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1.川勝辞任宣言
4月2日、静岡県の川勝平太知事は、県庁内での記者団の取材で「6月の議会をもってこの職を辞そうと思う」などと語り、知事職を辞する意向を表明しました。
この突然の辞任表明に、現場の記者からは「不誠実だ」、「県民360万人に関わることなので、しっかり説明すべきではないか」などと怒号に近い呼びかけが飛び交ったのですけれども、川勝知事はこれに応じず、囲み取材の場は大混乱となりました。
川勝知事は前日の4月1日、県の新人職員に訓示し、この中で「県庁というのは別のことばで言うとシンクタンクです。毎日野菜を売ったり、牛の世話をしたりするのとは違って、基本的に皆さんは知性が高い方たちです」などと発言し、大問題となりました。
職業差別発言とも捉えられかねないとして県には、批判や苦情などが殺到。県の広聴広報課によると、2日午後5時までに電話やメールなどで430件、寄せられ「発言は許せない」とか「農業を馬鹿にしているのではないか」など、すべて否定的な意見だということです。
2日の会見で川勝知事はこの発言の真意を問われ記者と次のようなやりとりをしています。
――発言を聞いた県民からは、県の広聴広報課に対して「農業・畜産に携わる人の知性が低いということですか? おごった考えですね」とこの後、今後、勘違いを生むような表現をしないための対応について問われ「こういう風潮には憂いをもっています。どうしたらいいかなと思いよく考えたが、今年6月の議会をもって職を辞そうと思う」と辞職発言へとなった訳です。
「それは、読売新聞の報道のせいだと思っています」
――うちはあくまでも、きのうの知事の発言をそのまま切り取ることなくお伝えした上で…
「いや、切り取られたんだと思いますね」
――特に中略もしていないので、切り取ってはいないと思いますが
「いや、文章全体の流れ、脈絡からは外れているんじゃないんですか」
――野菜を売ったり、牛の世話をしたり、という文脈が出てくるのはここだけで…
「それは、違う職業であるということの例示ですね」
――ただ、違う職業であるということは、きのう、はっきりと明示されなかったので、県民もそれを受け取ったときに、「じゃあ知性が低いと言いたいのですか」という…
「とんでもない話ですよ。それはもう、誤解も甚だしいというか、曲解も甚だしいと思います。しかし、そういう人がいたということは誠に残念で、ぜひその誤解は解いていただきたいと。酪農家、あるいは野菜を作っている人たちを含めて、ずっと大事にしてきました。知性というのは、静岡県の公務員の仕事にそれが必要だからという、そういう流れの中で言っているはずです」
――であれば、知事からはっきりと言ったほうがいいのではないか
「いま申し上げています。ですから」
――発言をする知事の側に今回、問題があったのではないか
「そういうニュアンスで取られたらそういうことかもしれませんが、原稿を作ったわけではなくて、私は新入職員のお顔を見ながら話しておりまして、話す内容は彼らを励ます、歓迎する、この2つ以上でも以下でもなかったわけです」
このように、あたかも自身の発言を切り取って騒ぎ立てるメディアのせいで辞任するのだ、と言わんばかりに聞こえます。
けれども、そういうのなら、最初から問題発言をしなければよいだけのことです。もし、どう頑張ってもその種の発言を直せないのであれば、暴言を吐いても許されるキャラとして認知されるのを目指すべきでしょう。
実際、川勝知事は、過去にも問題発言を繰り返していました。
3月にも「藤枝東高校はサッカーをするために入ってきている。学校もボールを蹴ることが一番重要なこと。勉強よりも何よりも」「磐田というところは文化が高い。浜松より元々高かった」と、特定の高校や自治体を揶揄するような発言をしたほか、性別による役割を決めつけるような発言をするなど、たびたび物議を醸していました。
また、2021年10月の参院静岡選挙区補欠選挙の応援演説で御殿場市を「あちらにはコシヒカリしかない。飯だけ食って、農業だと思っている」と揶揄して問題となりました。
この発言を受け、2021年の11月には、県議会で知事への辞職勧告決議案が可決され、2023年11月には不信任決議案が提出され、1票差で否決されています。この時、川勝知事は「不信任案を極めて重く受け止めている。不適切言動があった場合は辞める」と述べていたのですけれども、それを考えると、今回の発言は「不適切な言動」だと認めざるを得なくなった可能性も考えられます。
実際、非自民系で川勝知事を支えてきた県議会第2会派の四本康久幹事長は、辞職表明を受け、「今までの発言と違って、相当厳しいと感じていた。波及の大きさ、反響が今までと質が違った」と語っています。
2.知的労働と肉体労働
川勝知事は、これまでもマスコミの切り取り報道を批判していたのですけれども、4月2日、FNNプライムオンラインは、川勝知事による件の新規採用職員への職業差別訓示の全文を掲載しました。
川勝知事の切り取りが問題だとする見解への反撃だと思いますけれども、その全文から、切り取りにならないよう件の箇所の前後を抜き出すと次の通りです。
【最初の挨拶】やはり、筆者にも問題発言のように聞えます。これでは、農業やモノづくりが「頭を使わない職業」と思っていると受け取られてしまいかねません。
【東海地震に備え危機管理が大切と訓示】
【公務員は人の役に立つ、社会の役に立つ気持ちをもつべき】
【心は素直で嘘偽りを言わない。上に諂わず、下に威張らず】
【人の艱難は見捨てない】
【天知る、地知る、我知る】
それからみなさん優秀ですから、なかなか物をわかってくれない人がいるかもしれない。その時にですね、情理を尽くすということが大切です。理屈ではわかっていても、腹にストンと落ちない場合があります。ですからハートtoハートで、その心からこうすると本当に良いというように言って差し上げるとストンと落ちる場合がある。ですから情と理、情理を尽くして、自分が正しいと思う信念を貫くということが大切です。
そしてですね、そのためにはですね、やっぱり勉強しなくちゃいけません。実は静岡県、県庁というのは別の言葉でいうとシンクタンクです。毎日、毎日、野菜を売ったり、あるいは牛の世話をしたりとか、あるいはモノを作ったりとかということと違って、基本的に皆様方は頭脳・知性の高い方たちです。ですから、それを磨く必要がありますね。で、それは磨き方はいろいろあります。知性を磨くということ。それからですね、やっぱり感性を豊かにしなくちゃいけない、それから体がしっかりしてないといけませんね、ですから文武芸、三道並立と。文武両道というのは良く聞くでしょう。しかしですね、美しい絵を見たり、良い音楽を聞いたり、映画を見たり、演劇を見たりした時にですね、感動する心というものがあると望ましい。
ですから、自分の知性がこの人に及ばないなと思ってもですね、知性というものを大切にするということが大事ですね。そのためにはやっぱり勉強しなちゃいけません。それから体を鍛えると。しかし、スポーツが苦手な人もいらっしゃるでしょう。でも、スポーツを楽しむことはできますね。見たり、楽しむこともできます。まぁ無芸大食の人もいるでしょう。しかし、芸術を愛することはできますから、文武芸、三道並立ということでですね、豊かな人間になっていただきたいと思います。
人に情けをかける、物の哀れを知ると昔からそういう風に言われますけれども、人に情けをかけることはですね、情けは人のためならずという言葉がありまして、つまり人のために助けるんですけども、結果的には自分のためになっているということが多いんです。ですから、人に情けをかけるという、困っている人は助けるということを、こうしたことをやってください。
【以下次の話題】
野菜にしても、そこら辺に種を撒いておけば勝手に生えてくるものではありません。野菜に合わせた最適な土壌、季節、その他多くの知識を必要とします。勉強しないと売れる野菜にするのは難しい。
川勝知事は新規採用職員に向かって「君たちは頭脳・知性が高い」けれども、体も鍛えておけ、と訓示しています。では、体を鍛えまくっているスポーツ選手が頭を使ってないのかといえばそうではないでしょう。アスリートとして最高のパフォーマンスを出すために、栄養学からトレーニングから科学的な手法を取り入れるのが当たり前になっています。
ドジャースの大谷選手の食事を含めたストイックな生活など、身体能力は当然として、頭だけでなく心も強くなければ到底できるものではありません。
問題発言だと思う川勝知事の発言にしても、例えば「今は、頭も体も使う時代です。メジャーリーグで大谷選手がベンチでipadでデータを見ている映像とか流れてますが、あれほどのアスリートでさえも、緻密なデータを頭に入れて戦っているのです。彼らほど体を使わないであろう君たちはその分もっと頭を使わなければなりません」くらいにいっておけば、問題発言とされることはなかったと思います。
それがああいう発言になったということは、職業に貴賤はないといいながらも、知的労働と肉体労働といった単純な区分で考えていたのではないのかと勘繰ってしまいます。
3.リニア中央新幹線開業目標断念
川勝知事といえば、問題発言よりも、リニア中央新幹線の妨害をしていたことの方がずっと印象に残ります。
3月29日、JR東海はリニア中央新幹線の東京・品川―名古屋間について、最短で2027年としていた開業目標を断念する方針を明らかにしました。
この日、国土交通省でリニア静岡工区の水資源や環境保全対策を話し合う会議が行われたのですけれども、会議の冒頭でJR東海の丹羽俊介社長が「静岡工区が名古屋までの開業の遅れに直結している。27年の開業は実現できる状況にはなく、新たな開業時期を見通すこともできない」と述べ、
沢田尚夫常務執行役員は「山梨や長野工区の掘削実績を踏まえても、17年に考えていた工期を短縮できず、さらに延びる可能性がある」と説明しました。
JR東海は静岡工区の着工から開業まで10年程度を見込んでいることから、仮に24年に着工したとしても、品川-名古屋間の開業は最短で2034年以降にずれ込む計算となります。
JR東海は2014年に品川―名古屋間のリニア工事に着手。静岡工区は全長約8.9キロメートルで、17年に大成建設と佐藤工業の共同事業体と工事契約を結んだのですけれども、この年、川勝知事が南アルプスのトンネル工事による大井川の水量減に懸念を示し、工事反対を表明しました。
水資源や生態系の保全策を巡る協議は長期化し、とうとうJR東海は2023年12月に2027年としていた工事完了時期を「27年以降」として国交省に申請し認可されていました。ところが、その後も静岡工区の着工ができないままでいます。
今回、JR東海が「リニア中央新幹線」の2027年の開業を断念したことについて、斉藤国交相は、閣議後の記者会見で「リニア中央新幹線は、3大都市圏を1つの圏域とし、日本経済をけん引するなど、重要な意義がある。静岡工区に関連して、2027年の開業目標が実現できないことは非常に残念なことだ……JR東海が静岡工区で行う環境対策の状況を継続的に確認するとともに、静岡県とJR東海の対話を促す」と、できるだけ早い開業に向けて、対話の促進を含めて環境を整備していく考えを示しました。
4.静岡の恨みとスズキの後押し
なぜ、川勝知事はここまで執拗にリニア中央新幹線の建設を妨害するのか。
その理由としていろんな説がいわれていますけれども、一つには、JR東海が静岡県を蔑ろにしてきた説があります。
これは、JR東海が、新幹線のぞみが静岡県に止まらない、新幹線の新駅をつくらない、リニアも駅もつくらない、という三つの「静岡飛ばし」が原因で静岡が臍を曲げたというものです。
これまでも、静岡県はのぞみが県内に停車しないことに不快感を示してきました。過去には石川嘉延元知事が県議会で「のぞみの通行税を取る」と発言したこともあるそうです。また、静岡駅と掛川駅の中間地点の真上に建設されている富士山静岡空港に直結させた新駅を造るという要望も上げたのですけれども、JR東海は「静岡と掛川両駅の距離が近すぎる。新幹線の高速性が発揮されなくなる」と一蹴。川勝知事も過去に要望したものの、事実上、一顧だにされなかったという過去があります。
更に、鉄道関係に詳しいある記者は、JR東海は「観光列車を走らせて地域振興を図るとか、地元自治体と一緒になった営業努力をしようとしない会社として、業界では有名」なのだそうです。
それに加えて、リニアは静岡県内に駅すら建設されません。リニアの駅数は当初、今の予定より少なかったのですけれども、それぞれの地域の反対で一県一駅に落ち着きました。にも関わらず、静岡県だけ駅が置かれないのです。
この記者は「静岡からすれば、JR東海は地元にのぞみを止めない東海道新幹線で大儲けしている。その上、その金でリニアをつくって、また駅をつくらない。リニアは水の不安だけあって、何の恩恵もない。JR東海は静岡のことはどうでもいいのか、という強い不満がある。観光列車を走らせるとか、『地元を大切にしてます』という姿勢をもっと前から示しておけば、リニアの静岡問題はこんなにこじれていなかったはずだ」と述べたそうです。
またそれとは別に、川勝知事の背後の団体が影響しているという説もあります。
ジャーナリストの須田慎一郎氏は虎ノ門ニュースで次のように解説しています。
・川勝知事は、静岡政財界のドンであるスズキの鈴木修・前会長の全面バックアップを受けている。もっとも、須田氏も、JR東海が静岡県を無碍に扱っている説についても触れていますから、複合的な要因かもしれません。
・静岡では鈴木修・前会長の許可がなければ選挙に出馬することすらできない
・リニアはJR東海の葛西元会長が進めた一大プロジェクトだが、葛西元会長と鈴木修前会長は、中部財界の主導権争いで対立していた。
・リニア建設の妨害は、この対立の影響があるのではないか。
・スズキはメディアの大スポンサーなので、メディアは一切報じない
今回の川勝知事の辞任発言について、X(旧ツイッター)では「静岡県の恥」「士農工商知事判断が早くて草」「いや今すぐ辞めろや」「ちゃっかりボーナス貰う気満々やろ?」「あとから撤回とかするなよ?」と辛辣な声が続々と上がり、リニア中央新幹線についても「リニア、通りそう」など、工事の前進に期待する声もあがっています。
ただ、すでにJR東海が2027年の開通を断念しています。
穿った見方をすれば、川勝知事はJR東海の当初の計画を頓挫させたのですから、ある意味、静岡の怨念を晴らし、鈴木修・前会長への義理を果たしたともいえる訳です。
実際、3日に行った会見で川勝知事は「リニア開業延期が決まって自分の責任を果たした」なんて話しています。
けれども、国全体としてみれば、静岡の抵抗が国益を大きく棄損したことは否定できません。
願わくば、次の静岡県知事にはリニア建設に全面賛成し、一刻も早い開業に協力していただきたいと思いますね。
この記事へのコメント
以前も前言を翻したと言うか、無視したことがありましたからね。
また本当に辞めても次の知事が立民系だと同じくリニアへの妨害をするかも知れないと思います。
naga