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1.ウクライナ支援緊急予算案可決
4月20日、アメリカ連邦議会下院は、ウクライナへの追加の軍事支援のための緊急予算案の採決を行い、賛成311票、反対112票の賛成多数で可決しました。
予算案は、総額およそ608億ドル、日本円にしておよそ9兆4000億円。武器弾薬の供与、米軍の在庫補充、欧州展開の米軍向けの財源が盛り込まれました。採決では、下院で多数派を占める野党・共和党のうち、支援に消極的な保守強硬派の議員を含むおよそ半数が反対したのですけれども、与党・民主党の議員のほとんどが賛成に回り、超党派での可決となりました。可決の瞬間、賛成派はウクライナ国旗を振って祝福したそうです。
この後、予算案は上院での可決とバイデン大統領の署名を持って成立し、ウクライナ支援の再開に向け大きく前進することになります。
また、下院は、イスラエルへの支援におよそ263億ドル、台湾などインド太平洋地域におよそ81億ドルをそれぞれ充てる緊急予算案も可決しています。
今回の可決について、バイデン大統領は声明で「世界におけるアメリカの指導力について明確なメッセージを送った」と歓迎し、議会上院に対しすみやかな可決を求めています。
また、ウクライナのゼレンスキー大統領も可決を歓迎。同じく20日、SNSにメッセージを投稿し「歴史を正しい方向に導く決断をしたアメリカ議会下院、両党、さらにジョンソン下院議長に感謝している。民主主義と自由は、アメリカがそれを守るための手助けをしてくれるかぎり世界にとって重要であり続け決してつまずくことはない……きょう可決された重要な支援の法案は、戦争の拡大を防ぎ、大勢の人の命を救い、そして両国がより強くなる助けとなる。法案が上院でも支持され、バイデン大統領のもとに送られるよう望んでいる。ありがとう、アメリカ!」と謝意を示しています。
2.分割された法案
緊急予算については、バイデン大統領が昨年10月、議会に申請したものの、共和党強硬派の抵抗で審議は迷走し、その間にウクライナ向け財源は枯渇。武器支援が滞り、ウクライナ軍は露軍の攻勢に押されていました。
それがどのような経緯で可決に漕ぎつけたのか。
これについて、アメリカ連邦議会の開会中にワシントンDCで発行される新聞・ウェブサイト「Roll Call」が「下院、ウクライナ、イスラエル、台湾への953億ドルの支援策を可決。(House passes $95.3B aid package for Ukraine, Israel, Taiwan)」という20日付の記事で報じています。
件の記事の概要は次の通りです。
・ジョー・バイデン大統領が最初に要請してから6ヶ月後、下院は主要同盟国に対する緊急支援策の調整版を超党派の強い支持を得て可決し、最終投票のために上院に送り返された。今回の追加歳出措置は、「ウクライナへの608億ドルの援助」「イスラエルへの援助とガザやその他の紛争地域への人道支援に関する264億ドルのパッケージ」「台湾やフィリピンなどインド太平洋地域の同盟国を支援する81億ドルの措置」「ロシアの資産約50億ドルの差し押さえや、ロシア、イラン、中国への制裁強化などのサイドカーパッケージ」という4つの別々の法案を採決し、それらを1つの法案に纏めるという異例の手順で可決されたそうなのですけれども、共和党内では、イスラエルや台湾向け支援の支持が根強かったことからジョンソン下院議長は予算案を分けることで、強硬派を押さえこんだと見られています。
・この953億ドルの追加歳出措置は、4つの別々の法案に議員が投票し、それを1つの法案にまとめるという異例の手順で可決された。
・ニューヨーク州選出の上院院内総務チャールズ・E・シューマーは、最終採決は早ければ火曜日にも行われ、バイデンの署名が必要となると述べた。
・最大の法案であるウクライナへの608億ドルの援助は、共和党ジョージア州マージョリー・テイラー・グリーン下院議員の法案を含む同法案の骨抜きを目的とした共和党の修正案を、両院議員とも拒否した後、311対112の賛成多数で可決された。
・イスラエルへの援助とガザやその他の紛争地域への人道支援に関する264億ドルのパッケージは、366対58で可決された。台湾やフィリピンなどインド太平洋地域の同盟国を支援する81億ドルの措置も、385対34で強い支持を得た。
・最後に、下院は360対58で、ウクライナへの配分のために凍結されたロシアの資産約50億ドルの差し押さえや、ロシア、イラン、中国への制裁強化など、対外援助法案に関連するいくつかの措置からなる「サイドカー」パッケージを可決した。
・この法案ではまた、中国資本のTikTokの売却を強制し、さもなければこのソーシャルメディアアプリは米国で禁止され、データブローカーが米国人の個人情報を中国、ロシア、イラン、北朝鮮などの国や、それらの政府が管理する組織に売ることを禁止する。
・下院での採決後、上院議員たちは火曜日の午後1時にこの法案に関わる2つの手続き投票を行うことで合意した。ひとつは、マイク・リー上院議員(ユタ州選出)または指名された議員によるもので、保留中の関連修正案を表決する。もうひとつは、上院がこの支援策を承認する道を歩み始めるものである。
〇血と殺人
・最終的に、4つの採決は、右派や左派の一部から、米国が海外に関与し続けることへの不満の声が上がったにもかかわらず、その代償を支払うことへの超党派の支持を反映したものであった。
・最も激論が交わされたのはウクライナ支援で、マイク・ジョンソン下院議長(共和党)は、共和党の主な批判者の提案を含む、同パッケージの資金削減を求める3つの修正案の採決を許可した。
・ジョンソン議長の更迭動議を支持するグリーン下院議員は、土曜日の議場での討論で、共和党内のポピュリスト(大衆迎合主義者)および孤立主義者の流れを代弁した。「"アメリカ人"は外国での血と殺人と戦争の上に成り立つビジネスモデルを支持しない。アメリカは最後。これがすべてだ。毎日毎日、アメリカは最後だ」
・ニューヨーク州選出のハキーム・ジェフリーズ下院少数党院内総務は、グリーン下院議員をはじめとする、長期停滞中の法案に対する批判者たちに反論した。「何ヶ月もの間、アメリカ国民の国家安全保障上の優先事項は、ロシアを勝たせようとする親プーチン派の過激派によって妨害されてきた」とジェフリーズは言った。「民主党と共和党の超党派連合が立ち上がり、協力して、米国民にとって重要な国家安全保障法案を確実に成立させようとしている。
・今月初めに行われたCBSとYouGovの世論調査では、共和党員の61%がウクライナへの援助拡大に反対と答えており、有権者の間に深い溝があることを反映している。
・グリーンの修正案は71対351で否決され、賛成71票すべてが共和党議員で、139人の共和党議員が反対した。
・上院で可決された法案との重要な違いのひとつは、ウクライナへの90億ドルを超える経済援助がローンとして構成されていることだ。下院共和党の一部からの批判を抑えるには十分ではなかった。
・ウクライナ出身のビクトリア・スパーツ下院議員の修正案は、ウクライナへの経済的・予算的支援を打ち出す一方で、大統領がキエフに送るために数十億ドル相当の米国製兵器の追加備蓄を取り崩すことを阻止するものだった。この修正案は105対319で否決され、共和党の賛否はほぼ互角だった。
・もうひとつの修正案は、ウクライナへの非軍事援助105億ドルを剥奪するというもので、共和党の支持は賛成154票、反対59票と強かったが、154対272で否決された。
・外交委員会委員長のマイケル・マッコール下院議員(テキサス州選出)は、土曜日の下院の決定は、第二次世界大戦前にアメリカとヨーロッパが直面したものと同じだと述べた。「われわれの敵国は、今日のわれわれを注視しており、歴史は今日のわれわれの行動でわれわれを裁くだろう。この採決を審議するにあたり、自問する必要がある: 私はチェンバレンなのか、それともチャーチルなのか?」
・採決の際、民主党議員は議場でウクライナの国旗を振り、可決時には拍手が沸き起こった。
〇イスラエル、ガザ支援に関する討論
・議場審議のルールにより、イスラエル支援法案には修正案が提出されなかった。
・しかし、アンドリュー・クライド議員(共和党)のように、ガザのパレスチナ人に約92億ドルの人道援助が行われることを問題視する批評家もいた。「ハマスの手に金が渡ることを承知の上で、なぜ法案を提出しなければならないのか?とクライドは討論の中で述べた。
・この法案は、人道援助資金がハマスに流用されていないことを証明するよう、国務省と米国際開発庁に厳しい条件を課すものだ。この法案はまた、10月7日のイスラエル攻撃でハマスに協力した職員が非難されている国連救済事業機関への資金移転を一切阻止するものである。
・外交問題委員会のブラッド・シャーマン議員(民主党、カリフォルニア州選出)は、バイデン政権から、法案本文には明記されていないこのパッケージの意図について情報を得たと反論した。同政権はシャーマンに、ガザンの支援に加え、ハイチ、スーダン、エチオピア、コンゴ、アルメニア、ミャンマーでの人道危機支援にも資金が分配されると語った。「この法案は何十万、何百万の命を救うだろう」とシャーマンは語った。
・イスラエル・パッケージには、対ミサイル・対ロケット・システムを含む、米国製またはイスラエル製の兵器の開発・製造のための100億ドル近い資金と、イスラエルを支援するために取り崩された米国備蓄の補充や、この地域における米軍の軍事活動のための数十億ドルの資金が含まれている。
・左派のマーク・ポカン下院議員は、ネタニヤフ政権下でのイスラエルの戦争遂行に懸念を表明した。「国際安全保障の問題で我々の言うことを聞かないなら、もっと攻撃的な武器を持たせてもいいのか?とポカンは言った。
・イスラエルに焦点を当てた法案の最終可決では、民主党37名、共和党21名が反対した。
・一方、81億ドルのインド太平洋法案は、台湾や他の地域の同盟国への安全保障支援に40億ドル近く、アジアの同盟国を支援するために削減された米国備蓄の補充に19億ドル、さらに潜水艦のインフラ整備などに33億ドルが含まれる。 審議中に採択された修正案のひとつは、法案に含まれる安全保障支援がフィリピンに確実に届くよう支持を表明するものだった。
・制裁その他の関連措置に関する別個の雑多なパッケージについては、2つの修正案が採択された。
・ひとつは、カルロス・ギメネス議員(共和党、フロリダ州選出)による修正案で、中国の軍事力に関する国防総省の年次報告書に新たな詳細を記載することを義務づけるもの。
・もうひとつは、アイオワ州選出のザック・ナン議員によるもので、彼は今秋の再選に向けて厳しい戦いを強いられる可能性がある。ナン議員の修正案は、米国が制裁しているイランの政府高官などの資産に関する情報を議会に提供するよう財務省に求めるものである。投票は249対167でナン氏の修正案が可決され、ネイサン・L・ゴンザレス氏とのインサイド・エレクションズは共和党に傾いていると評価した。
3.トランプの主張
また、今回の緊急予算案が可決された別の要因の1つとしてみられているのがウクライナ支援の方法です。
支援の一部は返済義務がある借款、つまり融資の形が取られています。このやり方はトランプ前大統領が主張していました。
4月12日、トランプ前大統領は、フロリダ州の邸宅「マール・ア・ラーゴ」でマイク・ジョンソン下院議長と会談しています。会談後、トランプ前大統領は、ジョンソン下院議長と並んで記者会見し、ウクライナ支援を巡って「我々は資金供与でなく融資の形にするよう考えている」と述べました。
このトランプ前大統領は融資案については、バイデン政権は否定的な立場だったのですけれども、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「この計画は一部の反対者の要求を満たすために、無償ではなく、返済免除付きの融資という形で提案している」と述べ、融資という方法が交渉の材料になったとの見方を示しています。
これについて、嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、「これはキッシー訪米のおかげ。無償援助から融資に代えたからと説明されている(米→ウへの融資)が、その融資を最終的には日本が肩代わりするから、アメリカの実質負担なしになるというロジック」とX(旧ツイッター)に投稿。岸田総理の訪米がその後押しになったと述べています。
この高橋氏のツイートには「日本が肩代わりするとの記載は投稿者の仮説に過ぎず、その根拠は示されていません」とするコミュニティノートがついているのですけれども、筆者は高橋氏の日本肩代わり説は十分あると思います。
なぜなら、訪米した岸田総理はウクライナ支援について"熱く"語ってきたからです。
4.ウクライナ支援を後押しした岸田総理
4月12日、BuzzFeed NewsやNew York Timesの編集担当を務めてきたBen Smith氏らが2022年に立ち上げたメディア企業semaforは岸田総理の連邦議会演説を受けて「日本の岸田氏、米議会分裂を前にウクライナ支援を主張(Japan’s Kishida pushes for Ukraine support before fractured US Congress)」という記事」を掲載しています。
その概要は次の通りです。
・日本の岸田文雄総理は木曜日、アメリカ議会での演説でウクライナへの国際的支援を熱弁した。また、abcニュースは「日本の岸田文雄氏、議会演説でウクライナ支援と米国の世界的役割を強調(Japan's Fumio Kishida stresses Ukraine aid, US world role in speech to Congress)」という記事で次のように述べています。
・「私がよく言うように、今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」。この発言は、両党のほとんどの議員からスタンディングオベーションを受けたが、ウクライナに対する米国のさらなる支援に反対する共和党の中心人物の一人であるマージョリー・テイラー・グリーン議員は着席したままだった。
・岸田総理は、ロシアのウクライナ侵攻を「いわれのない、不当な、残忍なもの」とし、ウクライナの存続には米国の支援が不可欠であると述べた。
・「世界はあなた方のリーダーシップに期待しているが、米国は、あなた方だけですべてを行うことを期待されるべきではない。「アメリカのリーダーシップは不可欠です。米国の支援なしには、ウクライナの希望がモスクワの猛攻撃で崩れ去るまでにどれだけの時間がかかるだろう。米国の存在がなければ、インド太平洋がさらに厳しい現実に直面するのはいつになるだろうか?
・米国のウクライナ支援をめぐる行き詰まりを考えると、このタイミングでの演説は重要だった。上院は2月、ウクライナへの600億ドル、イスラエルやアジアの同盟国への資金援助を含む対外援助パッケージを可決した。共和党のマイク・ジョンソン下院議長は、右派からウクライナ支援の採決を行わないよう圧力を受けている。
・ジョンソン下院議長は、キエフのために凍結されたロシアの資産を利用する法案とともに、融資という形でのウクライナ支援を組み合わせた代替パッケージを作成中だが、彼がいつ法案を発表するのか、下院でいつ前進するのかは不明だ。一方、ホワイトハウスは、上院の法案を可決するよう下院に圧力をかける一方で、ウクライナが弾薬を配給制にしていると警告している。
・日本は思いがけずキエフの主要な支持国に浮上し、ロシアから離れ、プーチンの国に対する国際制裁に加わり、最近では戦後ウクライナの再建に関する会議を主催している。
・岸田総理はまた、日米経済協力や中国への対抗努力についても語ったが、議会での発言では何度もウクライナ戦争に戻り、日本自身のコミットメントを強調した。 「日本はこれからもウクライナに寄り添っていく」と語った。
【前略】これらをみても、アメリカは日本がウクライナ支援について全面バックアップしてくれるものだと認識していると思います。
岸田氏のウクライナ懐疑派に対する発言は、ロシアの侵略と戦う同盟国に対する米国の支援が国会議事堂での政治闘争で行き詰まっていることを受けて出された。
岸田氏は議会合同会議で演説する直前に、ジョンソン氏、チャック・シューマー上院多数党院内総務、ミッチ・マコーネル上院共和党院内総務、ハキーム・ジェフリーズ下院民主党院内総務と会談した。
岸田氏は演説の中で、同国がNATO支援策の一環としてウクライナに120億ドルを拠出すると発表し、ロシアに対して強力な制裁を課したことを指摘した。
「日本は今後もウクライナとともに歩む」と述べた。
首相は水曜日にも大統領執務室でジョー・バイデン大統領および政権当局者らと会談した。両首脳は、ガザとウクライナでの戦争だけでなく、防衛パートナーシップや経済協力についても話し合った。
その後、ローズガーデンで行われた共同記者会見で、バイデン氏は日本の支援を称賛した上で、ジョンソン首相にウクライナ支援を採決に持ち込むよう改めて求めた。
バイデン氏は「ウクライナ戦争は下院指導部が投票を許可することで終結する」と述べた。 「民主党と共和党の大多数の間でウクライナに対する圧倒的な支持がある。今すぐ投票が行われるべきだ。」
今回の訪問で、バイデン氏と岸田氏は、軍の指揮統制の枠組みをアップグレードする新たな取り組みや、ミサイルの共同開発・共同生産のフォーラム、新たな宇宙協定や気候変動への取り組みなどを発表した。
バイデン夫妻がホワイトハウスで公式晩餐会を主催した水曜日の夜、岸田氏にレッドカーペットが敷かれた。そこでバイデン氏と岸田氏は団結のメッセージで乾杯した。
木曜日、バイデン氏は岸田氏およびフィリピンのフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領との三者会談を主催する予定である。高官はABCニュースに対し、中国が南部で「異常な圧力」をかけている中、この会談で三者が「肩を並べて」立つことができると語った。シナ海。
岸田氏は、クイーンズで過ごした幼少期に遡る米国との強いつながりについて語り、米国が民主主義を守り侵略を阻止するのを支援するために日本は「必要なことをする用意がある」と議員らに語った。
首相は「あなたは一人ではない。私たちはあなたと一緒だ」と語った。
実際、4月20日に議会で行われた支援をめぐる討論では、共和、民主両党の複数議員が、「アメリカの指導力は必要不可欠」との岸田総理の議会演説を引用して予算案への支持を訴えていました。すっかりその気です。
その意味では、今回のアメリカのウクライナ支援予算案を通させたのは岸田総理の演説も少なからずあったといってよく、やはり、高橋教授のいうようにあとから莫大な額の奉加帳が回されてくるかもしれないことを覚悟しておくべきですし、岸田政権がそれを国民に何も説明していないとするならば、その責任を追及してしかるべきではないかと思いますね。
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