邸で記者団の取材に応じ、「捜査機関の活動内容について、総理大臣として答えるのは控えなければならないが、党としても強い危機感を持って国民の信頼回復に努めなければならない」と述べました。
また、先週14日に、安倍派の閣僚を全員交代させたことに関連し、二階派に所属する小泉法務大臣と自見万博担当大臣を続投させる考えか問われたのに対し「人事は、どこの政策集団がどうかということではなく、一人一人の事情や意向を勘案し国民の疑念を受けないという点も踏まえながら行った。引き続き職責を果たしてもらいたい」と、続投させる考えを示しました。
このように、安倍派と二階派の事務所それぞれに強制捜査が入ったにも関わらず安倍派と二階派の待遇に違いが出ている訳です。
これには、党内からは「ギャグなのかと思った」などの声が上がっているほか、検察を所管する法務大臣に二階派の小泉龍司氏が就いていることも疑問視されているのですけれども、先述の取材で、記者から「法務大臣が二階派の議員であることが、捜査の公平性や中立性に疑義を生じさせることにならないか」と問われた岸田総理は「捜査が厳正に行われなければならないのは当然のことだ」と答えています。
岸田総理は、来年1月の通常国会までに一定の結論を出したいとはしているものの、総理周辺は「捜査の広がりが見通せない以上、下手に動けない」と話しているほか、政治資金規正法の改正をめぐっても「同じ穴のむじなとみられたくない」とまで発言している公明党側と自民党には温度差があるなど対応には苦慮しそうな雰囲気です。
政治資金規正法の改正については、自民党の茂木敏充幹事長も「法改正を含め、透明性が確保できるような素地を早急に検討しなければいけない」と語り、パーティー券代の銀行振込などによる透明化を念頭に入れるそうですけれども、そもそも現行の法律でも収入と支出を適正に記載すればよいだけの話です。
ジャーナリストの山口敬之氏によると、小泉政権時代、幹事長だった安倍元総理は、それまで、餅代、氷代として、各議員に現ナマを渡していたのを全部銀行振込に変えさせたのだそうです。
今回の安倍派狙い撃ちのような岸田総理の人事について、安倍派の最高幹部を経験したある議員は、岸田派の閣僚経験者に電話して、「一体、岸田は何を考えているんだ!」と不満をぶちまけたそうですけれども、こんなに騒いで、議員逮捕なし、会計責任者だけ起訴で終わるなら、岸田総理と安倍派との亀裂は修復不可能なものになる可能性すら考えられます。
この事態に岸田派のベテラン議員は「もう安倍派は『解体』してもらうしかない。それができなければ岸田氏は退陣するしかなくなるよ」と漏らし、岸田政権とは距離を置くある閣僚経験者は「すでに退陣カウントダウンが始まっていることを岸田首相は知るべきだ」とコメントしているそうです。
岸田総理が退陣した後の自民党はどうなるのか。岸田総理は自民党に少なくない禍根を残すことになるのかもしれませんね。
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