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1.ガザ市南部トンネル網破壊
12月22日、イスラエル国防軍はガザ市南部イッサ地区のトンネル網を破壊したと発表しました。
イスラエル国防軍によれば、このネットワークは「地下基地」として機能しており、「保管、隠れ家、指揮統制、異なる地域間の工作員の移動」に使われ、トンネル網が「数百メートルの長さ」であることが明らかになったとのことです。
そして、ここ数日の作戦の一環として「ハマスの本部として使用されていた多数の建物が破壊された……多くのハマスのテロリストが排除され、テロ活動に使用された多くの建物や武器も破壊された」としています。
イスラエル国防軍は、ガザ地域での攻撃中に「ガザ地区全域にある何百もの恐怖のトンネルシャフト」を発見したと主張し、「数十の攻撃トンネルルートを特定し破壊する」ために活動していると述べています。
2.イスラエルによるガザ飢餓封鎖の残酷さと無益さ
ガザはもはや廃墟と化しています。
イスラエルのヨアヴ・ギャラント国防大臣は、「電気も食料も水もガスもない、すべてが閉鎖されている」と述べました。
援助物資を運ぶトラックの数は 1日あたり約150台になっていますけれども、これはガザ地区の220万人の人々に必要な量に比べればほんのわずかであり、ガザ住民の80%はイスラエルの空爆と避難命令により避難を強いられています。
ガザ地区では、燃料不足により病院の75%近くが閉鎖。最近の報告では、パレスチナ人が食料と水を見つけるのに苦労しており、特に子供や高齢者に病気をもたらす不衛生な生活環境が伝えられています 。
イスラエル軍のガザ攻撃については、その合法性についての議論が対立しています。
イスラエルは、攻撃は民間人エリアに隠れたハマスを標的にしているだけで、民間人の死亡は「巻き添え被害」であると主張し、ガザ空爆を批判する人達は、イスラエルの空爆は ハマスと一般のパレスチナ人の区別を怠り、得られた軍事的利点に不釣り合いな民間人の死傷者を出し、国際人道法に違反していると主張しています。
けれども、ジョージ・ワシントン大学・安全保障・紛争研究研究所所長のアレクサンダー・B・ダウンズ氏は、21日の「The Hill」紙への寄稿記事「イスラエルによるガザ飢餓封鎖の残酷さと無益さ」で、攻撃よりもガザ封鎖こそが明確な国際人道法違反だと述べています。
件の記事の概要は次の通りです。
【前略】このように、ダウンズ氏は、歴史上、決定的な結果をもたらした飢餓封鎖はほとんどなく、イスラエルがガザを包囲しても、イスラエルの目的は達成されないと指摘しています。
・しかし、イスラエルの封鎖は、国際人道法に対するそれ以上に明確な違反である。皮肉なことに、パレスチナの市民を苦しめてもイスラエルの目的は達成されない。
・食糧不足は長い間、戦争の武器であった。包囲戦は歴史の大半を占める戦争の形態であり、攻撃側は民間人を飢えさせることで防御側に降伏を強要しようとした。マイケル・ウォルツァーの古典的著作『正義と不正義の戦争』によれば、民間人の死は「文民または軍の指導者の手を強制するために期待される」ものであり、「目的は降伏であり、その手段は敵軍の敗北ではなく、民間人の死という恐怖の光景」である。
・海上封鎖も同じような論理で行われる。第一次世界大戦中、ドイツは無制限潜水艦戦、イギリスは水上艦隊という形で、双方が敵国民の食糧供給を標的にすることで戦争に勝とうとした。ドイツの作戦は失敗に終わったが、イギリスの封鎖はドイツとオーストリア・ハンガリーで約100万人の死者を出した。
・しかし、民間人を標的にすることは違法であるにもかかわらず、交戦国は、たとえ民主主義国家であっても、高い犠牲者を避けながら敵対国に降伏を強要したい場合には、民間人を標的にすることを止めようとはしない。
・ガザでは、イスラエルはハマスの壊滅を公言しているが、10月7日に拉致した人質の解放をハマスに迫ることも望んでいる。封鎖は理論的には、ハマスの弱体化と捕虜の解放を迫るという両方の目的を果たす。しかし、その目的が軍事的なものであれ、強制的なものであれ、イスラエルがそれを達成しようとする方法は、一般のパレスチナ人を徹底的に利用することである。
・イスラエルのガザ封鎖は明らかに違法である。一般市民は、過激派グループと共通のアイデンティティを共有しているというだけで、あるいはその大義を支持しているというだけで、それがどんなに悪趣味なものであっても、直接攻撃や無差別攻撃からの免責を失うことはない。免責を失うのは、敵対行為に直接参加した場合だけであり、パレスチナ人の大多数はそのようなことはしていない。
・しかし、イスラエルによる包囲は非論理的であり、イスラエルの目的を達成する効果も期待できない。歴史上、決定的な結果をもたらした飢餓封鎖はほとんどない。
・中央列強に対するイギリスの封鎖は、「広範な乏しさと破滅」をもたらしたものの、勝利にはほとんど貢献しなかった。最近では、ビアフラという分離主義地域が、封鎖によって100万~200万人の民間人が死亡したにもかかわらず、ナイジェリアからの分離独立を目指し、最後まで戦い抜いた。同様に、2015年から実施されているサウジアラビアのイエメン封鎖は、同国における大規模な人道的災害の原因となっているが、フーシ派の指導者たちを降伏させる説得には何も役立っていない。そして最近の証拠は、内戦やその他の非対称紛争における包囲が失敗したことを示唆している。
・懲罰による強制の論理は、住民に苦痛を与えることで、攻撃者は敵対者に譲歩を迫ることができるというものだ。この論理は、住民が政府の決定に影響を与えることができることを前提としている。これは明らかにガザでは当てはまらないし、どんな権威主義政権にも当てはまるかどうかは疑問だ。
・パレスチナの市民は、ハマスに降伏するよう説得することができるのだろうか?特に、空爆をかわし、倒壊した建物から犠牲者を引き上げ、食料や水を探しているときに?同様に、住民の被った恐怖に取り乱したハマスが心を入れ替え、イスラエルに降伏する確率は限りなく低い。ハマス排除の唯一の方法は、ハマスを見つけ出して地上軍で壊滅させることだ。それさえもイスラエルの手に余るかもしれない。
・同様に、パレスチナ市民の苦しみは、最近の停戦とハマスの人質解放の決断の原因にはなっていない。結局のところ、ハマスが見返りに得たものは、イスラエル国防軍の攻撃からの解放と、1人の解放につき3人のパレスチナ人質の解放だった。
・それどころか、イスラエル国内の世論の圧力によって、ネタニヤフ政権は戦略的優先順位を逆転させ、人質の解放を追求せざるを得なくなった。イスラエルの地上攻撃はハマスにとって最大の脅威であり、ハマスがいかなる譲歩をしようとも、それはその脅威に応えるものである。もちろん、イスラエルもハマスの壊滅を狙っていることを考えれば、ハマスによる意味のある譲歩はほとんどないだろう。
3.地中海は閉鎖される可能性がある
12月23日、イラン革命防衛隊の司令官は、アメリカとその同盟国がガザで「犯罪」を続ければ地中海は閉鎖される可能性があると語ったとイランメディアが報じました。
イランはイスラエルに対してハマス政権を支持し、数週間にわたる砲撃で数千人が死亡し、住民のほとんどが家を追われているガザでのイスラエルの犯罪をアメリカが支援していると非難。イスラム革命防衛隊と提携しているイランの半公式通信社であるタスニム通信は「地中海、ジブラルタル海峡、その他の水路が閉鎖されるのを待つことになるだろう」と、衛兵隊の司令官であるモハマド・レザ・ナクディ准将の言葉を引用しています。
イエメンのイラン系武装組織フーシ派は、イスラエルのガザ攻撃への報復として、ここ1ヶ月の間に紅海を航行する商船を攻撃しており、航路を変更する船会社も出てきているのですけれども、アメリカのホワイトハウスは金曜日、イランが紅海での商船に対する作戦計画に「深く関与」していると述べています。
ただ、イランは地中海に面しておらず、直接アクセスできませんから、イランがどのように地中海を封鎖するのかは不明なのですけれども、地中海にアクセスできるレバノンのヒズボラとシリアの民兵組織がイランに支援されているとの指摘もされています。
現在、イスラエルの船が紅海を中心として攻撃されていますけれども、その中心はドローンによる攻撃だとされています。
イランは、長距離で爆発力が高く、対空システムが捉えにくい、電気モーターの特攻ドローンを保有しています。これらのドローンは、レバノンから進水して地中海をイスラエルの港に向かって移動する商船に対し、その距離が短いことから、簡単に攻撃できるとも言われています。
Israel is moving towards a total naval blockade from all sides
— Megatron (@Megatron_ron) December 23, 2023
The commander of Iran's Revolutionary Guard said:
"They will soon face the closure of the Mediterranean Sea, the Strait of Gibraltar and other waterways"
The port of Eliat, which lies on the Red Sea, is already… pic.twitter.com/P4XERIKQgX
4.イスラエルは逆包囲されるか
もしも、フーシ派あるいはレバノンのヒズボラとシリアの民兵組織が連携して、この地中海でのドローン攻撃が成功するのであれば、イスラエルに対する全面的な海上封鎖が行われる可能性が出てきます。
これは、ガザを包囲しているイスラエルを丸ごと逆包囲することを意味します。
その目的はイスラエル国民を標的にしてイスラエル政府に降伏を強要することになります。
けれども、前述したジョージ・ワシントン大学のダウンズ氏が指摘するように、包囲戦が成功した例は殆どありません。
ダウンズ氏は前述の寄稿文で「懲罰による強制の論理は、住民に苦痛を与えることで、攻撃者は敵対者に譲歩を迫ることができるというものだ。この論理は、住民が政府の決定に影響を与えることができることを前提としている。これは明らかにガザでは当てはまらないし、どんな権威主義政権にも当てはまるかどうかは疑問だ」という重要な指摘をしています。
これをイスラエル逆包囲に当てはめると、イスラエル国民を飢えさせることで、イスラエル政府、ネタニヤフ首相に停戦を強要させるということになります。
けれども、それが出来るかどうかは、ダウンズ氏が指摘するように「住民が政府の決定に影響を与える」ことができるかどうかの一点に掛かっています。
12月18日、イスラエルのニュース番組「ニュース12」は、イスラエルの国会に相当するクネセトの選挙に関する世論調査を発表しました。
もしクネセトの選挙がきょう行われたら、どの党に投票するかという問いに対して、ベニー・ガンツ氏が率いる野党の「ナショナル・ユニティ」(現有議席数12)が37議席を獲得して最大の勢力となり、ベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる「リクード」(同32議席)は18議席にとどまりました。また、ヤイル・ラピッド前首相率いる「イェシュ・アティド」(24議席)は15議席となりました。
このうち、野党である「ナショナル・ユニティ」は10月11日に発足した戦争内閣に加わっているのですけれども、「ナショナル・ユニティ」を除いた連立政権の獲得議席予測は120議席中44議席にとどまる一方、野党の獲得議席予測は76議席に達しています。
また、ネタニヤフ首相とラピッド前首相のどちらが首相にふさわしいかという問いには、ネタニヤフ首相支持が32%、ラピッド前首相は28%、どちらもふさわしくないが36%。ネタニヤフ首相とガンツ党首では、ネタニヤフ首相の27%に対し、ガンツ氏は45%で、わからないは22%でした。
そして、次のクネセト選挙を前倒しして実施すべきか否かについては、「前倒しすべき」が57%に達しています。その内訳は、ネタニヤフ首相支持者では「前倒しすべき」は32%だったのに対し、野党支持者では「前倒しすべき」は82%。
また、戦闘終結翌日にガザ地区の統治権をパレスチナ自治政府へ移譲することを支持するか否かという問いには、賛成19%、反対54%、わからないは27%と、ガザ統治をパレスチナに移譲することには反対優勢となっています。
首相には戦時内閣に加わっている野党「ナショナル・ユニティ」のガンツ党首が相応しいとしていることを考えると、ネタニヤフ首相でなければ戦争継続支持と取れなくもありません。
この状態で、仮に地中海が封鎖されてイスラエルへの輸入がストップした場合、イスラエル世論が停戦に傾くかどうか分かりませんし、何よりアメリカが黙ってないでしょう。
こうしてみると、イスラエル・ハマス戦争は、中東拡大へのリスクが増々大きくなっていくのではないかと思いますね。
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