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1.トランプ五連勝
2月24日、アメリカ大統領選共和党候補指名争いで、南部サウスカロライナ州予備選が投開票され、トランプ前大統領が勝利しました。
アメリカ主要メディアは24日午後7時(日本時間25日午前9時)の投票終了と同時に「トランプ氏の勝利確実」と報じ、AP通信は、開票率18%の時点で、トランプ氏の得票率は56.7%、ヘイリー氏の得票率は42.8%と報じました。
トランプ氏は当確報道直後にサウスカロライナ州コロンビアで支持者を前に演説し、「思ったよりも早かった。予想以上の大勝利だ。熱気がかつてないほどみなぎっている」と勝利を宣言。ヘイリー氏については言及もしませんでした。
トランプ氏は、サウスカロライナ州で影響力が強いキリスト教福音派など保守派の支持を固め、マクマスター州知事やスコット連邦上院議員など同州の主要な政治家の支援も受け、対立候補であるニッキー・ヘイリー元国連大使の地元で勝利を収めました。
これでトランプ氏は5連勝を収め、党候補指名を確実にしたとの見方が強まっています。
2.撤退しないヘイリー
一方、地元での巻き返しに失敗したことで、党内からの撤退圧力が強まるとみられるニッキー・ヘイリー氏は、支持者を前に演説し、「サウスカロライナ州で約40%の支持を得た。50%ではないのは分かっているが、40%はちっぽけなグループではない。たくさんの有権者が選択肢を求めている」と強調。そして、トランプ氏については「日々、有権者が離れていっている」と指摘し、本選で民主党のジョー・バイデン大統領に「勝てると思えない」と今後も選挙運動を続ける方針を示しました。
今のところ、ヘイリー氏は3月5日の「スーパーチューズデー」までは撤退しないと見られています。
共和党候補指名争いは今後、計16州・地域の予備選・党員集会が集中する「スーパーチューズデー」が天王山となりますけれども、世論調査では、ヘイリー氏は今後の予備選・党員集会が行われる州でも劣勢となっています。
更に、政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の2月22日時点の集計によると、党候補指名争いにおける全米規模の支持率は、トランプ氏が74.8%、ヘイリー氏が16.9%となっています。
支持率でみると、トランプ氏は以前より差を広げていることから、ヘイリー氏の逆転は厳しい状況と見られています。
3.ヘイリーの背後
共和党の大統領候補指名を受けるためには、2429人の代議員のうち1215人を獲得する必要があります。25日現在の獲得代議士数は、トランプ氏が107人、ヘイリー氏が17人、デサンティス氏(撤退)が9人、ラマスワミ氏(撤退)が3人とトランプ氏が他を圧倒しています。
来月のスーパーチューズデーでは874人の代議員が割り当てられ、ここでほぼ決着するものと見られています。
劣勢のヘイリー氏は2月20日に、「選挙戦の状況について」というタイトルで急遽会見を開いています。
会見でヘイリー氏は「予備選挙は始まったばかり。有権者が門を閉ざすまで私は戦い続ける」と強調し、「選挙献金を5000万ドル(約75億円)も自分の裁判費用に充てるのはおかしい……ロシアにNATOの国を攻撃するようけしかけるのはおかしい……トランプ氏は自分のことばかり。過去の自身の亡霊にとらわれている」とトランプ批判を展開しました。
そしてさらに、「多くの共和党員が表ではトランプ氏のことをほめたたえているが、陰では嫌っている……共和党の政治家たちはつまはじきにされるのを恐れて圧力に屈している」など、共和党がかつての「アメリカの保守」から変わって「トランプ党」になっていると批判。続けて「私はトランプの復讐を恐れていない……彼の指輪にキスする必要はない(=トランプに服従する必要はない)」とトランプ氏との対決姿勢を鮮明にしました。
逆転勝利の目がほぼ無い状況であるにも関わらず、何故ヘイリー氏は撤退しないのか。
この会見で、ヘイリー氏は「トランプはアイオワ州では49%の票を取れなかった……ニューハンプシャー州でも46%の票を取れなかった」と指摘しています。要するに、トランプ氏を支持しない人が半分くらいいて、彼らにしっかりアピールできれば、まだ支持が伸びるのではないかという期待と、そしてそのためには「自分が最後までトランプの対抗軸となる候補なのだ」と宣言する必要があったのではないかと指摘されています。
それ以外にも、「大口献金者の存在」と「トランプ氏の裁判」があるとも言われています。
去年の後半6か月の政治献金額は、トランプ氏よりもヘイリー氏の方が多く、しかも大口献金者の資産家の中には民主党支持者もいることが明らかになっています。
トランプ氏はこれについて「ヘイリーは民主党支持者に踊らされている」と批判していますけれども、トランプ氏を好まない大口献金者たちがヘイリー氏の背中を押しているともいえる訳です。
更に、裁判の問題です。
現在、4つの刑事事件で起訴されているトランプ氏について、1月にブルームバーグ通信が激戦州7州で行った世論調査では「トランプ氏が有罪になったら投票しない」という人が53%、実刑判決だと55%が「支持しない」と答えています。
つまり、裁判の展開次第ではヘイリー氏が流れを変える可能性がないともいえず、それゆえに撤退しないのだ、というのですね。
大統領選本選で、バイデン大統領との直接対決を想定した、アメリカ・キニピアック大学の世論調査では、バイデン大統領(47%) vs トランプ氏(46%)という結果に対し、ヘイリー氏が共和党候補の場合は、バイデン大統領(42%) vs ヘイリー氏(47%)という結果が出ています。
ヘイリー氏としては「自分こそがバイデンに勝てる」とアピールし、共和党内だけでなく、無党派層の支持をどこまで掴めるかがポイントだといえます。
4.ホワイトハウスへの十三の鍵
では、大統領本選はどうなるのか。
1984年から直近2020年まで過去9回にわたる米大統領選の結果すべてを的中させたユニークな予測モデルが再び注目を集めています。
これは、歴史学者のアラン・リクトマン教授が打ち立てたモデルで、1981年に地震予測に数理学的データを駆使したロシア人地質学者ウラジミール・ケリス・ボロク博士の協力を得て、「ホワイトハウスへの13のカギ(13 Keys to the White House)」と呼ばれるガイドラインです。
リクトマン教授は、1860年から1980年の120年間のすべての大統領選データと結果を詳細にわたり分析、勝敗の決め手となった要因を追跡した結果、「有権者は実際は候補者の選挙期間中の演説や公約にさして影響されず、現職大統領の実績いかんで票を投じる……もし、現職大統領が出馬せず、同じ党から新たな候補者が指名された場合、在任中の失政が大きなマイナス要因となる」との結論を導き出しました。
その「13のカギ」の具体的項目は次の通りです。
(
1) 選挙年前年の中間選挙で与党は(4年前との比較で)下院議席増となったリクトマン教授は、上記「13のカギ」の各項目を、現職大統領候補であるバイデン氏にあてはめ、答えが「ノー」と判断される項目が6つ以上あれば敗退、5つ以下にとどまった場合は再選されるとしています。
(2) 大統領以外に与党内にまともな挑戦者がおらず、本格的予備選が行われない
(3) 現職大統領が再選めざす選挙である
(4) 与党候補以外に真っ向から挑戦できる第三政党または無党派候補がいない
(5) 選挙期間中の国内経済状況は「堅調」を維持しているか「景気後退」を免れている
(6) 長期的経済展望も力強い
(7) 現政権下で顕著な国家政策の変更が行われた
(8) 現政権下において長びく社会不安が存在しない
(9) 現政権が直面する主だったスキャンダルが存在しない
(10) 外交・軍事政策においても際立った失態はない
(11) 外交・軍事面において大きな成功を収めた
(12) 政権与党がカリスマ性のある、国民的英雄の候補を擁している
(13) 野党候補者はカリスマ性もなく、国民的英雄でもない
バイデン大統領をこれに当てはめた場合、現時点では、おおよそ次の通りになるとされています。
(1)2022年と18年の中間選挙における民主党の下院議席数を比較すると、18年には235議席で多数を制したが、22年では213議席に減らした。従って、答えは「ノー」「イエス」が7項目、「ノー」が4項目、「不明」2項目と、「ノー」が4つしかありません。したがって、リクトマン教授のモデル通りであれば、バイデン大統領が再選することになります。
(2)今年の大統領選の民主党予備選でバイデン氏以外のまともな対立候補はおらず、答えは「イエス」
(3)バイデン大統領が再選をめざしており、答えは「イエス」
(4)与党候補(バイデン氏)に立ちはだかる有力な第三政党、無党派候補がおらず、答えは「イエス」
(5)直近経済状況は「好調」だが、今後11月にかけて「軟着陸」できるか「不況」に陥るかは予想できず、現段階では答えは「不明」
(6)長期的経済展望についても、専門家の意見が分かれるため、答えは「不明」
(7)バイデン政権発足以来、内政では、1兆2000億ドルと思い切った「インフラ投資拡大」法案を成立させ、コロナ不況からの脱却と景気回復に弾みをつけたほか、米国史上最大となる3690億ドル規模の太陽エネルギー、風力利用など気候変動関連技術投資に乗り出した。外交面ではアフガン戦争終結、トランプ前政権下で動揺した北大西洋条約機構(NATO)との関係修復など、大胆な政策変更を行った。答えは「イエス」
(8)深刻な人種間暴動、中南米諸国からの不法移民大規模流入による目立った社会不安はこれまでのところ存在せず、答えは「イエス」
(9)バイデン大統領は、次男が脱税、麻薬不法所持などの容疑で起訴対象とされているものの、同政権自体を巻き込んだ大きなスキャンダルは存在しない。答えは「イエス」
(10)バイデン政権はロシアによるウクライナ戦争、パレスチナ・ガザ地区におけるイスラエル・ハマス間紛争の対応に苦慮しているものの、これまでのところ、米国の外交・安全保障政策上の大きな失態は露呈していない。答えは「イエス」
(11)バイデン政権は発足以来、同盟関係の再構築、前政権が脱退した「パリ協定」への復帰などの外交・安全保障面である程度の成果を挙げてきたものの、「顕著な成功」を収めたとは言い難い。答えは「ノー」
(12)与党候補バイデン氏は、大統領として比較的安定した政権運営を行っているが、カリスマ性があるとは言えず、国民的英雄ともみられていない。答えは「ノー」
(13)対立候補のトランプ氏は、国民的英雄からは程遠いが、強烈な性格の持ち主であり、良し悪しは別としてカリスマ性はあるといえるだろう。答えは「ノー」
ただ、問題なのが「不明」の2項目です。もし、この2項目が全部「ノー」になれば、合わせて6つとなって、バイデン大統領は敗北することになります。
この2項目は直近および長期的な経済動向ですから、つまるところアメリカ経済次第ということになります。
アメリカの2024年の経済動向について、「J.P.Morgan Chase」のジンジャー・チャンブレス調査部長は、昨年12月22日付の「2024年米国経済見通し」で次のように述べています。
1. 経済成長は減速し、2024年中に国内総生産(GDP)の伸びは0.7%程度となるが、失業率の急上昇を招くことなく物価を安定させるソフトランディングに向かう。住宅需要は改善する景気減速はするものの、景気後退とまでいえるところまで減速するかは微妙な印象です。
2. 民間消費も前年と比べ減速するが、腰折れにはならならず、安定を維持する
3. 労働市場では求人難が幾分緩和に向かうとともに、企業による雇用も減少し始め、24年末までには失業率は4%半ばにまで増加が予想される。しかし、歴史的コンテキストからすれば、依然低水準にとどまる
4. 国内経済活動の足かせとなってきた半導体などの海外依存型サプライチェーン問題については、22年「半導体サイエンス法」および「インフレ抑制法」などの成立以来、国内生産重視型にシフトし、再編が始まっている
5. 他方で、米中摩擦の激化、ロシアによるウクライナ戦争、中東紛争などの地政学的リスクは依然存在する
11月の大統領選挙まで10ヶ月足らず。アメリカの景気動向には要注目です。
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