足らない砲弾と送らないミサイル

今日はこの話題です。
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1.彼らはアクション漫画のように考えている


2月29日、ロシアのプーチン大統領は連邦議会で内政、外交の基本方針を示す年次教書演説を行い、欧米がウクライナに軍隊を送れば核戦争を招く可能性があると警告しました。

件の演説から該当部分を引用すると次の通りです。
現在の我々の急務は、わが国の科学、技術、産業の能力を高めるような形で防衛産業を強化することだ。可能な限り資源を賢く配分し、軍隊のための効率的な経済を育成し、国防費1ルーブルあたりの見返りを最大化しなければならない。我々が直面している社会的、人口的、インフラ的、その他の問題の解決を早めると同時に、ロシア陸海軍の装備の質を向上させることが極めて重要だ。

これは主に汎用部隊に適用され、その組織原則を洗練させ、先進的な無人攻撃システム、防空・電子戦システム、偵察・通信システム、高精度兵器などを部隊に配備するものだ。

スウェーデンとフィンランドが同盟に加わり、NATOのさらなる東方拡大がもたらす脅威に対抗するため、西側戦略地域の兵力を強化する必要がある。

西側諸国は、ウクライナや中東など世界各地で紛争を引き起こし、一貫して虚偽を喧伝してきた。今、彼らはロシアがヨーロッパを攻撃する意図を抱いていると言う大胆さを持っている。信じられるだろうか? 我々は皆、彼らの主張がまったく根拠のないものだと知っている。そして同時に、彼らはわが国の領土を攻撃する標的を選定し、最も効率的な破壊手段を思案している。今、彼らはウクライナにNATO軍を派遣する可能性について話し始めた。

しかし我々は、かつて我が国の領土に部隊を派遣した者たちがどうなったかを覚えている。今日、潜在的な侵略者は、はるかに深刻な結果に直面するだろう。彼らは、我々が自国の領土の標的を攻撃できる武器を持っていることを認識しなければならない。

核兵器による紛争は文明の終焉を意味する可能性がある。問題は、彼らは深刻な逆境に直面したことのない人々であり、戦争の恐ろしさを知らないということだ。私たち(ロシア人の若い世代でさえ)は、コーカサスでの国際テロとの戦い、そして現在のウクライナ紛争において、そのような試練に耐えてきた。しかし、彼らはこれを一種のアクション漫画のように考え続けている。

実際、人種差別や民族優越主義、例外主義を助長する他のイデオロギーと同様、ロシア恐怖症は目をくらませ、呆然とさせる。米国とその衛星は、実際、欧州の安全保障システムを解体し、すべての人にリスクをもたらした。

近い将来、ユーラシア大陸に平等で不可分な安全保障の枠組みを新たに構築しなければならないのは明らかだ。我々は、このテーマに関心を持つすべての国や団体と、このテーマについて実質的な議論を行う用意がある。同時に、強く主権あるロシアなくして永続的な国際秩序はありえないということを、(これは誰にとっても重要なことだと思うが)繰り返し申し上げておきたい。
国営タス通信によると、演説は2時間を超え、これまでで最長となったそうですけれども、プーチン大統領は、NATO諸国の人々について、「彼らは深刻な逆境に直面したことのない人々であり、戦争の恐ろしさを知らない」と批判している点は注意していいかもしれません。彼らはこれを一種のアクション漫画のように考え続けているのだ、と。


2.鉄のラインメタル


ウクライナにNATO軍を派遣する云々については、2月29日のエントリー「スパイ戦争と12+2の秘密基地」で取り上げましたけれども、フランスのマクロン大統領が口火を切り、その後、ドイツ、イギリス、イタリアなど、多くのNATO加盟国が否定しました。

けれども、スロヴァキアのロベルト・フィツォ首相は、「自国軍の部隊をウクライナに派遣する用意がある国々がある。それは確かだ。一方で、スロヴァキアを含めて、そのようなことは決してしないという立場の国々もあるし、さらに、その提案は検討する必要があるという国々もある」と、ロイター通信に明かしています。

マクロン大統領は、ウクライナが「奥深くまで攻撃できるよう」、長距離と中距離のミサイルや砲弾を提供することで、欧州首脳が連携すると合意したと話していますけれども、その提供時期は明らかにしていません。

その理由は定かではありませんけれども、そもそも砲弾の製造が追いつかないのだ、という説があります。

2月12日、ドイツの防衛大手ラインメタル社は、ニーダーザクセン州に新設する大規模武器製造工場の定礎式を行いました。式典には、ショルツ首相、ピストリウス国防相とデンマークのフレデリクセン首相が出席したのですけれども、同社のアルミン・パッペルガー最高経営責任者(CEO)は、弾薬の在庫は現在空っぽだとし、「私たちは3、4年は大丈夫だ。しかし本当に備えるには10年必要だ……ヨーロッパで150万発を生産しなければならない」と主張。欧州の弾薬の大部分はウクライナに送られており、欧州の在庫は空っぽだと明かしました。

この新設される工場には、年間20万発の生産ラインができるのですけれども、ラインのフル稼働は2年以上先の話であり、パッペルガー最高経営責任者(CEO)は「戦争がある限り、私たちウクライナを助けなければならない。だがその後、本当に満たすには、最低で5年、そして10年は必要だ」と述べています。

これについて、ドイツの軍事専門家は「砲弾供給問題は1年半前に分かっていた。欧州政治のせいで対応が遅れた」と指摘しています。

EUは今年3月までの1年間でウクライナに砲弾100万発を送る計画だったのですけれども、実際に1月までに提供できたのは33万発と目標の三分の一に過ぎません。ボレルEU外交安全保障上級代表は1月末の記者会見で「域内の砲弾製造力は2年で4割増し、年間100万発になった。年末には140万発になる」と釈明していますけれども、それまでロシアが何もせずぼーっしている筈がありません。

冒頭で取り上げた、ロシアの年次教書演説で、プーチン大統領は、防衛産業を強化すると宣言しています。エストニアの分析によると、ロシアの砲弾製造力は今年、年間450万発になり、3年前の10倍に増えると見られています。


3.タウルスは供与しない


そのドイツとて、ウクライナに無制限に武器支援する訳ではありません。

ウクライナは昨年春からドイツ空軍の長距離巡航ミサイル「タウルス」の供給を要求していたのですけれども、2月26日、ドイツのショルツ首相は、タウルスは、地上の兵士を支援する必要があるため、納入しないとし、「ドイツ軍兵士は、このシステムが到達するターゲットと、いかなる時点でも、いかなる場所でもリンクすることはできない。ドイツ国内でさえも」と、イギリスに追随することはドイツを「戦争参加国」にしてしまうと主張しました。

長距離巡航ミサイル「タウルス」の射程は500キロあり、イギリスやフランスがすでに供与したミサイル、ストームシャドーやスカルプのそれの倍あります。また、破壊力も強力で、分厚い装甲で覆われた軍事施設も攻撃できるとして「バンカーバスター」とも呼ばれています。

軍事専門家などの間では、タウルスを使えばウクライナ軍がクリミアとロシア南部を結ぶ「クリミア大橋」を破壊し、ロシア軍の補給路をたつなど大きな打撃を加えられると指摘されているのですけれども、これまでショルツ首相は頑として応じていません。

ショルツ首相は、2月16日からドイツ南部で開かれたミュンヘン安全保障会議で講演した際にも、司会者から「なぜタウルスの供与を拒み続けるのか」と詰め寄られたのですけれども、ショルツ首相は「その質問は少しおかしい」と不快感を示し、ドイツはヨーロッパで最大の支援国であり、問われるべきは他の国の支援だと反論しています。

このショルツ首相のタウルス供与しない発言に対し、イギリスのトバイアス・エルウッド下院国防委員会前委員長は、「これは、ドイツがウクライナに独自の長距離ミサイル・システムを装備することに消極的であることから目をそらすために意図的に行われた、情報の悪用である。これは間違いなく、ロシアがエスカレーターの階段を上るために利用するだろう」と批判。

ドイツ野党のキリスト教民主同盟(CDU)幹部のノルベルト・ロトゲン議員も「ウクライナで使用されている長距離巡航ミサイルの運用にフランスとイギリスが関与しているとされることに関する首相の発言は、まったく無責任だ」と批判しています。

アメリカは、ウクライナに提供したハイマースに、ジオ・ブロッキング・ソフトウェアをインストールすることで、ロシア本土に直接攻撃できないようにしているそうですけれども、専門家によれば、タウルスにも同じようなソフトをプログラムすることができるそうです。

けれども、オスロ核プロジェクトのファビアン・ホフマン博士研究員は、「ショルツ氏がタウラスミサイルの配備に賛成しないのは、ウクライナ側がショルツ氏の考えるドイツの利益に反しないようにミサイルを使用することを、根本的に信用していないからだ。ショルツ氏は、これらのタウルス・ミサイルのどれかが、ウクライナやロシアの政治的に敏感な標的に対する攻撃に使われることを恐れている。ドイツの兵器システムでモスクワまでの標的を攻撃できるという理論的な可能性だけで、首相の頭の中は閉塞感に包まれているのだ」と指摘しています。


4.漏洩したドイツ陸軍高官協議


一方、ロシアはドイツのタウルスがウクライナに提供される可能性について把握しているようです。

2月29日、ロシアの国営チャンネル『RT』のトップであるマルガリータ・シモニャン氏は、ウクライナ軍がタウルス巡航ミサイルを使用する可能性について、ドイツ陸軍高官間で交わされた長時間の議論の記録を公開しました。

流出した録音では、ドイツ陸軍幹部は、イギリスとフランスが同様のミサイルシステムでウクライナを支援している詳細や、ドイツのミサイルがキエフに納入された場合、戦略的に重要なクリミア橋を攻撃するために使用される可能性についても議論しています。

ドイツ国防省の報道官は、「空軍部門の通信が傍受されたかどうか」を調査中であるとしていますけれども、専門家の話を引用したドイツの調査雑誌『シュピーゲル』によれば、流出した会話の音声と記録は本物とみなされているそうです。

ドイツのショルツ首相は、「報道されていることは非常に深刻な問題であり、そのため現在、非常に注意深く、非常に集中的に、非常に迅速に調査されている」と、機密性の高い会話の漏洩について緊急調査を命じています。

緑の党のコンスタンチン・フォン・ノッツ議員は、ドイツの放送局RNDに対し「これが一過性の事故なのか、それとも構造的な安全性の問題なのかという疑問が生じる」と語っていますけれども、もし、この会話がロシアによって傍受されたことが確認されれば、ドイツにとって冷戦後最悪のセキュリティ侵害となる可能性があると囁かれています。

冒頭、取り上げたロシアの年次教書演説で、プーチン大統領がNATO諸国の指導者をして「一種のアクション漫画のように考え続けている」と述べていますけれども、ロシアに勝たせたくないだけだといって、ウクライナに派兵も辞さない構えのフランスのマクロン大統領よりは、ウクライナを信用せず、ロシアを直接攻撃できるタウルスの提供を拒むショルツ首相のほうが、より現実を見ているような気がします。

なぜなら、戦争には相手が存在するからです。マクロン大統領がロシアを勝たせたくないと思うのと同様にロシアも負けたくないと思っている筈で、攻撃を受けたら、同程度以上に報復してくることは当然、考慮にいれるべきです。

その考慮があるのかないのか、EUで考慮する国がどれだけあるのか。この辺りがロシア・ウクライナ戦争がさらにエスカレーションしていくかのポイントになってくるのではないかと思いますね。



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