中国の秘密警察拠点とセキュリティークリアランス

今日はこの話題です。
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1.中国の秘密警察拠点


2月21日、警視庁公安部は44歳と59歳の中国籍の女2人を詐欺容疑で書類送検しました。

容疑は2020年7月、2人は共謀して"マッサージ店"を整体院と偽り、国の新型コロナ対策の持続化給付金100万円を騙し取ったというものです。給付要件を満たすため整体院と偽ったとされ、もともとの"マッサージ店"は59歳の女が経営していました。

2人は、一般社団法人「日本福州十邑社団聯合総会」の元幹部で、この社団法人が所在地として登記する東京・秋葉原のビルは、中国の"秘密警察拠点"の一つとして、警視庁がマークしていました。

登記簿によると、この法人は中国出身の個人や企業の相互協力、日本企業との交流の促進を目的として2018年に設立されています。

昨年5月、警視庁公安部が、この"拠点"の家宅捜索を行ったところ、「在外中国人などに向けた免許更新業務を行っていた」ことを示す証拠類の押収に成功。件の法人は、捜索後、ビルから退去しています。

これについて、元産経新聞論説副委員長の佐々木類氏は、「全容解明への入り口だ。長らく人の出入りなどを警戒していたと聞く。経済安全保障や、国家主権を犯していないかという観点から、日本国内での活動や、ネットワークの解明に乗り出したのだろう……非公式警察署の存在は指摘されて久しい。日本には『スパイ防止法』がないため、別件で逮捕せざるを得ないのだろう。同法の制定は急務だ。警察も監視を強め、立件を機に国会でも問題にすべきだ」と述べています。


2.松下議員元秘書


書類送検された2名のうち44歳の女は、過去、自民党の松下新平・参院議員の「外交顧問兼外交秘書」の名刺を持ち、松下議員から参院議員会館に自由に立ち入りできる「通行証」まで貸与されていたことが分かっています。

松下議員はこれまで党政調副会長や外交部部長、総務副大臣などを歴任した宮崎選出の参院4回生ですけれども、2人の関係について、警察関係者は「松下事務所の“外交顧問”として議員と行動を共にし、議員が外務省や経産省の役人を呼びつけて行わせるレクチャーにも同席するなどしている。行政府の機密情報や立法府の重要事項が漏洩している危険性を懸念せざるを得ません」と述べています。

件の44歳の女は、日本では呉麗香という仮名を使っていたようです。

今回の書類送検にからんで、警視庁が松下議員側から事情を聴いたという話は特にないようですけれども、参院議員会館に自由に立ち入りできる立場の中国籍の女が、中国の"秘密警察拠点"とされるビルに入っていた一般社団法人「日本福州十邑社団聯合総会」の元幹部となると、国家機密がダダ漏れしてたのじゃないかと不安になります。

デイリー新潮編集部が松下議員に今回の事件や呉麗香との関係について訊ねると、「現在、当事務所の業務に関与しておらず、通行証も貸与しておりません」と事務所を通じて回答し、一切の関わりを否定したとのことですけれども、気にしているのは当時のことであって、今現在関係がないといったところで、何の安心材料にもなりません。

実際、警察庁関係者は、「警視庁公安部はかねて呉氏との関係から松下議員を監視対象にしてきました……何しろ松下事務所の“外交顧問”として議員と行動を共にし、議員が外務省や経産省の役人を呼びつけて行わせるレクチャーにも同席するなどしている。行政府の機密情報や立法府の重要事項が漏洩している危険性を懸念せざるを得ません」と述べています。

しかも、松下議員自身も福州十邑聯合の“高級顧問”に収まっていたという話もあるそうで、この関係者は「すでにオランダやアイルランドなどは機関に対し、違法拠点として閉鎖を命じています。ところが日本の場合、政府は未だにこの問題に何ら取り組んでいないどころか、与党の国会議員が機関の隠れみのと思しき団体の顧問にまで就任していた。笑えない話です」と懸念を露わにしています。


3.セキュリティークリアランス


2月7日、政府は、7日に開かれた自民党の経済安全保障に関する会合で、先端技術の流出を防止するため「セキュリティークリアランス」制度を創設する新たな法案の概要を示しました。

それによると、サイバー攻撃に関する情報や、物資などの供給網=サプライチェーンの脆弱性に関する情報など、外部に漏洩すると、日本の安全保障に支障が生じる恐れがあるものを、「重要経済安保情報」に指定し、取り扱うことができる人を国が信頼性を確認し、認定された人に限るとしています。

信頼性の確認に当たっては、国が本人の同意を前提に「家族や同居人に関する情報」や「犯罪歴などの情報」や「薬物や飲酒に関する情報」および「経済的な状況など」を調査するとしています。

そして、認定された人が重要情報を漏洩した場合、5年以下の拘禁刑や500万円以下の罰金が科されるほか、勤務先となる企業にも罰金を科すことができるとしています。

この日の会合で、異論は出なかったということで、政府は2月下旬にも閣議決定し、今の通常国会に提出することにしています。

冒頭に述べた、中国籍の女2名の書類送検は、この「セキュリティ・クリアランス」法案成立の動きと、足並みを揃えているとの憶測も飛び交っているそうで、捜査の進展が注目されます。


4.信頼の認定基準


2月6日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演した東京大学先端科学技術研究センター特任講師の井形彬氏が、この「セキュリティ・クリアランス」法案について、解説しています。

そのやり取りは次の通りです。
新行)「セキュリティ・クリアランス制度」において、具体的にはどんな人が対象になるのでしょうか?

井形)政府にとって重要な機密情報、例えば防衛やテロなどのハードな安全保障の情報については、以前から「きちんと信頼できる人にしか情報を共有しないようにする」という制度がありました。基本的に「情報が必要な人」というのは、政府のなかでも防衛省や外務省の人たちだけであって、「経産省や財務省の人がこの情報を知る必要があるか」と言えば、そうではない。そのため、政府内でも「この人になら情報を渡してもいい」と認定されるような人は比較的少なかったのです。

新行)そうなのですね。

井形)さらに、民間でも防衛産業に関わるような人に関しては、「信頼できる人でないといけない」ということで、情報を共有していた人もいました。しかし、それだけではダメだろうと。まさに経済安全保障に関わるような情報、先端科学技術で軍事転用が可能になってしまうような情報や、サプライチェーン上の情報がグローバルでどうなっているのかなど、外部に漏れると「脆弱性がどこにあるのか」も見えてしまいます。政府内でそのような経済安全保障に関する情報を扱う人々は、経産省や財務省でも増えていくでしょう。また、関連するような研究開発を行う民間企業に対し、そこに所属する人にも付与する。そういう制度になっています。

新行)この制度を使うとなると、「この人は信頼できる人です」と認定する必要があると思いますが、認定基準はどうなるのでしょうか?

井形)国によってやり方が違うので、日本がどこまで踏み込むのかがポイントになると思います。基本的には、その人が本当に信頼できるか調査することを「バックグラウンドチェック」と言うのですが、それを行う必要が出てきます。アメリカだと、例えば嘘発見器のようなものにつなげた状態で、「いまあなたに借金はありますか?」「実は酒癖が悪いのではないですか?」「麻薬をやっていたことはありますか?」など、かなりプライバシーに関わるような情報を聞きます。嘘発見器が鳴れば「この人は信頼できないから情報共有できない」となり、クリアランスが付与されないこともあります。

新行)嘘発見器で。

井形)オーストラリアなどでは流石に嘘発見器は使わず、心理学を専攻するような専門家が同席して、「いま目が動いたからこの人は嘘を言っている」、「これは本当だな」ということを判断します。日本がどんな形で背景調査を行うのかは、今後も見ていく必要があると思います。

新行)その国に合ったやり方があるのですね。

井形)もし日本で「嘘発見器を用いて行う」と言った場合、「だったらクリアランスを取らなくてもいい」と思う人が増えてしまうかも知れません。

新行)セキュリティ・クリアランス創設法案は今回の通常国会に提出される予定ですが、いままで難しかった背景には何があるのでしょうか?

井形)やはり人々のプライバシーの問題が最も大きいと思います。ただし、この法案は政府が出したことになってはいますが、おそらく野党からも賛成が出るのではないでしょうか。「保守かリベラルか」で言うと、リベラルの人たちが反対しそうな雰囲気はありますが、1年半前には「経済安全保障推進法」という包括的な法律が通りました。このときに附帯決議として、野党がコメントを付けているのです。それを見ると、「経済安全保障推進法には重要なものが足りていない。セキュリティ・クリアランス制度が入っていないのが問題だ」と表明しているのです。

新行)そうなのですね。

井形)そうなると、法案をそのまま「これでいい」と言うかどうかはわからないにせよ、基本的には自民党も立民も保守もリベラルも、「このような制度は最低限必要だ」というところに関して、共通の理解があるはずです。その意味では、「何かしらの法案は2024年中に通るのではないか」と言っていいと思います。

新行)「何かしら」とおっしゃいましたが、「とりあえず」と見切り発車的に進めてしまった場合、支障はないのでしょうか?

井形)このような制度が必要な理由として、「日本国内の政府と民間でより信頼できる人同士、情報を共有しよう」という側面がある一方、他国との情報共有をより緊密にできるようにすることが1つの目的としてあります。他国から「日本のクリアランス制度は穴だらけだ」と思われれば、国際的な情報共有が進まなくなってしまいます。ですので、見切り発車は危ないですね。

新行)きちんと中身を議論する必要があるのですね。

井形)もう1つの論点は、罰則のところだと思います。

新行)情報を漏らした場合の罰則ですか?

井形)「情報を漏らしても罰金30万円で終わり」となると、海外から信頼してもらえるのかどうか。

新行)他の国だと、どんな罰則があるのでしょうか?

井形)かなり重い罰則になっています。今回の法案でも一応、懲役5年以下などの罰則になっていますが、韓国では政府が重要だと示した先端科学技術の情報を漏洩した場合、最高で懲役18年の罰則になります。アメリカでも、リークする情報の重要性によっても変わりますが、かなり長い懲役刑が当たり前になってきています。ただ、日本人では罰則が重すぎると「自分は怖いからクリアランスを取りたくない」と考えてしまう可能性があるので、このバランスも争点になると思います。

新行)セキュリティ・クリアランスに関しては、「G7のなかで制度がないのは日本だけ」ともよく言われます。例えば井形さんが国際会議に出るなかで、クリアランスがないために困ったことはありますか?

井形)あります。会議に初日にしか参加できないこともありました。

新行)初日だけは出られても、「以降は参加できない」と言われるのですか?

井形)2日目からはクリアランスを持っている人でないと参加できない、というようなことは海外だとよくあります。

新行)それは日本の国益にも関わってきますよね。

井形)そうですね。
このようにセキュリティ・クリアランス制度には、国内外で信頼できる人同士、情報を共有するという目的があり、そのためにも、罰則含め海外に信用してもらえるものでなければならないというのですね。言われてみればその通りです。

今後、書類送検された中国籍2名の女の捜査が進み、万が一、重大な国家機密が漏洩していたなんてことがあろうものなら、大騒ぎになるでしょう。その時こそ、この2名をセキュリティ・クリアランスにかけて、ちゃんと引っかけることができるのか含めて、制度がきちんと機能するのか検証する必要があるのではないかと思いますね。



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