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1.日本製レールガン
12月1日、防衛装備庁は、開発を進めている「レールガン(電磁砲)」について最新の状況などを報告する動画をYouTubeにアップしました。
レールガンは電気エネルギーから発生する磁場を利用して弾丸を打ち出す兵器です。
並行する2本の導体のレールを用意して、その間に電機子(整流子機や同期機を発電機や電動機として使用するときに、界磁と相互作用させ推力を得るための固定子または回転子)と弾丸の接合体を配置し、電流経路にパルス状の大電流を流すとレールの周りに強力な磁界が発生、同時に磁界と垂直方向の電機子に電流が流れて、電機子に電磁力が働きます。
弾丸はこの電機子と共に加速されて、高速で打ち出され、その後、弾丸と電機子は分離していきます。
レールガンは、従来の火砲と比較して、弾丸の初速を大幅に高めることができるという特徴があるのですけれども、防衛装備庁は、2016年度から電磁加速システムの研究試作を開始。2021年までに全長約6m、口径40mmの中型レールガンの試作に成功しました。
陸上自衛隊で最も多く運用されている榴弾砲FH70は砲身長約6m、口径155mm。海上自衛隊のもがみ型護衛艦やあたご型護衛艦、あきづき型護衛艦などに搭載されている艦載用のMk45単装砲は、砲身長約7m、口径127mmですから、防衛装備庁のレールガンは口径がとても小さいことが分かります。
その一方、レールガンは秒速2297m/秒(約マッハ6.6)の初速で、重量約320gの弾丸を発射できる能力を持っています。
前述の火薬式火砲の初速がおおよそ秒速800mであることを考えるとレールガンのそれは文字通り桁違いです。
当然、初速が速い分、射程も長く、150~200kmに達すると見られています。
更に、10月17日には、海上自衛隊の艦艇にレールガンを装備して射撃試験を行っています。
2.エロ―ジョンと電力供給
レールガンについては、筆者は、過去にいくつか記事を上げたことがありますけれども、開発に当たっては大きな壁が立ちはだかっていました。それは、耐久性と電力です。
耐久性というのは、瞬間的に大電流を流し、マッハ7の超音速で弾丸を射出するレールガンでは、電流による加熱が生じて砲身内部が激しく削れ、摩耗してしまう、即ち「エロージョン」です。
特に、弾丸の初期位置周辺の損傷が激しく、撃ち続けるたびに初速が低下する課題があったそうです。
また、マッハ7の速度で弾丸を射出するためには、数十MWの電力が必要で、2500世帯の1時間分の消費電力(25MW計算)を必要とします。
このうち耐久性、「エロ―ジョン」の問題については、これまで導電性や加工のしやすさから銅を主に砲身の素材として使っていたところを、導電性が高く摩耗に強い素材に変更し、更に電流の流し方を変更して瞬間的に大きな電流が加わらないようにすることで解決したそうです。
もう一つの電力問題については、民間の力を借りて小型化を図っているとのことですけれども、海自の艦艇に乗っけて発射実験を行っていることを考えると、ある程度は目途が立っているのではないかと思います。
防衛装備庁は2022年度からは連射機構や、撃った弾丸の安定性などを検証してきたのですけれども、これらの対策によって、弾丸の初期位置にも顕著な損傷は発生せず、120発の連続射撃でも、その全てで初速2000m/s以上を達成することに成功。防衛装備庁はは「新たな対策を施したレールガンで、高初速の弾丸を安定して繰り返し撃つ目標を実現した」と説明しています。
もっとも、初速と弾数のグラフでは120発までしか記載がなく、120発目でわずかに初速が下がる傾向が見えているを考えると、あるいは120発が限界なのかもしれません。
3.レールガンの2つの用途
では、日本はこのレールガンをどのように使っていくのか。
防衛装備庁はレールガンの用途として、2つのシナリオを描いているそうです。
一つは、マッハ5(1702m/秒)以上の極超音速で、通常の弾道ミサイルより低い軌道を長時間飛翔し、さらに任意のタイミングで速度や高度を変えたりする機動性を持つ、いわゆる「極超音速兵器(Hypersonic Weapons)」への対処です。
そしてもう一つが「艦艇(または地上)目標に対する回避困難な打撃」で、2023年度に実施した射撃試験では、飛翔の安定性と威力を検証し、「艦艇を模擬した複数枚の鋼板を打ち抜くことに成功した」としています。
これも、レールガンの弾速と長射程があってこそのものであり、防衛装備庁が公開した動画でも、車載型や艦載型が敵艦艇を攻撃する様子や、落下してくるミサイルを迎撃する様子が描かれています。
もっとも、対艦・対空装備という点では、ミサイルという既存装備があります。その中であえてレールガンを開発するメリットは何か。
まず、挙げられるのが、コストとサイズです。ミサイルは1発1発が複雑なシステムでかつ高価であるのに対し、レールガンの弾丸はミサイルより小さく、とても安価であるため大量の弾丸を携行したり、射撃できるというメリットがあります。更に、弾丸が小さいためレーダーで捕捉されにくく、迎撃がとても難しいというメリットもあります。
一方、レールガンは、ミサイル程の射程(数百~数千km)はなく、また、高精度な誘導能力でピンポイント攻撃はできないというデメリットがあります。
それを考えるとミサイルとレールガンはそれぞれ棲み分けさせて運用するのではないかと思われます。
4.アメリカがレールガン開発を諦めた理由
このように将来有望に見えるレールガンですけれども、アメリカ海軍は、2021年にレールガンの開発を事実上中止しています。その理由として、前述したエロージョン問題だったという指摘もありますけれども、笹川平和財団上席フェローの小原凡司氏は、レールガンに使用するための大電力を艦内でまかなわなければならず、その難しさもあって、開発を断念した、と指摘しています。
この電力問題については、航空万能論サイトが、次のように説明しています。
【前略】航空万能論サイトは、艦艇での電力供給問題もさることながら、極超音速兵器の普及で射程の問題からレールガンのメリットが薄くなったというのですね。
米海軍の依頼でBAEが開発した試作レールガン(コンデンサバンクの充電エネルギー量は100MJ)は2010年に33MJの運動エネルギーで10.4kgの砲弾を射出することに成功、この結果を受けて米海軍は2016年までに艦艇搭載型レールガン(最大射程160km以上/毎分10発)を開発、2020年までにレールガンを艦艇に統合して海上試射を行うことを計画していたが、レールガンの性能を発揮させるためには25MWの電力供給が必要で、この条件を現時点でクリアできるのは建造中止になったズムウォルト級(総発電量は77.6MWだが艦の運行には35MW以下=余剰電力が40MW以上あるという意味)だけだ。
つまり海軍の主力水上艦艇であるアーレイ・バーク級(余剰電力9MW前後)にレールガンに統合するためには電力供給能力を拡張する必要があり、ズムウォルト級の統合電気推進(IPS)に採用されたバッテリーシステムを追加して25MWの電力要件を満たそうと研究が進められているものの艦内スペース不足で既存の兵器を取り外す必要があり、移動する標的やミサイルを遠距離で破壊するため誘導装置を組み込んだ発射体開発も強烈なGと電磁場に耐えられる電子機器の実用化が難航。
結局、実用化に手間取っている内に迎撃困難で1,000km以上離れた目標を攻撃可能な極超音速兵器が登場してレールガンのメリット(極超音速兵器に比べ射程が短い)が薄れ、レールガンの射程を超える対艦ミサイルの普及も進んだことで「沿岸地域の地上戦闘支援」というコンセプト自体も色褪せ、米国では「電力要件を満たす大掛かりな改造が必要なレールガンよりもMk.41VLSを変更するだけでアーレイ・バーク級に組み込める極超音速兵器の方が使い勝手が良い」と考えられている。
以上の理由から米海軍はレールガン開発の中断→資金や開発リソースを極超音速兵器、指向性エネルギー、電子戦システムなどに回したいと考えており、議会は海軍の提案を検討するため「レールガン・プログラムに海軍に幾ら投資したのか、実際の艦艇にレールガンして運用するため足りないものは何なのかをNDAA成立から90日以内に報告せよ」と命じており、恐らく来年度の予算でレールガン開発への資金供給を止めるか継続するを反映するはずだ。
【以下略】
5.中華レールガンへの警戒
一方、航空万能論は、米国が開発を保留したレールガンを「中国が先に実用化させることで技術的な優位性をアピールしよう」という意図が明確に伝わってくる、とも指摘しています。
この中国がレールガンの開発を行っていることについては、サウスチャイナモーニングポスト紙が「米国がレールガンを消滅させてから2年、中国が技術的飛躍で武器を復活させる」という記事で取り上げています。
件の記事の概要は次の通りです。
・中国海軍の技術者グループが、ダメージを受けることなく多数の弾丸を素早く発射できる電磁レールガンを開発したと主張している。砲弾速度が秒速2kmであることや120発発射できたという記載から、日本のレールガン技術をパクったのかとう疑念も浮かんできますけれども、この記事では、 AIを駆使した「測定・診断システム」によって成功した、とあるだけで、どうやって成功したのか書かれていません。
・連続発射の間でも、この兵器は驚くべきレベルの射撃精度を維持しているという。
・砲弾は毎秒2km(1.24マイル)の速度で砲身から発射される。それに比べ、通常の砲弾は数十キロが限界である。
・あるテストでは、レールガンは120発の弾丸を発射し、その威力を証明した。研究者たちによれば、雷と稲妻が収まった後も、システム全体は無傷であったという。
・「同様の研究は、これまで公に報告されたことはありません」と、海軍工科大学電磁エネルギー国家重点研究所のチームは、11月10日に発表された論文の中で述べている。
・盧俊勇教授率いる科学者・技術者チームは論文で、「戦争マシンは化学的動力から電磁的動力へと徐々に移行しており、電磁レール発射システムにとって、連続発射速度は戦闘効果の重要な指標である」と述べている。
・このブレークスルーは、「電磁レール発射システムが、確実に、迅速に、中断することなく発射できるようになった」ことを意味する、と彼らは付け加えた。
・これにより、中国は世界的に先んじたことになる。
・レールガンを研究するすべての科学者やエンジニアは、マッハ6で発射できる弾数を考慮しなければならない。
・レールガンでは、電磁力によって発射体やミサイルが軌道を飛び、通常の銃を超える速度と距離に達する。レールガンは、将来の戦争で天秤を揺るがす可能性のある、ゲームを変えるテクノロジーのひとつと考えられている。しかし、長い間、それはSFの領域にとどまっていた。
・アメリカでは、海軍が莫大な資金と数十年にわたる研究をレールガンに注ぎ込んだが、2021年に断念し、代わりに極超音速ミサイルに限られた資源を集中させた。
・米国がレールガンで苦労した点のひとつは、故障することなく繰り返し発射できるものを作る方法を見つけ出せなかったことだ。
・一方、中国チームの成功は、洗練された測定・診断システムに負うところが大きい。
・このシステムは、10万以上の部品点から同時にデータを収集し、分析することができる。これは、現代の航空機に搭載されているセンサーの数の10倍近くに相当する。
・また、問題を素早く発見し、その原因を突き止めなければならない。複雑で過酷な条件下で作動するマシンでは、多くの問題が発生する可能性がある。どんなに優秀な技術者でも、それを解決するのに数日を要することがある。
・しかし、中国のこのAIシステムは、その時間をミリ秒にまで短縮することができる。
・しかも、自分で判断することができる。機器の一部が少し熱くなりすぎているなど、それほど深刻でない場合は、そのまま続行する。しかし、スラストに異常があるなど、実際にダメージを与えかねないトラブルが発生した場合は、たとえすべての負荷がかかっていたとしても発射されない。
・ルーのチームによれば、この巧妙なシステムによって、高価な兵器はすでに3回も救われたという。そして、小さな問題が見つかって修正されるたびに、電磁砲はスムーズに作動するようになった。直近の50発では、不具合は一度もなかった。
・電磁レールガンとそれに付随する技術は、中国軍にとって重要だ。彼らは、この兵器がアメリカの海洋支配を揺るがすために使われることを望んでいる。
・中国の軍事専門家の中には、このレールガンは200km以上離れた場所でも発射可能で、自国の海軍が遠く離れた場所で多くのパンチを繰り出すことができると信じている者もいる。
・海上版スター・ウォーズを最初に夢見たのはアメリカだった。2011年当時、彼らは4年かけて1,000発の試験砲弾を撃ち落とした。2018年までには、1,000発を簡単に発射できるものを作るという高い目標を掲げていた。
・しかし、エンジニアリング、技術、資金が邪魔をした。米軍は2021年にこれを断念し、これを機に中国が追いつき、もしかしたら追い越すかもしれないと警告する評論家もいた。
・電磁兵器の研究をしている中国の研究者たちは、大きなことを考えている。彼らはこの技術を使えば、真空チューブの中を時速1000kmで列車を走らせることができると考えている。
・そして、チューブの端を持ち上げることで、ロケットを打ち上げ、宇宙旅行をより安くすることもできるかもしれない。中国は11月、山西省に世界最長の真空電磁発射管を建設した。
これについて、マレーシアの"The Star"紙が、2022年2月12日の記事「米国はレールガン開発で火種を残すが、中国は計画された実験で狙いを定める」で次のように述べています。
【前略】果たして、「アメリカや他の国のレールガン研究から多くのことを学んだ」、がパクったのか、共同研究か何か分かりませんけれども、中国のレールガンが日本のそれと同じなのかどうかは判別できません。
王氏は、中国の研究者たちはアメリカや他の国のレールガン研究から多くのことを学んだと語った。
例えば、レールに液体金属を塗布して磨耗を減らすなど、欧米では広く研究されていたことだ。中国の科学者が損傷の発生をシミュレートし分析するために使用したモデルのいくつかは、アメリカのレールガン研究者によって開発されたものでもある。
しかし、王氏によれば、中国のレールガンには他では見られない革新的な設計もあったという。
一般的なレールガンとは異なり、中国製は銃口に閃光を消すための余計な装置を取り付けていない。特殊なコーティング技術を使用し、より安定した性能とダメージの少なさを実現している。
中国は2018年、軍艦にレールガンを搭載し、外洋で世界初の実戦テストを行った。
【後略】
アメリカがレールガンの開発を断念したのは、前述したとおり、極超音速兵器という代替手段があるからで、そこには資金という裏付けがあります。
けれども、ロシア・ウクライナ戦争やハマス・イスラエル戦争をみれば明らかなように、高価な兵器を長期に渡って使い続けるという消耗戦には、もはやアメリカでさえも耐えられなくなっていることがはっきりしてきました。
それを考えると、もともと軍事費がかけられていない日本は、よりコストの掛からず有効な手段を持っておく必要がありますし、同時に技術をスパイされないようにする法整備や体制を整えるのが急務ではないかと思いますね。
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