効いた日銀の為替介入とウクライナ融資

今日はこの話題です。
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1.効いた日銀介入


5月3日、外国為替市場の円相場は円が対ドルで上昇し、一時1ドル=152円台後半を付けました。4月中旬以来、約3週間ぶりの円高ドル安水準となり、日銀による為替介入への警戒感から、円買いドル売りが進みました。

なぜ、為替介入が警戒されたのかというと、4月29日、1ドル=159円台前半で取り引きされていた円相場が午後1時すぎに急速に円高方向に進行し、155円台を付けると、その後、午後3時すぎにかけて157円台まで2円ほど円安が進んだものの、午後4時すぎには再び154円台前半まで円が上昇し、日銀による為替介入が行われたとみられているからです。

翌30日の午後7時すぎに5月1日の当座預金残高の見通しが公表されたのですけれども、政府と金融機関の資金の動きを示す「財政等要因」の増減は、マイナス7兆5600億円と、短資会社が予想していたおよそマイナス2兆円を大幅に下回っていたことから、差額である約5.5兆円の円買い介入が行われたのではないかと見られています。

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2.160円というのは看過できない水準


それがあっての、5月3日の円の一段高です。

日銀が2日に公表した5月7日の当座預金増減要因の予想値では、減少額は4兆3600億円となっています。これに対し、市場予測では、東京短資が7000億円程度、上田八木短資が1.1兆円の減少予想ですから、差し引き約3.5兆円の介入があったのではないかと推定されています。

東短リサーチの高井雄一郎研究員は、「財政等要因の数字の下振れが大きく、3兆円程度の円買い介入を実施した可能性が高そうだ」と指摘。為替市場が薄いところで実施したとの見方も出ていた中で、「前回4月29日よりやや少ないというのはイメージに合う」と述べています。

また、三井住友銀行の鈴木浩史チーフ・為替ストラテジストは、3兆円程度の介入の可能性を指摘し、「市場取引がかなり薄い時間帯に入ったということもあって、かなり小さい金額で値幅が相応に出たという印象がある」とし、アメリカ連邦公開市場委員会(FOMC)の直後でも、24時間体制で介入するとの警戒感を与えることにより、日本の連休やアメリカ雇用統計の発表を控える中で一定の牽制をしたかったのではないかとの見方を示しています。

更に、住友生命保険の武藤弘明エコノミストは、介入の効果は一時的としながらも、当局は「160円というのは看過できないショッキングな水準とみている」と指摘。「1日に2円も3円も動くような相場であれば、追加介入をしてくる可能性はある」と述べています。


3.安く買って高く売る


これら一連の介入で日銀が大儲けしているのは確かです。

アメリカ外交問題評議会(CFR)のブラッド・セッツァー・シニアフェローは、「外貨準備とはヘッジされていない外貨資産だ。外貨準備高の会計処理は常に複雑だが、明らかに金融利益が生じている……最大級の棚ぼた利益の一部は日本政府のバランスシートに収まっていることになる」と解説していています。

外貨準備とは、経済や金融環境にストレスがかかった場合に利用できる防衛資金として政府が保有する自国通貨建て以外の資産のことです。当然ながら、金融市場の相場上昇・下落により価値は増減し、利用すればその分補充する必要があるとされています。

セッツァー氏はX(旧ツイッター)への投稿で、日本政府と年金積立金管理運用独立法人(GPIF)は2000年以降、約1兆2000億ドル(約189兆円)相当のドルとユーロを買い入れたと推計していて、「日本が円を売ってドルを買ったのは、1ドルが80円で買えた時代で、今は155円で売れる。外貨準備は金銭的に大幅に膨らんでおり、幾らか利益を得るのは理にかなっている」と指摘しています。

更にセッツァー氏は、5.5兆円規模と見られている4月29日の為替介入について、「予想していた範囲の中では多い額だった。これは当局が市場と闘っており、市場は当局を試していることを示唆する。市場は納得せざるを得ないだろう。なぜなら、日本は散々取り沙汰されていた150円では介入せず160円まで待ったからだ」とコメントしています。

もともと、2022年の前回の介入局面での最後のタイミングが152円直前であり、2023年年末の円安局面もこのラインがピークだったことから、市場で防衛ラインとみられていたのは152円でした。

今回の円安局面でも、152円をめぐる神経戦が長く続いていたのですけれども、円高に転じたのは、1ドル=160円まで急激に円安が進んだ4月29日でした。

本来は152円の水準で為替介入してしかるべきところ、160円まで待ったということで、なぜここまで待ったのか、多くの市場関係者が首をかしげているそうです。

ただ、結果として、2回目とみられている5月2日の介入によって、152円まで戻してきた訳ですから、筆者としては、セッツァー氏が指摘する市場が日銀を試したというよりは、その逆で、日銀がどこまで円安にしてくるのかを見極めた上で、152円まで戻してみせた。つまり日銀が市場を試したのではないかという気もします。

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4.円安の恩恵を国民に還元せよ


4月28日のエントリー「止まらぬ円安と内需拡大」で、嘉悦大学教授の高橋洋一氏の「マスコミは円安が日本経済に悪いというが、円安による政府の外為特会の益、国民一人当たり30万円を配れば、円安でいい」という見解を取り上げましたけれども、高橋教授は、夕刊フジzakzakの5月2日付の記事で「円安の「恩恵」数十兆円〝国民に還元〟せよ」として、次のように述べています。
トランプ前米大統領は、為替の円安ドル高について「米国の製造業にとって大惨事だ」とSNSに投稿し、無策のジョー・バイデン政権を批判した。

古今東西、自国通貨安は「近隣窮乏化政策」として知られている。円安は日本の国内総生産(GDP)にプラス要因で、米国にとってはマイナス要因だ。

これは国際機関での経済分析からも知られている。ちなみに、経済協力開発機構(OECD)の経済モデルでは、10%の円安で、日本のGDPは1~3年以内に0・4~1・2%増加するが、米国のGDPは0・2%低下する。

その証拠に、最近の日本企業の業績は好調だ。直近の法人企業統計でも過去最高収益になっている。これで、法人税、所得税も伸びるだろう。そして国内で最大の利益享受者は、百数十兆円のドル債を外国為替資金特別会計(外為特会)で保有する日本政府だ。含み益は数十兆円になるだろう。

このため、国内から円安を止めることは国益に反する。しかし、マスコミ報道の大半は「円安が悪い」という印象操作をしてきた。財務省も外為特会に言及されないように、この「円安悪者論」に加担してきた。

しかし、ついに海外から文句が来た。今まで米国から文句がなかったのは奇跡であり、トランプ氏が指摘するようにバイデン政権の無策かもしれない。

トランプ氏の周辺には、国益優先のスタッフがいるのだろう。本来であれば、バイデン政権は労働者層の支持を得ているので、円安が米国の不利益になっているのを見逃してはいけなかった。トランプ政権になったら、そうも行かなくなるだろう。

為替が両国通貨の交換比率である以上、理論的には両国通貨量の比が「理論値」となるはずで、それが足元で1ドル=110円程度であることを考えると、現状の円安は大変な幸運だった。その幸運のうちに、外為特会の含み益を早く取り出すことを考えるべきだ。

単純にいえば、外貨債を売却するわけだが、それが円安是正への介入とみなされても、今ならさほど問題にならないだろう。その売却自体は為替相場に与える影響はごく短期しか有効でないが、ひょっとすると理論値への回帰になるかもしれない。
このように、高橋教授は、円安の今がチャンスだから、含み益を確定して国民に還元せよと訴えています。

筆者も「利確」することは賛成ですけれども、仮にそうしたとしても、その一部は、財務省が念仏のように唱える、いわゆる「政府の借金」の返済に充てられるか、別のところに回されるのではないかと思います。それはウクライナへの支援金の原資です。


5.高橋教授の合理的な推測


4月24日のエントリー「アメリカのウクライナ支援を後押しした岸田総理」で、アメリカ議会がウクライナ支援予算を成立させたことについて、前述の高橋洋一教授が、「これはキッシー訪米のおかげ。無償援助から融資に代えたからと説明されている(米→ウへの融資)が、その融資を最終的には日本が肩代わりするから、アメリカの実質負担なしになるというロジック」とX(旧ツイッター)に投稿したことを取り上げ、そのツイートに「日本が肩代わりするとの記載は投稿者の仮説に過ぎず、その根拠は示されていません」とするコミュニティノートがついたことに触れた上で、筆者は日本の肩代わりは有り得ると述べました。

これについて、5月2日、日経が「米国内には岸田文雄首相の直前の上下両院合同会議での演説が後押ししたとの評価がある」という、その答え合わせとなる記事を掲載しています。

件の記事の概要は次のとおりです。
・バイデン米政権はウクライナ支援の緊急予算を4月下旬に成立させた。米国内には岸田文雄首相の直前の上下両院合同会議での演説が後押ししたとの評価がある。
・4月20日、野党の共和党が多数を占める米下院の緊急予算をめぐる討論。共和、民主両党の議員が「米国のリーダーシップは不可欠だ」と説いた首相の演説を引用した。
・演説づくりには1980年代に30歳代でレーガン米大統領のスピーチライターを務めたランドン・パービン氏が参画した。
・首相は秘書官らが作成した草稿にパービン氏を含む複数の助言を盛り込んでいった。 首相はパービン氏らが録音した発音を何度も聞き返し、3回リハーサルした。
・バイデン大統領夫妻主催の公式晩餐会でも英語でジョークを飛ばした。過去の事例を振り返り、日本語で冗談を逐語訳すれば「笑いにタイムラグが起きる」とみた。
・ユーモアをちりばめた演説に秘めたメッセージは2つあった。一つは米国の内向き志向を反転し、国際社会での指導的立場を維持することだ。
・トランプ前大統領が掲げる「米国第一主義」は党派を超えて広がり、「他国のために米国人が血を流し、カネを払う必要はない」との意見は強まる。
・首相周辺は「ウクライナ支援で踏み込めば、一部の共和党議員は拍手しないかもしれない」と助言した。首相は意に介さず、演説で「米国の支援がなかったらウクライナの希望はどれほど前に消えたか」と米国の指導力を求めた。
・もう一つは日本国内に向けた発信だった。首相は演説で自由で開かれた国際秩序の維持のために「日本は米国とともにある」と呼びかけた。
・首相官邸には「台湾有事で危惧するのは米国の戦争に日本が巻き込まれるシナリオではない。米国が傍観して日本が単独で向き合う事態だ」との危機感がある。
・米国のアジアへの関与を引き出すには日本も責任と負担を背負う必要がある。
・ウクライナ支援の緊急予算が関門だった下院を通過した最大の要因はトランプ氏が反対姿勢を取り下げたからだ。
・ジョンソン下院議長(共和)は日本政府関係者に「演説のおかげで予算が通った」と首相の貢献も認めた。
やはり、岸田総理のあの演説にはアメリカ側の手が入っていて、共和党のジョンソン下院議長が日本政府関係者に「演説のおかげで予算が通った」というのですね。

高橋教授の「合理的な推測」は、当たっていたわけです。

件の記事にそれを否定するコミュニティノートがついたことについて、当の高橋教授は、同じく夕刊フジzakzakの4月27日の記事で次のように述べています。

【前略】
筆者は21日、X(旧ツイッター)で «これはキッシー訪米のおかげ。無償援助から融資に代えたからと説明されている(米→ウへの融資)が、その融資を最終的には日本が肩代わりするから、アメリカの実質負担なしになるというロジック»と投稿した。

それに対して、«支援額の一部が融資(借款)に切り替えたとの記載は投稿者が引用している記事にありますが、「日本が肩代わりする」との記載は投稿者の仮説に過ぎず、その根拠は示されていません。参考までに他の情報源も掲載しておきますので、あわせてご確認ください»と、産経新聞とNHK報道を参考とするコミュニティノート(利用者による注釈)が付けられた。

ただし、双方ともに支援額の一部が融資に切り替えられたという事実を書いているだけで、筆者もその程度の事実を把握した上で投稿した。このコミュニティノートは、筆者の意見を間違いと指摘するわけでもなく、何が言いたいのかさっぱり分からない。

【中略】

米国において、日本が他国への支援の話を行うのは、米国の議会人に対する何らかの意図を持っているとみるのが自然だ。

そこで、筆者は、日本のウクライナ支援と今回の米下院でのウクライナ支援法案との関係を合理的に推測しただけだ。全くの邪推であるが、今回のウクライナ法案の米下院における根回しにおいて、「融資にするが日本が最終的には持つだろう」くらいの話が出ても不思議ではない。

もし仮に、米国のウクライナへの融資期間が日本のそれより短ければ、意図はどうあれ、結果として「肩代わり」の効果になる。

国際社会では、支援を互いに押し付け合い、それぞれの国が国益を得ようとしている。そうした場合、無償援助から融資に代えて「いいとこ取り」をするのもそれほど珍しくない。

Xのコミュニティノートを書いた人は、結果として肩代わりになるような国際社会のシビアな争いを知らず、推測も働かなかったのだろうか。

筆者であれば、今回の米下院のウクライナ支援法案の可決は、「日本がカギを握っていた」と強調するだろう。そして、「日本は民主主義を守るために相当の役割を果たした」とアピールしたいくらいだ。
まぁ、コミュニティノートは必ずしも「ファクトチェック」ではない、という良い事例ではないかと思いますけれども、それはさておき、気になるのは、その日本が肩代わりする融資の金をどこから調達するかということです。

肩代わりの金の原資にまた増税なんていいだそうものなら、頭にクソが三つくらいつく「増税メガネ」という言葉がネットに溢れるに違いありません。

従って、国民が騒がないような形でその金を調達するために、今回のような為替介入で得た利益を融資に回すという手があるのではないかと思います。

今回の介入で日本政府は大儲けした裏で、大損した主体が海外、特にアメリカのヘッジファンドだったとすれば、融資の金はまわりまわってアメリカから調達したことになりますからね。それがプラスマイナスゼロにまで持ってこれるのかどうかは分かりませんけれども、円安の恩恵が国民に還元されるのは、望み薄と見た方がよいのかもしれませんね。




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