アメリカの緩い報復と自重するイラン

今日はこの話題です。
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1.イラクとシリアに報復攻撃


2月3日午前6時、アメリカ中央軍はイラクとシリアの領内で活動するイラン革命防衛隊の「コッズ部隊」や、それに関係する武装グループに対して空爆を行ったと発表しました。

標的は85ヶ所以上におよび、武装グループの指揮所や、ミサイル、無人機などの関連施設が含まれているとしています。

攻撃の一部は、アメリカ本土から飛び立った長距離爆撃機が行ったほか、125発以上の精密誘導弾を使用したということです。

また、中東シリアの情報を集めているシリア人権監視団は、2日、イラクと国境を接するシリア東部デリゾール県で、複数の空爆が行われたと明らかにしています。

この地域にはアメリカやイスラエルと敵対するイランの支援を受ける民兵組織が活動していて、今回の空爆でこれまでに民兵組織の拠点など17ヶ所が攻撃を受け、戦闘員13人が死亡したとしています。

こうした攻撃についてアメリカ政府当局者は先月28日にヨルダンでアメリカ軍の拠点が攻撃されて、兵士3人が死亡したことに対する報復だと明らかにしています。

また、2日、アメリカのバイデン大統領は「私の指示により、アメリカ軍は、イランの革命防衛隊と、関連する武装組織が使用するイラクとシリアにある施設を攻撃した。われわれが選ぶタイミングと場所で、攻撃は続く」と、報復措置を断続的に続けるという考えを示す一方、「アメリカは中東などで紛争を望んではいない。しかし、アメリカ国民に危害を加えれば、われわれは対応する」と強調し、イラン領内での直接的な攻撃は避けたものとみられています。


2.回避したイランとの直接対決


今回の攻撃は、今後どのような影響を与えるのか。

これについてNHK国際部の戸川デスクは次のように解説しています。
Q. 今後、攻撃の応酬がエスカレートするおそれは?

その可能性含め、今後の情勢を見ていく必要がありそうです。

アメリカのオースティン国防長官は1日「われわれの対応は重層的なものになる」と述べ、攻撃が一定期間続くことを明らかにしています。

つまり、今回の攻撃だけで終わらない可能性があるということです。

ただ、アメリカ側はこの地域で緊張が高まることは避けたいという考えです。

今回攻撃あった場所、これまでの情報だと、イラクとシリアの領内、つまり、イラン領内は含まれていません。

アメリカもイランとの直接的な緊張の高まりは避けたい考えです。

そのイランは、ヨルダンでの攻撃について関与を否定しています。

その上で、地域で緊張が高まっている責任は、ガザ地区への軍事作戦を続けるイスラエルや、支援するアメリカ側にある、とする考えを示しています。

中東各地では、イランが支援する「抵抗の枢軸」と呼ばれる武装組織のネットワークが、イスラエルやアメリカへの対決姿勢を掲げています。

▽パレスチナの「ハマス」や、▽レバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」、▽紅海で船舶への攻撃を繰り返している、イエメンの反政府勢力フーシ派、そして、▽イラクやシリアの親イランの民兵組織です。

アメリカもイランも、ともに緊張の高まりは望んでいないとしても、こうした勢力が独自の判断でイスラエルやアメリカへの攻撃を拡大させるおそれもあり、報復の応酬によって、中東の情勢がいっそう不安定化する懸念があります。

Q. イスラエルとハマス 停戦交渉に与える影響は?

イスラエルとハマスの間の戦闘休止と人質の解放に向けた交渉が進んでいます。

その交渉ですが、ハマスがイスラエル側から提案を受け取ったことを明らかにしていて、条件面など慎重に検討を重ねているものとみられます。

そうしたなかで、アメリカの報復措置がありました。

次に親イランの民兵組織やイランがどのような反応を示すのか、注視が必要があります。

報復の応酬が続けば、中東の情勢がさらに不安定になり、結果として、交渉にも影響を与える可能性もあります。

交渉を仲介するカタールのムハンマド首相は「私たちの行っている努力が損なわれ、これまでのプロセスを危うくすることがないよう願っている。状況に歯止めがかかることを望む」と述べていました。

アメリカのブリンケン国務長官が4日から中東を訪問し、イスラエルやカタールなどを訪問する予定です。
人質の解放と戦闘休止の交渉を進展させつつ、紛争の拡大を防ぐことができるか、そこも焦点となっています。

このように、戸川氏は、アメリカがイラン領内を直接攻撃しなかったことから、イランとの直接対決は避けたという見方を示しています。


3.三つの選択肢


今回アメリカはイランを避けて攻撃した訳ですけれども、アメリカ議会の強硬派はもっとタカ派の発言をしています。

共和党のリンジー・グラハム上院議員は「今すぐイランを攻撃せよ……彼らを強く殴れ」とツイート。また共和党のジョン・コーニン上院議員も「テヘランを標的にせよ」と述べ、

そしてトム・コットン共和党上院議員も、イランを直接攻撃する以外のことは「ジョー・バイデンが最高司令官にふさわしくない卑怯者であることを確証することになる」と述べています。

これらに関連して、アメリカのフォーリン・ポリシー誌は、その選択肢についてさまざまな元当局者や専門家に取材を行い、3つの可能性のある方法を記事にしています。

その記事の一部は次の通りです。
【前略】

オプション①:イラン国内を攻撃
イラクやシリアとの国境に近いヨルダンにあり、イスラム国との戦いの調整に使用されている米軍砂漠地帯の兵站拠点、タワー22への日曜日の無人機攻撃をきっかけに、バイデン氏の批評家たちは同じような攻撃路線に収束した: 中東の軍事的緊張をエスカレートさせないために、イランの代理勢力に対する攻撃を限定的にとどめることで、バイデン政権はイランにさらなるエスカレーションのテーブルを用意させた。

元米軍関係者の中には、イラン国内での包括的な攻撃こそが、テヘランに「やめろ」というメッセージを送る唯一の方法だと主張する者もいる。

「ペルシャ湾で米第5艦隊を指揮していた退役三ツ星海軍提督のジョン・ミラー氏は、「イランへの直接攻撃が、この活動を鎮めるために必要なところまで来てしまった。「イランの真のやり方では、彼らはレッドラインに達したと感じるまで、押して押して押しまくるだろう。イラン自身がそうする。イランは自分たちでそうする。彼らはレッドラインを越えた。その責任を取らせる必要がある」。

ミラー氏は、米国はイラン国内での攻撃を主導し、イスラム革命防衛隊の経済的利益や海外への武器輸送能力を低下させるべきだと述べた。そして、米国はイランの石油輸出能力をさらに低下させる制裁を行うべきだと述べた。

「私たちの仲間を殺せば、反撃に出るというような、一対一のやり合いだけではだめだ。「特に代理人を相手にする場合、イランは最後の代理人まで戦うつもりだからだ。

オプション②:イランの資産に対する攻撃
米国が抑止力を再構築するためにイラン国内を攻撃する必要性を誰もが信じているわけではない。トランプ政権時代に国務省のテロ対策調整官を務めたネイサン・セールズは、米国がイランに対し、この地域で価値の高いイランの資産を攻撃することで挑発行為を抑えるよう指示した長い実績があると言う。

1988年4月、レーガン政権がペルシャ湾のイラン船舶を攻撃した「カマキリ作戦」は、その数日前に誘導ミサイルフリゲート艦がテヘランが仕掛けた機雷に衝突した後だった。

さらに最近では、2020年1月のアメリカの無人機による空爆で、イランのクッズフォース司令官カセム・スレイマニと人民動員部隊司令官アブ・マハディ・アル・ムハンディスがバグダッド空港で殺害され、イランはイラクとシリアの米軍に対する一触即発の作戦からほぼ手を引くことになった、と彼は言う。

「1980年代、レーガンはイラン海軍を撃沈し、その後しばらくの間、イランからの連絡は途絶えた。「我々は2020年にスレイマニとモハンディスを煙に巻いたが、イランの反応は、イラクとシリアにいる我々の兵士への弾道ミサイル攻撃だった。そして静かになった

オプション③:外交的関与の再開
バイデン政権は、ドナルド・トランプ大統領(当時)が2018年にイラン核合意から離脱した後、米国のイラン核合意への参加を復活させるべく、断固とした外交努力で任期をスタートさせた。昨年10月にハマスがイスラエル領内を攻撃するまで、この協議が暗礁に乗り上げても、米政権はイスラエルと湾岸諸国との関係を正常化する外交努力によって、中東が平和と繁栄の計り知れない時代への軌道に乗ると信じていた。また、2023年3月に中国がサウジアラビアとイランの和解を仲介した際には、米中間の競争が続いているにもかかわらず、一部のバイデン政権高官は、地域の非エスカレーションにつながる前向きな動きと見て歓迎した。

現在、一部の専門家は、テヘランに対する米国の軍事報復を求める声は、イスラエルとハマスの紛争を終結させ、イランとの緊張を緩和するための外交的解決策を見出そうとするバイデン政権の努力を頓挫させる危険性があると考えている。そして彼らはバイデン政権に対し、レッドボタンから一歩下がり、交渉のテーブルにつくよう求めている。

バーニー・サンダース上院議員の元外交政策顧問でもあるワシントンのシンクタンク、国際政策センターのマット・ダス副会長は、「最終的には、イランもその一員となる、ある種の共存の道を歩む必要がある」と言う。しかし、彼はこう付け加えた。

ダスは、新たなイランとの交渉のテーブルに戻ることに加えて、米国はイスラエルとパレスチナの紛争を終結させるための合法的な2国家解決策を引き続き推し進め、25,000人以上のパレスチナ人を殺害したガザ地区での血なまぐさい戦争を考慮して、イスラエルへの米国の軍事援助に条件を付けるべきだと述べた。

「これは、バイデンが人権、民主主義、説明責任のある政府、国際人道法に対する一貫したアプローチを支持し始めるチャンスだ」とダスは付け加えた。

【以下略】
今回のアメリカの攻撃はイラン国内ではなく、イラクとシリア領内の武装グループに対してですから、オプション②の「イランの資産に対する攻撃」を選択したことになります。


4.波及効果


対するイランの反応はどうか。

攻撃とほぼ同時と思われる2月2日、イランのエブラヒム・ライシ大統領は2月2日、ホルムズ海峡近くのホルモズガン州ミナブ市で、聴衆に向かっての演説で「戦争を始めるつもりはないが、もしある国が、残忍な勢力が我々をいじめようとするなら、イラン・イスラム共和国は強力に対応するだろう」と述べ、以前、アメリカがイランと対話しようとした際、「脅迫の言葉を使った」と語りました。

続けてライシ大統領は「今では、このような言葉は聞こえない。向こう側からは『我々はイラン・イスラム共和国と紛争するつもりはない』という声さえ聞こえる」と付け加えています。

先述のフォーリン・ポリシー誌は、アメリカがイランに対する何らかのアクションを取ったときの波及効果について、次のように述べています。
〇波及効果
バイデン政権が大きすぎるリスク、小さすぎるリスクはあるのか?何がちょうどいいのだろうか?

フォーリン・ポリシーが話を聞いた限りでは、バイデン政権がテヘランに対する大規模な攻撃や、最高指導者ハメネイ師を殺害するようなことを検討しているとは誰も思わなかった。しかし、ここにもテヘランのリスク計算がある。元国務省テロ対策局長のセールス氏は、イランは米国との開戦を何としても避けようとしていると言う。「イランは、米国と公然と衝突すれば、体制が存続できなくなることを知っている」と述べた。

イラン国内への攻撃という大規模な行動が過ぎると、米国がイランとの激しい戦争に巻き込まれる可能性があると懸念する人もいる。「正直に言うと、この町には20年もの間、イランとの戦争を熱望してきた人々がいるのです」とシンクタンク国際政策センターの執行副社長マット・ダス氏は語った。

不作為の代償はさらに大きいと主張する者もいる。元米第五艦隊司令官のミラー氏は、イランの国土を攻撃しなければ、米国はイランの代理人が紅海やバブ・エル・マンデブ海峡、ホルムズ海峡などの隘路で国際海運を標的にするのを見続けることになるだろうと述べた。そして、彼らは米軍へのプレッシャーをかけ続けるだろう、と彼は言う。

「私たちが何もしなければ、どのような影響があるのだろうか?」ミラーは言った。「それが何なのか、我々はすでに学んでいる」

また、イランへの攻撃なしでも抑止は可能だとする意見もあるが、米国の対応が無策とみなされる危険性は依然として高い。「それは、テヘランがアメリカ人を攻撃し続けることへの公然の招待状だ。そして我々は、ドーバー(空軍基地)に帰還する国旗のかけられた棺を目にすることになるだろう」。
やり過ぎると破局になる一方、何もしないのも被害がある、となると、折衷案としてその間を選ぶというのは、まぁ、よくある話です。

今回のアメリカの攻撃は、この"折衷案"なのかどうか分かりませんけれども、イランがアメリカの攻撃をどのような外交メッセージとして受け取るのか。注意が必要ですね。


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