「セクシー田中さん」原作者自殺

今日はこの話題です。
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1.「セクシー田中さん」原作者自殺


1月29日、10月期に日本テレビ系で放送された連続ドラマ「セクシー田中さん」原作者で漫画家の芦原妃名子さんとみられる女性が、栃木県日光市の川治ダムで遺体で発見され騒ぎとなっています。

前日の28日午後4時頃、関係者が警視庁大崎署に芦原さんの行方不明届を提出。栃木県に行っているとの情報があり、栃木県警と連携して捜索していたところ、29日に遺体を発見。身分証が見つかり、親族に確認してもらったところ本人と確認。自宅からは遺書が見つかっており、自殺を図ったと見られています。遺書は数行で行方をくらませた理由などが書かれていたようです。

芦原さんは兵庫県出身の漫画家。1994年、「別冊少女コミック」に掲載された「その話おことわりします」でデビュー。「砂時計」は第50回小学館漫画賞少女向け部門を受賞。累計発行部数700万部を超える大ヒット作となり、ドラマ化、映画化もされました。

2017年からは「姉系プチコミック」で「セクシー田中さん」の連載を開始。2023年10月には日本テレビ系列でドラマ化。口コミで「面白い」と広がり、12月10日に放送された第8話のコア視聴率(13歳~49歳)は3.4%を記録し、同日に放映されたTBS日曜劇場「下剋上球児」第9話の3.2%を超えました。

ところが、「セクシー田中さん」最終回の放映後の「エンドロールで『脚本・相沢友子(第1話~第8話)、芦原妃名子(第9話、最終話)』と記されており、一部で『何があったんだ?』と囁かれていたそうです。

芦原さんは1月26日午後、自身のXを更新し、ドラマについて説明。『セクシー田中さん』は連載中ということもあり、ドラマ化には「必ず漫画に忠実に」、ドラマ終盤は原作者があらすじからセリフまで用意する、などの条件を出し、日本テレビ側もそれを確認していたそうなのですけれども、それにもかかわらず、毎回、原作から大きく逸脱した脚本が提出され《枠にハマったキャラクターに変えないでいただきたい。私が描いた「セクシー田中さん」という作品の個性を消されてしまうなら、私はドラマ化を今からでもやめたいぐらいだ」と、何度も訴え》たのだそうです。

芦原さんによると、7話まではほぼ原作どおりの脚本に仕上がったものの、芦原氏が準備した8~10話の脚本は、またも大幅に改変されたものが提出された――などと経緯を明かしています。

その結果、9・10話については、芦原さん本人が脚本を担当したようで、芦原さんは《素人の私が見よう見まねで書かせて頂いたので、私の力不足が露呈する形となり反省しきりです。(中略)9話、10話の脚本にご不満をもたれた方もいらっしゃるかと思います。どのような判断がベストだったのか、今も正直正解が分からずにいますが、改めて、心よりお詫び申し上げます》とコメントしています。


2.批判される人達


芦原さんの訃報に日テレは29日、「セクシー田中さん」の公式ページで「芦原妃名子さんの訃報に接し、哀悼の意を表するとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。2023年10月期の日曜ドラマ「セクシー田中さん」につきまして日本テレビは映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております。本作品の制作にご尽力いただいた芦原さんには感謝しております。」との追悼コメントを公表しています。

更に、日テレ公式ページでも次のようなコメントを発表しています。
芦原妃名子さんの訃報に接し、哀悼の意を表するとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。日本テレビとして、大変重く受け止めております。
ドラマ「セクシー田中さん」は、日本テレビの責任において制作および放送を行ったもので、関係者個人へのSNS等での誹謗中傷などはやめていただくよう、切にお願い申し上げます。
また、ドラマの1~8話の脚本を担当した相沢友子氏は、自身のInstagramでこの件について次のように言及しています。
12/24:《最後は脚本も書きたいという原作者たっての要望があり、過去に経験したことのない事態で困惑しましたが、残念ながら急きょ協力という形で携わることとなりました》
12/28:《今回の出来事はドラマ制作の在り方、脚本家の存在意義について深く考えさせられるものでした。この苦い経験を次へ生かし、これからもがんばっていかねばと自分に言い聞かせています。どうか、今後同じことが二度と繰り返されませんように》
相沢氏は、このように原作者とのトラブルがあったことを明らかにしているのですけれども、SNSでは次のような相沢氏に対する批判が多数書き込まれています。
《原作クラッシャーで、原作者や原作ファンを毎回怒らせ炎上するのに、仕事が入る相沢友子さん。彼女を脚本家として起用したの誰? ミステリと言う勿れの改悪で、観るの辞めたし、同じ脚本家の時に万城目先生も嘆いてたよね。セクシー田中さんはラスト2話があったかく感じてたけど、なるほどなー。》
《セクシー田中さん、すごく面白くてモヤモヤする所もなくて、田中さんや朱里が前を向いたのもよかったし、何より小西がめちゃくちゃよくて前田公輝ハマってるしいい役もらったねー!とか思ってたら、こんな裏側があったとは!原作者様がこんなに頑張ったおかげとは ドラマ化による改悪絶対許さん》
《ミステリと言う勿かれで、風呂光さんのキャラクターを改悪したことと、愛珠を妹設定に改悪したことは、絶対許さん!原作へのリスペクトがあれば、あんな設定の脚本に仕上がる訳がない。セクシー田中さんの件で怒りがぶり返してきた!》
《日本のドラマはなんでもかんでも恋愛要素入れすぎだよ》
これらについて、あるテレビウオッチャーは、「とくに多いのは、『ミステリと言う勿れ』で、原作にはない恋愛要素を入れたことに対する批判ですね。ただ、『田中さん』にも言えることですが、恋愛要素を入れ込むのは脚本家というより、テレビ局の要望だと思われます。ドラマ化には必要だという思い込みなのでしょうが、原作のファンにとっては、作品を侮辱するに等しい行為だということでしょう」とコメントしています。

一方、《芦原妃名子さんが亡くなったの関係者のせいっていうポストみたけど、本人が相手を攻撃したかったわけじゃないのに、SNS民が相手方をこぞって叩きに行って事を大きくし収集つかなくなっちゃったことに追い詰められた可能性もあるのでは… 》とか《確かに脚本家は良くなかったけど、芦原妃名子さんが出した意見をとにかく拡散して脚本家を攻撃して、それを見て更に辛くなったのが真実じゃないのか。》とか、《この件、私にはネット民の脚本家に対する過剰な叩きに芦原妃名子さんが責任を感じてしまったように見えるんだけど、「脚本家のせいで自殺した!」とさらに脚本家さんを叩く流れになってるの本当に最悪だ やめなよ 自分たちのやっていることの愚かさに気付いてよ》など、脚本家を叩くのは筋違いだという書き込みもあります。


3.原作クラッシャー相沢


前述した脚本家の相沢友子氏を批判するSNSコメントに「原作クラッシャー」という単語がありますけれども、著作家の山本一郎氏によると「業界の扱いの問題としてはあるあるな一方、『ビブリア古書堂の事件手帖』『ミステリと言う勿れ』などにおいてはある種の原作クラッシャー的な作風が指摘される脚本家の一人です」と述べています。

この「原作クラッシャー」問題について、その山本一郎氏は自身のnoteで次のように述べています。
【前略】
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というのも、日本テレビ側に対して小学館サイドも担当編集だけでなく局長も入って著者の主張する原作の作風を守るために「この作品の構成はないだろう」という注文をかなり付けていたようで、これ自体、ドラマ制作の方面からするとある種異例なことです。その点で、小学館ご担当者と日本テレビの間では一定の意志疎通はあった、と認識しています。

実際、テレビ局からすると話題となっている原作については原作権を取り付けた後はテレビなど映像作品にしやすいように脚本家がプロデューサーチームなどと一緒に視聴者のフックになる表現を創出し上乗せすることが、いわば当然のプロセスとなっているうえ、力関係的に原作権を持つ作家やその窓口である出版社に対してはニュアンス的に「原作を使ってやっている」という立場になることも多々あります。世にあるドラマなど映像作品での原作レイプ事案というのは、原作に対するリスペクトが薄いというよりも、テレビでウケる制作内容に改変することをある程度込みで原作利用の許諾を得ることもまた多いのです。今回も、著者の芦原さんの認識とは別に、この手の話ではまあこういうことであるという目分量が関係各位の間で異なっていたというのが悲劇のトリガーだったのではないかと感じるのです。

また、日本テレビ側と小学館側とで、芦原さんの決断にまつわる事情について見解や認識している事実関係が異なっているようで、また、業界的には原作の翻案・改造は純粋にあるあるであって、発注を受けた脚本家の相沢友子さんも原作者からのクレームで脚本を10話中終わりの2話分降ろされたことについては率直に不快感を示しています。

個人的には「漫画家は繊細だからそういうことでストレスを感じ、重い決断をしてしまうのだ」という話で収めていい話とはどうしても思えず、一方で、界隈が割と率直に「気持ちは分かるけど、そんなことで死んじゃったりするのかね」というのは「日テレが(原作レイプを常習的にやってきた)相沢友子を脚本で使うとなった段階で小学館は分かっていたはずだから、そこでさっさと原作を引っ込めるべきだった」という声が複数聞かれるのも一般的にフォーメーションやキャスト案が出た段階で原作者側(出版社担当)が原作利用に所定の条件をつけることが多々あるからに他なりません。

特に原作レイプで頻出する「原作にない設定や展開、キャラクターなどを挿入することで作品に新たな解釈を加える」のは、小説や漫画が映像化される場合に尺の問題や表現の惹きのところで原作そのものが抱える物語展開のフックの少なさに課題がある場合もあるからです。しかし、原作が意図を持って恋愛事情を省いて男だけの描写で済ませている作品に恋愛沙汰をぶっ込むような形で原作レイプが行われ原作ファンが怒っても、その恋愛沙汰がないと一般の視聴者が「なんやこのドラマ、味気ないな」と言われればテコ入れでもレイプでも何でもやって視聴率そのものや視聴質を引き揚げようとする、なんてことはよくあるのです。

【以下略】
山本一郎氏によると、原作のテレビドラマ化で「原作クラッシャー」あるいは「原作レイプ」は、業界的には普通にあることで、それは視聴者を引き付けるためにやっているのだ、というのですね。


4.原作レイプの原因


また、この「原作レイプ」問題について、評論家の岡田斗司夫氏は自身の動画で次のように述べています。
・原作レイプ問題って言われてるやつだよね。
・テレビドラマ版のデスノートでは主人公の矢神ライトが漫画版では天才高校生で、天才高校生だからそこそ世の中の曲がったものをデスノートっていうテロリズムで直そうとするって話が僕らの心にすごいこう迫ってくるわけじゃない。
・じゃあこれをテレビドラマ化するというのは、エグザイルかっこいいとか、なでしこジャパンきっと勝てるよと同じで、どうやって大衆に重ねるのかっていう話。
・大衆に重ねる話をする時に高校生がテロリストの話なんか作れるはずがない。どこのアイドル事務所が出演OKしてくれるのか。
・これテレビでやるためのギリギリのラインとして。アニメだったら深夜ですとか、アニメです絵面見てください。絵でしょと、見てる人は本気で見ませんよて
エクスキューズはできるからまだ原作に近いデスノートはオンエアせてもらえた。「もらえた」だよ。
・でもドラマにして現実の役者さんたちが出て、その役者さんたちは生涯そのイメージで見られるっていうの含めて考えたら、主人公がテロリストの高校生の話をハウス食品とかがスポンサーでオンエアできるはずがねえよ。
・なのでアイドルオタっていうのはまた左端から右端に振りましたねて、えぐい幅だけどもありだと思うけどね。
・じゃあやんなきゃいいのにということでやらないわけにいかないほど現在のドラマっていうのは、市場が豊かなわけじゃないわけですよ
・ハリウッド映画見てみたらマーベルとかさ昔やった映画の焼き直しとかパート2ばっかり。
・本当にドラマっていうのってあまりに予算がかかりすぎるようになったので。
・YouTubeとかニコ生とかこういうところでドラマをもしくは民放は1本あたり1000万とか今1500万ぐらいになってんのかな。そしたら60分ものいわゆる50分フォーマットのものだったら2500万ぐらいかかってるかもわかんないね。
・ドラマに代理店含めて企画通す時にオリジナルとか小説とかって言っても、もう小説も危ないやつばっかり。
・下手に大丈夫そうかなと思ったら、百田さんみたいに原作者が他所で何言うかわかんないからさ。そんなリスキーなことできない。
岡田氏もドラマ制作費を回収するためと、コンプライアンスというか、一般に受け入れられるラインを考えると変更せざるをえないのだ、ということのようです。

これらを見ていくと、筆者は海外と日本の漫画におけるポリコレの対応を連想しました。以前、どっかのSNSで、海外の漫画は作品一つ一つにポリコレへの配慮がされたものばかりなのに対し、日本は右から左から上から下まで、いろんな方向に"尖った"作品はあれど、全体としてみればポリコレに配慮されたものになっているという書き込みをみて、なるほどなと思ったのですけれども、そういった日本の漫画文化と一般のテレビドラマでの許容度の違いとそれに対する作者とドラマ作成側の認識のズレが今回のような悲劇を生んでしまったのではないかという気がします。




5.漫画とテレビの市場の違い


では、この問題はどうしていけばよいのか。

今回の問題について、漫画家で参議院議員の赤松健はSNSで次のようにコメントしています。
あってはならない事が起こってしまった。漫画や小説のメディアミックス企画(アニメ化やドラマ化)では、昔から頻繁に「原作者の望まない独自展開やキャラ変更」などが問題になってきた。もっとも近年は「原作者へのまめな報告や根回し」が行われるようになり、昔のような「原作者が協力を拒否して(オリジナル企画へと)タイトル変更」などというような事は少なくなってきたと思う。特にここ数年は「原作そのまま(アングルなども漫画そのまま)」でアニメ化ドラマ化する傾向が強まり、原作ファンからの不満も相当減ってきている印象だ。
しかし、それでもまだまだ「(原作者への)事前説明の徹底」と「二次使用に関する契約書」の詰めが甘いということだ。この2点は主に出版社と制作側(製作委員会など)側の問題だが、原作者側でも「事前の説明で納得がいかなかったり、後から約束と違うようなことがあった場合の相談場所やその知識」が必要になってくると考える。
また、脚本家がオリジナリティを発揮できない(やり甲斐が少ない)ことも創作の職業としては問題で、ここにどう折り合いをつけていくのか、業界団体(や場合によっては議員チーム)で検討する組織体を作るべきだ。そして今回に関しては、脚本家を責める流れになってはならない。
赤松氏は、原作者側も「『事前の説明で納得がいかなかったり、後から約束と違うようなことがあった場合の相談場所やその知識』が必要になってくる」と述べていますけれども、極端なことをいえば、原作をドラマ化する場合には、必ず「代理人」を立てて、違約したときには、ちゃんと違約金をとれるような「契約」をきちんと結ぶべきではないかと思います。

メジャーリーグの選手の契約なんかだとよく年俸額だけが話題になりますけれども、年俸以外にも、「打席数に応じた出来高額として〇万ドルを上乗せ」とか、「本人および奥さんに通訳を付ける」とか「日本とアメリカを往復する際の費用を、チームが負担する」などという付帯条項を付ける選手もいます。

そのように、たとえば、「原作にないオリジナルストーリーは禁止する」とか「原作からセリフを変えたら、一つの変更につき何百万支払う」とか、契約で雁字搦めにしてから使用許諾をするといったことで折り合いをつける方法があるかもしれません。

もっとも、漫画家の山田玲司氏は自分の納得いく作品でなければ断るなどと言い切れる漫画家は余程自分の作品が売れるという自身がないと口にはできず、そんなことができる人は少数だ、と指摘しています。

あるいは、最初から広く一般を対象にせず、超低予算の作品だけどポリコレにも過度に配慮しなくていいような媒体でのみドラマ化を許諾するとかなど、要するに、漫画とドラマでは、最初から市場が全く違うのだ、という認識を土台にして考えてみるべきではないかと思いますね。


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この記事へのコメント

  • 簑島

    ロボテックぅ
    2024年02月01日 10:15