エジプトの停戦案とネタニヤフの和平条件

今日はこの話題です。
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1.エジプトの三段階の停戦案


12月24日、エジプトがイスラエルとハマスとの戦闘の終結に向けて3段階の停戦案を提示したことが報じられています。

この停戦案は、ガザ地区でハマスに拘束されている人質の解放を確実にするためのもので、その概要は次の通りです。
第1段階:イスラエルは軍事作戦を1~2週間休止し、ハマスは女性や高齢者を含む人質40人を解放(場合によって3~4週間まで延長)。その見返りに、イスラエルは釈放された人質と同じカテゴリーに該当するパレスチナ人の治安捕虜120人を釈放。この間、ガザに人道援助が入る。

第2段階:イスラエルが収容しているハマスの戦闘員の遺体と、ハマスが収容しているイスラエル人の人質の遺体との交換を行う。

第3段階:包括的な停戦、ハマスとイスラム聖戦と連携したイスラエルの刑務所に収容されている未定の数のパレスチナ人警備捕虜と引き換えに、兵士を含む残りのイスラエル人人質の解放(「全部対全部」の取引)。イスラエルはガザ地区の都市から軍隊を撤退させ、北部から避難したガザ住民が故郷に戻ることを認める。

停戦期間中、エジプトはパレスチナ各派ハマスとパレスチナ自治政府を再統合するための「パレスチナ国民会談」を主導し、将来の選挙に先立ってヨルダン川西岸とガザを運営する専門家政府を共同で任命する。
この停戦案は暫定的なものとみられ、どちらの側も支持を得るのに苦労する可能性があるとも指摘されています。

ジョージ・メイソン大学の紛争解決学教授であるモハメド・チェルカウイ氏は、アルジャジーラの取材に対し、「パレスチナ人は”本格的な停戦(a full-fledged ceasefire)”について話している。イスラエル側は ”休戦(truce)”、"一時停止(pause)"と聞いている」と述べ、イスラエルのネタニヤフ首相も、ハマス撲滅という公約から手を引かなければならないだろう、と付け加えています。


2.我々は止まらない


このエジプトの停戦案について、カイロを訪問したハマスの当局者は25日、ロイターの取材に「ハマスは我が国国民に対するイスラエルの侵略、虐殺と大量虐殺を終わらせようとしている。我々はエジプトの同胞たちとその方法について話し合った……国民への援助は継続し、増額しなければならず、北部と南部の全人口に届けなければならない……侵略が止まり援助が増えたら、捕虜交換について話し合う準備ができる」と、イスラエルの侵略が止まる、つまり「本格的な停戦」が出来ない限り、捕虜交換の話し合いはしない、と突っぱねるばかりか、ガザ地区で現在も拘束されている約130人の人質解放以外のイスラエルへの譲歩について話し合うつもりはないと述べたそうです。

一方、イスラエルのネタニヤフ首相は25日、ガザ市内のイスラエル国防軍兵士らに対し「我々は止まらない。やめようと言う人は誰であろうが拒否する……我々は止まらない。この戦争は最後まで続くだろう。それらを終えるまで。それ以下はない」と語り、極右政党「宗教シオニズム」党首であるベザレル・スモトリヒ財務大臣も、戦時内閣にはそのような計画を承認する「権限はない」と宣言し、戦争終結に同意したり、政府関係者に戦争を許可したりする政府のパートナーにはならないと述べています。

ただ、ヘブライ語メディアは、イスラエルがこの提案を頭ごなしに拒否したわけではなく、エジプトの停戦案が協議の基礎となる可能性を排除していないとも伝えています。


3.我々の問題は移民を受け入れようとする国があるかどうかだ


ネタニヤフ首相は25日、自身が党首を務める与党リクードの会合で、「我々の問題は、退去を許可するということでなく、移民を受け入れようとする国があるかどうかだ」と、パレスチナ自治区ガザの住民を地区外へ自発的に移住するよう促す方針を示したと伝えられています。

また、与党リクードの国会議員ダニー・ダノン元国連大使は25日夜、公共放送のインタビューで「イスラエルは様々な国からガザの難民を受け入れる用意があるとの照会を受けた」と言及。具体的には南米やアフリカの国々だとし、「いくつかの国は金銭の支払いを求め、別のことを要求した国もある」と述べました。

ダノン元国連大使はパレスチナの”難民”を受け入れてくれる国があると、発言したようですけれども、ネタニヤフ首相は内輪の会合で「自発的に移住を促す」と「移住」という単語を使ったとするならば、戦争が終わった後、パレスチナ人が戻ってくることは想定していないことになります。

これに対し、パレスチナ自治政府は「イスラエルの目的がパレスチナ人の存在を消し去ることだと明らかになった」と猛反発。国際社会に対し「民族浄化」をやめるよう求める声明を出しています。パレスチナの立場からみれば当然です。


4.平和のための三つの前提条件


このようにイスラエル戦時内閣は対外的に強硬論を主張しているのですけれども、ネタニヤフ首相は同じく25日、ウォール・ストリート・ジャーナルに「平和のための3つの前提条件」という論説を寄稿しています。

件の論説から一部引用すると次の通りです。
・ハマスは破壊され、ガザは非武装化され、パレスチナ社会は非過激化されなければならない。これらは、イスラエルとガザのパレスチナ近隣諸国との間の和平のための3つの前提条件だ。

・まず、イランの重要な代理機関であるハマスを破壊しなければならない。米国、英国、フランス、ドイツ、その他多くの国は、テロ組織を壊滅させるというイスラエルの意図を支持している。その目標を達成するには、ガザの軍事能力を解体し、ガザに対する政治支配を終わらせなければならない。ハマス指導者らは10月7日の虐殺を「何度でも」繰り返すと誓った。だからこそ、彼らの破壊が、そのような恐ろしい残虐行為の繰り返しを防ぐための唯一の対応なのだ。それができないと、より多くの戦争と流血が確実に発生する。

・第二に、ガザは非武装化されなければならない。イスラエルは、この領土が二度と自国攻撃の基地として利用されないようにする必要がある。とりわけ、ガザ境界線に一時的な安全地帯を設置することと、イスラエルの安全保障上のニーズを満たし、領土内への武器の密輸を阻止するガザとエジプトの境界に検査機構を設置することが必要となる。

・パレスチナ自治政府がガザを非武装化するという期待は夢物語だ。現在、ユダヤとサマリアでのテロに資金を提供し賛美しており、パレスチナ人の子供たちにイスラエルの破壊を求めるよう教育している。当然のことながら、ガザを非武装化する能力も意志も示していない。

・第三に、ガザは脱過激化されなければならない。学校は子供たちに死ではなく生を大切にするよう教えなければならず、イマームはユダヤ人の殺害を説くのをやめなければならない。パレスチナの市民社会は、国民がテロに資金を提供するのではなく、テロとの戦いを支援するように変革される必要がある。

・それには勇気と道徳的なリーダーシップが必要となるだろう。パレスチナ自治政府指導者マフムード・アッバス氏は、10月7日の残虐行為を非難することさえしていない。閣僚の何人かは、殺人や強姦が起こったことを否定したり、イスラエルが自国民に対してこれらの恐ろしい犯罪を犯したと非難したりさえしている。別の人はユダヤとサマリアでも同様の攻撃が行われると脅迫した。

・もし双方がこの協定を本当に嫌っているのであれば、交渉の出発点ができる。

・イスラエルがいくつかの理由でこの提案を嫌うことは明らかだ。ハマスがこの協定を嫌っているのか?

・ハマスが権力を放棄しなければならず、それが何らかの形で強制されるのであれば、おそらく彼らはこの提案を嫌がるだろう。しかし、ハマスに権力を与えないための強制メカニズムはどうなっているのだろうか?

・一方的な提案に未来はない

・一方的な提案に未来はない。エジプト提案の優れた点は、誰もがそれを嫌っていることだ。

・イスラエルが今、その取引を受け入れるとは思わない。

・しかし、ハマスがさらに弱体化した後、特にイスラエルがハマス指導者の全員、あるいは大半を始末することができれば、議論のための真の出発点ができる。

・その代替案は、終わりのない戦争である。

【以下略】
ネタニヤフ首相は、片方に譲歩を迫るような「一方的な提案」には未来はないと断じ、エジプトの提案は、誰もが承服しないものであるが故に「優れている」と評しています。

ネタニヤフ首相は、現時点でエジプト停戦案は受け入れることはできないが、ハマスが弱体化したら、そのチャンスはあると述べていますけれども、条件闘争というか、「一方的な提案に未来はない」といいながら、自分が有利になったら受け容れる、というのは、相手にとっては不利であることを意味しますから、結局は「一方的な提案」になるのではないかと思います。

やはり、ネタニヤフ戦時政権は、ガザ地区からパレスチナ人を排除する野望を捨てていないと見てよいのではないかと思いますね。


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