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1.そんなはずがない
5月4~5日に行われたJNN世論調査で、岸田内閣の支持率が前回調査から7ポイント上昇し、29.8%になったことについて、自民党議員から「そんなはずがない」「困るんだよ。どうするんだよ、解散したら」との声があがり、動揺が走っているそうです。
この現象について、政治アナリストの伊藤惇夫氏は次のように述べています。
・首相の外遊後に支持率が上昇するのは珍しいことではない一言でいえば、サボっていたツケが回ってきたということなのかもしれませんけれども、ツケはツケであって、先送りしても消える訳ではありません。
・民主党の事務局で働いてきた時、首相の露出度と政党支持率の相関を専門機関で調べてもらったことがある。結果はシンプルで、『首相に関してポジティブなニュースが報じられると、支持率は上がる』というものだった。
・岸田さんの場合、昨年5月にG7広島サミットが開かれた時も支持率が上昇した。今回の外遊はGW休みの間、3ヶ国での活動がさかんに報じられたので、有権者が好感を持ったのだろう
・ただし、外交での支持率上昇は長続きしない。岸田首相の場合、日本に帰れば裏金事件を筆頭にネガティブな報道が連続するのは明らかで、支持率は再び下落する可能性が高い
・自民党の裏金事件ついて、岸田首相は衆院補選で3連敗するまで、国民の声に動揺する気配すらなかった。
・1988年にリクルート事件が起きた時、自民党はすぐに危機意識を持ち、迅速に動いた。特に後藤田正晴さんや伊東正義さんら大物政治家が党利党略を離れ、この国をどうするかという大局的な見地から政治改革を実現させた。
・あの時の議論は常に自民党がリードしていたが、今の自民党は大物議員も新人議員も何も発言しない。
・どうして自民党はこれほど劣化したのか。やはり安倍一強の余波なのだろう。
・岸田さんも安倍さんの人気を当て込み、それだけで選挙に勝ってきた。
・党の幹部クラスも政治家として成長する機会を失い、裏金事件のような大問題が起きても何をしたらいいのか分からないのだと思う。
・解散さえなければ、9月に新しい総裁を選べばいいと考えているのだろう。
・総理総裁が変われば、多少は支持率が回復する。
・衆議院議員の任期は来年の10月までだが、とにかく総選挙は後回しにして、有権者の不満が沈静化するのを待つというのが自民党の本音だと思う。
・たとえ総選挙に追い込まれ、敗退したとしても、いざとなったら維新とでも連立を組んで政権を維持できると考えているはずだ
・森友学園問題などを思い出してもらいたいが、これまで大きなスキャンダルが政権や自民党を揺るがしたとしても、『もっと他に国会で議論すべき重要な問題がある』という反論が必ず出てきた。
・ところが今回、こうした意見は目立っていない。なぜなら裏金事件は“政治とカネ”という、まさに国会で議論すべき重要な問題だからだ。
・その分だけ有権者の怒りが持続する可能性があり、簡単には忘れられないだろう。
2.国民は裏金問題を覚えている
4月28日の衆院三補選で、自民党は全敗しましたけれども、これを受け、党内では岸田総理に解散させてはいけないという空気が流れているそうです。
ある全国紙政治部記者は次のように説明しています。
・これまで首相は解散について問われたときにニヤリと笑みを浮かべることもあり、解散権をちらつかせることで、求心力を保ってきたなんでも、茂木幹事長は「岸田首相には解散させない」と周囲に語ったそうで、足元から揺らいでいます。
・三補選の中でも、とくに島根1区の結果が衝撃的だった。2009年の政権交代時でも自民が勝てていた選挙区だったにもかかわらず、今回は投票締め切りの午後8時と同時に立憲の亀井亜紀子氏の当選確実が報じられるほどの惨敗。
・「島根1区でこの結果なら、衆院選をしたら全国的に散々な結果になってしまう。何とかして早期解散は止めたい」と自民党内の危機感は高まった」
これについて、ある自民党関係者は次のように語っています。
・三補選の投開票前、『全敗』の責任を取る形で茂木氏が幹事長を辞任するという噂が永田町を駆け巡った。更に、自民党安倍派議員の一人は「とにかく解散は1日でも遅くしてほしい。今解散されたら、まだまだ国民が裏金問題を覚えている。でも、岸田首相のことだから、何をしてくるかはわからない。このままずるずると9月の総裁選に突入するよりは『一か八か』での局面打開を図るのでは」と恐れているそうです。
・茂木氏としては幹事長にとどまっていると、総裁選で再選を目指す岸田首相を支えるべき立場となり、戦うことは難しい。
・かといって岸田首相の求心力が落ちている今、岸田首相からの禅譲も現実的でない。
・三補選での敗北は、茂木氏が幹事長を辞めて総裁選出馬をねらうためのチャンスになりうるとみられていた
・茂木氏が続投したのは決して岸田首相を支えたいためではなく、幹事長としてカネや人事を握れる立場にいたいから。しばらくは様子をみるのだろう。
・そのうち、首相が解散を決心しても周囲から止められるようなことがあれば、途端に首相の求心力は落ちる。そうなったときに茂木氏は一気に勝負に出るのかもしれない
また別の自民党関係者は次の様に述べています。
・三補選の結果をみたら、とても岸田首相では選挙は戦えないのでは。来年秋までに衆院選はあるのだから、なるべく国民人気の高い人に首相をしてほしい
・非主流派の筆頭、菅義偉前首相も二階派の武田良太氏らと会合を重ね、メディア露出もするなど、存在感を高めている。
・首相を支える立場であるはずの幹事長の『岸田離れ』に加え、非主流派もうごめき、処分を受けた安倍派なども首相を快く思っていないとなれば、首相の力が弱まってしまうのは必然といえる
けれども、解散は国民に信を問うためにあるものであって、政局に利用するものでは本来ないはずです。
危機感を感じているという、その危機感とは何に対してなのか。自分が落選する危機感と国民の生命と財産を天秤に掛ければ、どちらが重いのかなんていうまでもありません。
3.抜け道がある
その危機感が生まれる原因の一つでもある裏金問題ですけれども、岸田総理は外遊からの帰国当日の6日に党の政治刷新本部のメンバーと面会し、政治資金規正法改正に関して、今週中のとりまとめを指示。先週末に概要が纏まったのを踏まえ、政府与党連絡会議で、岸田総理は「真摯な協議を進めた結果、改革の方向性をとりまとめてもらった。政治改革特別委員会での議論や与野党協議が本格化することになるが、引き続き与党間でしっかり協力し、今国会中の法改正の実現に全力を尽くしてもらいたい」と語りました。
12日、与野党の実務者らがNHK番組で政治資金規正法改正を巡り議論したのですけれども、自民の鈴木馨祐氏が、与党案は事件の再発防止につながる内容だと意義を強調したのに対し、立憲民主党の落合貴之氏は、企業・団体献金の扱いに言及しなかった点などを念頭に、与党案には「抜け道がある……再発防止を徹底するのが一番大事だ」と、実効性に疑問を呈しました。
日本維新の会の青柳仁士氏は、政治団体の収支報告書を巡り「維新は内規で会計責任者を代表者にしている」と述べ、議員の「確認書」添付を義務付ける与党案を批判。共産党の塩川鉄也氏に至っては「評価に値しない」と酷評し、国民民主党の古川元久氏も「危機意識が欠けている」と苦言を呈し、れいわ新選組の大石晃子氏は、政治資金パーティーの禁止を唱えています。
これについて、法政大学大学院教授で現代政治分析が専門の白鳥浩氏は次のように述べています。
・自民党はどうあっても企業団体献金の禁止は受け入れない意向と考えられる。このように連座制を設けて再発防止に努めるべきだと酷評しています。
・さらに、自民党案では何とかして代表者である政治家に対して責任が及ばないようにすることを基本線として考えており、政治家に責任を追及するためにはいくつものハードルが仕掛けられている。そこで、とても「連座制」といえるようなものではない。
・「連座制」こそが再発防止の最大の対策である。
・令和の「政治とカネ」の問題に関して、自民党は自らの党から問題を起こしてしまったということをしっかりと自覚する必要がある。
4.官房機密費スキャンダル
そんな中、更なるスキャンダルが飛び出しました。
5月9日、「中国新聞デジタル」が、2013年7月の参院選で、安倍元総理が東日本の選挙区で争う同党公認候補に現金100万円を渡していた疑いがあると報じました。
匿名を条件に中国新聞の取材に応じたこの候補者によると、安倍元総理が応援演説に入った当日、個室で面会。安倍氏から渡された茶封筒のなかに現金100万円入りの白い封筒が入っていたとのことです。
中国新聞は、複数の元政権幹部の見方として、使途が公表されない内閣官房報償費(機密費)が使われた可能性を指摘。安倍元総理、候補者が関係する政治団体の収支報告書にはいずれも100万円の記載はなく、時効が成立しているとはいえ、政治資金規正法違反(不記載)などにあたる可能性もあると報じています。
これについて、弁護士の紀藤正樹氏は、「官房機密費は政府の施策の円滑な遂行を目的として認められるものでこれを党勢拡大という選挙のために使用するのは目的外使用で背任や横領にもあたりかねない。政府は調査すべき」とXでツイートしています。
ある政治担当記者は「安倍派の政治資金パーティー裏金事件では、議員への裏金還流を知った安倍氏が、2022年4月、還流の中止を指示したとされています。しかし、安倍氏自身が裏金を配っていたとなれば、見方は変わってきます。……2020年12月、『桜を見る会』前夜祭をめぐり、政治資金収支報告書に約3022万円の収支を記載しなかったとして、安倍氏の公設第一秘書が略式起訴されています。……2021年11月に派閥会長となった安倍氏は、あくまでほとぼりが冷めるまで、裏金の還流の中止を指示しただけではないかとの疑念も生まれます」とコメントしています。
案の定、ネットでは《いろんなところからの札びらで顔ひっぱたいてどうだとばかり毎回やってたわけだから、安倍は選挙に強かったわけだ。こんな金で買った票で当選した自民党議員に正当性あるのか?》、《モラル皆無の自民党はバレなきゃ何でもありなので官房機密費も政党助成金も廃止にして下さい》、《官房機密費は税金ですよ こんな私的利用は法律違反です 自民党議員は全員辞職するべきです 自民党は解党する以外ないですね》など怒りのコメントで溢れています。
先述の法政大学大学院の白鳥教授は、次のように解説しています。
・「政治とカネ」の問題について、この議論は新たな展開として注目する必要がある。政治と金の問題に裏金だけでなく、新たに「官房機密費」が加わったというのですね。
・『中国新聞』の地道な「政治とカネ」の取材が実を結んだといえる。
・これまで議論されてきたのは、パーティー券を巡る「裏金」づくりの予防であったり、旧文通費を巡るその使途の公開であったり、政策活動費の廃止ないし透明性の担保であったりという議論であった。
・そこに新たに「官房機密費」という「政治とカネ」の問題も出てくることとなった。
・地元の河合夫妻の事件を皮切りに、「政治とカネ」について時間をかけてしっかりと、アシを使って取材を重ねた新聞社の報道には、一定の説得力がある。
5.コメントを控える
この官房機密費問題について、5月12日、NHKの討論番組で、政治資金規正法改正に向けた自民党の作業部会座長である鈴木馨祐衆院議員が「選挙目的で使うことはない。断言する」と述べたのですけれども、発言の具体的根拠は示しませんでした。
この鈴木議員の発言について、翌13日、林官房長官は記者会見で「個々の議員の発言にコメントすることは差し控える」と発言し、「コメント控える」がこの日の午後にXでトレンド入り。
ネットでは、「クロ 認めたようなもんだね」「クロかな」「国民は説明を求めているのだから、それに対して『コメントを控える』選択肢はない。責任を果たせ」「1番知っているからコメント控える?1番答えるべき人があなたですよ」「『コメント控える』じゃなく『選挙対策に流用を否定せず』でいいんじゃないの?」など炎上しています。
これについて、東京大学先端科学技術研究センターの牧原出・教授は、次のようにコメントしています。
どのように「断言」しようと、領収書などの書類がない以上、確かめようがありません。使途についての証拠書類のない費目について、断言できるはずがないのです。この論理を使えば、私たち国民も書類を残さず、確定申告で税務署に向かって「断言」すればそのまま通るのか、ということになってしまいます。鈴木議員の発言は、官房機密費の不透明さをアピールすることになってしまっています。
本来の国家目的のため、証拠書類を残さずに一定の資金を使うことはありうるわけですが、第2次安倍内閣のようにその則を超えるような使い方はすべきではないのです。国民目線を欠いた発想は、やはり10年を超える自公政権の問題でしょう。それが徐々に深刻になってきています。
今の状況下で「コメントを控える」なんてしたら、いわゆる「疑惑は深まった」を招くだけです。
更に追い打ちをかけるかのように、同じく中国新聞から民主党の鳩山政権で官房長官を務めた平野博文氏のインタビュー記事が掲載されました。
それによると、国庫から、おおむね毎月1億円支出される機密費のうち、官房長官自らが管理、支出する政策推進費が機密費全体の7割に当たる月7千万程度あり、いずれも領収書を取らずに使ったと説明しています。
もっとも選挙には使っていないと述べていますけれども、使ったなんていったら、自分も返り血を浴びますからね。そこは割り引いておかないといけないかもしれませんけれども、与党のイメージダウンを図るには都合のよいネタなのだろうと思います。
悪夢の民主党政権とはいえ、一度でも与党を経験したことは、こうしたときに活きてくるのかもしれません。
ともあれ、先述の牧原教授が指摘するように、機密費を選挙に使ってないといくら「断言」しようが証明しようがなく、疑念が深まるだけです。裏金問題のときも誰がやったのか分からないまま有耶無耶になってますけれども、それのケジメをつけようとして取り組んでいる政治資金規正法改正の中から「官房機密費」問題が飛び出した。
これでは、ちょっとやそっとの改正ではとても国民は納得しないのではないかと思いますね。
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