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1.麻生トランプ会談
4月23日、自民党の麻生太郎副総裁は、訪問先のニューヨークでトランプ前大統領と約1時間の会談を行いました。
ネット動画などをみると、会談場所となったトランプタワーの入り口まで、トランプ前大統領が出迎え、麻生副総裁が黒のハットを脱いで胸元に当てがって、挨拶するなど和やかな雰囲気で取材陣に応じていました。
会談は通訳を交えず英語で行われ、日米関係の「揺るがぬ重要性」を確認。中国や北朝鮮の動きが懸案となっているアジア情勢や円安ドル高を含む経済問題についても協議し、意思疎通を続けることで一致しました。
麻生副総裁やトランプ前大統領陣営によると、麻生副総裁は、防衛費を大幅に増やす岸田政権の取り組みを伝え、トランプ前大統領はこれを称賛し、「日本のことは好きだ。岸田首相によろしく伝えてくれ」と語ったそうです。両氏はインド太平洋の安定に日米同盟が果たす役割や中国と北朝鮮の動向、経済安全保障に関しても意見を交わしたとのことです。
麻生副総裁は会談後、読売新聞の取材に対し、円安ドル高の影響も議題になったとし、トランプ前大統領が「円安ドル高で日本への輸出が伸びず、製造業が打撃を受けている」と主張したのに対し、麻生副総裁が「日本企業は利益を上げているが、米企業のシェアを奪ってはいない」と説明したと明かしています。
NYの街角。ゴッドファーザーは車から降りた。ドアマンに軽く会釈し、 彼はスーツのボタンをとめた。
— 髙安カミユ(ミジンコまさ) (@martytaka777) April 25, 2024
なんだ、麻生さんだったか。
出迎えたトランプに、麻生さんは帽子をとって応えた。pic.twitter.com/5t9JhhyGLC
2.アメリカに来てくれ
今回の麻生副総裁の訪問はトランプ前大統領の大統領返り咲きの可能性に日本側が事前に備えようとしていることを示していると見られているのですけれども、麻生副総裁が岸田政権との関係を構築するために会談を調整し、トランプ前大統領が応じたとのことです。
けれども、元はといえば、麻生副総裁の会談はトランプ前大統領が望んだものでした。
麻生副総裁は今年1月にも訪米していますけれども、その目的はトランプ前大統領と会うためだったとも言われていました。
これについて、1月18日放送のニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演した経済アナリストのジョセフ・クラフト氏は次のように解説しています。
【前略】どうやらこの時は、麻生副総理はトランプ前大統領とは面会できなかったようですけれども、麻生副総裁の関係者によると「『シンゾウがいない今、誰を押さえておけば日本と交渉できるのか』ということをトランプサイドも模索していた」とのことで、去年の年末から面会を模索していたようです。
飯田)自民党の麻生副総裁が先日、訪米しましたが、トランプ前大統領側とも接触しようとしたのではないかという記事が出ています。
クラフト)私の取材では、実は麻生さん側からトランプ氏に接触したのではなく、トランプ陣営の方から麻生陣営にアプローチがあったようです。具体的に言うと、トランプ氏の義理の息子のジャレッド・クシュナー氏がジョン・D・ロックフェラー5世に頼んだようです。ロックフェラー家と麻生家は代々、近しいのですね。このロックフェラー家を通じて「アメリカに来てくれ」という要請があった。「トランプ氏に会う」とは言えないので、講演などの目的のための訪米となっていたのです。ただ、これは未確認ですが、実際には会えていないのではないかということです。クシュナー氏とは会ったけれど、トランプ氏とは会えなかったのかも知れません。
飯田)そういうつながりがあったのですね。
クラフト)いま、裏で双方が動いているということです。
そうしたことを背景として今回、会談した訳ですけれども、麻生副総裁も「安倍外交を知っている俺がやるしかない」と周囲に語っていたそうです。
3.ジャイアンの貿易政策
麻生・トランプ会談では、目下の円安ドル高の影響も議題になったようですけれども、4月23日、トランプ前大統領は、SNSに「ドルが円に対しておよそ34年ぶりの高値をつけた。これはアメリカにとって大惨事だ……愚かな人々にとっては聞こえがいいが、アメリカ国内の製造業はドル高によって競争できなくなっており、ビジネスの多くを失ったり、外国に工場を建設したりすることになるだろう」と述べ、バイデン大統領は円安ドル高を放置していると批判しています。
これについて、嘉悦大学の高橋洋一教授は、「バイテンは気づかなかったけど、トランプに見つかってしまった。自国通貨安が近隣窮乏化。トランプ政権になる前に外為特会含み益、国民一人30万円を早くまけ」とツイートしています。
自国通貨安が近隣窮乏化というのは、その手の業界では、よく知られた話だそうで、エコノミストの玉手義朗氏は、2017年2月に、情報・知識&オピニオン紙「イミダス」に「近隣窮乏化政策」というコラムを寄稿しています。
件のコラムの内容は次の通りです。
マンガ「ドラえもん」に登場するジャイアンは、のび太たち同級生にとって付き合いにくい相手だ。体も態度も大きく、何事も力で解決しようとするジャイアンは、「おまえのものはおれのもの、おれのものもおれのもの」と言い放つ自己中心的な性格で、学校内の平和を乱す存在となっている。このように、当時からトランプ大統領はジャイアンのように振る舞い「近隣窮乏化政策」をやると述べていたのですね。
「近隣窮乏化政策」は、世界経済におけるジャイアンのようなやり方だ。自国の経済を活性化させるために、貿易相手国に失業や不景気などの負担を押しつけようとするのが近隣窮乏化政策。貿易は国と国とのお付き合いであり、得意な分野の商品を売買し合うことで、共に経済発展を目指す自由貿易が望ましい姿だ。世界経済という学校の中で、国という同級生たちが自由に過ごすことが理想なのだが、現実にはジャイアンが現れて、他の国から利益をもぎ取る近隣窮乏化政策が実行されることがあるのだ。
具体的な近隣窮乏化政策の一つが通貨安政策だ。自国通貨が値下がりすると、輸出価格が下落して輸出が増加するため、景気が拡大し失業も減ることが期待できる。そこで政府が外国為替市場に介入するなどして、自国通貨の切り下げを図るのだ。また、関税引き上げが実行されたり、国内産業育成のための補助金が出されたりすることで、国内産業を守る場合もある。これらの近隣窮乏化政策は、貿易相手国の輸出を減らし、景気と雇用に悪影響を与えるため、「失業の輸出」とも呼ばれている。
近隣窮乏化政策は、保護貿易政策をより攻撃的にしたもので、世界経済全体に深刻なダメージを与える。横暴なジャイアンに、のび太たちが対抗しようとするように、貿易相手国も対抗措置に打って出るため、お互いに自国通貨を安くしようとする「通貨安競争」や、「関税引き上げ競争」へと発展する。これによって全世界の貿易が縮小して経済成長も鈍化、やがて深刻な不況に突入する恐れがあるのだ。
これが現実化したのが1930年代だった。大恐慌で痛手を受けたアメリカが通貨引き下げに走る一方で、イギリスやフランスは自国と自国の植民地を守るための高い関税を課す「ブロック経済」を進めた。ジャイアン化した列強各国に、日本やドイツも応戦した結果、ついには第二次世界大戦という「殴り合い」を引き起こしてしまった。
この教訓から、戦後は近隣窮乏化政策を抑え込むためのGATT(関税貿易一般協定)やWTO(世界貿易機関)、NAFTA(北米自由貿易協定)といった、自由貿易体制を維持する取り組みが続けられてきた。ジャイアンの動きをけん制するドラえもんを作ろうとしたのであり、その進化形がTPP(環太平洋経済連携協定)だったのだ。
しかし今、ジャイアンが再び暴れ出している。「アメリカ第一主義」を掲げるドナルド・トランプ大統領は、関税引き上げやドル相場の引き下げを打ち出し、日本や中国への攻撃姿勢を鮮明にしている。保護貿易政策を超えて、近隣窮乏化政策の色彩を持つトランプ大統領は、あっさりTPPも葬り去ってしまった。ドラえもんを失った今、トランプ大統領というジャイアンと、どう向き合えばよいのか……。世界経済には戸惑いと不安が広がっている。
もっとも、前トランプ政権時代の4年間の米ドル/円相場は概ね100~120円のレンジ内で推移し、比較的狭いレンジでの小動きが続きました。もちろん、トランプ前大統領が返り咲いた後どうなるかは分かりません。
バイテンは気づかなかったけど、トランプに見つかってしまった。自国通貨安が近隣窮乏化。トランプ政権になる前に外為特会含み益、国民一人30万円を早くまけ→トランプ前大統領 “円安ドル高は大惨事 国内の製造業 打撃” | NHK https://t.co/JH2TCQlKhK
— 高橋洋一(嘉悦大) (@YoichiTakahashi) April 24, 2024
4.「もしトラ」の繋ぎ役
先述したように、今回の会談は「もしトラ」に備えたものだとの見方が一般的ですけれども、これとは別に政局の観点から指摘する向きもあります。
4月23日、ジャーナリストの鮫島浩氏は経済メディア「NetIB-NEWS」で次のように述べています。
【前略】鮫島氏は、「もしトラ」に備え、麻生副総裁はトランプ前大統領とよしみを深めることで、「つなぎ役」としての立ち位置を固め、9月の総裁選以降も「新政権」のキングメーカーとして君臨するための手を打ったと指摘しています。
岸田首相の帰国直後に麻生氏がトランプ氏に会いに訪米するのは、外交政策としては遅ればせながら日本も「もしトラ」に動き出したといっていい。岸田首相がバイデン氏と親しくしている様子を冷ややかに眺めていたトランプ氏の御機嫌取りにうかがうということだ。岸田首相は現職のバイデン氏と親交を深め、麻生氏は大統領復帰が有力視されるトランプ氏に接近するという「外交上の役割分担」とみることもできる。
しかし、日本の国内政局の視点からはまったく別の風景が浮かんでくる。
岸田首相が裏金事件で派閥解消を打ち出した後、派閥存続にこだわる麻生氏との関係は冷え切っている。岸田首相は内閣支持率が低迷し、6月に解散して7月に総選挙を実施して勝利して9月の自民党総裁選を乗り切るシナリオは難しくなってきたものの、なお総裁再選をあきらめていない。これに対し、麻生氏は茂木敏充幹事長や上川陽子外相らポスト岸田を物色しており、自分のコントロールが効かなくなった岸田首相を総裁選不出馬に追い込む政局を画策している。
沈みゆくバイデン氏を落ち目の岸田首相に押し付け、自らはトランプ氏に真っ先に会いに行くのは、9月の総裁選以降も「新政権」のキングメーカーとして君臨することを目指す麻生氏にとっては「絶妙の役割分担」なのだ。
トランプ氏はロシアのプーチン大統領と親しく、バイデン政権のウクライナ支援を強く批判し、ウクライナ戦争からの「米国撤収」を訴えている。「もしトラ」が実現すれば、米国の外交政策は大転換し、国際情勢は一変する。
自民党総裁選は9月、米大統領選は11月。今年は日米同時政局の年だ。岸田首相の「最後のお勤め」としてバイデン政権に付き合わせ、トランプ政権が誕生した時点で「お役御免」とし、新しい首相に差し替える。麻生氏自身は新政権の「生みの親」として政権中枢に踏みとどまるため、トランプ氏とのつなぎ役の立場を今のうちから確保していくというのが、麻生訪米の真の目的なのである。
そもそも岸田首相の国賓待遇の訪米を地ならしし、4月中旬の日程を調整したのも麻生氏だった。そもそも今回の岸田訪米は「卒業旅行」として麻生氏があてがった側面が強かったといえる。
【中略】
麻生氏は83歳。裏金事件で批判を浴び次期衆院選不出馬に追い込まれた二階俊博元幹事長(85)が引退すれば、政界最高齢となる。麻生氏も次期衆院選で引退するとの観測が流れたこともあったが、本人はまだまだやる気だ。今回の訪米をみても、政界を引退してキングメーカーの座を明け渡す気はさらさらないとみていいだろう。「岸田おろし」のシナリオも着実に進んでいる。
だが、9月の総裁選で麻生氏が描く通りに政権移行が進むかは見通せない。麻生氏に追従してきた茂木氏もついに派閥解散に追い込まれ、残る派閥は麻生派だけになった。長老支配・派閥支配への批判は広がっている。麻生氏が担ぐポスト岸田には風当たりが強まるだろう。岸田首相とともに麻生氏も退場を迫られる政変も十分にあり得るのではないか。
鮫島氏は、9月の総裁選で麻生副総裁が描く通りに政権移行が進むかは見通せない、と述べていますけれども、このまま9月総裁選に岸田総理が勝利して続投というストーリーも見えてきません。あるとすれば、総裁選前に総選挙をやって勝利することが条件になると思いますけれども、果たして解散に打って出れるのか。
国内政局も山場を迎えたかもしれませんね。
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