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1.イスラエルとハマスの停戦交渉
2月23日からフランスのパリでイスラエルとアメリカ、それにカタールなどの仲介となって行われていた、イスラエルとハマスの停戦交渉が、一部の人質の解放を条件に6週間、戦闘を休止する案にイスラエル側が同意したと報じられています。
ロイターは、関係筋からの文書を入手。それによるとその内容は次の通り。
*第1段階として双方とも軍事作戦を40日間完全に停止する。2月24日に、イスラエル情報機関のトップであるダヴィド・バルネア氏はエジプトとカタール、アメリカからの仲介者と面会。今後の交渉の基礎となる今回の案に合意し、24日夜にイスラエルの戦争内閣に報告したと伝えられています。
*ガザ上空の航空偵察活動を1日8時間停止する。
*女性、19歳以下の子ども、50歳以上の高齢者、病人を含む全てのイスラエル人の人質40人と引き換えに、10対1の比率に基づいて約400人のパレスチナ人を再逮捕しないとの約束の下、釈放する。
*兵役年齢の男性を除く全ての避難民をガザ地区北部に段階的に帰還させる。
*第1段階を開始した後、イスラエルはガザ地区の人口密集地から離れた場所に軍を再配置する。
*ガザの病院や食料品店の修復を行う。
*毎日500台の援助トラックがガザに入るとともに避難民にテントや仮設住宅を提供する
これについて、イスラエルのネタニヤフ首相はソーシャルメディアで、「人質解放に向けたもう一つの素案を得るために動いている……そのためにパリに代表団を送った。そして今夜、交渉の次の段階について話し合う予定だ」と述べました。
イスラエルの有力メディア、ハーレツは、イスラエルの戦時内閣が26日に代表団をカタールに派遣することを決めたとし、今後カタールで協議を続ける予定だと伝えています。
一方、イスラエルのツァヒ・ハネグビ国家安全保障顧問は2月24日にテレビ番組のインタビューで、「こうした協定が戦争の終わりになるわけではない」との見解を示し、また、パレスチナ側の高官も先に、BBCに対し、パリでは実際の進展はなかったと語り、仲介者らが不正確な情報を流してハマスに圧力をかけていると批判しています。
ただアメリカは合意に近づいたと評価。2月26日、アメリカ国務省のマシュー・ミラー報道官は「エジプト、イスラエル、アメリカ、カタールの間で続けている協議において、進展があった」と発言。同じく26日、バイデン大統領も記者団からの質問に対し、「うちの安全保障問題担当の補佐官が、(停戦合意に)かなり近いと言っている……次の月曜(3月4日)までにイスラエルとイスラム組織ハマスとの間に停戦が実現することを期待している」と答えています。
2.パレスチナ自治政府の内閣総辞職
2月26日、パレスチナ自治政府(PA)のアシュティーヤ内閣が総辞職しました。辞職したムハンマド・アシュティーヤ首相はファタハの中央委員会委員を務めていました。
アシュティーヤ内閣は、後任の組閣が済むまで職務を継続するとしています。
消息筋によると、ハマスは現在ガザ地区の統治を望んでおらず、同派は国際的に承認され、治安維持・再建・経済状況と住民の生活水準の回復が可能な専門家からなる政府を通じたガザ地区の救済を望んでいるとする一方、ハマスは閣僚選任とそれへの同意で明確な役割を果たすことと、新内閣の役割とその基盤となる挙国一致、ハマースのパレスチナ解放機構(PLO)加盟手続きの完了、(立法評議会などの)選挙の実施についての合意を求めているようです。
ガザ地区については、パレスチナ自治政府(PA)の与党であるファタハとハマスが決裂した2007年以来、パレスチナ自治政府(PA)の権限は及んでいません。このため、2023年10月7日以来の戦闘でもパレスチナ自治政府(PA)は事態の推移や停戦・人道援助の搬入などで中心的な役割を果たすことができませんでした。
そこでアメリカなどは、このパレスチナ自治政府(PA)を改革・強化・再編して現在の戦闘が終結した後のガザ地区を管理させることを期待しているようです。現在、新内閣の首相候補には、ムハンマド・ムスタファー元経済担当副首相、サラーム・ファイヤード元首相、ナーシル・キドワ・ファタハ中央委員会委員らの名前が挙がっていて、アメリカからの同意やハマスとの最終的な合意の後、アッバース議長が首班指名をする見通しとなっています。
これは、停戦後をにらんだ動きであるともいえ、裏返せば、停戦協議を受けての動きではないかと思います。
3.ガザ地区の再占領はあってはならない
一方、イスラエルはガザ地区の間接支配を目論んでいるようです。
2月22日夜、ネタニヤフ首相は、ガザ地区でのハマスとの戦闘終結後の計画を戦時内閣に提示しました。その計画は、イスラエルが戦闘終結後のガザ地区およびヨルダン以西の全地域を陸海空から治安管理を行い、ガザ地区をイスラエルと敵対する組織とのつながりがないパレスチナ人が同地区を統治するというものです。
イスラエルの主要な同盟国アメリカが、パレスチナ自治政府(PA)が、戦闘終結後のガザ地区を統治することを望んでいることは前述しましたけれども、ネタニヤフ首相が閣僚に提出した短い文書には、パレスチナ自治政府に関する記述はありません。
実際、うパリでの停戦交渉直前に出したことは、交渉におけるイスラエルの立場を明確にしたということです。実際、報じられている停戦案では、戦闘後のガザ地区統治については言及されていません。
ネタニヤフ首相はガザ地区で軍事作戦を開始して以降、国内外から、ガザ地区に関する計画を提示するよう圧力を受けてきたのですけれども、ネタニヤフ首相はイスラエルの安全を守れる指導者という、崩れかけた信用の回復を狙っており、連立政権内の保守強硬派にアピールしたい狙いがあるとも見られています。
この計画について、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長の報道官、ナビル・アブ・ルデイネ氏は、「この地域の安全と安定に、世界が本当に関心を持っているのなら、イスラエルによるパレスチナ領土の占領を終わらせ、独立したパレスチナ国家を承認しなくてはならない」とネタニヤフ首相の計画は失敗に終わるはずだと述べています。
また、アメリカのブリンケン米国務長官も、アルゼンチンで開かれた20カ国・地域(G20)外相会議で「ガザ地区を……テロの拠点にしてはならない。イスラエルによるガザ地区の再占領はあってはならない。ガザの領土は縮小されるべきではない」と述べ、記者会見でも、イスラエルがヨルダン川西岸に新たな住宅を建設する計画を発表したことに「失望している」とし、永続的な和平の実現には逆効果だと指摘。こうした動きは「国際法にも違反する……バイデン政権は入植地の拡大に断固として反対している。イスラエルの安全保障を弱めるだけで、強化するものではない」と語りました。
2019年11月、当時、トランプ政権での国務長官であったマイク・ポンペオ氏が、アメリカ政府はもはや入植地を国際法違反とはみていないと長きにわたる見解を変更し、イスラエルはこれを歓迎していたのですけれども、今回のブリンケン米国務長官の発言は、これを覆し、従来の見解に戻した形です。
4.八割がイスラエル支持
こうしたアメリカの態度にイスラエルは反発しています。
2月27日、イスラエルのネタニヤフ首相は声明で、自分はこの紛争が始まって以来、「早々に戦闘を終結させようとする国際的圧力に対抗し、イスラエルへの支持を集める」キャンペーンを主導してきたとし、「我々はこの分野で大きな成功を収めている」とネタニヤフ氏は付け加え、アメリカ国民の82%がイスラエルを支持していることを示す直近の世論調査を引き合いに出して「これは、完全な勝利を収めるまで軍事行動を継続するための、さらなる力を我々に与えるものだ」と主張しました。
この世論調査はおそらく、ハーバード大学のそれだと思われますけれども、その概要は次の通りです。
- 米国民の82%がイスラエル支持を表明、Hxmas支持は18%。2月19日のエントリー「世界が反イスラエルになる日」で、筆者はアメリカの世論でイスラエル支持は60歳以上で若い世代ではパレスチナ支持だという国際政治アナリストの伊藤貫氏の見解を紹介しましたけれども、ハーバードの調査はちょっと違うようです。
- 67%の米国民が、Hxmasが排除され、すべての人質が解放された後にのみ停戦を支持すると回答。
- 回答者の63%がヨルダン川西岸地区に対するイスラエルの主権を支持している。
- 回答者の78%が、ガザ地区からのHxmasの排除を支持している。
- ガザの将来については、回答者の73%が、イスラエルによる支配か、新しいアラブ国家の下での統治のどちらかを望んでいる。
ただ、ハーバードの調査でも世代毎の支持をみると、高齢になるほどイスラエル支持が多くなり、若年層になるとハマス支持が高くなっており、傾向だけをみれば伊藤貫氏の見方は当てはまっているかと思われます。
バイデン政権はイスラエルの入植地拡大は国際法違反だという見解に戻したのに対し、アメリカ国民はそう思ってないぞ、とバチバチやっている訳ですけれども、ガザ統治については、7割がイスラエルによる支配か、新しいアラブ国家の統治のどちらかと答えていることを考えると、パレスチナ自治政府(PA)のアシュティーヤ内閣が総辞職したことは、新しいアラブ国家を作ると匂わせているともいえ、先手を打ったことになります。
今後のなりゆきは注目です。
WOW:
— Open Source Intel (@Osint613) February 27, 2024
New Harvard Harris Poll:
- 82% of US citizens express support for Israel, while 18% express support for Hxmas.
- 67% of US citizens indicate they would support a ceasefire only after Hxmas is removed and all hostages are released.
- 63% of respondents support Israel's… pic.twitter.com/m948ZSG6dZ
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