モスクワテロと非対称戦争

今日はこの話題です。
画像

 ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。


2024-03-25-191400.jpg


1.モスクワ近郊コンサートホール銃撃


3月22日、ロシアの首都モスクワの北西にあるクラスノゴルスク市のコンサートホールで、建物に侵入した複数の人物が銃撃を行って、火災が発生。多くの人が亡くなる事件が発生しました。

ロシアの連邦捜査委員会は、133人が死亡したと発表。死亡した133人のうち3人は子供だったとしたほか、152人がけがをしたとして、死傷者は285人になったとしています。

ロシア当局は実行犯とみられる4人を含め11人の容疑者を拘束したと発表しました。

この事件について、アメリカのシンクタンク・戦争研究所は3月23日の記事で取り上げ、そのポイントとして次の点を挙げています。
・ロシア当局は、少なくとも民間人133人が死亡したと発表した3月22日の「クロッカス市庁舎」コンサート会場襲撃事件で、襲撃犯4人と関係者7人を逮捕したと主張した。
・ISWは、クロッカス市庁舎襲撃事件の犯人はイスラム国(IS)である可能性が非常に高いと評価している。
・それにもかかわらず、クレムリンは、証拠もないまま、すぐにウクライナの俳優たちをクロッカス市庁舎襲撃事件に結び付けようとしたが、まだウクライナが襲撃に関与したと正式に非難していない。
・ロシア超国家主義者らはこの攻撃に対し、移民に対する虐待や移民の権利剥奪を巡るロシア社会の緊張の高まりを反映して、典型的には外国人排斥的な反移民政策の要求を繰り返し表明した。
・ロシア情報筋は、3月22日から23日の夜、サマラ州にあるロシアの製油所に対して無人機攻撃を成功させたと伝えられ、ウクライナの俳優らを非難した。
・伝えられるところによると、ロシアはインドへのS-400防空システム2台の納入を遅らせているが、これはおそらくロシアのS-400システム生産の限界、ロシアの都市や戦略的企業をウクライナの無人機攻撃から守るための防空システムの必要性の増大が原因であると考えられる。そしてロシアとインドの関係悪化が報じられている。
・ロシア軍はアヴジーウカとドネツク市付近、およびザポリージャ州西部で確認された前進を行った。
・ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は3月23日、動員に召集されたり兵役契約に署名したりした場合に刑事責任を免除する法律に署名した。




2.容疑者はウクライナ方面に逃走した


今回の事件を受け、プーチン大統領は、23日、国民への演説を通じ「容疑者がウクライナ方面に逃走した。背後にあるすべての者を見つけ出して処罰する」と明らかにしました。

プーチン大統領は当局が逮捕した11人のうち銃撃・放火の犯行に直接かかわった容疑者4人がウクライナとの国境に近いブリャンスクで逮捕された点に言及し、「彼らはウクライナ方向に逃走したが、初期情報によるとウクライナ側に国境を越えられる窓口が用意されていたという」と指摘すると、「我々は平和で無防備状態だった人々を対象に計画された組織的な大量虐殺に向き合っている。この犯罪に及んだすべての加害者と組織は処罰を避けることはできない……モスクワと全国すべての地域に追加的なテロ防止措置をした。これから重要なのは背後者などが犯罪に及ぶすのを防ぐこと」と強調しました。

そしてプーチン大統領は「愛する人を失ったみなさんに深い弔意を示す」としながら日曜日の24日を国家哀悼の日にすると宣言しました。

これに対し、ウクライナ側は一切の関与を否定。ゼレンスキー大統領は23日夜、オンライン声明で、「昨日モスクワで何があったかは明らかだ。そしてプーチンやその他の連中は、責任を転嫁しようとしている。連中のやり方はいつも同じだ。もう何度も見ている……これはまったく、くだらないプーチンのやり方だ。ロシア国民のために動いて語りかけるのではなく、丸一日ずっと沈黙して、どうやったらこれをウクライナのせいにできるか考えていたのだ」と、プーチン大統領が攻撃をウクライナのせいにしようとしていると反論しました。

アメリカの戦争研究所は、今回のテロの実行犯はイスラム国である可能性が高いとしていますけれども、実際、アフガニスタンを拠点とするイスラム国分派の「ISホラサン州」が「数百人を殺傷し、大規模な破壊を引き起こした」と犯行声明を出しています。


3.ロシアの製油施設は正当な標的


ロシアが今回のテロの背後にウクライナが居るという明確な証拠は出していませんけれども、ウクライナはロシア国内へ、無人機による直接攻撃を行っています。

3月12日、ウクライナはロシア各地をドローンやミサイルで攻撃。ドローンとロケット、ミサイルが使用され、大規模な製油所で火災が発生しました。

ロシア国防省は、モスクワ、レニングラード、ベルゴロド、クルスク、ブリャンスク、トゥーラ、オリョールなどの上空でウクライナのドローン25機を撃墜したと発表。ドローン攻撃は一日中続いたとしています。

ロシア当局者は、石油大手ルクオイルのNORSI製油所で火災が発生するなど、エネルギー施設が深刻な被害を受け、ロシア国内で2番目に大きい製油所があるキリシの郊外でもドローンが撃墜されたとのことです。

ウクライナの国防関係の情報筋は「ロシア経済の潜在能力を損なうことを目的とした綿密に練られた戦略を実行している……目標は敵の資源を奪い、ロシアが戦争に直接注いでいるオイルマネーと燃料の流れを減らすことだ」とその目的を語っています。

これについて、3月22日、英紙フィナンシャル・タイムズは、関係筋の話として、アメリカがウクライナに対し、ドローンによるロシアのエネルギーインフラへの攻撃を中止するよう促したと伝えています。

この報道を受け、同じく22日、ウクライナのステファニシナ副首相は「アメリカの呼びかけを理解しているが、我々が持つ能力やリソース、技術を駆使して戦っている」と軍事上の観点からロシア製油施設はウクライナ軍の正当な標的という認識を示しました。

「我々が持つ能力やリソース、技術を駆使して」、なんていう言い回しは、もはや前線において、正攻法でロシアを駆逐も対峙もできないと白状しているようなものです。ゆえに越境攻撃を行った。要するに非対称戦に移行せざるを得なくなった感があります。


4.ロシアは戦争状態にある


ロシアのペスコフ報道官は、3月22日にに発行された政府系新聞「Argumenty i Fakty」のインタビューで「そう、それは特別な軍事作戦として始まったが、この同盟が形成され、集団的な西側諸国がウクライナ側に参加するようになるとすぐに、それは我々にとって戦争になった……誰もがこのことを理解し、内部動員を行うべきだ」と語りました。

ロシアはこれまで公式には、ウクライナへの全面侵攻を「特別軍事作戦」と呼び、戦時検閲法によって、侵攻を "戦争"と呼ぶことを禁じています。

ペスコフ報道官は、2014年にモスクワが併合したウクライナの半島と、ロシア軍に部分的に占領されたままのドネツク、ルハンスク、ザポリツィア、ケルソンの各州を指して、「ロシアは、どんな手段を使っても、クリミアはもちろんのこと、新しい地域の領土を奪おうとする意図を持つ国家が国境に存在することを許すことはできない……これは特別な軍事作戦であり、これに関連する法的な変更はない……しかし、事実上、基本的に、これは我々にとって戦争に変わったのだ」と語っています。

3月20日、ロシアのショイグ国防相は上級将官らに「ロシア軍は敵を陣地から追い出し続けている……アメリカとその衛星国はロシア軍の成功を非常に懸念している」と述べ、年末までに2つの軍と30の編隊を新設することで増強すると表明しました。

これについて、軍事アナリストは、新しい部隊構成には20万人以上の兵士が必要になると見積もっているとのことです。

この発言で、ロシア国内では、間もなく、前線を増強するために第二次動員を開始するかもしれないという噂が流れているそうなのですけれども、ペスコフ報道官は前述のインタビューで「動員」という言葉を使い、2014年にロシアが併合したウクライナの半島と、ロシア軍が部分的に占領したドネツク、ルハンスク、ザポリツィア、ケルソンの各州を指して、「ロシアは、どんな手段を使っても、クリミアはもちろんのこと、新しい地域の領土を奪おうとする意図を持つ国家が国境に存在することを許すことはできない」と語りました。

このことからロシアはウクライナ戦争が更に拡大することも予想しているようです。

3月8日のエントリー「ロシアに漏洩したドイツ軍将校の会話」で、ドイツ陸軍高官間で交わされた議論の記録が漏洩したことを取り上げましたけれども、その中には「現地にはアメリカ訛りで話す私服の人々が大勢いることが知られているのだ」という会話もされています。

要するに、ロシアは、ウクライナでNATO軍との衝突も想定している可能性があり、その準備として前線を強化しようとしているのではないかということです。

翻ってみれば、ここのところ、フランスのマクロン大統領が、ウクライナに派兵すべきだと叫んでいますけれども、あるいは、NATO軍がウクライナに入っているのがもう隠せなくなったのだから、ならば公に派兵しても同じことだと開き直ったのかもしれません。

また、ドイツのショルツ首相が長距離巡行ミサイル「タウルス」を頑なにウクライナに供与しないのも、供与すれば、ほぼ間違いなく、ウクライナがロシアを越境攻撃するであろうと見ているからで、なんとか戦争を拡大させないよう腐心しているともいえます。

既に、非対称戦でないと戦えなくなったウクライナに、これ以上、戦争継続するのなら、それこそNATO軍を派兵しないと難しいのではないかと思います。

果たしてどう決着をつけるのか。戦争拡大することなく早期停戦を祈ります。


  twitterのフリーアイコン素材 (1).jpeg  SNS人物アイコン 3.jpeg  カサのピクトアイコン5 (1).jpeg  津波の無料アイコン3.jpeg  ビルのアイコン素材 その2.jpeg  

この記事へのコメント