武豊火力発電所の火災と微生物

今日はこの話題です。
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1.武豊火力発電所火災


1月31日午後3時14分頃、東京電力と中部電力が出資している電力会社JERAの武豊火力発電所で、火災・爆発事故が発生しました。

1回目の爆発のあとに、隣の建物からも火と黒い煙が上がったのですけれども、火はおよそ5時間後に消し止められました。警察や消防によりますと、けが人や逃げ遅れた人はいないということです。

JERAによると、ボイラー囲い周辺から発煙を確認し、燃料である石炭や木質バイオマスを搬送するベルトコンベヤーにおいて火災を確認したとのことです。

武豊火力発電所は、愛知県武豊町の名鉄河和線富貴駅の南東500メートルほどの海に面した場所にあり、西側には知多半島の先へ続く国道247号が通っています。

武豊火力発電所は、1966年に1号機、1972年に2号機から4号機が運転を開始し中部地域の電力の安定供給に大きな役割を果たしてきたのですけれども、老朽化に伴って、1号機から4号機はすでに廃止。代わりに環境への配慮などから石炭と木質バイオマスを混ぜて燃やす新たな設備を導入し、2022年8月から5号機として運転を開始しています。

燃料となる石炭や木質バイオマスは貯蔵施設からベルトコンベヤーでボイラーの周辺へと送られ、こまかく粉砕された上でボイラーで燃焼され、発生した蒸気がタービンを回し、発電する仕組みです。

発電の出力は、一般家庭でおよそ240万世帯分にあたる107万キロワットに上り、国内最大級の発電能力だということです。

今回、ボイラーの周辺で煙が確認され、ベルトコンベヤーで火災が発生したのですけれども、資源エネルギー庁やJERAは、これまでのところ原因は不明だとしています。




2.木質ペレット


武豊火力発電所5号機は、燃料として、石炭に木質バイオマスを混ぜたものを使い、効率の高い発電設備を採用しています。

昨年行われた、第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)での成果文書に「世界全体の再生可能エネルギーの発電容量を2030年までに現状の3倍に拡大する」と謳われましたけれども、日本の発電は、火力発電が主体で発電電力量に占める再エネ比率は約20%と、欧州などと比べて低い水準にとどまっています。

その対策の一つとして、太陽光発電と並び発電電力量が伸びているのがバイオマス発電なのですけれども、武豊火力発電所5号機はそのバイオマス発電で火災事故を起こした訳です。しかも、武豊火力発電所の火災は今回が初めてではありません。2023年1月に構内の揚炭桟橋において、燃料を搬送するベルトコンベヤーで発煙。2022年9月にも構内のベルトコンベヤーからの発煙事故がありました。いずれも、消火活動により発生日当日には鎮火しています。

では、武豊火力発電所が悪いのかというとそうでもありません。他のバイオマス発電でも火災事故が起こっています。

下表は、直近で起こった他の発電所での火災事故を示したものですけれども、直近では2023年9月9日に、中部電力などが出資する米子バイオマス発電所で発生しています。2023年に入ってからは、大阪ガスグループの袖ケ浦発電所や関西電力の舞鶴発電所といった大規模発電施設で火災が起きています。

これらの事故は、いずれもバイオマス燃料となる木質ペレットが起因となっており、しかも発電設備そのものではなく、直接に燃焼には関わらない、燃料を受け入れたり搬送したりする設備や貯蔵設備で起きている共通点があります。

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3.自然発火のメカニズム


木質ペレットが勝手に燃えるなんてことがあるのか。

これについて、2009年5月に財団法人電力中央研究所が「木質ペレット貯蔵時の自然発火性に関する調査」という報告書を出しています。

報告書では「木質ペレットの水分濃度が高くなると、微生物による発酵熱が生じ、これが蓄熱されるとさらに自然酸化により発熱し、発火に至る」とされ、吸湿性がある木質ペレットが15%以上の水分を含んでいると発酵し、また周囲温度が65℃程度になると自然酸化による発熱が生じるとしています。

報告書によると、自然発火のメカニズムは次の通りです。
1)45℃程度までは、酸素、中温性微生物による発熱(生物的酸化)が生じる
2)45~65℃程度の範囲では、好熱性微生物による発熱(生物的酸化)が生じる
3)65~105℃程度の範囲では、科学的酸化による発熱が生じる
4)105℃を超えると科学的酸化が急速に進み、発火に至る。
このように中温性微生物、好熱性微生物、科学的酸化と、まるでバトンリレーのように温度が上がり、最後には発火に至ることが実験で示されています。

前述した直近で起こった他の発電所での火災事故でも、煙が上がってから発火したという記述が多いことから、木質ペレットが付着した微生物を起因として発火した可能性はあると思います。

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4.舞鶴発電所の火災調査結果


前述の他発電所の火災事故でも当然ながら原因調査されているのですけれども、昨年12月26日に関西電力舞鶴発電所で起こった火災事故についての調査結果が報告されています。

その報告を次に引用します。
舞鶴発電所 バイオマス燃料供給設備における火災の調査結果および当社の対応について

舞鶴発電所(京都府舞鶴市、1、2号機合計出力180万キロワット)のバイオマス燃料供給設備※1において、3月14日21時52分に火災が発生しました。当社は4月3日、「舞鶴発電所バイオマス設備火災事故対策検討会」(以下、検討会)を設置し、火災の原因究明と再発防止対策の具体化・推進を行ってきました。

本件について、バイオマスサイロ内に残った燃料の搬出後に当社および関係機関による現場確認を行い、当社の検討会において、発生経緯および原因、再発防止対策を以下の通りとりまとめました。

1.発生経緯
バイオマスサイロ内にある燃料の一部が、発酵・酸化により発熱し、酸化の進行により発生した可燃性ガス※2が、サイロ内および燃料をボイラへ運搬する設備内に滞留しました。その後、発熱が進んだサイロ内の燃料が運搬用のコンベアに払い出された際に自然発火し、可燃性ガスに引火して火災に至ったものです。

2.原因
当社は、バイオマスサイロ内に温度計や可燃性ガス濃度計等を設置し、発熱の予兆を監視するとともに、これらが異常値を感知した際に使用する燃焼防止の窒素封入設備や水噴霧消火設備を備え、防火対策を図っていました。
本件は、バイオマス燃料が発酵・酸化により発熱・発火に至るメカニズムの認識不足により、燃料の管理方法が不適切であったこと、燃料の監視精度および防火対策の運用ルールが不十分であったことが原因であると考えています。

3.再発防止対策
今回検証した発生経緯と原因を踏まえ、バイオマス燃料の管理方法を見直し、監視設備の増設および防火対策の運用ルールの改訂を行います。
当社は、再発防止を徹底し、発電所の安全・安定運転に全力を尽くしてまいります。
※1:舞鶴発電所では石炭とバイオマス燃料を混焼しており、バイオマス燃料として用いる木質ペレットをボイラへ供給している設備。
※2:一酸化炭素およびメタンガス。
「燃料の一部が発酵・酸化により発熱」とハッキリ記載されています。わざわざ「発酵・酸化」という言葉を使っているところをみると、やはり前述した電力中央研究所の報告書にある微生物による発酵と酸化というプロセスで発火した可能性は高いと思われます。

そして、発生した一酸化炭素およびメタンガスが設備内に滞留。自然発火した燃料がそのガスに引火して燃え上がった、ということのようです。

報告では、再発防止策として次の3つを挙げています。
(1)燃料の管理方法の見直し
・受け入れたバイオマス燃料の品質に応じて、適切に消費する。
・発酵等のリスクのさらなる低減を目的に、燃料の購入時に求める水分等の基準値を見直す。

(2)監視設備の増設
・発熱の監視精度向上のため、サイロ出口等に温度計を増設。
・燃料をボイラへ運搬する設備内に可燃性ガス濃度計を増設。

(3)防火対策の運用ルールの改訂
・窒素封入や散水冷却などの防火対策について、バイオマスサイロ内の温度上昇だけでなく、発熱の際に発生する可燃性ガスの濃度上昇も実施基準に追加する。
1)の燃料の管理方法の見直しで「購入時に求める水分等の基準値を見直す」とありますけれども、先述した電力中央研究所の報告書では「木質ペレットが15%以上の水分を含んでいると発酵する」とあることを受けての対策ではないかと思われます。やはり、舞鶴発電所も微生物が原因だと認識しているようです。

また、今回の武豊火力発電所の火災では、爆発が起こったと報じられていますけれども、これについても2023年9月9日、中部電力などが出資する米子バイオマス発電のバイオマス発電所で爆発を伴う火災事故が発生しています。

こちらは、燃料である木質ペレットを受け入れる建屋の鉄骨の壁が吹き飛び、貯留タンクに木質ペレットを運ぶためのバケットエレベーターも損傷したそうですけれども、爆発については、短時間に連続的に発生したことから、木質ペレットが要因となった粉塵爆発が起きたのではないかとも見られています。

これらをみると、今回の火災もやはり同じ原因の可能性が高いと思いますけれども、同じような火災事故が他で何度も起こっているにも関わらず、今回の火災が割と大きく報じられていることに、筆者は若干の違和感を覚えました。まぁ、穿ちすぎかもしれませんけれど……。

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