ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。
1.ラファに侵攻すれば武器は供与しない
5月8日、アメリカのバイデン大統領は8日はCNNによるインタビューで、イスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区ラファで大規模な地上作戦を開始した場合、同国への武器供与の一部を停止すると警告しました。
インタビューで、バイデン大統領は「ガザの民間人が殺害されている。そうした爆弾などを使って彼らが人口密集地を狙った結果だ……もしも彼らがラファへ侵攻すれば、歴史的にラファへの対応や市街地への対応に使われてきた武器は供与しない……我々はイスラエルの安全保障から手を引くわけではない。イスラエルがそうした地域で戦争を仕掛ける能力から手を引く」と言明しました。
バイデン大統領は「アイアンドームや中東で最近発生した攻撃への対応能力においては引き続きイスラエルの安全を保障する……だが、武器や砲弾は供与しない。それは間違っている」と防衛のための兵器は引き続きイスラエルに供与するものの、ラファに対する大規模地上侵攻が始まれば、それ以外の輸送は中止すると強調しました。
ただ、バイデン大統領はラファの現状について、イスラエルが地上作戦を開始したとはみていないとし、「人口密集地には入っていない。境界上での行動だ……だが実際に人口密集地に入れば、私たちの支持は得られないと、戦時内閣にはっきり伝えた」と述べ、イスラエルによるガザ住民の殺害にアメリカの武器が使われてきたと認めました。
そして、イスラエルについて「一線」を越えたと思うかと問われると、「まだだ」と答えています。
バイデン大統領の今回の発言は、ラファへの地上侵攻に関するこれまでの同氏の警告で最も強いもので、イスラエルへの武器輸出の停止に言及したのは初めてになります。
現在、アメリカ、輸送を止めている武器は、将来の供与分です。従って、イスラエルが直ちに影響を受ける可能性は低いのですけれども、イスラエルの空爆のペースを考えれば、近いうちに同国の攻撃に影響が出るとみられています。
2.なぜアメリカは武器供与の停止に言及したのか
では、なぜバイデン大統領は武器供与の停止に言及したのか。
これについて、BBCのジェイムズ・ランデイル外交担当編集委員は5月10付の記事で次のように述べています。
【前略】このように「ラファの軍事作戦による民間人犠牲」「イスラエルに圧力を掛けたいアメリカの意向」「大統領選挙対策」の3つがあるとし、アメリカの兵器を使ってイスラエル軍が人権侵害を犯しているのか判断しなければならないときに最大の試練がやってくると指摘しています。
イスラエルにとってアメリカは、武器と弾薬の最大の供給源だ。イスラエルに毎年38億ドル(約5900億円)の軍事支援をすることが法律で決まっている。イスラエルを近隣諸国より優位に立たせるのが目的だ。米議会は先月、追加で140億ドルの軍事支援を提供する予算案を可決した。
そしていま、バイデン政権は初めて、イスラエルへの軍需品の輸送を一時停止している。政権高官はBBCに、2000ポンド爆弾など数千発の爆弾の運び入れを停止中だと明らかにした。
この高官はまた、他の武器についても売却の見直しを進めていると述べた。対象には、自由落下爆弾を精密誘導弾に変えるための機器などが含まれるという。
なぜアメリカは、イスラエルに対しておそらく最大の影響力をもつ手段を、ついに行使することにしたのか。
理由の一つ目として、ガザ南部ラファでの対ハマス軍事作戦が挙げられる。アメリカと多くの西側諸国は、この作戦が民間人の多大な犠牲と人道上の大惨事を招くとしている。
米当局は輸送を延期している爆弾について、ラファの密集した都市環境で使われれば、壊滅的な結果をもたらすはずだと説明。イスラエルによるラファ攻撃をアメリカは望んでおらず、そのメッセージを強調する一つの方法が、今回の延期だとしている。米紙ワシントン・ポストは、今回の武器輸送の延期を、アメリカの懸念がいかに深刻かをイスラエルに伝える「警告」だとする米当局者の話を伝えた。
二つ目の理由は、ハマスとの停戦合意を支持するようイスラエルに圧力をかけ続けたいという、アメリカ側の強い意向だ。停戦と人質解放に向けた交渉は、エジプト・カイロで続いている。アメリカとしては、イスラエルが妥協しないならそれに伴うコストを拡大するという状況を作りたいのかもしれない。
理由の三つ目は紛れもなく、アメリカの国内政治だ。バイデン氏には民主党支持者らから、イスラエルへの支持を抑えるよう大きな圧力がかかっている。
今年は米大統領選挙の年だ。世論調査は、一部の民主党支持者(特に若い世代)が11月の投票日に、バイデン氏への投票をためらうかもしれないと示している。ガザでの戦争でアメリカが果たしている役割が原因だ。投票率が低ければ、共和党のドナルド・トランプ前大統領との争いで、バイデン氏は大打撃を受ける可能性がある。
イスラエルへの軍事支援を差し控えるという決定は、アメリカにとってリスクを伴う。イスラエルはまたも、アメリカの発言や対応をただ無視して済ませる可能性がある。長期的なアメリカの軍事支援は続くはずだと見越して、アメリカ政府の警告は、はったりに過ぎないとあしらうかもしれない。
そうすれば、世界におけるアメリカの影響力低下を公然と示すことになる。ただしイスラエルも、最大の友好国との間に歴史的な亀裂が入るのは嫌うかもしれない。イスラエルは防空システムを全面的にアメリカに依存している。ほんの数週間前にはその防空システムが、イランのドローン(無人機)とミサイルによる大規模な攻撃からイスラエルを守った。
大きな試練は、アメリカの兵器を使ってイスラエル軍が人権侵害を犯しているのか、米国務省が判断するときにやって来る。調査については近々、声明が出る予定だ。
最後に、アメリカはイスラエルの唯一の友好国ではないことも指摘しておく。アメリカがイスラエルへの武器売却を延期すれば、イギリスなどの国々にも同様の措置を取るよう圧力がかかるだろう。そうした制限は、実際的というより象徴的なものだ。それでも、イスラエルの外交的孤立を助長することにはなるだろう。
そして、アメリカがイスラエルへの武器売却を延期すれば、他国へも同様の措置を取るよう圧力がかかり、イスラエルの世界からの孤立を助長すすることになると述べています。
3.私たちは単独で対処する
今回のバイデン大統領の武器供与停止発言に、イスラエル当局者からは非難の声が上がっています。
イスラエルのエルダン駐米大使は、武器供給停止の判断について「イスラエル国家と国民の敵を助長する可能性がある」との見方を表明。
9日、ネタニヤフ首相も「私たちは単独で対処する。必要なら私たちは独力で踏ん張って戦う」と宣言。1948年の第1次中東戦争に言及し、「76年前の独立戦争では我々は多勢に無勢だった。我々は兵器を持っておらず、イスラエルに対する兵器禁輸も講じられていたが、精神と勇気、団結の偉大な力で勝利した」と述べました。
ネタニヤフ首相はさらに、武器提供を停止しても、イスラエルは「持ちこたえる以上のことができる」とし、供与が途絶えても戦争を継続すると発言しています。
一方、バイデン大統領の発言はイスラエルの様々な政党の間の亀裂も浮き彫りにしています。
イスラエルの極右ベングビール国家安全保障相はX(旧ツイッター)でバイデン大統領を批判し、ハマスとバイデン大統領は相思相愛だと指摘したのですけれども。この投稿に対しイスラエルのヘルツォグ大統領から「無根拠で無責任、侮辱的な発言やツイート」は慎むよう警告されています。
イスラエルの亀裂はそれだけではありません。
5月9日、イスラエルのシンクタンク「イスラエル民主主義研究所(IDI)」が5月1~6日にかけて世論調査を実施。男女600人にヘブライ語で、150人にはアラビア語で、ラファでの軍事作戦と人質解放の合意達成のどちらが国家的利益の面で最優先課題かを二者択一の方式で質問しました。
その結果、ユダヤ系イスラエル人の56%、アラブ系イスラエル人の89%が人質解放の実現のための取引がより重要と答えました。
また、8日夜には、イスラエルの主要都市テルアビブで人質の家族らが抗議デモを起こし、デモ隊が規制線を押し返すなどして警官隊と衝突。2人が逮捕、警官2人が軽傷、デモ隊側にも負傷者が出たようです。
ネタニヤフ政権は、国民の過半から人質救出を優先しろと迫られ、政権内でも亀裂が見え始めている訳です。
4.イスラエルの行為はジェノサイド
イスラエル軍のラファでの軍事行動はジェノサイドであるという批判の声が続いています。
3月27日、国連のフランチェスカ・アルバネーゼ特別報告者(パレスチナ自治区の人権担当)は、イスラエルが「集団としてのパレスチナ人に対してジェノサイド(集団殺害)という犯罪を犯している」と信ずるに足る「合理的根拠」があると述べています。
アルバネーゼ氏は、記者会見で「イスラエルはジェノサイドに該当する意図を伴う3つの行為を犯している。すなわち、集団構成員を殺害し、集団構成員に重大な肉体的または精神的な危害を加え、全員または一部に物理的破壊をもたらすために計算された生活状況を集団に対して意図的に課している……パレスチナ民間人の残虐かつ組織的な殺戮が行われている」と述べ、違法な武器の配備、ガザの全病院に対する意図的な攻撃を含む民間施設の殲滅、パレスチナの人々の人為的な飢餓にも言及しました。
その上で、イスラエル高官など社会の上層部が発する反パレスチナ発言やパレスチナ人を人間扱いしない発言は、現場の兵士の行動にも反映されていると断言。これは「全体または部分を破壊する意図」の表れであり、他の残虐な犯罪とジェノサイドの違いはそこにあると強調。ここから導かれる「唯一合理的な推論」は、「ガザのパレスチナ人に対するジェノサイド的暴力というイスラエル国家の政策」でしかないと結論付けています。
パレスチナ人に対するジェノサイドがイスラエルの国家政策とまで言われています。もし、これが国際的に認知・承認されたら、もはやイスラエルは国家存続が許されなくなるのではないかとさえ思う程です。
5.パレスチナの国連加盟を支持する決議
こうした中、5月10日、国連総会でパレスチナの国連加盟を支持する決議案の採決が行われました。決議案は、現在は国連で「オブザーバー国家」の地位にあるパレスチナについて、国連への正式な加盟に向け安全保障理事会で協議するよう求めるものです。
採決の結果は、賛成143、反対9、棄権25と、採択に必要な3分の2以上にあたる圧倒的多数の賛成で決議は採択されました。
反対はアメリカ、イスラエル、アルゼンチン、チェコ共和国、ハンガリー、ミクロネシア、パプアニューギニア、ナウル、パラオの9か国、イギリスは棄権に回りました。
安全保障理事会での勧告がない現状ではパレスチナの加盟は実現しませんけれども、イスラエルとそれを擁護するアメリカの孤立が際立ちました。
採択の瞬間、議場から大きな拍手がおこり、パレスチナのマンスール国連大使と決議を支持した各国の大使らが握手を交わしました。
パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長は「パレスチナに賛成票を投じた国々に感謝する。安全保障理事会の決定によって完全な国連加盟を実現するための努力を続ける」などとする声明を発表し、決議の採択を歓迎しました。
一方、イスラエルのカッツ外相は自身のSNSに「政治的な劇場となっている国連は、ハマスに報酬を与え、人質解放のための努力を損なうゆがんだ決定を下した。国連が送っているメッセージは『暴力は報われる』というものだ」と投稿して、国連総会がパレスチナの加盟を支持する決議を採択したことを非難。更に、採決を前に演説したイスラエルのエルダン国連大使は、決議案について、テロ組織に国家の権利を与えようとしているなどと非難した上で、決議案に賛成する国に対し、「きょうの採決であなたたちが国連憲章に何をしようとしているのか、これをみれば分かる」と小型のシュレッダーを取り出して国連憲章が書かれた紙を細断するパフォーマンスを行い、最後に「恥を知れ」と言い残して、演壇を離れました。
パフォーマンスをするのは勝手ですけれども、もはや逆効果にしなからないような気がします。漫画やドラマでいう、”フラグ"が立った感すらあります。
国民に反発され、国際的に孤立し、政権内でも亀裂が起こり始めたネタニヤフ政権。今の路線で突っ走っても早晩限界がくるのではないかと思いますね。
この記事へのコメント