ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。
1.ウクライナにあげる金などない
2月13日、アメリカ連邦議会上院はウクライナへの軍事支援を含む総額950億ドル(約14兆3000億円)余りの外国支援包括予算案を可決しました。
緊急の予算案は、ウクライナ支援に600億ドル、イスラエルの対ハマス戦争支援に140億ドル、パレスチナ自治区ガザ地区を含む紛争地域での人道援助に100億ドルが盛り込まれていて、さらに、台湾やインド・太平洋地域の友好国への支援80億ドル超も、支援案には含まれています。
与党・民主党が多数を占める上院は賛成70、反対29で可決したのですけれども、前日深夜の審議では、野党・共和党議員が入れ代わり立ち代わり、「ウクライナにあげる金などない」、「我々の国を立て直すことから始めるべきではないか」などと、ウクライナ支援に否定的な演説を夜通し続ける、いわゆるフィリバスター(議事妨害)を展開しました。
こうなったのも、秋の大統領選で返り咲きを狙う共和党のトランプ前大統領の存在があると指摘されています。実際、アメリカファーストを掲げるトランプ前大統領は、ウクライナに欧州よりも遠いアメリカが多額の支援をしていることに不満を抱き、援助停止を促しています。
法案は上院を通過したものの、下院のマイク・ジョンソン議長(共和党)は、法案審議を阻止する考えを示しており、現状のままでの予算成立は絶望視されています。
2.ヨーロッパの指導者はどうすればウクライナへの国民の支持を維持できるか
ウクライナ支援に消極的になりつつあるのは欧州も同じです。
2月21日、ヨーロッパを拠点にするシンクタンクであるヨーロッパ外交問題評議会(ECFR:European Council on Foreign Relations)は、「ヨーロッパの指導者はどうすればウクライナへの国民の支持を維持できるか」という論説を発表しました。
これは、ヨーロッパ外交問題評議会が2024年1月に欧州12ヶ国(オーストリア、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スペイン、スウェーデン)で委託し、あわせて1万7000人余りを対象にした世論調査の結果に基づき、欧州のウクライナ支援継続について各国首脳がどのように主張するのが最善であるかを提案したものです。
まず「戦争の終わり方として最も考えられるものは何か」という問いに対し、「ウクライナの勝利(=ウクライナがすべての占領地を解放する)」と答えた人は12ヶ国の平均で10%、「ウクライナとロシアの交渉」が37%、「ロシアの勝利(=ウクライナがすべての占領地を解放できない)」が20%、「興味がない」「わからない」などがあわせて34%となりました。
ただ、この回答は、国によって差があり、オルバン首相がロシア寄りの姿勢を示すハンガリーでは「ウクライナの勝利」と答えた人が4%にとどまり、「ロシアの勝利」と答えた人が31%で最も多くなっています。
それでも主流の反応は、戦争は和解で終わるだろうというものであり、その反応はポーランドでもウクライナの勝利を優に上回っています。
また「戦争に対してヨーロッパは何をすべきか」という質問については「ウクライナがロシアと和平協議を行うよう後押しすべきだ」が平均で41%と最も多く、「領土の奪還に向けて支援すべきだ」は31%となっています。
ヨーロッパ外交問題評議会は今回の論考について、次のようにまとめています。
・ロシアの対ウクライナ戦争が2周年を迎える中、欧州議会と米国大統領選挙も目前に迫っている。こうした状況を背景に、ウラジーミル・プーチン大統領は西側諸国の戦争疲労を頼りにロシアの勝利を目指している。要するに、ウクライナを含む欧州各国の指導者は、トランプ氏再選に備えて、ロシア・ウクライナ戦争における「永続的平和」とは何かを定義しておかなければならない、ということです。
・欧州の世論は、この困難な環境下でウクライナへの支援継続を主張する最善の方法について欧州の指導者に知らせることができる。
・ヨーロッパ人はウクライナが戦争に勝つ可能性について悲観的であるように見えるが、複数の人は戦争が何らかの和解で終わると考えている。しかし、ほとんどのヨーロッパ人も宥和的な気分ではない。
・もしドナルド・トランプ氏が再選されれば彼らは失望するだろうし、彼の勝利はプーチン氏にとっても勝利となる可能性があると多くの人が信じている。ほとんどの加盟国では、欧州が現在の支援を維持するか、米国が支援を縮小した場合に備えて支援額を増やすことを複数国が望んでいるだろう。
・ウクライナと欧州の指導者らは、プーチン大統領が戦争疲労に乗じないよう、言葉遣いを調整し、「永続的平和」の意味を定義する必要がある。
まぁ、筆者には、「出口戦略」を考えろといっているように見えます。
3.ウクライナは決議案の提出を断念した
更に、ウクライナから手を引く流れは米欧だけに留まらなくなってきています。
2月23日、国連総会は、ロシアによるウクライナ進行開始から2年に合わせた会合を開きました。米欧各国はロシアの侵略を非難したのですけれども、ウクライナ自身が非難決議案の提出を見送った為、対ロシア非難決議は採択されませんでした。
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は演説で「この2年間でロシアは多くの兵士を投じ、ウクライナの子どもを誘拐し、民間人を人質に取ってきた」と非難。ロシア軍の完全撤退などを盛り込んだウクライナの和平案について、「唯一の解決策だ」と強調したにも関わらず、肝心の非難決議案の提出を行いませんでした。
これについて、国連外交筋は、「ウクライナは今年、昨年よりも賛成票を減らすとみて決議案の提出を断念した」と述べ、多くの支持を得られないと判断したとみられています。
イスラエルとイスラム主義組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザを巡る情勢に関心が分散していることが影響している可能性があるとの見方もあるようですけれども、昨年行われた同じ会合では、賛成141ヶ国、反対7ヶ国という圧倒的多数で、ウクライナからの軍撤退など求める決議が採択されたことを考えると随分と様変わりしていることは確かです。
4.政治決断を迫られるゼレンスキー
では、当事者たる、ウクライナとロシアの国民はどう思っているのか。
調査機関キエフ国際社会学研究所は、ロシアがウクライナに侵攻して以降、ロシアから奪われた領土奪還について計8回、世論調査を実施しています。そこでは、「ロシアとの和平を達成するため、妥協の可能性についてより多くの点で同意できるのは、次の二つの選択肢のうちどちらですか」という質問がすべての調査にあります。
その選択肢とは、「できるだけ早く平和を達成し、独立を維持するために、ウクライナは領土の一部を放棄する」と「たとえ戦争が長期化し、ウクライナの独立が脅威にさらされるとしても、ウクライナはいかなる状況においても領土を手放すべきではない」です。
昨年12月に行われた最新の調査では、後者と回答した人は74%に上ったのですけれども、82%だった最初の調査(2022年5月)や、どちらも過去最高の87%を記録した2022年9月と2023年2月の調査と比べると10ポイント以上減っています。
一方、前者と回答した人は最新の調査では19%と調査開始以来、最高となっています。
つまりウクライナ国民の5人に1人が、領土の一部割譲を止む無しと考えていることになるのですけれども、この割合は激しい戦闘が繰り広げられている南部、東部ではさらに高く、特に東部地域では4人に1人がそう回答したとのことです。
キエフ国際社会学研究所は、前者と回答した人のうちの69%が、今後懸念される「西側諸国からの援助が大幅に削減された場合の行動」として「強固な安全保障を確保して敵対行為を停止することが得策」と考えているのに対し、後者と回答した人のうち70%は「リスクがあったとしても敵対行為を継続する」と考え、「敵対行為停止」と回答した人の22%を大幅に上回っています。
このことから、ゼレンスキー政権は国民の支持を受けながら領土奪還のための戦闘を続けているものの、ウクライナ社会ではたとえ一部の領土を放棄したとしても、早期の平和を望む声が大きくなっているとの見方が浮上しています。
キエフ国際社会学研究所のアントン・フルシェツキー氏は、戦況の悪化に伴うウクライナ国民の意識の変化について「楽観主義に下降傾向が見られる」と指摘した上で、まだ国民の大多数がいかなる譲歩にも反対しており、西側諸国が支援を適切に続けることが「国民感情の鍵を握ると考えて間違いない」と主張しています。
一方、ロシアはどうか。
独立系調査機関レバダセンターが毎年年末に行っている定例調査によれば、「翌年は今年に比べてどんな一年になるか」という問いで、「完全に良くなる」「良くなることを期待する」の「良くなる」派は、合わせて71%と、2022年末に行われた調査に比べると、3ポイント増えています。
この調査は2009年から行われているのですけれども、「来年は完全に良くなる」と答えた層が14%と過去最高になった一方、「来年は悪くなると思う」と答えた層も3%しかいなかったことは注目してよいかもしれません。
更に、レバダセンターが、侵攻開始直後の2022年3月から月1回行っている定例調査で、「ウクライナでのロシア軍の軍事行動を支持しますか」という問いかけに対し、直近の2024年2月で「絶対に支持」「どちらかと言えば支持」の「支持」派は77%を記録。「不支持」派は2022年3月に23%を記録して以降は、20%前後を推移しています。
また、軍事行動の結末についての問いには、「ロシアの勝利で終わる」と答えた人は2024年1月で77%に上った。この数字は2022年4月の73%を記録して以来、2年近くほとんど変わっていないそうです。
更に、レバダセンターが戦争の終結時期について「1か月以内」「2か月以内」「2か月から半年以内」「半年から1年以内」「1年以上先」という選択肢から回答を求めたところ、2022年11月からは「1年以上先」を選んだ人が40%以上を占めるようになっており、直近の2024年1月には46%に達しています。
つまり、ロシア国民は長期戦も視野に入っているということになるのですけれども、ヨーロッパ外交問題評議会が出口戦略を考えろと主張し、ウクライナ国民の士気が落ちていることとは対照的に映ります。
レバダセンターは、大規模侵攻2年目の2023年は、1年目の2022年に比べ「あなたやあなたの家族にとって、全体的にどんな1年だったのか」という質問もしているのですけれども、全体的には「2023年は2022年より困難になった」が33%、「2023年は2022年より改善した」が12%、「2023年と2022年の状況は一緒だ」が54%という結果となり、西側諸国が期待するほど経済制裁が効いていないことをうかがわせます。
いずれにせよ、長期戦ばっちこいのロシアと、士気が落ちつつあるウクライナの現状を考えると戦争が長引けば長引くほどウクライナに不利になることは明らかです。
欧米諸国がウクライナ支援から手を引きはじめ、国連でロシア非難決議も採択できないところにまで、状況は変わっています。ゼレンスキー大統領はどこかで大きな政治決断を迫られることになるのではないかと思いますね。
この記事へのコメント
HY
おそらく窮したウクライナは事実上の降伏をプーチンに打診するでしょうが、停戦交渉自体は難航するでしょう。そして交渉中もロシア軍は攻撃を続けます(ちょうど2年前のように)。プーチンにとっては欧米が見捨てた以上妥協する必要は一ミリもないので、ウクライナが降伏条件を飲まないのなら、大統領選後にでも大動員をかけて再度キーウ攻略を仕掛けて、今度こそ実力でウクライナ征服を実現するでしょうね。
懸念されるのはロシアの勝利をさも自分のことのように喜ぶ反米保守がこの国のあちこちから湧いてくることでしょう。「米国追従はやめて、ロシアと友好を回復するべきだ」「ウクライナに肩入れした日本は第二の敗戦を被った」などなど。僭越ながら日比野様もそのようなお考えなのではないでしょうか?アメリカに追従し敗者に肩入れした日本は金だけ失って厳しい立場に曝されるだろうと。
しかし、現実はもっと残酷です。地政学的には日本は何であろうとアメリカの勢力下にあり、プーチンも習近平もそのように認識しています。今となってはIFの話ですが、仮に日本がウクライナを支持せず、ロシアを擁護もしくは中立を表明していたとしても、ウクライナ敗北後の立ち位置は厳しいものになるでしょう。むしろ欧米との関係が冷え込むのでもっと苦しくなっていたと思います。形だけ反米になって見せても、中露両国からは「形ある行動」を求められるでしょう。具体的には欧米との安全保障体制からの脱退、係争地における中露の主張の尊重、中露両軍による北東アジア支配の受け入れです。今の日本国民にそれを受け入れる覚悟はあるのでしょうか?岸田首相や後任の首相は決断できるのでしょうか?
HY
人の意見や視点はさまざまであり、ご自身の考えたままに書かれるのが御ブログの主旨です。
私ごときが干渉するような真似は許されることではありません。
過去の投稿でも似たような書き込みをしてしまい、日比野様を困らせてしまったことと存じます。
自らの出しゃばりを深く恥じ入るとともに、先日の書き込みを全て撤回します。
今後は二度と書き込みは致しません。大変失礼いたしました。
日比野
こんばんは。
突然のことで多少困惑しております。
ご指摘の通り、人の見解は様々であり、ご存分に主張されてしかるべきと考えます。
いただいたコメントは、過激でも何でもないと考えており、まったく気にしておりません。
むしろ貴重なご意見をいただいたと感謝しております。
なかなかすべてのコメントに返信できないのですが、すべてのコメントは読ませていただいております。
どうかお気になさらず、これからもコメントをいただけますと幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。