俺の怒りと国民の怒り

今日はこの話題です。
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1.衆院政治倫理審査会


2月29日から、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会(政倫審)が完全公開で開かれました。

審査会には安倍派の事務総長を務めた4人と岸田総理が出席しました。

審査は岸田総理から始まり、総理は「自民党の派閥の政治資金問題をめぐり、国民の皆さま方に、大きな疑念を招き、政治不信を引き起こしていることに対して、自民党総裁として、心からお詫び申し上げます」とお詫びの言葉から始まり、続いて、吉田松陰の言葉「後来の種子、いまだ絶えず」を引用。「志を持った有望な人材を将来に引き継いでいく大切さを述べた言葉をかみしめています。私たちはいまの政治を未来の世代に自信を持って引き継いでいけるだろうか、それを考えると申し訳ない」と反省を口にしました。

そして、岸田総理は、裏金事件が起きた3つの「なぜ」を挙げ、それに対する答えを次のように述べました。
1)なぜ何かがおかしいと思いながら、長年続けてきた不記載の慣行を是正することができなかったのか
・日本の政治における当選回数優先主義ですとか、長いものにまかれる風土にあるとすれば、我々はこうした風土、風通しのよい政治の風土をつくっていかなければなりません

2)なぜ政治資金の収支を明確にする、当然のルールすら守ることができなかったのか
・原因が政治における順法意識の欠如であるなら、コンプライアンスの確立に向けた改革をしっかりと進めていかなければなりません

3)なぜ問題が生じた際、政治家自身の責任が果たされないのか
・政治が特別なものである特権意識があったとするなら、特権意識を是正し、政治家も当然の責任を果たすよう、改革を進めていかないといけません
・政治への信頼を回復するため、私自身も先頭に立って、改めるべきは改めていく。自浄作用が求められている自民党が抜本的な出直しをしないといけません
・その第一歩として、古い派閥から決別することにしましたし、本日も委員の許しを得て政倫審に自ら出席し、マスコミオープンのもとで説明責任を果たすことにした。これも前例にとらわれないという私の決意のひとつです
一部報道では、岸田総理が自身が挙げた「3つの何故」について対応策を語ったなどと報じていますけれども、実際に「対応策」といえるのは3番目の政治家の責任の部分で、派閥の解消と自ら政倫審に出席して弁明したくらいで、残り2つは対応策というより「意気込み」の表明で留まっており、なんら形になったものはありません。


2.関与していない、認識していない


続いて、旧安倍派幹部4人の審査が行われ、派閥の会計処理とキックバックについて問われ、それぞれ次のように答えています。
西村・前経済産業大臣:
派閥の会計処理:会長のもとで事務局長が対応していたので、ほかの幹部、特に事務総長は関与していない。パーティー券の販売ノルマも会長と事務局長の間で何らかの相談があって決められたと推察するが、どう処理がなされていたのか承知していない
キックバック :若手や中堅議員の政治活動を支援する趣旨から始まったのではないかとされているが、いつから行われたかは承知していない。歴代会長と事務局長との間で長年、慣行的に扱ってきたことで、会長以外の私たち幹部が関与することはなかった。その時点で還付が適法か違法か、法的な性格について議論したことはないし、収支報告書についても話していない。違法性について議論や認識していたことはない。ただ、『還付してほしい』という所属議員の声に対応する代替策の1つとして、議員が開く政治資金パーティーのパーティー券を清和会が購入するというアイデアが出された

松野・前官房長官:
派閥の会計処理:清和会全体のパーティー券の販売・収入の管理や収支報告書の作成といった経理、会計業務には一切関与していなかった
キックバック :政治目的として認められているものの中で支出してきた。会合などの設定は私も関与しているが、支払いに関しては事務所が行っているので、私が還付金を自由に使っていたという事実はない

塩谷・元文部科学大臣:
派閥の会計処理:去年8月から5か月あまり常任幹事会の座長を務めてきたが、政治資金パーティーをめぐる問題に関しては一切関与していない」
キックバック :20数年前から始まったのではないかと思うが、明確な経緯については承知していない……当時の安倍会長の指示で令和4年春ごろ、いったん還付を中止する方針が決まった。その後、安倍氏が亡くなり、派内をどう運営していくかということに傾注する中、還付金が派閥の収支報告書に不記載で、適法ではない処理をしているということをまったく認識しておらず、還付を希望する声が多いとのことで、その要望に沿って令和4年分も従来通り、還付が継続されたと理解している……真実を申し上げているが、その話は出なかった。不記載のことを聞いた人は1人もいないと思っているし、指示は受けていない。仮に具体的に不記載のことがあれば、その時点で法令違反ということで当然直していると思う。嘘をついてるわけではない

高木・前国会対策委員長:
派閥の会計処理:私が事務総長の立場で政治資金パーティー収入を管理したり、収支報告書の作成や提出について事務局長から報告を受けたり、決裁などをしたりして関与することは一切なかった。そのため収支報告書の不記載や虚偽記載も全く認識していなかった
キックバック :どのような検討がなされたか、私自身はまったく認識しておらず、検討の場にも出席したことはなく、一切関与していない。おそらく令和4年のパーティーを開催した当時の執行部的な方々で決めたということではないか
こちらは、関与していない、認識していないのオンパレードです。売ったパーティ券収入の一部がキックバックとして空から降ってくることがない以上、どこかで誰かがそう決めた筈です。これでは、実態は何もわからず、国民からは、誰も責任は取らないのかと受け取られてしまうのではないかと思います。


3.この決断は、俺の怒りだ


政治倫理審査会とは、政治倫理の確立のため、議員が「行為規範」その他の法令の規定に著しく違反し、政治的道義的に責任があると認めるかどうかについて審査し、適当な勧告を行う機関として、ロッキード事件を機に1985年に衆参両院に設置されました。

開催するには政倫審委員の3分の1以上が申し立てて過半数の議決を得るか、審査対象の議員が自ら申し出る必要があるのですけれども、証人喚問とは異なり、虚偽の説明をした場合に罰する偽証罪に問うことができず、出席を拒否することもできることになっています。

2009年に民主党の鳩山由紀夫代表の政治献金問題を巡って政倫審が開かれた際、鳩山氏は欠席しています。

政倫審は、衆院では過去に9回開催され8人の議員が審査を受けたのですけれども、非公開が原則なものの、全面的に非公開となったのは自民党の加藤紘一元幹事長の闇献金疑惑を受けて開いた1回だけ。

今回は完全フルオープンで行われ、また初となる総理出席となったのですけれども、開催には結構すったもんだがありました。

この辺りの経緯について、2月29日、MBSラジオ「上泉雄一のええなぁ!」に出演したジャーナリストの須田慎一郎氏が次のように解説しています。
・総理が出席の意向を示すということで永田町が大混乱という状況になった
・元々、政倫審の出席に関しては野党は裏金を作ったと言われてる51人全員に対して要求していた
・政倫審の出席は第三者が決めるわけではなくて、本人自ら申し立て書を出して審査・釈明するもの。強制力はない
・野党の51人要求に対し、当初応じたのは5人だった。
・その5人は自民党の安倍派幹部4人、塩谷座長、松野前官房長官、西村前経済産業大臣、高木国体委員長、そして二階派の武田元総務大臣
・人数は5人ということでほぼほぼ確定していたが、中継することも含めてフルオープンでの実施を要求
・ところがこの5人がフルオープンは嫌だと揉めた。
・最終的に2人。西村さんと武田さんがフルオープンに応じますよということで、5人から2人に減っちゃった
・しかし、役員会が開かれる直前になって西村さんがやっぱり俺やめたと、2人が1人になっちゃった。
・そしたら武田さんが、俺1人なのちょっと勘弁してよって、申し立てを取り下げ
・野党の方は政倫審の日程が確定しない、なおかつ内容的にも合意が見られなければ予算案の審議には応じない日程調整には応じないとする立場
・予算案の最終的なデッドラインは衆院通過が3月1日。
・年度内に予算案を成立させるためには、3月1日までにを成立させてしまえば、憲法上の規定により衆院の可決から30日立てば自然成立ということで逆算すれば3月1日がデッドラインだった。
・自然成立の可能性がちょっとなくなってきたということで、今度は総理大臣が慌て始めた
・本来は総理が5人に対して出席しろ フルオープンでやれと言うべきだが、岸田さんはそれがいえない。
・そこで俺が出ると、俺が出るんだからお前たちもなんとか俺の意を組んでという捨て身に出た。
・そうすると野党の方は、えちょっと待てよ。
・51人も入ってない総理が出るとなると、下手に取り扱ったら自分達の立場もまずくなっちゃうんじゃないか、と野党が慌て始めた。
・結論から言うと、あれだけ抵抗していた5人が、一気にフルオープンの形で政倫審に出席となった。
・自分の党の総理総裁がフルオープンでいいって自分も出ると言い出したから、それを聞かなかったら今度は自分の火の粉がかかってきますからね
須田氏の解説によれば、安倍派幹部5人は出席を渋り、岸田総理が自分から出ると言って、渋々出席することになったというのですね。

産経の報道によると、2月28日朝、岸田総理は「政倫審が与野党の駆け引きで動かなくなっていることは国民にとって良いことではない。何とか状況を打開したい……こういった状況のままでは、ますます国民の政治に対する信頼を損ね、国民の政治に対する不信はますます深刻になってしまう」と、与党幹部の電話を次々と鳴らし、自ら政倫審に出席する意向を伝えたそうです。

幹部へ電話した後、岸田総理は自ら政倫審への出席を表明。残り5人も出席することになりました。一部からは、党内で新たな摩擦を生んだとの指摘もあったのですけれども、岸田総理は「この決断は、俺の怒りだ」と周囲に言い切ったとのことです。

まぁ、自ら出席することで、事態を打開したのは評価できるにしても、そもそも政治倫理審査会をやって何か変わるのかという問題がある訳です。

道義的責任を明らかにする為の政倫審を開いた結果、関与していない、認識していないが出席者の答えです。認識してないものに責任を問うても無理というものです。

政治倫理審査会をやっても、何も変わらなかった、では何をしたかったのかという話にもなりかねません。岸田総理は怒りは収めることができたのかもしれませんけれども、国民の怒りは一向に収まらないのではないかと思いますね。





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