

1.イスラエルテロに関与したUNRWA職員
1月28日、日本政府は外務省の小林外務報道官が談話を発表し「疑惑を極めて憂慮しており、UNRWA側で調査が行われ、対応策が検討される間、追加的な資金拠出を一時停止せざるを得ないとの判断に至った」として、UNRWAへの追加の資金拠出を一時的に停止すると明らかにしました。
UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)とは、第一次中東戦争後、1949年12月8日に採択された国連総会決議302(IV)により、パレスチナ難民のための救済と事業実施を目的として設置され、1950年5月1日に活動を開始しました。UNRWAは、当時難民となった70万人のパレスチナ人とその子孫に対し、教育、保健、社会サービス 、難民キャンプのインフラ整備・環境改善、保護、小規模金融、緊急支援を提供。パレスチナ難民という一つの難民グループに対し長期的支援を約束している点はUNRWA独特です。パレスチナ難民問題が依然解決されていないため、支援は今や四世代にわたります。
件の声明は次の通りです。
UNRWAは、国連機関として国際社会と協力しつつ、数百万人ものパレスチナ難民を対象に、保健・医療、教育、福祉、食料支援などの不可欠なサービスを提供しており、重要な役割を果たしています。特に現在、人道状況が深刻化の一途をたどっているガザ地区において、UNRWAは住民一人ひとりに必要な人道支援を届けるという不可欠な役割を担っています。このように、昨年10月7日のハマスによるイスラエルへのテロ攻撃にUNRWA職員12人が関与したとの疑惑があり、その対応として、追加の資金供出を一時停止するとうことです。
こうした中で、我が国は、昨年10月7日のイスラエルへのテロ攻撃にUNRWA職員が関与したとの疑惑について、極めて憂慮しています。本件を受け、我が国として、UNRWA側において本件に関する調査が行われ、対応策が検討される当面の間、UNRWAへの追加的な資金拠出を一時停止せざるを得ないとの判断に至りました。
多くのUNRWA職員は、ガザへの人道支援において、献身的に人道支援活動を行ってきています。UNRWAが本来果たすべき役割をしっかりと果たせるよう、我が国は、UNRWAに対し、本件調査が迅速かつ完全な形で実施され、UNRWA内のガバナンスの強化を含め、適切な対応がとられることを強く求めています。
同時に、我が国は、引き続き、他の国際機関等への支援を通じ、ガザ地区の人道状況の改善、そして事態の早期沈静化に向けた外交努力を粘り強く、積極的に続けていきます。
(参考)概要
1月26日、ラザリーニUNRWA事務局長は声明において、イスラエル当局からUNRWAに対し、昨年10月7日に発生したイスラエルに対する凄惨な攻撃へのUNRWAの職員数名の関与の疑いに係る情報提供があったとして、遅滞なく真実を明らかにするために調査を開始する決定を下したと発表。
もっとも、外務省によると、去年11月に成立した今年度の補正予算には、イスラエル・パレスチナ情勢を踏まえたUNRWAに対する支援として、およそ3500万ドルが盛り込まれていたのですけれども、まだ送金はされておらず、この拠出を一時的に停止するということです。
2.真実を明らかにするために調査を開始する
今回の問題は世界各国に波紋を呼び、資金拠出の停止を表明する国が相次いでいます。
アメリカやドイツなどに加えて、28日にはフランスや日本も追加の拠出を停止すると明らかにしていて、停止を表明した国は拠出額の多い国を中心に10ヶ国を超えています。
こうした措置に対し、欧米や日本などに次いで10番目に多い、2500万ドル余りをUNRWAに拠出しているトルコの外務省は「資金提供を停止する一部の国々の決定を懸念している。数人の職員に対する告発による資金拠出の停止で最も損害を受けるのはパレスチナの人々だ」とした上で、各国にUNRWAへの拠出を再開するよう促しました。
また、国連のグテーレス事務総長が、28日「これらの国が抱く懸念は理解しており、私自身もそうした話を聞いてぞっとした気持ちになったが、資金拠出を停止した国の政府に対してUNRWAの活動継続の保証を強く求めていく」と述べる一方、「テロ行為に関わった職員は刑事訴追も含めて責任を取らせる」と明言。関与が疑われる12人のうち「9人の身元を特定した……残る3人のうち1人は死亡しており、2人の特定を進めている」と明かしました。
そもそも今回の疑惑は、1月26日にUNRWA長官フィリップ・ラッザリーニ氏の声明がその発端となっています。その声明 は次の通りです。
UNRWA長官フィリップ・ラッザリーニよりこの声明では「真実を明らかにするために調査を開始する」とする一方、「これらの職員の契約を直ちに解除した」としています。つまり、この時点で、関与が事実であり、その職員も分かっていたということです。おそらく、グテーレス事務総長が「身元を明らかにした」と述べた9人がそれではないかと思われます。
・イスラエル当局は、10月7日のイスラエルに対する恐ろしい攻撃に数名のUNRWA職員が関与した疑いに関する情報をUNRWAに提供した。
・人道支援を提供する政府機関の能力を守るため、私はこれらの職員の契約を直ちに解除し、遅滞なく真実を明らかにするために調査を開始する決定を下しました。テロ行為に関与したUNRWA職員は刑事訴追も含めて責任を問われることになる。
・UNRWAは、10月7日の忌まわしい攻撃に対する可能な限り強い言葉で非難を繰り返し、イスラエル人人質全員の即時無条件解放と家族への安全な帰還を要求する。
・これらの衝撃的な申し立ては、ガザの200万人以上の人々が戦争が始まって以来、政府機関が提供してきた人命救助に依存している中で生じたものである。国連の基本的価値観を裏切る者は、ガザ、地域、そして世界中の他の場所で私たちが奉仕している人々を裏切ることになる。
3.資金拠出再開を要請
今回の事件で、10ヶ国がUNRWAへの資金供出を停止した訳ですけれども、UNRWAのラザリーニ事務局長は、9ヶ国が供出を停止した27日、「複数の国がUNRWAへの支援停止を決定したため、命を救う私たちの支援活動が終わろうとしている……本日をもって9カ国がUNRWAへの資金拠出を一時停止した。その決定のため、この地域全域と特にガザ地区における人道支援活動の継続が、脅かされている……少数の職員に対する疑惑への反応で、当機関への資金拠出が停止されるのはショッキングだ。UNRWAはその職員たちの契約を切り、第三者機関による透明性のある調査を依頼するといった対応を、ただちにとったにもかかわらず、拠出停止となった」と反論しました。
更に、ラザリーニ事務局長は「UNRWAはガザにおける主要な人道支援機関で、200万人以上がただ生き延びるためにUNRWAを必要としている。飢饉が迫りくるなか、大勢が空腹を抱えている。UNRWAの避難所には100万人以上が暮らしている……一部の人間が犯罪行為で疑われているからといって、この機関と一つのコミュニティーの全員を制裁するなど、まったく無責任なことだ。特に、戦時において。この地域全体で大勢が住む場所を失い、政治的危機が起きている最中において……UNRWAはその全職員の名簿を毎年、イスラエルを含むホスト国と共有している。特定のスタッフについて懸念を指摘されたことは一度もない」とのべ、国連事務局の内部監査室がすでに「極悪な疑い」について調査に着手していると説明しています。
このような国連側の態度にイスラエルはブチ切れています。
イスラエルのエルダン国連大使は、テロ行為に関与した疑いがあるUNRWAの職員全員に対する徹底した調査を要求するとともに、グテレス氏がUNRWAへの資金拠出継続を促したことについて「グテレス氏にとってイスラエル国民の安全は全く重要でないことがまたしても証明された」と強く反発しました。
また、イスラエルのネタニヤフ首相の顧問のマーク・レゲヴ氏は26日にBBCに対して、昨年10月のハマスの攻撃には「(UNRWAから)給料を支払われている複数の人物」が関与していたと明かし、UNRWAが運営する学校で働く教師たちが、ハマスの攻撃を「公然と祝った」のだと語り、ハマスに拉致された後に解放された女性が、「UNRWAで働く人の家で捕らわれていた」と発言したことに言及。「ハマスが束ねる労組もある。国連はもういい加減、UNRWAとハマスのつながりを調査するべきだ」と述べています。
更に、イスラエルのイスラエル・カッツ外相は、今の戦争が終わった段階で、ガザ地区でのUNRWAの活動をやめさせるつもりだとコメントしています。
イスラエルの反発を見る限り、たとえ国連が関与したとされる12人を特定して処断したとしても、それで納得してくれるのどうかは分かりません。
4.利権に塗れたUNRWA
これまで、UNRWAへの資金供出のトップ3は、アメリカ、ドイツ、EUなのですけれども、2022年の拠出予算総額は約10億5500万ドルで、そのうち米国が約3億4400万ドルで全体の32.6%を占め、ドイツ(19.2%)、EU(10.8%)、スウェーデン(5.8%)、ノルウェー(3.2%)、日本(2.9%)、フランス(2.7%)、サウジアラビア(2.6%)と続いています。
アメリカ国務省は、UNRWA職員についてイスラエルが指摘する疑惑を「非常に憂慮」しているとし、EUも「全面的かつ包括的な調査の結果をもとに」今後の対応を判断するとコメントしています。
UNRWAのラザリーニ事務局長は、一部の人間が犯罪行為で疑われているからといって、UNRWA全部を制裁するなど無責任だ、と反論していますけれども、果たして一部の人間だけなのかどうかという観点もあります。
イスラム思想研究者の飯山陽氏は、外務省がUNRWA支援をやめない理由として、供出額とUNRWAのポストが比例しているとし、UNRWAにお金を流せば流すほど、UNRWAの専門職員として日本人を送り込むポストを確保でき、その分財務省からの予算も引っ張ってこれるという、要するに利権絡みだと指摘しています。
もちろん、これが日本だけの問題ではない可能性もありますけれども、であれば尚のこと実態解明をしなければならないと思います。
国連はイスラエルに対し、停戦決議やガザ地区への人道支援拡大決議などしていますけれども、それを求める以上、自分の身も正していかなければ、説得力に欠けることになります。
70年を超える活動を続けているUNRWAですけれども、その意義は認めるにしても、内部に腐敗がないのか、この機会に総ざらいしてみるべきかもしれませんね。

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