停戦に関心を示すプーチンと再選を目論むバイデン

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1.停戦に関心を示すプーチン


12月23日、アメリカのニューヨーク・タイムズ紙は、ロシアのプーチン大統領が最近、ウクライナ東・南部4州の占領地域を維持した上での「停戦」に関心を持っている兆候があると報じました。

件の記事の概要は次の通りです。
・ウラジーミル・V・プーチン大統領の自信には限界がないようだ。ウクライナの反撃の失敗と西側の支援の陰りに勇気づけられて、プーチン氏はロシアの戦争目標は変わっていないと言う。同氏は火曜日に将軍たちに演説し、ウクライナが非常に窮地に陥っているため、ロシア侵攻軍が「我々の望むこと」をしていると自慢した。「我々のものは手放さない」と同氏は誓い、「彼らが交渉したいなら、交渉させればいい」と軽蔑的に付け加えた。

・しかし、最近、水面下で外交を推し進め、プーチン氏は別のメッセージを送っている。「合意を結ぶ用意がある」というものだ。

・プーチン氏は、少なくとも9月以来、仲介者を通じて、ウクライナを支配するという野心にはほど遠い、現在の路線に沿って戦闘を凍結する停戦に前向きであることを示唆している、とクレムリンに近い2人の元ロシア高官と、プーチン氏の特使からメッセージを受け取ったアメリカや国際機関の高官は言う。

・実際、アメリカ政府関係者によれば、プーチン氏は1年前の2022年秋にも停戦交渉の打診を出していたという。ウクライナが同国北東部でロシア軍を撃退した後のことで、これまで報道されていなかった。プーチン氏は、ロシアが占領した領土に満足し、休戦の用意があることを示したという。

・プーチン氏が停戦に繰り返し関心を示しているのは、ご都合主義と即興性が、密室での戦争に対するプーチン氏のアプローチを規定してきた一例である。プーチン大統領を長く知るロシア人や、クレムリンの内情に詳しい国際関係者への数十回に及ぶインタビューは、予想以上に長引いた戦争において、リスクを減らし、選択肢を広げておくために策略をめぐらす指導者の姿を示している。プーチン氏は、公の場では激しいレトリックを展開する一方で、内心では勝利を宣言して前に進みたいという願望を伝えている。

・この秋にロシア高官と会談したある国際機関の高官は、「彼らは『停戦交渉の準備はできている』と言っている。彼らは戦地に駐留することを望んでいる」。

・全領土の奪還を誓約しているウクライナの指導者たちが、そのような取引を受け入れるという証拠はない。アメリカ政府関係者の中には、これはクレムリンお馴染みの誤誘導の試みであり、プーチン氏が妥協する真の意志を反映したものではない、と言う者もいる。元ロシア政府高官は、ロシア軍が勢いを増せば、プーチン氏はまた考えを変える可能性があると付け加えた。

・プーチン氏はこの16ヶ月間、現在のような自信に満ち溢れた状態になるまでに、恥ずべき撤退や、かつては友好的だった軍閥の反乱など、何度も屈辱を飲み込んできた。その間、プーチン氏は何十万人もの死傷者を出した戦争を続けながら、彼の支配の特徴となっている矛盾を露呈してきた。

・ロシアの戦場でのパフォーマンスや、「本来のロシアの土地」を奪還するという歴史的使命に執着する一方で、彼はほとんどのロシア人が普通の生活を送ることに熱心である。ロシアに長年の戦争の準備をさせる一方で、彼は静かに戦争を終わらせる用意があることを明らかにしようとしている。

・「元ロシア高官の一人はニューヨーク・タイムズ紙に、クレムリンが静かに送っているというメッセージを伝えた。この元高官は、「彼は1メートルも後退する気はない」と付け加えた。

・現・元当局者らによると、プーチン氏は、こう着状態に陥っているように見える戦場、失望に満ちたウクライナの攻勢の余波、西側諸国での支持の低迷、そして、 10月、ガザでの戦争の混乱。水面下の申し入れはデリケートな性質を持っているため、この記事のためにインタビューした他の人々と同様に、当局者らも匿名を条件に語った。

・プーチン大統領の報道官ドミトリ・S・ペスコフ氏は、取材要請を断った後の書面による質問に答え、音声メッセージで「あなたが提示したこれらの論文は概念的に間違っている」と述べた。ロシアが現在の戦線で停戦する準備ができているかとの質問に対し、同氏は大統領の最近のコメントを指摘した。プーチン氏は今月、ロシアの戦争目標は変わっていないと述べた。

・ペスコフ氏は「プーチン大統領は確かに協議の用意があり、そう言っている」と語った。「ロシアは引き続き準備を整えているが、もっぱら自国の目標を達成するためだ」

・ウクライナは、ロシア政府に対し、占領したウクライナ領土すべてを引き渡し、賠償金を支払うことを要求する独自の和平案への支持を集めている。ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は火曜日、ロシアが交渉を望んでいる兆候は見られないと述べた。

・「我々はただ、図々しい殺意を目の当たりにしているだけだ」と彼は言った。

・プーチン氏は戦争初期の数週間、和平交渉を模索したが、ウクライナでのロシアの残虐行為が明るみに出てから決裂した。そして2022年秋、ロシアがウクライナ北東部から恥ずべき撤退をした後、プーチン氏は再びキエフと西側諸国に、戦闘を凍結するための取引に応じるというメッセージを送った、とアメリカ政府関係者は言う。

・当時、統合参謀本部議長だったマーク・A・ミリー将軍のようなウクライナの支持者の中には、ウクライナは戦場で合理的に期待できる限りの成果を上げたのだから、キエフに交渉するよう勧める者もいた。しかし、他のアメリカ高官たちは、交渉にはまだ早すぎると考えていた。そしてゼレンスキー氏は、ウクライナ全土がロシアの支配から解放されるまで戦い続けることを誓った。

・2023年初頭には、モスクワは憂鬱な空気に包まれていた。ウクライナ東部の凍てつく平原では、戦前のロシアの専門部隊の多くが壊滅し、訓練不足の徴兵兵や刑務所から集められた受刑者が、行き当たりばったりで計画された歩兵の嵐に巻き込まれて銃殺されていた。

・プーチン氏は公の場では戦争についてほとんど語らず、彼の計画や動機についての疑問をかき立てた。しかしプライベートでは、プーチン氏はこの数ヶ月間、ほとんど救世主のような決意で最高司令官としての役割を受け入れていた、とクレムリンに近い人々は主張する。ある人物は昨年2月、大統領は1日に2回、軍関係者とテレビ会議を行い、戦場での細かな動きについてブリーフィングを受けたと語った。

・この戦争は「止めることは不可能」だと、その人物はロシア軍高官との会話について語った。

・「人々は彼に良いニュースだけを伝えたいのだが、それはあまりない」とその人物は言った。「だから嘘をつかなければならない」

・セルゲイ・K・ショイグ国防相は、今年初めの私的会談で、挫折にもかかわらずプーチン氏は戦い続ける決意を明らかにした。同席していた国際高官によれば、ショイグ氏は戦車や戦闘機におけるロシアの優位性を示す統計や、国防増産計画を示したという。彼は、ロシアは2500万人もの兵士を動員できると自慢した、とその高官は回想した。「プーチンにとっては、ロシア対アメリカや西側諸国なのだ。プーチンは引き下がるわけにはいかない」

・ウクライナが6月に待望の反攻を開始したとき、プーチン氏は緊張した面持ちで、戦況を気にしていた、とクレムリンに近い人々は語った。公の場では、プーチン氏は戦いの実況解説者となり、漸進的な成功を熱心に主張した。

・「敵は攻撃しようとしている」とプーチン氏は6月16日、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムの壇上で述べ、「今まさに」起きている戦闘について説明した。「ウクライナの軍隊に勝ち目はないと思う」。

・同じ日、アフリカの指導者の代表団が和平の仲介を期待してキエフに到着した。ある時、ウクライナ当局は彼らを避難所に急行させ、攻撃を警告した。翌日、サンクトペテルブルクで南アフリカのシリル・ラマフォサ大統領はプーチン氏に、アフリカの指導者たちがいる間に本当にウクライナの首都を爆撃したのかと尋ねた。

・ラマポーザ氏に近い2人の関係者によると、プーチン氏は「うん、そうした」と応じ、「しかし、あなたがいた場所からはかなり遠いところにあることは確かだ」といった。

・彼は依然として、指導者たちをディナークルーズに連れて行くなど、親切なホストを演じようとした。アフリカ代表団のメンバーは、プーチン氏が今後の協議に向けたチャンネルを準備することに関心があるようだと述べた。

・この関係者は「交渉したいわけではない」とプーチン氏の立場を述べた。「しかし、私はその時が来たら、非常によく考えられた、賢明で有能な交渉ルートを用意しておく必要がある。」

・1週間後、傭兵軍閥エフゲニー・V・プリゴージンが反乱を起こしたが失敗に終わった。

・プリゴジン氏がベラルーシへ撤退する協定を受け入れた後、プーチン氏は24年間の政権の中で最も屈辱的な瞬間の一つと思われた出来事を勝利へと導き始めた。彼は、クレムリンの盛大な式典で、反乱の失敗はロシア国家の強さを示したと宣言した。これは、プーチン氏がウクライナでの当初の目標、つまり勝利を宣言して先に進むことができなかった場合に何をするかについてのヒントを提供した。

・クレムリンの分析では、戦争に対する国民の支持は広範囲に及んでいたが、深くはなかった、つまりプーチン氏が勝利と呼んだものは何でも受け入れるだろうということを意味しているようだ。政府の世論調査員の一人、ワレリー・フョードロフ氏は9月の新聞インタビューで、戦争を積極的に支持しているロシア人はわずか10~15%で、「ほとんどのロシア人はキエフやオデッサの征服を要求していない」と述べた。

・夏の終わりまでに、事態はプーチン氏に有利な方向に変化しつつあった。プリゴジン氏の飛行機事故死はクレムリンの仕業と広く見られており、国内の最も危険な敵を排除した。戦場では、ロシアはすでにウクライナの反撃を撃退することに成功しているように見えた。

・プーチン氏とその政府には安定感と自信がにじみ出ていた。大統領のスケジュールを知る複数の関係者によると、大統領は引き続き朝の水泳に出かけた。クレムリンの高官らは休暇に戻っていた。

・キルギスのアキルベク・ザパロフ首相は10月のインタビューで、昨年プーチン氏がウクライナに侵攻した際に多くのロシア当局者やエリート層が驚きと不安を抱いたことに触れ、「彼らはすでに落ち着いている」と語った。プーチン氏の戦争を最初は「大惨事」と見ていたが、「彼らは今ではそれに慣れてしまった」とも付け加えた。

・10月の土曜日、プーチン氏は71歳の誕生日を、戦争で中立の立場を取ろうとしてきた中央アジアのウズベキスタンとカザフスタンの首脳と祝った。モスクワ郊外の邸宅に到着すると、プーチン氏はロシア製の新型リムジンのハンドルを握り、クレムリンに言わせれば、ロシアが自給自足しつつあることを誇示した。

・室内に入ると、3首脳はウズベキスタンにロシアのガスを売る計画について話した。その場にいたある人物は、プーチン氏の落ち着いた自信とリラックスした身のこなしを思い出したという。「彼は戦争をしている男には見えない」とその人物は言った。

・誕生日の昼食を終えて初めて、彼らは別の場所で起こった出来事の意味を理解した。それは10月7日のことだった。

・その日のハマスによるテロ攻撃とイスラエルの激しい軍事的反応は、ロシアにとってプロパガンダの好材料となり、ウクライナから注意を引き離し、プーチン氏がガザへの砲撃とアメリカのイスラエル支援を非難することで、世界の多くの人々と肩を並べることを可能にした。

・10月にハンガリーの指導者とプーチン氏との会談に参加したオルバン首相の側近であるバラッツ・オルバン氏は、「彼は、西側の関心が遠ざかっているのを見抜いている」と語った。

・10月下旬、ロシアのリベラル政治家グリゴリー・A・ヤヴリンスキーは真夜中過ぎにクレムリンで謁見を待った。同氏は、アフガニスタンでの10年にわたる戦争におけるソ連の損失を矮小化する、ウクライナでのロシア人の死者の規模をプーチン大統領に印象づけようとしたと述べた。

・その後、ヤブリンスキー氏は90分間の会談で自分の中心となる主張を述べた。もしプーチン氏に「少なくとも停戦について考える」準備ができていたら、ウクライナ西部生まれのヤブリンスキー氏は交渉人として行動するだろう。「彼が、長い間私と話すことに同意したという事実自体がそれを物語っている」と彼は言った。

・少なくとも9月以降、西側当局者らはプーチン氏が停戦に関心を示している新たな兆候を捉えている。

・シグナルは、米国とロシアの両方と関係のある外国政府経由など、複数のチャネルを通じて送信されている。アメリカ当局者らによると、ロシアの非公式特使らが対話者らとプーチン氏が受け入れる可能性のある合意の概要について話したという。「プーチン大統領とロシア軍は、これ以上戦線を拡大することを望んでいない」と、この秋ロシア高官らと会談した国際当局者は語った。

・プーチン氏はまた、交渉に応じる姿勢について曖昧な公式コメントを発表しているが、西側の評論家らはその大半を否定している。

・一部のアナリストは、プーチン氏は長期戦の恩恵を受けており、2024年の共和党大統領候補の最有力候補であるドナルド・J・トランプ元大統領が大統領に復帰する可能性があるまで交渉を遅らせたいと主張している。一方、当局者らは、戦争に内在する不確実性を考慮すると、プーチン氏は早期に合意を結ぶことを望んでいると述べた。

・彼らは、プーチン氏のプロパガンダは、クリミアへの陸路の確立、ウクライナの西側供給による反撃とロシアの主張するウクライナ4地域の併合に耐えた軍隊を称賛することで、容易に現状を勝利したかのようにひっくり返す可能性があると述べ、ロシアがそうしていないという事実を隠蔽した。それらを完全に制御することはできない。

・関係者の1人は、理想的なタイミングは3月のロシア大統領選挙前だと述べた。プーチン氏はあと6年の任期を確保するのは確実だが、国内の支持を示すものとして選挙を非常に気にしている。

・プーチン氏は公の場では、1000年のロシア文明を破壊しようとする西側諸国に抵抗していると主張し、攻撃的な姿勢を貫いている。

・しかし米当局者らはプーチン氏の立場に変化が見られ、プーチン氏はもはやゼレンスキー政権の退陣を求めていない、と指摘している。彼らは、プーチン氏が提示した停戦案は、キエフを首都とするウクライナの主権を維持するものの、すでに征服したウクライナ領土のほぼ20パーセントをロシアが支配することになると述べた。さらに、プーチン氏はそのような合意に前向きであると電報を打っているが、より具体的な提案がもたらされるのを待っていると付け加えた。

・多くの行き詰まりそうな点の一つは、ウクライナをNATOから締め出すというプーチン氏の決意だ。しかし、ロシアの元当局者の一人は、同盟は予見可能な将来にウクライナを認めることは見込まれていないため、この点での意見の相違はプーチン氏にとって合意の妨げにはならないだろうと語った。

・それでも、米国高官らは、ロシアにこれほど多くのウクライナ領土を割譲する協定に現時点でウクライナの著名な政治家が合意できるとは考えていないと述べた。

・もう一つの行き詰まりの可能性は、米国をあらゆる交渉の中心に据えようとするプーチン氏の努力に起因している。

・米国とロシア政府は、捕虜交換を含む問題について連絡を取るためのチャンネルを持っている。しかし当局者らによると、中央情報局長官ウィリアム・J・バーンズ氏とロシア対外情報局長セルゲイ・ナルイシュキン氏が最後に会談したのは約1年前のトルコだった。そして米国当局者らは、米国はウクライナに代わって交渉を行っておらず、今後も交渉しないと述べている。

・米当局者らは、プーチン氏の申し入れに関係なく、ウクライナは持久力を示さなければならず、米国は時間は味方だというプーチン氏の信頼を打ち破り、あらゆる交渉で譲歩を強要するためにウクライナを支援する用意があることを示さなければならないと主張している。

・西側諸国の多くは、プーチン氏が将来の攻撃に備えて再武装すると主張しているため、停戦に懐疑的だ。ラトビアのエドガース・リンケビッチ大統領はインタビューで、プーチン氏が戦争に専念したのは「帝国の再建」を夢見ているからだと主張した。

・リンケビッチ氏はロシア人について、「彼らはいかなる合意も決して尊重しなかった。都合が良いと判断するとすぐに違反した」と語った。
8月15日のエントリー「米露極秘会談と停戦の条件」で、当時プーチン大統領が「ウクライナ軍が攻撃している時に停戦はできない」と述べていたことを取り上げましたけれども、今、プーチン大統領が「合意を結ぶ用意がある」と述べたのが本当であれば、ウクライナ軍の攻撃は事実上、終わったと考えていることになります。


2.欧米の備蓄は来年底を尽く


実際、ウクライナの反攻は限界点に達しつつあります。なぜなら、今のウクライナ軍は砲弾不足の状態に陥っているからです。

12月18日、ロイター通信は、ウクライナ軍のオレクサンドル・タルナフスキー将軍が、ウクライナ軍は前線の全域にわたり砲弾が不足しており、「大問題」だと答えたと伝えています。

タルナフスキー将軍は、「どれだけ必要かという実態に照らすと、今の手持ちの量では足りない。なので、再配分している。予定したタスクを練り直し、規模を縮小している。実施に必要な装備を確保しなくてはならないので」と特に旧ソヴィエト連邦時代の兵器で使える砲弾が不足している実情を明かしています。

そして、タルナフスキー将軍は、「場所によっては防衛に切り替え、ほかの場所では攻撃作戦を継続している……今後の大規模な作戦行動のため、予備役を訓練している。意志は残っている。変わったのは行動と戦術だけだ」と外国からの軍事援助減少が、すでに戦術の変更など実際の戦場に影響していると述べています。

今や、ウクライナへの西側の支援ははっきりと細ってきています。アメリカは、12月6日、野党・共和党が連邦議会上院で600億ドル(約8.6兆円)規模の軍事援助法案を否決。欧州連合(EU)も、14日、ウクライナに対する500億ユーロ(約7.8兆円)の軍事支援についてハンガリーが拒否権を発動しました。

それ以前に、ウクライナに実際に届く砲弾の数は以前から不足気味で、EUは2024年3月までに砲弾100万発を送ると約束したものの、すでに提供した、あるいは間もなく提供する数は48万発にとどまっていますし、アメリカとて、これまでに155ミリ弾を200万発以上提供した反動で、自軍の備蓄が減少。今年夏にはクラスター弾の提供を決定しています。

ウクライナは支援国が提供できるペースより速く、砲弾を消費しています。エストニア国防省の報告によると、ロシアに対して有意に対抗できる状態を維持するため、ウクライナは毎月少なくとも20万発の砲弾を必要としているそうなのですけれども、エストニア国防省は「このペースを維持すれば欧州とアメリカの備蓄は2024年に底を尽きるし、外国から相当な量の砲弾買い入れが必要になる」と指摘しています。


3.徴兵は罰ではなく名誉なのだ


ウクライナが不足しているのは弾薬だけではありません。兵士もです。

12月19日、ウクライナのゼレンスキー大統領はキーウでの記者会見で、「45万人から50万人」を求めていると、ウクライナ軍が最大50万人の追加動員を望んでいると明らかにしました。

ゼレンスキー大統領は、動員について、「非常に深刻な人数」だとし、「ウクライナの100万人強の軍隊はどうなるのか。私たちの国を2年間守ってきた兵士らはどうなるのか。ローテーションや休暇の問題もある。包括的な計画であるべきだ」と述べ、軍の要望に応えるには、計画の「詳細を知る必要がある」と指摘しています。

この記者会見は2時間におよび、ゼレンスキー大統領は幅広い質問を受けたのですけれども、BBCの記者から「ウクライナは敗戦の危機に瀕しているのではないか」との問いに、きっぱりと「違う」と答える一方、政府高官や議員らの汚職に関する報道について問われると、時折、緊張やいら立ちを見せたようです。

ゼレンスキー大統領は、そのほか、「ウクライナは2024年にドローン100万機の製造が可能になる」「ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官とは『協力関係』にある」「ロシアとの和平交渉は現時点では実現不可能。クリミアを含め、ウクライナの国際的に承認された国境の完全回復を目指す」と説明していますけれども、支援の現状を見る限り、現実にそれができるかどうかはかなり疑問です。

兵士の動員について、12月21日、ウクライナのルステム・ウメロフ国防相は、ドイツメディア「ヴェルト」と「ビルト」、アメリカ政治ニュースサイト「ポリティコ」のインタビューで、国外に住む25~60歳のウクライナ人男性に兵役に就くよう求める方針を示しました。

ウクライナは国外に兵士募集のセンターをもたず、誰に対しても、軍への参加を強制できないのですけれども、ウメロフ国防相は、兵役は「招待」であり、「罰ではなく名誉だ」としたものの「自発的に応じない場合にどうするかは、まだ議論中だ」と、応じない人は制裁を受ける可能性を示唆しました。

このインタビューが報じられると、ウクライナ国防省は打ち消しに動きました。現地メディアによると、国防省のイラリオン・パヴリュク報道官は、「国外からの招集については議論していない」と説明。いかなる強制もしないとし、ウメロフ氏のインタビューについて「ポイントがずらされた」と釈明しました。

そして「大臣はウクライナの全国民に対し、どこにいるかに関係なく、軍に加わるよう呼びかけている……招集令状が届かないからといって、ウクライナにとっての脅威がなくなったわけではない。国外にいるウクライナ人にも同じことが言えるのか? もちろんだ」と説明しました。要するに、自発的に兵役に就けといっている訳です。

けれども、現実は思い通りにいくとは限りません。

ウクライナでは昨年2月のロシアによる侵攻後、18~60歳の男性の殆どが出国を禁止されているのですけれども、BBCは、欧州連合(EU)の統計機関ユーロスタットが11月に発表したデータを分析し、ロシア侵攻後、ウクライナを出国した18~64歳の男性で、EU加盟国に向かった人だけでも約76万8000人に上ることが分かったと報じました。

彼らは、危険を冒して川を泳いだり、夜陰に紛れて歩いたりして、国境を越えていったようで、更には、斡旋業者を通じて役人に賄賂を払い、兵役免除の証明書を入手する方法も横行しているのだそうです。

また、BBCは、ウクライナと国境を接する各国から不法入国者のデータを入手。昨年2月から今年8月末までにウクライナから不法入国した男性が、計1万9740人に上ることを確認。出国を試みたが当局に捕らえられた男性も2万1113人に上ることを明らかにしています。


4.同盟国にウクライナ支援させ自らは国内投資のアメリカ


ウクライナ戦争が中々停戦できない理由について、元・高知大学大学院准教授で評論家の塩原俊彦氏は、12月24日付の現代ビジネスへの寄稿記事で次のように述べています。
ポール・ポースト著『The Economics of War』の日本語訳は2007年に刊行された。この『戦争の経済学』を一読して痛感したのは、「戦争で失われた人命の価値」を、(戦争による死者数)×(戦争時点での1人当たりの人命価値)として求める経済学の「冷たさ」であった。

それでも、戦争に経済コストはつきものであり、経済負担の重さが戦争抑止手段の一つなのはたしかだろう。その意味で、戦争の経済的影響を冷静に評価する試みを否定すべきではない。

ポーストは、戦争の経済的影響を評価するためのポイントとして、

1.戦争前のその国の経済状態
2.戦争の場所
3.物理・労働リソースをどれだけ動員するか
4.戦争の期間と費用、そしてその資金調達法

の4つをあげている。これらは、戦争が与える心理的影響と、戦争にかかる実際の資金という現実的影響を考えるうえで役に立つ。

このポーストの分析手法で重要なのは、現実的影響だけでなく、心理的影響に注目している点だ。たとえば、ウクライナ戦争の勃発が人々におよぼした心理的影響は、人々を「怖がらせる」とか、「怯えさせる」という「効果」をもち、安全保障関連の支出増大を促す。世界中で武器や軍備への歳出が増え、それによる軍需産業の利益は莫大になる。逆にいえば、戦争を起こせば、大いに得になると皮算用する連中が世界の片隅にたしかに存在する。そうした連中が多いのは巨大な軍需産業を抱えるアメリカだ。そして、彼らの目論見は成功しつつある。

ウクライナでいえば、2014年2月21日から22日に起きた、当時のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領を武力で国外に逃亡させた事件(米国の支援する反政府勢力によるクーデターだが、欧米や日本のメディアは「マイダン革命」とほめそやしている)以後、クリミア半島がロシアに併合され、東部ドンバス地域で紛争状態に陥ると、むしろ米国の政治家や諜報機関などの中には、ウクライナとロシアの紛争の火種を大きくし、戦争を巻き起こそうとする連中がたしかにいた。

たとえば、「2015年以来、CIA(中央情報局)はウクライナのソヴィエト組織をモスクワに対抗する強力な同盟国に変貌させるために数千万ドルを費やしてきたと当局者は語った」と「ワシントン・ポスト(WP)」は報道している。このCIAの関与はロシアとの戦争のためであり、ウクライナ戦争をアメリカが準備してきた証でもある。ロシアがウクライナ戦争を領土侵略のために起こしたとみなすのは、あまりにも短絡的な思考なのだ。

ここでは、このポーストの分析手法をヒントにして、アメリカの行う「ウクライナ支援」の経済的側面に注目したい。理由は簡単だ。このところ、ジョー・バイデン大統領や国防総省は、「ウクライナ支援」が「米国内への投資」とさかんに言い始めているからだ。「投資」であるならば、どう儲かるかについて分析する必要があるだろう。

その前に、バイデン大統領の発言を確認しておきたい。EU米首脳会議の前夜に当たる2023年10月20日、バイデン大統領はアメリカ国民に向けた演説『Remarks by President Biden on the United States’ Response to Hamas’s Terrorist Attacks Against Israel and Russia’s Ongoing Brutal War Against Ukraine』で、「明日(10月21日)にイスラエルやウクライナを含む重要なパートナーを支援するための緊急予算要求を議会に提出する」とのべた直後に、「これは、何世代にもわたってアメリカの安全保障に配当金をもたらす賢明な投資であり、アメリカ軍を危険から遠ざけ、我々の子供や孫たちのために、より安全で平和で豊かな世界を築く助けとなる」と語った。

さらに、11月18日付の「ワシントン・ポスト」において、彼は、「今日のウクライナへのコミットメントは、われわれ自身の安全保障への投資(investment)なのだ」と明確にのべている。

ほかにも、国防総省はそのサイトに11月3日に公表した「バイデン政権、ウクライナへの新たな安全保障支援を発表」の中で、「ウクライナへの安全保障支援は、わが国の安全保障に対する賢明な投資(smart investment)である」とはっきりと書いている。

どうして「ウクライナ支援」が「賢明な投資」なのかというと、実は、「ウクライナ支援」といっても、実際にウクライナ政府に渡される資金は米国の場合、ごくわずかだからだ。米戦略国際問題研究センターのマーク・カンシアン上級顧問は、2023年10月3日、「「ウクライナへの援助」のほとんどは米国内で使われている」という記事を公表した。

それによると、これまで議会が承認した1130億ドルの配分のうち、「約680億ドル(60%)が米国内で使われ、軍と米国産業に利益をもたらしている」と指摘されている。

12月20日の記者会見で、アンソニー・ブリンケン国務長官は、米国のウクライナ支援の90%は国内で使用され、地元企業や労働者の利益となり、米国の防衛産業基盤の強化にもつながっていると説明した。

米軍のもつ古い軍備をウクライナに供与し、国内で新しい軍備を装備すると同時に、欧州諸国のもつ旧式軍備をウクライナに拠出させ、新しい米国製武器の輸出契約を結ぶ。こうして、たしかに米国内の軍需産業は大いに潤う。

それだけではない。戦争への防衛の必要性という心理的影響から、諸外国の軍事費は増強され、各国の軍需産業も儲かるし、アメリカの武器輸出も増える。

他方で、「ウクライナ支援」に注目すると、欧州諸国や日本はウクライナへの資金供与の多くを任されている。どうやら、これらの国は「ウクライナ支援」が本当の意味での「援助」になっているようにみえる。この「支援」が「投資」か「援助」かの違いこそ、米国が「ウクライナ支援」に積極的な理由であり、ウクライナ戦争の継続を望む「本当の理由」と考えることができるのだ。

「ウクライナ支援」の美名のもとで、本当の「援助」は欧州や日本にやらせ、米国だけは「国内投資」に専念するという虫のいいやり口が隠されている。それにもかかわらず、欧米や日本のマスメディアはこの「真実」をまったく報道しようとしない。
塩原氏によると、アメリカのウクライナ支援とは名ばかりでその9割は国内投資に使われているというのですね。これは驚きです。


5.再選のためのナラティブ


そして、塩原氏はアメリカが戦争の長期化を望んだとして、次のように述べています。
では、アメリカは具体的にどのように「戦争の長期化」に寄与するように働きかけたのか。そこには巧妙な「ナラティブ」が存在した。

こう考えると、なぜウクライナ戦争の和平が実現されず、長期戦になっているかが理解できるはずだ。現に、バイデン政権は過去に二度、ウクライナ和平の契機を潰した(これも、米国に気兼ねしてメディアが報道しないため、あまりに無知な人が多い)。米国内への投資のためにウクライナを援助する以上、ウクライナ戦争を停止するわけにはゆかないのだ。なぜなら軍需産業の雇用が増え、バイデン再選へのプラス効果が出ているからである。再選のためなら、バイデン大統領は手段を選ばない。

第一の和平の契機は、2022年3月から4月であった。ウクライナとロシアとの第1回協議は2022年2月28日にベラルーシで行われ、第2回協議は3月29日にイスタンブールで行われた。ここで課題となったのは、

1.ウクライナの非同盟化、将来的に中立をどう保つのか
2.ウクライナの非軍事化、軍隊の縮小化
3.右派政治グループの排除という政治構造改革
4.ウクライナの国境問題とドンバスの取り扱い

である。

第2回会合の後、双方が交渉の進展について話し、特にウクライナは外部からの保証を条件に非同盟・非核の地位を確認することに合意した。たしかに和平に向けた話し合いが一歩進んだのである(なお、プーチン大統領は2023年6月17日、アフリカ7カ国の代表に18条からなる「ウクライナの永世中立と安全保障に関する条約」と呼ばれる文書を見せた。TASSによれば、文書のタイトルページには、2022年4月15日時点の草案であることが記されていた。保証国のリストは条約の前文に記載されており、そのなかには英国、中国、ロシア、米国、フランスが含まれていた。つまり、相当進展した条約が準備されていたことになる)。

しかし、2022年4月9日、ボリス・ジョンソン英首相(当時)がキーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と会談、英首相はウクライナに対し、120台の装甲車と対艦システムという形での軍事援助と、世界銀行からの5億ドルの追加融資保証を約束し、「ともかく戦おう」と戦争継続を促した。

この情報は、ウクライナ側の代表を務めたウクライナ議会の「人民の奉仕者」派のダヴィド・アラハミヤ党首が、2023年11月になって「1+1TVチャンネル」のインタビューで明らかにしたものだ。もちろん、ジョンソンの背後にはバイデン大統領が控えており、米英はウクライナ戦争継続で利害が一致していた。

それは、ゼレンスキー大統領も同じである。戦争がつづくかぎり、大統領という権力は安泰であり、2024年3月に予定されていた選挙も延期できる。だが、戦争継続は多くの市民の流血を意味する。そこで、和平協定を結ばないようにするには、理由が必要であった。

こうした時系列と文脈の中でブチャ虐殺を考えると、興味深いことがわかる。ここでは、ロシアの有力紙「コメルサント」(2022年4月6日付)の情報に基づいて、ブチャをめぐる「物語」(ナラティブ)を紹介してみよう。

ロシア軍がブチャから完全に撤退したのは3月30日のことだった。その翌日に撮影されたビデオをみてほしい。アナトリー・フェドリュク市長は、同市の奪還を喜びながら宣言している。だが、なぜか集団残虐行為、死体、殺害などには一切触れていない。むしろ、明るい表情でいっぱいであることがわかるだろう。

ところが、ロイター電によると、ブチャ市長は、4月3日、ロシア軍が1ヵ月に及ぶ占領の間、意図的に市民を殺害したと非難したと報じた。これらの時系列が真実だったとして、なぜ、撤退直後ではなく数日後に急に虐殺を非難しはじめたのか。ロシアとの戦争継続のための理由づけとして、ブチャ虐殺が利用されたと一面的には考えることもできる。和平交渉を停止して、戦争を継続する理由としてブチャ虐殺は格好の題材となる。少なくともこんな「物語」(ナラティブ)を想定することができるのだ。

これに対して、2022年4月4日付の「ニューヨーク・タイムズ」は、キーウ近郊のブチャで民間人が殺害されたのは、ロシアの兵士が町を離れた後であったというロシアの主張に反駁するための衛星画像を報じた。これが正しい見方であったとして、しかし同時にこれらの資料が市民殺害の実行犯までを特定することもできないのも事実だ。そしてロシア軍によるブチャ虐殺という物語が伝播するにつれて、ロシア代表が何を言っても、国連安全保障理事会で彼の主張に耳を傾ける者はほとんどいなくなった

その後は実際にわれわれが目撃した通り、バイデンおよびゼレンスキーの訴えた物語は欧米の人々の心を強く打ち、和平交渉の話どころではなくなってしまった。

【中略】

第二の和平の契機は、2022年11月、停戦交渉の必要性を示唆したマーク・ミリー統合参謀本部議長(当時)の和平提案をバイデン大統領が無視した出来事に示されている。

ウクライナ軍が南部の都市へルソンからロシア軍を追放し終えた直後の11月6日に、ミリーはニューヨークのエコノミック・クラブで講演し、「軍事的にはもう勝ち目のない戦争だ」と語った。

さらに、翌週、ミリーは再び交渉の機が熟したことを示唆した。記者会見で彼は、ウクライナがハリコフとヘルソンからロシア軍を追い出すという英雄的な成功を収めたにもかかわらず、ロシアの軍隊を力ずくで全土から追い出すことは「非常に難しい」とまで率直にのべた。それでも、政治的解決の糸口はあるかもしれない。「強者の立場から交渉したい」とミリーは言い、「ロシアは今、背中を向けている」とした。

だが、バイデン大統領はこのミリーの提案をまったく無視したのである。ウクライナの「反攻」に期待した「ウクライナ支援」が継続されたのだ。その結果、2022年のロシア侵攻以来、ウクライナでは1万人以上の市民が殺害され、その約半数が過去3カ月間に前線のはるか後方で発生していると国連が2023年11月に発表するに至る。

もう一度、はっきりと指摘したい。バイデン大統領は「米国内への投資」のために「ウクライナ支援」を継続し、ウクライナ戦争をつづけ、同国市民の犠牲をいとわない姿勢をいまでも堅持している。彼にとっての最重要課題は、彼自身の大統領選での勝利であり、そのためには、米国の軍需産業を儲けさせ、雇用を拡大することが優先事項なのである。

その後のアメリカのさらに不可解な選択は、現在のウクライナ戦争やガザでの状況につながっている。

こうなるとゼレンスキー大統領もバイデン大統領も和平を望んでいないように思えてくる。まず、ゼレンスキー大統領はあえて自ら和平への道を断った。2022年9月30日、ウクライナ国家安全保障・国防評議会の決定「プーチン大統領との交渉が不可能であることを表明すること」を含む決定を同日、ゼレンスキー大統領は大統領令で承認したのである。この段階で、彼は自ら和平交渉への道筋を断ち切ったのである。

他方、バイデン大統領は負ける公算の大きかった反攻作戦にこだわった。だからこそ、2022年11月段階でのミリーの提案を無視したのである。反攻作戦がだめでも、とにかく戦争を長引かせれば、米国内への「投資」を継続し、米国内の労働者の雇用を増やすことができるからである。大統領再選につながるのだ。

2023年9月3日付で、ジョン・ミアシャイマーは、「負けるべくして負ける ウクライナの2023年反攻」という長文の論考を公開した。なお、彼は私と同じく、2014年2月にクーデターがあったことを認め、そこに米国政府が関与していたことをはっきりと指摘している優れた政治学者だ。この尊敬すべきミアシャイマーがなぜ反攻が「負けるべくして負ける」と主張しているのかというと、過去の電撃戦と呼ばれる戦い方法の比較分析から導かれる結論だからである。

ここで強調したいのは、「ウクライナ軍で電撃戦を成功させる任務を負った主要部隊は、訓練が不十分で、特に機甲戦に関する戦闘経験が不足していた」点である。とくに、開戦以来イギリスが訓練してきた2万人のウクライナ兵のうち、わずか11パーセントしか軍事経験がなかった点に注目してほしい。「新兵を4~6週間の訓練で非常に有能な兵士に変身させることなど単純に不可能」であり、最初から負けはみえていたと考えられるのだ。

だからこそ、2023年7月23日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、「ウクライナの武器と訓練不足がロシアとの戦いで膠着状態に陥るリスク 米国とキーウは不足を知っていたが、それでもキーウは攻撃を開始した」という記事を公表したのである。

バイデン政権が人命を顧みないことは、2023年12月8日、ガザでの即時人道的停戦を求める国連安全保障理事会の決議案に拒否権を発動したことによく現れている。2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃に対して、イスラエル軍が過剰な自衛権を行使する事態に陥っているにもかかわらず、あくまで「イスラエル支援」をつづけるバイデン政権はパレスチナの市民の人命を軽視している。

表面上、救援物資の輸送などで人道支援への努力をしているようにみせかけながら、他方で、国務省は12月8日の午後11時、議会の委員会に対し、1億600万ドル以上に相当する戦車弾薬1万3000発のイスラエルへの政府売却を推進すると通告した。この武器輸出は迅速化され、議会にはそれを止める権限はない。

国務省が中東への武器輸送のために緊急事態条項を発動したのは、2019年5月にマイク・ポンペオ国務長官がサウジアラビアとアラブ首長国連邦への武器売却を承認して以来はじめてのことであり、この動きは議員や国務省内部の一部のキャリア官僚から批判を浴びた。

『戦争の経済学』という視角からみると、パレスチナやウクライナの人命価値はアメリカ人のそれよりもずっと低いのだろうか。少なくとも、バイデン大統領はそう考えているようにみえる。そんな身勝手な判断ができるのも、アメリカが覇権国として傍若無人な態度をとりつづけているからだ。世界の警官である覇権国アメリカには、逆らえないのである。

『戦争の経済学』のいう心理的影響は、もちろん、日本にも波及している。2022年に国家安全保障戦略、 国家防衛戦略、防衛力整備計画の3文書を策定した岸田文雄政権は、反撃能力の保有、南西地域の防衛体制の強化といった威勢のいい方針を打ち出している。

2023年度~2027年度の防衛力の抜本的強化のために必要な5年間の支出額は、約43兆円程度とされる(円安を考慮すれば、大阪万博よろしく60兆円にも70兆円にもなりかねない)。たとえば、日本政府はアメリカから巡航ミサイル「トマホーク」なども購入する予定だ。気になるのは、1980年代前半に運用されているトマホークにはさまざまな種類があり、在庫のトマホークを大量に買わされるリスクが大いにある点だ。

オーストラリア政府は、海軍のホバート級駆逐艦のために、米国から約13億ドルで200発以上のトマホーク巡航ミサイルを購入することを決定した。そのトマホークについて、2023年12月に公表された米海軍研究所の論文は、「速度が遅く、射程距離も比較的限られているため、戦時中は一斉射撃の回数が増え、艦の弾倉をすぐに使い果たしてしまう可能性がある」とはっきりと指摘している。豪州も日本も、米国の軍需産業の絶好の「餌食」になっているのである。

それだけではない。日本政府は、12月22日にも改正する防衛装備移転3原則と運用指針に基づき、国内で製造する地対空誘導弾パトリオットミサイルを米国に輸出する。レイセオン社からライセンスを受けて、米軍のパトリオット用のミサイルを製造している日本側は、数十基のパトリオットミサイルを米国に輸出し、その分を米国からウクライナに輸出する。これは、軍需産業が政府と一体化して儲けを優先している(ウクライナ戦争で武器需要を高め、ウクライナへの直接輸出をいやがる日本のような国の意向を米国政府が調整し、事実上、ウクライナへの武器輸出を増やす。つまり、日米政府は武器製造の増加で協力し、国内の軍需産業を儲けさせている)証拠といえるだろう。

世界には、「悪い奴ら」がたくさんいる。どうか、そうした「悪」に気づいてほしい。

【中略】 

ロシアの「悪」についても分析するが、日本のマスメディアが報道しようとしない米国の「悪」について、とくに明らかにしてゆきたい。カネ儲けのために何でもする連中をのさばらせてはならない。
塩原氏は、アメリカがウクライナ戦争を長期化させているのは、バイデン大統領が次の大統領選で勝利するために、米国内への投資という名目の下、アメリカの軍需産業を儲けさせ、雇用を拡大させたいからなのだ、と主張しています。本当であればとんでもないことです。

けれども、仮にバイデン大統領がそう意図してウクライナ戦争を長期化させたのだとしても、現実はまったく上手くいっていません。

モンマス大が12月18日発表した世論調査結果によると、バイデン大統領の仕事を支持するとの回答は34%。回答者の3分の2余りは、インフレと移民問題を巡るバイデン大統領の対応に否定的となっています。

ウクライナ戦争そして、ガザ戦争もですけれども、これらが収束しないまま、果たして大統領選を戦えるのか。それとも、ウクライナ支援を止めて、無理矢理にでも停戦にもっていくことで支持率回復を狙うのか。バイデン政権の動向から目が離せません。



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