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1.イスラエルのイラン大使館攻撃
4月1日、イランの革命防衛隊はシリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館の領事部がイスラエルによって攻撃され、将官7人が死亡したと発表しました。
シリア国防省によると、イスラエルの航空機が1日午後5時ごろ、シリアが占領するゴラン高原方面からイラン領事部の建物を攻撃。発射されたミサイルの一部はシリアの防空システムが撃ち落としたものの、他のミサイルが「建物全体を破壊し、中にいた全員が死傷した」としています。
この攻撃を受け2日午後、国連の安全保障理事会で緊急会合が開かれました。
会合で、ロシアのネベンジャ国連大使は「イスラエルの攻撃は主権の侵害で容認できない。この無謀な行為を国際社会は糾弾しなければならない」と強く非難し、イランの国連次席大使もテロ攻撃だと非難したうえで「イランには断固とした対応をとる正当な権利がある」と述べ、対抗措置をとると主張しました。
これに対してイスラエルを擁護してきたアメリカのウッド国連次席大使は「攻撃を受けた建物が外交施設といえるのか確認できない」とした上で「イランとイランが支援する組織は地域の緊張を高めてはならない」と述べ、逆に地域の安定を脅かしているのはイランだと非難しました。
各国からは中東全域に緊張が広がることを懸念する意見が相次ぎ、日本の志野国連次席大使も「いま切実に求められているのは安定だ」と訴えました。
国連のグテーレス事務総長は2日、報道官を通じて声明を出し、シリアでイランの大使館が攻撃されたことを非難。外交施設や領事施設の不可侵の原則は、国際法に従っていかなる場合にも尊重されなければならないと強調し「関係者全員に最大限の自制を徹底し、さらなるエスカレーションを避けるよう呼び掛けた」としています。
2.邪悪なシオニスト政権は罰せられるだろう
この攻撃について、イランの国営メディアは軍事精鋭部隊・革命防衛隊の司令官ら7人が殺害されたほかシリア人の市民6人も死亡したと伝えています。
革命防衛隊とつながりのあるメディア「タスニム通信」は、殺害された司令官のザヘディ准将について、革命防衛隊の中でも主に国外での特殊任務にあたる「コッズ部隊」に所属し、シリアやレバノンでの作戦などに従事していたと伝えたほか、イスラエルメディアを引用する形で、以前からイスラエル政府が暗殺の標的にしていたと報じました。
そして2日、イランの最高指導者ハメネイ師は声明を出し「憎しみに満ちたイスラエルの政権による犯罪だ……邪悪なシオニスト政権は我々の勇敢な男たちの手によって罰せられるだろう。我々はこの犯罪を後悔させる」として報復を誓いました。
翌3日、イランのエブラヒム・ライシ大統領はパレスチナを支援するオンライン会議で演説。イラン大使館領事部ビルへの攻撃について「シオニスト政権は抵抗戦線の勇敢な男たちにより罰せられ、犯罪を後悔するだろう」と中東各地の反イスラエル武装組織による代理報復の可能性に初めて言及しました。
2月の段階では、イランは戦争をする意思は見せていませんでした。
2月2日、ライシ大統領はテレビ演説で「我々は、いかなる戦争も起こさないが、もし誰かが我々を虐めようとするならば、彼らは強い反撃を受けるだろう」と発言。アメリカについては「以前、われわれとの協議を望んだ際、軍事的な選択肢があると主張していたが、現在はイランと衝突する意図はないと言っている……イランの軍事力はこの地域のどの国にとっても脅威ではなく、脅威であったこともない。むしろ、この地域の国々が信頼できる安全保障を実現している」と述べていました。
それが今回、ハメネイ師が報復を表明した声明の文言をほぼ踏襲する形で報復を宣言した訳です。
これを受け、イスラエル軍は4日、声明で「状況評価に基づき、イスラエル国防軍の全戦闘部隊の休暇を一時停止することが決定された……イスラエル国防軍は戦争状態にあり、軍の配備は必要に応じて継続的に評価されている」としました。
ネタニヤフ首相もこの日、安全保障を巡る閣僚会議の冒頭で「イランは何年にもわたり、直接的、もしくは代理勢力を利用してイスラエルに対抗してきた。このため、イスラエルは防衛的にも攻撃的にもイランとその代理勢力に対して行動している……イスラエルに危害を加えようとする者が誰であろうと対抗するという単純な原則に従って行動する」と強気の発言をしています。
3.ネタニヤフの罠に巻き込まれるな
けれども、こうした動きにアメリカは懸念を示しています。
アメリカ当局者2人は、イランがイスラエル国内の目標への攻撃を計画しているのではないかと懸念していると述べました。この当局者は、イスラエル国内での報復は 民間人ではなく軍や情報機関の標的に集中すると予想されるとし、政権がイランによるさまざまな報復の可能性にどのように対応するかについての選択肢を検討し始めたと明らかにしています。
アメリカの情報機関は、イランが無人機の群れや対地攻撃巡航ミサイルを使った攻撃を実行する可能性があり、報復としてイランが地域内のイスラエルの外交施設や領事館を標的にする可能性があると警告。イランは来週のラマダン明けまでに反応する可能性が高いとしています。
その一方、イランとアメリカは、事態の悪化を避けるべく、水面下でやり取りをしていました。
4月5日、イランのライシ大統領の側近であるムハンマド・ジャムシディ政治問題担当副首席補佐官は、イラン政府がアメリカに対し、イスラエルとイランの戦闘に関与しないよう警告するメッセージを送ったと明らかにしました。
ジャムシディ氏は「イラン・イスラム共和国は書面で、ネタニヤフ首相のアメリカへの罠に巻き込まれないようアメリカ指導部に警告する。怪我をしないように近づかないで欲しい」とツイートし、アメリカもイランに対し、アメリカ施設を標的にしないよう要請していると述べています。
これについて、アメリカのある政府高官は「ダマスカスでの攻撃の後、イランからメッセージを受け取った。これに対し、我々は、この攻撃の背後に我々がいないことを明確にした。また、イランに対し、今回の空爆を口実に、この地域でさらなるエスカレーションを起こしたり、米国の施設や人員を攻撃したりしないよう警告した」とNBCニュースに語っています。
4.ネタニヤフへの最後通告
4月2日の国連安保理では、イスラエルが攻撃したのか確認できないとし、地域の緊張を高めているのはイランの方だとイスラエルの肩を持っていたアメリカですけれども、その後、急に態度を変えています。
4日、アメリカ国防総省のシン副報道官は「イスラエルは米国防総省に攻撃に踏み切ることを通知しておらず、ダマスカス内の標的も同様だった」と述べ、イスラエルが実行したと判断していることを明らかにし、更に、外交施設への攻撃は支持しないとの立場も示しました。
同じく4日、アメリカのバイデン大統領はイスラエルのネタニヤフ首相との電話会談を行いました。
ホワイトハウスは、アメリカとイスラエルは「定期的かつ継続的に連絡をとっている……アメリカはイランの脅威に対するイスラエルの防衛を全面的に支持する」と述べていますけれども、会談でバイデン大統領は「ガザに関する米国の政策は、イスラエルの当面の行動を見極めて決める」と悪化する人道状況などへの措置を求めた上で、今後の対イスラエル支援のあり方を見直す可能性に言及しました。
アメリカのCNNは政府筋の話として、約30分続いた電話会談は「緊張し、難しいものだった」と報じています。
バイデン政権は最近、ガザの人道危機を顧みずに戦闘の継続を主張するネタニヤフ氏に不満を募らせていました。極右政党と連立を組むネタニヤフ政権は、ガザ最南部ラファへの軍事侵攻について、アメリカの意向を無視して強行する構えすら見せていました。
そうした中、4月1日に、ガザで人道支援活動に従事していた「ワールド・セントラル・キッチン(WCK:World Central Kitchen)」が攻撃され、職員7人が死亡するという事件が発生したのですね。
アメリカメディアは、これによってバイデン大統領のネタニヤフ首相への怒りと苛立ちが「一気に限界点に達した」と報じました。今回の会談でアメリカが支援見直しを示唆したのは、ネタニヤフ首相への「最後通告」と受け止められているようです。
既に、与党・民主党では軍事支援の制限を求める声が強まっています。昨年10月以降、バイデン政権は少なくとも数万発の弾薬をイスラエルに提供し、100回以上にも及ぶその輸送のほぼ全てで議会の手続きを経ない特別扱いをしてきました。4月4日、バイデン大統領に近い民主党議員はこうした対応を「見直すべき時だ」と述べています。
5.危急存亡の秋が近づくイスラエル
ネタニヤフ政権はこれに真っ青になりました。
4月4日夜、イスラエルの戦時内閣は、ガザ北部のエレズ検問所の再開およびイスラエル南部のアシュドッド港の一時利用を承認し、人道物資の搬入を拡大する措置を決定しました。また、カレムシャロム検問所を経由したヨルダンからの援助物資搬入を拡大することも承認しています。
また、5日には、「ワールド・セントラル・キッチン(WCK:World Central Kitchen)」の職員がイスラエルの空爆で死亡した問題についての調査結果を公表しています。
それによると、イスラエル軍はイスラム組織ハマスの戦闘員が乗っていると誤認してWCKの車両3台をドローンで攻撃。標準的な作業手順が守られていなかったとし、将校2人を解任、複数の上級司令官を譴責処分としました。
イスラエル軍は声明で「支援車両への攻撃は深刻な失敗に起因する重大なミスだ。特定作業の誤り、意思決定のミス、標準作業手順に違反した攻撃が原因だ」と表明。軍によると、刑事捜査の可能性も検討されるとしています。
これらについて、5日、アメリカのブリンケン国務長官は、イスラエルのガザへの人道支援拡大について、取り組みを歓迎するが、成否はガザの状況改善という結果で判断するとし、ワールド・セントラル・キッチンの職員を攻撃した問題の調査結果については、イスラエルの調査結果を慎重に検証し、どのような措置が取られるか極めて注意深く見守ると表明。再発防止策が重要になると語っています。
要するに口だけでは信用しない。結果でもって判断すると突き放した訳です。
4月5日のエントリー「NGO職員を殺害したイスラエル軍とネタニヤフ退陣デモ」で、イスラエル国内で、ネタニヤフ退陣デモが起こっていることを取り上げましたけれども、ネタニヤフ政権は国内も世界も敵に回し、唯一の後ろ盾であったアメリカまで失う可能性も出てきました。
もし、イランの報復に対しアメリカが支援または介入しないのであれば、イスラエルは一気に危うくなります。イスラエルは危急存亡の秋を迎えたのかもしれませんね。
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