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1.ラファ空爆
5月6日、イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ南部ラファで空爆を実施しました。
イスラエル国防軍は、作戦の第1段階は範囲が限定されていると述べ、イスラエル国防軍がラファ東部地区の特定のハマスの標的を空爆したとし、ラファに多くのハマス戦闘員が潜んでおり、同市に侵攻しない限り勝利は不可能だと述べています。
この数時間前、イスラエル軍は限定的な作戦の一環として、ラファの住民に避難を促し、ラファ東部のパレスチナ人に付近の「人道的地域」に移動するよう呼びかけました。この「限定的な範囲」の避難でラファから10万人を移動させる必要があるとみているようで、イスラエルの放送局アーミー・ラジオは、避難指示の対象はラファの一部周縁地区で、住民はハンユニスやアルムワシの近郊の避難キャンプに行くことになると伝えています。
この避難命令について、ハマスの幹部は「危険なエスカレーションだ。米政権は占領軍とともに、このテロリズムの責任を負っている」と述べ、
ハマス系のテレビ局、アルアクサ・テレビは、イスラエル軍はラファ東部の避難指示が出された地区の付近を攻撃したと伝えています。
2.ラファ国境検問所
イスラエル軍は、ガザ南部都市での軍事作戦の中、今後は、エジプトとガザの間のラファ国境のパレスチナ側を制圧するべく動いているとアクシオスは伝えています。
この場所は、ガザ地区への人道支援の主要な入り口なのですけれども。関係者によると、イスラエルは ここを占領すれば、ハマスが依然としてガザを支配していることを示す主な能力が失われると考えているようで、イスラエル国防軍は、国境のパレスチナ側を制圧し、ガザに流入するすべての援助物資を監視する計画であるとしています。
更に、イスラエルは今後数日から数週間以内に、ハマスと関係のないガザ地区のパレスチナ人が、エジプトからガザ地区に入る援助物の管理と分配に関与することを望んでいるようです。
イスラエルは市の東部がハマスの戦略的拠点であると主張していますけれども、現在100万人以上のパレスチナ人が避難民として市内に避難していて、アメリカのバイデン政権と世界の他の多くの国は、ラファでのイスラエルの作戦が大量の民間人の死傷者をもたらし、人道危機を悪化させることを懸念しています。
3.停戦提案を受け入れたハマス
ハマスとイスラエルは、エジプトとカタールの仲介で停戦交渉をしていたのですけれども、5月6日、ハマスは停戦提案の受け入れを発表しました。
ハマスが突然停戦協定を受け入れたのは、イスラエルがラファ東部近隣地域から約10万人のパレスチナ人に避難を命じ、侵攻が差し迫っていることを示唆した数時間後のことだったとのことで、軍事圧力を背景に受け入れを迫った形です。
その甲斐あってか、ハマスがエジプト・カタールの停戦案を受け入れたと発表したのですけれども、その直後、イスラエルの戦時内閣はラファ作戦の継続を決定したとネタニヤフ首相の事務所が発表。また、ハマスが合意した提案は「イスラエルの中核的要求を満たすにはほど遠い」ものの、合意に取り組むため交渉担当者をエジプトに派遣するとし、月曜遅く、カタールもエジプトにチームを派遣すると発表しました。
アメリカのバイデン大統領はネタニヤフ首相と会談し、ラファへの侵攻に対するアメリカの懸念を改めて表明。アメリカ国務省のマシュー・ミラー報道官は、アメリカ当局はハマスの対応を検討し、「地域のパートナーとそれについて話し合っている」と述べています。
また、アメリカ当局者は、ハマスが合意した内容がイスラエルと国際交渉担当者が合意したものなのか、あるいはそれ以外のものなのかを米国が検討していると述べ、エジプト当局者らは、この提案では、限定的な人質解放とガザ地区内のイスラエル軍の部分的撤退から始まる複数段階の停戦が求められていると述べています。
4.弾薬を止めたアメリカ
けれども、イスラエルはハマスが停戦案を受け入れると表明した直後にラファを攻撃しています。たとえ条件闘争だとしても、行き過ぎの感は拭えません。
世界各国の懸念を意に介さないイスラエルの態度に、バイデン政権もブチ切れかけています。
イスラエル当局者によると、先週、バイデン政権はイスラエルへのアメリカ製弾薬の輸送を保留したそうです。
これは、昨年10月7日、ハマスによるイスラエル攻撃以来初めてのことで、この事件はイスラエル政府内に深刻な懸念を引き起こし、当局者らは積荷が保留された理由の理解に追われたと、このイスラエル当局者は述べています。
バイデン大統領はイスラエル支持に反対するアメリカ人からの厳しい批判に直面しています。2月、バイデン政権はイスラエルに対し、国際法に従ってガザ地区でアメリカ製兵器を使用していると保証するよう求め、イスラエルは翌3月に署名入りの保証書を提出しています。
けれども、それが本当に守られているかどうかには疑問が残ります。でなければ、アメリカ政府がイスラエルへの武器弾薬供給を保留にする筈がありません。
先週8日、アメリカのブリンケン国務長官がイスラエルを訪問し、ラファでのイスラエル作戦の可能性に関してネタニヤフ首相と 「厳しい」 会談を行ったと関係筋が明らかにしています。
それによると、ブリンケン国務長官は会談中にネタニヤフ首相に対し、ラファでの「大規模な軍事作戦」は米国の公の反対につながり、米国・イスラエル関係に悪影響を与えるだろうと語ったそうですけれども、今回のアメリカ製弾薬輸送の保留も、これが影響したことも考えられます。
けれども、5月6日、イスラエルのネタニヤフ首相は、声明で、「恐ろしいホロコーストにおいて、何もせず傍観していた世界の偉大な指導者たちがいた。したがって、ホロコーストの最初の教訓は、もし私たちが自分自身を守らなければ、誰も私たちを守ってくれないということである。そして、もし私たちが孤立する必要があるなら、私たちは孤立するだろう」 とのべ、バイデン政権との緊張を示唆するどころか、世界から孤立しても構わないと宣言しています。
5.ガザの戦後処理
これだけみると、イスラエルは停戦交渉など見せかけで、戦争継続を望んでいるのではないかと思ってしまうのですけれども、その裏では、戦後のガザ地区の戦後統治について動いているようです。
5月3日、ニューヨークタイムズ紙は「イスラエル当局者、戦後ガザでアラブ諸国と権力を共有することを検討」という記事を掲載し、イスラエル当局者らが、戦後のガザ地区の監視にアラブ諸国を招待することについて協議していると報じています。
件の記事の概要は次の通りです。
・イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はこの数カ月間、ガザの戦後の将来について公の場で詳細に議論することを避けてきた。ガザにイスラエルの入植地を再建しようとする極右の盟友と、ガザをパレスチナの統治下に戻すことを望むイスラエルの外国のパートナーの両方をなだめようと、ネタニヤフ首相は具体的な宣言を避けてきた。このように、戦後のガザは、イスラエルとアメリカ、そしてエジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦を含むアラブ諸国連合と共同統治するというもので、ネタニヤフ首相に近い実業家グループの発案なのだそうです。
・イスラエル政府高官3人と、イスラエル政府のメンバーとこの計画について話し合ったことのある5人によれば、戦後のガザについて、イスラエルはエジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦を含むアラブ諸国連合と、米国との間で、ガザの監督を分担することを提案するというものだ。
・その提案によれば、イスラエルは自国とサウジアラビアの関係を正常化することと引き換えに、そうすることになるという。
・ネタニヤフ首相の連立政権の極右メンバーは、このような案を却下することはほぼ確実であり、参加する可能性のあるアラブ諸国も同様である。しかし、イスラエル政府高官が、公の場ではほとんど発言していないにもかかわらず、ガザの戦後の将来について考えていることを示す最も明確な兆候であり、将来の交渉の出発点になるかもしれない。
・この情報開示は、イスラエルとハマスに停戦に合意させ、最終的には恒久的な停戦に持ち込もうとする国際的な激しい努力を背景に行われた。イスラエルがガザの統治方法を決めかねているため、ガザの大部分で権力の空白が生まれ、無法地帯となり、悲惨な人道状況が悪化している。
・アラブ政府高官やアナリストたちは、首長国連邦とサウジアラビア政府が戦後計画に関与するための前提条件としているパレスチナ国家への道筋が明示されていないため、この権力共有計画は実行不可能だと指摘している。しかし、少なくともイスラエルの指導者たちが公の声明で示唆するよりも大きな柔軟性を示唆していることから、この提案を慎重に歓迎する声もある。
・この提案では、アラブ・イスラエル同盟は米国と協力し、ガザンの指導者を任命して、荒廃した領土を再開発し、教育システムを見直し、秩序を維持する。7年から10年後、同盟はガザ人が、ガザとイスラエル占領下のヨルダン川西岸地区の両方を統治するパレスチナ統一政権に吸収されるかどうかの投票を行うことを認めるという。それまでの間、イスラエル軍はガザ内で活動を続けることができる。
・この提案では、統一された政権が主権を持つパレスチナ国家を構成するのか、あるいはヨルダン川西岸地区の一部を管理するパレスチナ自治政府を含むのか、明確には述べられていない。ネタニヤフ首相は公の場で、パレスチナの完全な主権を否定し、パレスチナ自治政府の関与も否定している。
・イスラエル首相府はコメントを避けた。イスラエル政府は、イスラエルが戦後のガザをより支配的に保つという、より曖昧なビジョンしか公に示していない。
・首長国やサウジアラビアの高官やアナリストは、この新提案ではサウジアラビアやアラブ首長国連邦のようなアラブ諸国の関与を確保することはできないだろうと指摘した。サウジアラビア政府は、イスラエルの指導者たちがパレスチナ国家の建設に向けて取り返しのつかない措置を取らない限り、イスラエルとの関係を正常化しないと述べている。
・サウジ王室に近いとされるサウジ人コメンテーターのアリ・シハビ氏は、「『不可逆的』であることをもっと明確に打ち出す必要がある。問題はイスラエル側があいまいな言葉でごまかす癖があることだ」
・とはいえ、この提案はイスラエル政府関係者が議論したとされる戦後のガザに関する最も詳細な計画であり、その一部はアラブの指導者たちが公私ともに表明している考えと一致している。
・トーマス・R・ナイデス元駐イスラエル大使は、イスラエルの内部的な考えを明らかにした点で、この提案は重要だと述べた。
・「イスラエル政府の公的な姿勢とは裏腹に、舞台裏ではイスラエル政府高官が、戦後のガザがどのようなものになるかを真剣に考えていることを示している」とナイデス氏。「明らかに、悪魔は細部に宿るものであり、U.A.E.のようなアラブのパートナーを説得して計画に参加させるには十分ではないかもしれない。そして、人質が解放され、停戦が始まるまでは何も起こらない」
・この提案に詳しいイスラエル政府関係者は、ガザに残された人質が解放されるまでは合意には至らないと述べた。イスラエルとハマスの間の停戦を成立させようとする新たな努力の中で、計画の開示が行われた。
・そのほとんどがイスラエル人で、ネタニヤフ首相に近い人物もいる実業家グループが、11月にこの計画を立案した。政府関係者の一人によれば、この計画は12月にネタニヤフ首相のオフィスでイスラエル政府関係者に正式に提案された。
・C.I.A.長官は、ハマスが受け入れた米国とイスラエルの提案の変更について相談した、と政府関係者は言う。
・以下は、停戦交渉における最近の紆余曲折のタイムラインである。
・協議は不透明で、ラファ攻撃も迫っており、ネタニヤフ首相はつかみどころのない勝利に傾いている。
・ハマスが敗北し、ガザに残された人質が解放されるまでは、この計画は実行に移せないが、イスラエル政府の最高レベルではまだ検討中である、と2人の高官は語った。
・ハマスがガザ南部の一部を完全に支配しているのは、イスラエルによる壊滅的な軍事作戦にもかかわらずである。ガザの当局者によれば、34,000人以上が死亡し、ガザの一部は飢饉に瀕し、ガザの大部分は廃墟と化している。
・この実業家たちは、このアイデアを推進する彼らの能力を危険にさらさないために名前を明かさないことを求めたが、彼らは、アメリカ、エジプト、サウジアラビア、U.A.E.を含むいくつかのアラブおよび西側諸国の政府関係者に、このプランについて説明したという。
・また、サウジ政府に近代化プロジェクトを助言する研究所を運営するトニー・ブレア元英国首相にも見せたという。ガザでの報復から親族を守るために名前を明かさないことを求めたパレスチナの実業家も、アメリカ政府高官へのこの計画の推進に関与している。
・この計画について質問されたU.A.E.外務省は声明で、首長国政府は「すべての当事者にとって透明性があり、時宜にかなった拘束力のある道筋を含み、パレスチナの独立国家を伴う2国家解決策の確立につながる、紛争の政治的解決に向けたロードマップに関する合意が存在するまでは、ガザのいかなる復興努力にも参加しない」と述べた。
・あるサウジアラビア政府関係者は、政府の規定に従うため匿名を条件に、パレスチナ国家の樹立に向けた「信頼できる不可逆的な道筋」を作るものでも、パレスチナ自治政府の関与を保証するものでもないとして、この提案を却下した。同高官はまた、サウジアラビア当局が以前にこの計画を知っていたことも否定した。
・エジプト政府の報道官はコメントを避けた。
・実業家たちの狙いは、ネタニヤフ首相を説得するために、この構想に対する国際的な支持を獲得し、国内の支持を得るという困難な仕事に着手する価値があると思わせることだ。
・ネタニヤフ首相の連立政権は、パレスチナ国家の創設を決定的に否定しない計画を正式に支持した場合、崩壊する可能性がある。連立政権の極右メンバーはパレスチナの主権に強く反対し、ガザにイスラエルの入植地を再確立したいと考えている。彼らは、もしネタニヤフ氏がハマスの追放なしにガザでの戦争を終わらせたら、政府を崩壊させると脅している。
・夜の街頭で、ヘブライ語の看板を持った男たちが屋外に立っている。極右イスラエル人は2月、ハマスとの停戦合意に反対する抗議デモのためにイスラエル国会前に集まった。
・世論調査によれば、イスラエル国民の大多数もパレスチナ国家の創設に反対しており、その多くは、戦争の発端となった10月7日のイスラエルへの越境攻撃で約1,200人を殺害したテロ攻撃を指揮したハマスに報いることになるとしている。
・政権が崩壊し、その後の選挙戦で支持を失うことを警戒するネタニヤフ首相は、ここ数ヶ月、パレスチナ国家に反対する声を繰り返し上げ、ヨルダン川西岸とガザに対するイスラエルの支配を維持することを公約している。
・しかし、アナリストや彼の盟友の中には、サウジアラビアとの画期的な国交正常化協定を結ぶことができるのであれば、パレスチナの主権の可能性を残す用意があるだろうと考えている者もいる。
・最も影響力のあるアラブ諸国と外交関係を結ぶことで、ネタニヤフ首相は、イスラエル史上最悪の単独攻撃となったハマス主導のイスラエル空襲が彼の監視下で発生したため、汚されてしまった自身の政治的遺産の一部を回復することができる。
・イスラエルの政治アナリストで、首相の元戦略家であるナダヴ・シュトラウクラー氏は「彼はこのレガシーを望んでいる」という。「その一方で、1つは、彼は二国家解決策を信じていないということだ。 2つ目は、彼は大衆にそれを売り込むことができないことだ」と付け加えた。
イスラエル政府高官はサウジアラビアとの関係正常化と引き換えに、そうしたいとのことですけれども、肝心のネタニヤフ首相が納得していないそうで、更に戦時内閣の極右閣僚もいますから、どこまで実現度があるか分かりません。
ただ、この案でさえも、合意できるのであれば、停戦後のガザ地区を安定させることに、一定程度寄与するのではないかと思います。
ネタニヤフ首相は孤立する必要があるなら、孤立する、なんて啖呵を切っていますけれども、イスラエルが本当に世界から孤立して生きていけるとのか。
5月2日、トルコはガザ地区における「人道的悲劇の悪化」を理由に、イスラエルとの貿易を全面的に停止しています。今はトルコだけでも、世界から完全孤立したら、供給が止まるのが砲弾どころではなく、食料やエネルギーその他になることだって否定できません。
ともあれ、目下、目指すべきは停戦です。
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