

1.アウフヘーベン
5月17日、東京都の小池百合子知事は定例会見を行いました。
会見で小池都知事は「能登半島地震に対する義援金」「東京での暮らし方や子育て施策」「高齢者の住まいに関する取組」「東京de収穫体験フェスティバル」について説明をしましたけれども、その後の質疑応答で、広島県安芸高田市の石丸伸二市長の都知事選出馬意向を表明したことについての質問を受けています。
その時のやり取りは次のとおりです。
【記者】朝日新聞の土舘です。関連して、昨日ですね、広島の安芸高田市長、石丸市長が都知事選に立候補すると。そこで東京での一極集中を変えていくというようなことで立候補することを述べました。これについては一極集中を変えるっていうことについて、知事はどう考えられているのかと、広島の石丸市長、SNS等で人気だそうですけれども、その方の立候補についてはどう見ていらっしゃるか。石丸市長など、眼中にないかのような回答ですけれども、肝心の一極集中については、何も答えていません。
【知事】既に立候補したいという方は十数名いると伺っております。色々な方がお手を挙げられるのだろうなというふうに思いますし、また一極集中ということについて、どういうご意見を持っておられるのか、私、よく存じ上げません。いずれにしましても、多くの都知事選へのチャレンジャーがおられるのだという認識でございます。
石丸市長は一極集中ついて、17日の会見で、次のように述べています。
小池知事の公約、ゼロを掲げられていますが、ほとんど人口集中過密に原因があります。見ていると、全部が対症療法で、ものすごくコストをかけながら、なかなか結果が出ない。多極分散、東京の過密を解消することによって、東京都を世界で一番住みやすい街にする。これを東京で追求することが、地方の活性化につながる。一石二鳥、一挙両得、小池知事の言葉を借りれば、『アウフヘーベン』ですか
石丸市長は、小池都知事が公約で掲げていた「7つのゼロ」について結果が出ていないとし、その原因が一極集中にあるとしています。
2.未達のゼロ
小池都知事は、2016年の都知事選の選挙公報で「7つのゼロを目指します」と謳い、「待機児童」、「介護離職」、「残業」、「都道電柱」、「満員電車」、「多摩格差」、「ペット殺処分」の7項目を挙げ、「都政の透明化」「五輪関連予算の適正化」といった主張とともに、有権者から多くの注目を集めていました。
あれから8年、これらの公約はどこまで実現されたのか。
最初に達成したのは「ペット殺処分ゼロ」です。ボランティア団体との連携で犬や猫の譲渡を促進し、目標より一年早い2018年度に実現。それ以降、ゼロが続いてます。
都知事が最重要課題とした「待機児童ゼロ」も前進。小池都知事は就任直後、保育施設の整備促進などを柱とする緊急対策に着手。2023年4月までに認可・認証保育所の定員は約3割増え、2016年4月時点で8466人いた待機児童は、2023年4月に286人と約97%減少しました。
「満員電車ゼロ」は、東京圏鉄道の通勤時間帯平均混雑率は2015年度の164%から、2022年度は123%に下がっています。
混雑率とは、「輸送人員÷輸送力」で算出される混雑度の指標のことです。都市鉄道の主要路線の混雑率は、各路線の「最混雑区間における1時間あたりの平均混雑率」として毎年公表されています。
混雑率の目安イメージはおおよそ次の通りです。
[100%]=定員乗車。座席につくか、吊り革につかまるか、ドア付近の柱につかまることができる。これから見ると2023年の123%は、肩が触れ合わないものの、席には全員座れない程度の混雑でしょうか。これを満員電車の解消と見るかどうかは人によるかもしれません。
[150%]=肩が触れ合う程度で、新聞は楽に読める。
[180%]=体が触れ合うが、新聞は読める。
[200%]=体が触れ合い、相当な圧迫感がある。しかし、週刊誌なら何とか読める。
[250%]=電車が揺れるたびに、体が斜めになって身動きできない。手も動かせない
もっとも、これは、武漢ウイルス禍のを機に、都は在宅勤務の機材購入費を助成するなどしてテレワークを推奨。2022年の都内企業のテレワーク導入率は62.9%と、2017年の6.8%から大幅に増えたことも混雑緩和に寄与したとみられています。
「都道電柱ゼロ」は、2017年6月、都道で電柱の新設を禁じる無電柱化推進条例を制定。都道の電柱のうち地中化された割合を表す地中化率は、2015年度末の38%から2022年度末には46%に伸びています。2019年度末時点で地中化率が42%に達していたこととも考えあわせると進捗は年1%程度であり、必ずしも早いとはいえません。
実際、都は2021年2月、2040年代の地中化完了を掲げた「加速化戦略」を発表し、人員態勢を強化し、整備速度を倍加するとしています。
そして、区部と多摩地域で発展に差がつく「多摩格差」は、明確な指標はありません。ただ、都が多摩地域の自治体に拠出する市町村総合交付金は、この8年で2割強増加し、2024年度予算案では620億円に達しています。もっとも公立学校の給食費無償化など、予算が必要な行政サービスで、多摩地域が区部に追いついていない現状は変わりません。
一方、後退しているのが、「残業ゼロ」と「介護離職ゼロ」です。
2022年度の都職員の平均残業時間は1ヶ月16.8時間で、就任前の15年度(13.5時間)より3.3時間増加。民間企業の平均(15.2時間)も上回っています。
介護離職については、2022年9月までの1年間で、都内で介護や看護を理由に離職した人は1万4200人。2016年9月までの1年間(8200人)の1.7倍になっています。
「7つのゼロ」公約について、ある全国紙政治部記者は、「小池氏は2016年の都知事選で、『介護離職ゼロ』『満員電車ゼロ』『残業ゼロ』など『7つのゼロ』を公約に掲げましたが、達成できたのは、犬や猫の譲渡を進めることで実現した『ペット殺処分ゼロ』くらい。今は小池氏から『7つのゼロ』の話は出てきません」と評しています。
3.課題解決に全力で取り組んできた
では、「7つのゼロ」公約の進捗について、小池都知事自身はどう評価しているのか。
17日の定例会見では、これに関連した質問が出ています。そのやり取りは次の通りです。
【記者】(日経新聞・池田記者)ありがとうございました。それでは幹事社、日経新聞です。幹事社から1問です。来週で都知事選の告示まで1か月となります。まだ任期の途中ですが、知事の2期目を振り返ってですね、手応えとやり残したことがあれば教えてください。「7つのゼロ」公約について触れたのは「待機児童ゼロ」だけ。まぁ、達成したことだけしか言わないというのは、よくあることですけれども、都知事自身も「7つのゼロ」が全部達成は出来ていないと認識はしているようです。
【知事】まだ振り返るには毎日が忙しい状況でございますけれども、知事に就任してから本当に都政の重要課題の解決に全力で取り組んできた。土日なかったですよね。特にコロナがありましたし、今もアメリカから戻ってきて、まだちゃんと休んだ日々はございません。それほど都には、都政には様々な課題がありますし、スピード感を持って仕上げていかなければならないという責任感の中で進めているところであります。
今申し上げた新型コロナ対策でありますけれども、あの時は東京iCDC、いち早く立ち上げをいたしました。そして専門家から大変的確なご助言もいただきながら、東京の叡智をそこに結集をしまして、結果的には死亡者数はOECDの中でも極めて低い水準に抑え込むことができたと。またコロナ禍におきましても、東京2020大会、これを実践、実行し成功させることができたと、このように振り返っております。
それから分かりやすいところで言うと、待機児童はほぼゼロであります。8年前は8,500人近くが今、色々マッチングの事情などもありまして、2百数十名というところでございます。
それからDXは、ここのところ特に加速度的に進めて、GovTech(東京)がですね、専門家の方々にご参加いただいて、また国とも連携しながら、このDXをむしろ東京が全体を引っ張っていくという形を今作り上げている途中でございます。
それから今日もSusHi Tech Tokyo関連のシティ・リーダーズプログラムを行ったところでございますけれども、やはり世界各地がですね、洪水から、その逆の干ばつ、そしてまた様々な水の不足で、水の干ばつですね、様々な、それぞれの都市において、災害対策で非常にもう危機感を皆が共有するような状況になっているということでありますが、東京も強靭化をですね、火山の爆発などもですね、最悪の事態も念頭に入れまして、その対策など進めているところであります。今回もその国際会議の中でも、やはり地下調節池、非常に大規模なものですけれども、結果として、これによって東京の洪水を、また川の氾濫を防いでいるということは、世界からも大変注目をされております。
そうやって、東京の都市の強靭化、こちらも着実に進めてきたところでございます。都市課題の解決というのは、本当に都市は生き物でありますので、それに対してですね、世界をリードする都市東京としての実績をこれからも重ねていく必要がある。振り返ってみますと、それの礎をしっかりと作ってこれたのではないかなというふうに思っております。
そしてあと、そうですね、我が国の構造的な課題も先鋭化しておりますので、スピード感を持って行動をしていくと。都知事として都民のために全身全霊で職務に邁進してきたという思いでございます。
4.二十年遅れの小泉純一郎・竹中平蔵
都知事選への出馬を表明した石丸市長ですけれども、石丸市長は東京には基盤がなく、選挙事務所などを探しているような状況です。選挙戦略の基本は、「SNSやYouTubeの力を借りて人を集める」とし、「選挙が終わってから、投票率下がりましたってニュースで報道される。悲しくなりませんか? 都知事選は投票率を上げるんですよ、爆上げしましょう」とコメントしています。
石丸市長は、10日の記者会見で「今必要なのは政治のエンタメ化。政治を身近に感じてもらうのが、最も大事な話になっている。日本の政治はそこまで来ている」と述べているように、エンタメ化することで、政治に興味を持ってもらおうという狙いがあるようです。
石丸市長は、政治のエンタメ化を明言してきたことについて「政治のエンタメ化、単に面白おかしく茶化せばいいという軽薄なものではありません。エンターテインメントはもてなすということ。もてなしの意識は本来政治であるべき。政治家がインフルエンサーになるような時代がきたとも感じている。それほど政治への関心が薄れています」と語っています。
ただ、エンタメ化しても、それと当選とは別の話です。投票率の増加がイコール石丸市長への支持とは限らないからです。
テレビ東京の「ガイアの夜明け」などの経済番組の制作に携わり、現在はPR会社代表として広報支援を行う下矢一良氏は、石丸市長の都知事選出馬表明について、「石丸伸二氏の都知事選立候補を『勝ち組』な人たちが軒並み支持しているのを見て、石丸氏の苦戦を確信。大勢が求めているのは『勝ち組』がさらに儲かって、『普通の人』が損するように見える『改革』ではないので……石丸伸二氏を見てると『20年遅れの小泉純一郎・竹中平蔵』を感じてしまう。『改革で勝ち組が儲かるようになれば、全体も潤う』という『トリクルダウン』はもはや説得力もなく。小池百合子都知事を倒すのは『遅れてきた構造改革な人』ではなく、(衆院東京15区補選で健闘した)須藤元気氏の上位互換みたいな存在ではないか……私は小池百合子知事はまったく支持していないけど、石丸伸二氏の支持を下げる広報施策は瞬時にいくつも思いつく。ネット世論だけ見てると見誤ると思う」とXでツイートしています。
どうやら、下矢氏は、石丸市長を「勝ち組」の人と見ているようで、そんな人の政策では「普通の人」からの支持は得られないと述べています。
石丸伸二氏の都知事選立候補を「勝ち組」な人たちが軒並み支持しているのを見て、石丸氏の苦戦を確信。大勢が求めているのは「勝ち組」がさらに儲かって、「普通の人」が損するように見える「改革」ではないので。 https://t.co/i2pwZa3Zjf
— 下矢@広報支援 (@KazShimoya) May 16, 2024
5.橋下徹と同じ臭いしかしない
ネットでは、石丸市長に対する支持と批判と両方あるようですけれども、批判の声としては「橋下徹と同じ臭いしかしない」というのが目につきます。
石丸市長について、ジャーナリストの山口敬之氏は、ネット動画で次のように評しています。
・石丸市長は新自由主義者です。小泉純一郎とか竹中平蔵とかそういう系統の人。そしてポピュリストなんです。山口氏は石丸市長を新自由主義者でポピュリストだとカテゴライズしています。
・だからこそ一部のマスコミが必要以上に彼を持ち上げている
・日本を巡る今の政治の対立の構図はアメリカに似ていて、保守とリベラル、右翼と左翼の戦いという単純な構造じゃなくなっている
・石丸市長というのはどちらかというとそういう新自由主義者のカテゴリーの人と見ている。だからあまりその評価してません
・新自由主義者って色々いて、例えば バイデン政権が中国共産党と裏で繋がってるのと同じで、新自由主義者って例えば反原発で組めるんです。
・利権が渦巻く中での新自由主義だから、実は主義じゃなくて自分と同じ方向だったら悪魔でも組むのが新自由主義者ですよ。
ここからは筆者の単なる持論ですけれども、都知事選を見ていると、もし日本が首相公選制になったら、こんな感じになるのかなという気がします。
日本の地方自治体は、二元代表制です。
二元代表制とは、首長と議会議員をともに住民が直接選挙で選ぶという制度ですけれども、二元代表制の特徴は、首長、議会がともに住民を代表するところにあります。
どちらも民意を反映しているのですけれども、互いに対立することがあります。実際、安芸高田市では、石丸市長と安芸高田市議会が思いっきり対立しています。
二元代表制では、議員は法律や予算などを審議・決定する権限をもちますけれども、その執行は行政の長が責任をもつため、立法権と行政権の分離を徹底できる利点があります。
立法と行政の分離という意味では、アメリカの大統領制と似ていますけれども、アメリカは独立戦争時に本国議会や政府が植民地に圧迫を加えたという歴史的事情が背景にあります。
アメリカは、いかなる政治機関も専制化しうるという不信感が強く、イギリスのように立法と行政を一体化させて政治運営を行う議院内閣制を採用せず、立法と行政の権限を明確に分離する大統領制を採用しました。
更に、司法に、違憲立法審査権を与えて、立法・行政部の行動をチェックさせる機能も持たせています。
裏を返せば、議院内閣制が上手くいくためには、議会や内閣に対する国民の信頼が基礎にないといけないということです。
ただ、日本に限っていえば、投票率を見ても明らかなように、議会や内閣への信頼以前に、そもそも興味関心がないという問題があります。ゆえに今の状態で首相公選制をしても、政治に興味関心がある人々のための政治となったり、当選するために極端にエンタメ化していくことも考えられます。
もちろん、政治不信が渦巻く今の日本の制度がよいとは言いませんけれども、国民自身がもっと政治にたいする責任を持つようにならない限り、迂闊な制度変更は危険かもしれませんね。
この記事へのコメント
naga
暇空茜氏のことです。文書開示請求で不都合なところを黒塗りや白塗りで出しているそうです。
日比野
おはようございます。コメントありがとうございます。
>暇空茜氏のことです。文書開示請求で不都合なところを黒塗りや白塗りで出しているそうです。
そこなんですよねぇ、のり弁、白弁で、まったく開示していない。
石丸氏なら、のり弁はなくなるだろうとの期待もあるにはあるのですけど、新自由主義者であの上野千鶴子のファンでLGBT推進派ですからね。暇空氏は早くもダメ出ししてます。
健全な議論になるならよいのですけど、どうなんでしょうね。