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1.スーパーチューズデー
アメリカ大統領選の党候補指名争いは、3月5日、予備選などが集中する「スーパーチューズデー」を迎えました。
アメリカの主要メディアによると、15州の予備選が行われる共和党は、序盤戦で強さを見せつけたトランプ前大統領が15州のうち、14の州で勝利を確実にし、ヘイリー氏はバーモント州で勝利を確実にしたと伝えています。
共和党の指名争いは、正式に候補を決める7月の党大会で投票権を持つ代議員2429人の過半数1215人の獲得を競うのですけれども、トランプ前大統領はすでに995人。ヘイリー氏は89人の選挙人を獲得しています。
一方、14州と米領サモアで予備選などを実施した民主党も、有力な対抗馬がいないバイデン大統領が指名獲得の流れを確実なものとしています。
トランプ氏は南部フロリダ州の自宅「マー・ア・ラゴ」で支持者を前に演説し「きょうはすばらしい日だ。わたしたちの国の歴史において、信じられないようなときだ」、勝利宣言しました。
これで、共和党指名争いでほぼ負けが決まったニッキー・ヘイリー氏は、「バーモント州をはじめとする各地で数百万の支持が得られたことを光栄に思う……団結は、単に団結していると主張するだけで達成されるものではない。共和党の有権者の一定数はトランプ氏に深い懸念を示したままだ。これは、われわれの党が成功するために必要とする団結ではない……こうした有権者の懸念に対処することが共和党とアメリカをよりよくすることにつながる」と述べ、選挙戦からの撤退は明言しませんでした。
これについて、成蹊大学法学部政治学科教授の西山隆行氏は次のように解説しています。
民主党はバイデンの対抗馬が知名度の低いフィリップス下院議員のみなのでバイデンに決まり、共和党はヘイリーに圧倒的な支持率の差を示しているトランプで決まり、という状態です。最大の注目点は、ヘイリーが撤退を決断するか、仮に撤退する場合にどのような演説を行うかです。ヘイリーはトランプに対抗できる強い候補として自らを印象付けることに成功しました。2028年大統領選挙で共和党の予備選挙を優勢に進めることに力点を置いていると考えられるため、トランプに対抗し続けることがトランプ派の反発をどの程度うけるかを計算しているはずです(トランプは早く予備選挙を終わらせた方が出費が減るため、訴訟費用の高騰も考えると、早くヘイリーに撤退してもらいたいと思っているでしょう)。仮にヘイリーが撤退するとすれば、トランプの下で団結しようと党内融和を強調するか、それとも批判的な姿勢をとり続けるかに注目です。ヘイリー氏が2028年大統領選挙のために、頑張っているのだ、という見方は確かにあるかもしれません。
2.ヘイリーの勝ち筋は風前の灯
ヘイリー氏の勝ち筋は、トランプ前大統領が大統領選出馬資格を失うか、抱えている裁判で有罪となり一気に支持を失うかのどちらかくらいしかなかったのですけれども、それも風前の灯となってきました。
昨年、メーン州とイリノイ州、コロラド州の裁判所は、トランプ前米大統領が2021年1月6日の連邦議会襲撃事件を扇動したとされる行為を巡り、同州での大統領選への出馬資格を認めない判断を示していたのですけれども、3月4日、連邦最高裁がこれを覆す判決を下しました。
上記の州裁判所は、国家の最高法規を擁護するという宣誓に違反し、反乱に関与した者が連邦政府の公職に就くことを禁じている憲法修正14条3項をもとに、そのような判決をしたのですけれども、最高裁でひっくり返され、この線での出馬資格剥奪はなくなりました。
この最高裁判決について、ブルームバーグは重要なポイントとして次の5つを挙げています。
・出馬資格を争う道が絶たれるなにやら、口惜しさが滲み出ているような書きぶりですけれども、各州毎に出馬資格ありなしを決めるなんて「パッチワーク」によって、選ばれた大統領は、EUのような共同体の代表者であって、合衆国の大統領ではなくなってしまいます。
コロラド州だけでなく、メーン州とイリノイ州でも出馬を認めない判断が先に示された。連邦最高裁の判事らは全会一致で、14条3項を各州が施行することはできず、それを認めると「パッチワーク」のような施行状況が生まれ、有害な矛盾が生じかねないとしており、出馬資格を争う道がこれで絶たれる。
・資格剥奪の権限を持つのは議会だけ
判事の大多数は、14条3項に基づき候補者の資格を剥奪する権限を持つのは議会だけとした。議会が3分の2の多数決で候補者の資格剥奪を解除する権限を持つとしか同項は規定しておらず、大きな争点となっていた。
・踏み込み過ぎという別の意見も
3人のリベラル系判事は、14条3項を各州が施行できないという多数派に同意するものの、候補者を失格とする権限を議会だけが持つかどうか、最高裁は判断すべきでなかったと別の意見を公表した。
・保守系とリベラル系が対立
リベラル系の判事らは、多数派の保守系判事らが、14条3項に基づく将来の異議申し立てからトランプ氏を守る判断を行ったと批判。2000年大統領選では、ブッシュ元大統領とゴア元副大統領の勝敗を分ける再集計差し止めを最高裁が命じたが、「きょう行っていることを最高裁は放っておくべきだった」という当時の反対意見を引用した。
・暴動に関与したかどうか判断せず
大統領在任中に最高裁に保守系判事3人を送り込んだトランプ氏は、21年1月6日の自らの行動、つまり根本的な論争の核心部分の行動について、不利に働きかねない分析を免れた。20年のバイデン大統領の勝利を議会が正式に認定するのを阻止しようと、暴徒化したトランプ氏の支持者らが連邦議会議事堂を襲撃したが、この日の同氏の行動や選挙結果を覆そうとする動きに関する判断にどの判事も踏み込まなかった。
また、裁判で有罪となって支持を失うという線も大分細くなっています。
「スーパーチューズデー」実施州であるノースカロライナ州とバージニア州で出口調査を行ったところ、その初期集計で、「トランプ前大統領は刑事裁判で有罪になっても大統領に適格」とみる投票者がノースカロライナ州で3分の2近く、バージニア州でも半数余りがそう答えていることが明らかになりました。
また、ノースカロライナ州で約4割、バージニア州では約3分の1が、トランプ前大統領の「MAGA(米国を再び偉大に)」運動に参加していると答えたそうで、支持は圧倒的です。
3.ヌーランド辞任
これで今回の大統領選は、「もしトラ」から「ほぼトラ」への流れが生まれているように思います。
この「スーパーチューズデー」の最中、国務省はビクトリア・ヌーランド政務担当国務次官が今月退任し、その職を離れると発表しました。
ブリンケン国務長官によるヌーランド氏退任についての声明は次の通りです。
ビクトリア・ヌーランドは、今後数週間以内に政務担当国務次官を辞任する意向であることを私に伝えました。彼女は、外交を外交政策の中心に戻し、アメリカの世界を活性化するというバイデン大統領の公約を体現する役割を担ってきました。私たちの国と世界にとり重要な時期に、リーダーシップを発揮するために。ヌーランド氏はキャリア外交官で、オバマ政権時代に欧州担当国務次官補を務め、トランプ大統領当選後に退任し、バイデン政権で政務担当国務次官として政府に復帰した人物です。
トリアの任期は、6人の大統領と10人の国務長官の下での35年にわたる目覚ましい公務に終止符を打つものであります。トリアは中国の広州に領事館員として初めて赴任して以来、この省の職務のほとんどを担ってきました。政務官・経済官。報道官兼首席補佐官。次官補と次官。特使兼大使。
これらの経験により、トリアは幅広い問題や地域に関する百科事典的な知識と、米国外交のツールキットをすべて駆使して米国の利益と価値観を推進する比類のない能力を身につけました。
トリアを本当に並外れたものにしているのは、彼女が最も信じているもの、つまり自由、民主主義、人権、そして世界中でそれらの価値観を鼓舞し推進するアメリカの永続的な能力のために戦うことへの激しい情熱です。 これらは、30年以上前に私たちが初めて会ったときに、トリアを突き動かしていた原則でした。これらは、彼女が次官として、また国務副長官代理としての仕事に持ち込んだのと同じ原則であり、彼女は7か月間滞りなくその役割を果たしました。
過去3年間にわたり、トリアはサヘル、ハイチ、中東における複雑な危機への対処から、ヨーロッパとインド太平洋全体にわたる米国の同盟とパートナーシップの拡大と強化に至るまで、あらゆる分野で同省を率いてきました。
しかし、外交官や外交政策の学生が今後何年も研究するであろうものは、ウクライナに関するトリアの指導力です。彼女の努力は、プーチン大統領の全面的なウクライナ侵攻に立ち向かい、プーチン大統領の戦略的失敗を確実にするために世界的な連合を組織し、ウクライナが自らの足で強く立つことができる日に向けて努力するのを助ける上で不可欠です – 民主的、経済的、軍事的に。
トリアには、外交手腕以外にも賞賛すべき点がたくさんあります。彼女は常に自分の考えを発言します - 私の利益と私たちの外交政策の利益のために。 彼女は常にアメリカの外交官を擁護し、彼らに投資し、指導し、高揚させ、彼らとその家族が、彼らにふさわしいもの、そして私たちの使命が要求するものを確実に得られるようにします。 彼女は最も暗い瞬間に光を見つけ、最も必要なときにあなたを笑わせ、常にあなたの背中を押してくれます。
バイデン大統領と私は、ジョン・バス管理次官に対し、トリア氏の後任が確認されるまで政務担当国務次官代理を務めるよう要請しました。
私たちはトリアの貢献と、彼女がこの機関と世界に残した永続的な足跡にとても感謝しています。
ヌーランド氏は激動の1990年代にモスクワの米国大使館に勤務しており、元ロシア大統領ボリス・エリツィンに対するクーデター未遂の際もモスクワにいました。その後、彼女はNATO米国大使に就任した後、オバマ大統領の1期目にヒラリー・クリントン元長官の下で国務省報道官に抜擢されました。
その後、ヌーランド氏はヨーロッパ担当国務次官補として、特にロシアが2014年にクリミア半島を併合した後にウクライナ擁護を行って多くのロシア指導者の怒りを買っていました。
ジョン・ケリー元国務長官は、ヌーランド氏が在任中に報道官の仕事を辞めてヨーロッパのトップ外交官になったとき、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が「あの女性を追い出した」と祝福したことを何度も回想しています。ケリー氏はラブロフ氏に対し、彼女を追い出したわけではなく、「私が彼女を昇進させた」と答えたと述べたそうです。
そのヌーランド氏が辞任となった。彼女はウェンディ・シャーマン国務副長官の後任候補であり、シャーマン氏退任後、副長官代行を務めていたのですけれども、バイデン大統領がカート・キャンベル氏を国務副長官に指名したことで人事争いに敗れたと見られているようです。
4.ほぼトラの準備を始めたアメリカ外交
ロシア外務省のマリア・ザハロワ公式報道官は、ヌーランド米国務副長官の数週間以内の辞任決定の理由について、自身のテレグラム・チャンネルで、次のように述べています。
彼らは理由を教えないだろう。しかし、それは単純なことだ。バイデン政権の反ロシア路線が失敗したからだ。ビクトリア・ヌーランドがアメリカの主要な外交政策として提案したロシア嫌悪は、民主党を奈落の底に引っ張っているのだロシアは、アメリカの対ロシア政策の転換を期待しているようです。
ヌーランド氏の後任には、一時的な措置として、管理担当の国務次官である、ジョン・バス氏が次官として就任するそうですけれども、元国防総省職員で、バイデン副大統領時代の国家安全保障副大統領補佐官を務めた現駐NATO大使ジュリアン・スミス氏が最有力候補と見られています。
ただ、一時的に次官になるジョン・バス氏は、元駐アフガニスタン大使でアメリカのアフガンからの撤退を監督した経歴の持ち主ですから、ロシアに対しては、ウクライナから手を引くという外交メッセージを送っていると見ることもできるようにも思います。
「もしトラ」から「ほぼトラ」が見えてきた「スーパーチューズデー」を受け、アメリカ外交もその準備を始めたのかもしれませんね。
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