陰謀論が蝕むパンデミック条約

今日はこの話題です。
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1.パンデミック条約合意できず


世界保健機関(WHO)加盟国による「パンデミック条約」の交渉は、条文案で合意できないまま5月24日に終了しました。

これで、当初想定していた27日からのWHO総会での条約採択はできないことが確定しました。

この日、WHOのテドロス事務局長はWHO本部に集まった加盟国代表の前で各国や交渉事務局の努力をねぎらい、「これは失敗ではない。我々は進展している」と強調しました。

けれども、今年3月下旬を合意期限としていたのが不調に終わり、4月下旬からの延長交渉も実らりませんでした。今月下旬から交渉を再開したものの加盟国の意見はまとまらず、2年以上にわたっての交渉も妥結には至りませんでした。

WHO加盟国は武漢ウイルス禍への対応が遅れた反省から、2021年12月に新たな感染症対応の枠組みとしてパンデミック条約の協議入りを決めたのですけれども、パンデミックの際には先進国と途上国との間で対策の格差が広がったことから、条約の交渉では、途上国への技術移転や病原体情報の共有の方策などが焦点となりました。

けれども、ワクチンの分配を求める途上国と製薬会社への影響を懸念する先進国の対立なども表面化し、これが最後まで解決できなかったようです。


2.諦めないWHO


今後、WHOは5月27日から6月1日まで開催される第77回世界保健総会(WHA)で今後の協議継続について議論する予定としていて、既に、WHO加盟国は、次回の世界保健総会での検討のために交渉作業結果を提出することに合意しています。

テドロス事務局長は、「過去2年間、WHO加盟国はCOVID-19がもたらしたこの課題に立ち向かい、少なくとも700万人の命が失われたことを含め、それが引き起こした損失に対応するために多大な努力を注いできた……COVID-19はさまざまな形ですべての人に影響を及ぼた。だからこそ加盟国は、世界が次のパンデミックに備えるためにパンデミック合意を策定するプロセスを開始した。これらの交渉で大きな進展があったが、克服すべき課題はまだある。我々は世界保健総会を利用して再び活力を取り戻し、世代を超えたパンデミック合意を世界に提示するという目の前の仕事を終わらせる必要がある」と述べています。

交渉プロセスを主導した政府間交渉機関(INB)の事務局は、このプロセスの2年以上にわたる作業と、その作業の成果である現在までに交渉されてきた草案文書の概要をまとめた報告書を提出する予定で、合意プロセスを完了するための次のステップの選択肢も、総会で検討される予定となっています。

INB事務局共同議長であるオランダのローランド・ドリース氏(Mr. Roland Driece)は、WHO加盟国はパンデミック合意プロセスの完了に引き続き尽力しており、世界保健総会がこの画期的な取り組みの進捗状況を検討することを期待しているとし、「世界がパンデミックと闘うための新たなアプローチを構築しなければならないという点で、各国政府の間に明らかに合意がある……この重要なプロセスの次のステップは、今後、世界保健総会によって導かれることになるだろう」と述べています。

同じくINB事務局共同議長を務める南アフリカのプレシャス・マツォソ(Dr. Precious Matsoso)氏は、パンデミックに備え、予防し、対応するための世代を超えた公平な合意の構築に向けた取り組みは依然として残っていると付け加え、「世界は、次のパンデミックから世界をよりよく守るという目の前の仕事から目をそらしてはならない。そのためには、世界の集団防衛を構築するため、すべての関係者が継続的に関与し、行動する必要がある」と強調しました。

並行して、IHR改正作業部会(WGIHR)も、原則合意に達した条項や、加盟国による検討のために WGIHR事務局が提案文を更新した条項など、その結果を総会に提出して検討してもらう予定としています。

このようにWHOはパンデミック条約成立を諦めていないのですけれども、今回の見送りについて、慶應義塾大学法学部の詫摩佳代教授は次のようにコメントしています。

合意できている部分だけでも何とか文書化できないかと願っていましたが、病原体へのアクセスや技術移転などcontroversial な条項をめぐる立場の違いは大きく、合意に至らなかったことは残念です。交渉は継続されるでしょうけれど、今まで埋まらなかった溝が今後、簡単に埋まるとはとても思えません。米国大統領選を控える中、交渉を支えてきた政治的モメンタムが今後維持されるのかも不透明です。感染症対応の法的基盤としては、もちろんIHRがあり、その改正で対応できる部分はありますが、パンデミックの経験を踏まえた提案と交渉が結実しなかったという事実は、保健分野の多国間協調に少なからぬ傷を与えそうです。

コメントを見る限り、詫摩教授はパンデミック条約推進賛成の立場のようですけれども、交渉を継続しても、各国の溝が簡単に埋まるとも思えず、政治的モメンタムの維持が不透明なことと相まって、ややネガティブな見方をしているようです。


3.ナイジェル・ファラージ


新たなキャンペーンは、感染拡大に対する世界的協力を強化する協定案は英国の主権を放棄するものだと主張

5月17日のエントリー「銃撃されたスロバキア首相」で、イギリスもパンデミック条約に反対したことを取り上げましたけれども、5月16日、イギリスのガーディアン紙が「WHOはナイジェル・ファラージ氏がパンデミック条約について誤った情報を広めていると非難」という記事を掲載しています。

件の記事の概要は次の通りです。
・世界保健機関は、世界的なパンデミックへの備えを強化するための国際条約を阻止するキャンペーンを開始したナイジェル・ファラージ氏が誤情報を広めたと非難した。

・WHO加盟国は、新たな病原体に対する協力を強化するための協定を交渉している。採択されれば、法的拘束力のあるこの条約は、パンデミック発生時に各国が互いに助け合うことを約束し、研究とデータ共有を促進し、ワクチンへの公平なアクセスを促進することになる。

・しかし、ファラージ氏や保守党議員数名を含むポピュリストたちは、この合意によりWHOが各国にロックダウンを実施し、マスク着用に関する方針を指示し、ワクチンの在庫を管理する権限を得ることになると主張し、合意を阻止するよう英国政府に働きかけている。

・ファラージ氏は、先週企業登記所に登録されたキャンペーン団体「世界保健のための行動(AWH)」の代表を務めている。

・AWHのウェブサイトには、保守党議員のヘンリー・スミス、フィリップ・デイヴィス、デイビッド・ジョーンズ、その他同僚らを含む支持者がリストされている。企業登記所への提出書類によると、同事務所には弁護士のポール・ダイアモンドを含む3人の取締役がいる。ダイアモンドの仕事には、社会的に保守的なキリスト教徒を代理した注目度の高い訴訟や、ワクチンの使用が争われている訴訟などがある。

・AWHのサイト訪問者は、WHO条約が英国の意思決定権を「剥奪する」と主張する「推奨テキスト」メールのテンプレートを使用して、自分の国会議員を探し出し、ロビー活動を行う手助けを受けることができる。

・右派の一部が潜在的な新たな「分断問題」とみている問題の影響力は、フィリップ・ホロボーン議員などの保守党議員の発言でも強調された。ホロボーン議員は、WHOは「世界のエリート」の影響下にあると述べ、英国が条約を支持することに反対するなど、ポピュリスト的な言葉を繰り返した。

・英国のアンドリュー・スティーブンソン保健相は今週、英国が支持するかどうかを検討しているこの条約について広まっているとされる誤解を否定するよう国会議員らに求めた。

・ロックダウンの義務付けは合意には含まれておらず、条約により各国はワクチンの20%を無償提供するよう義務付けられるというファラージ氏の主張は「全く事実ではない」とスティーブンソン氏は述べた。

・彼のコメントはWHOによって直接繰り返された。AWHの主張に応えて、スポークスマンは条約の草案は加盟国の「主権の原則」を再確認していると述べた。「合意案はWHOに主権を譲渡し、WHO事務局に各国にロックダウンやワクチン接種義務を課す権限を与えるという主張は誤りであり、要請も提案もされていない。この合意はWHOに主権を与えるものではなく、与えることもできない。」

・ファラージ氏は、選挙運動が誤った情報を流しているとは否定し、英国政府は「恐怖に駆られて」おり、保守党議員らが水曜日に「突然、条約について叫び始めた」と主張した。

・「与党は私や、ブレグジット後に主権を放棄するような行動を非常に恐れている。私は議論されていないことに国民の注目を集めようとしている。それが私のキャリアを通じてやってきたことだ。そして、すでに勢いがついていると思う」と同氏は語った。「これは大衆に訴えるキャンペーンではないかもしれないが、数週間後に政府がジュネーブに到着した際に、政府の立場に影響を与えることはできる。」
ナイジェル・ファラージ氏は1999年から2020年まで欧州議会議員を5期務めたイギリス独立党の党首です。イギリスの欧州連合からの脱退と主権回復を目指す欧州懐疑主義運動のパイオニア的存在として知られています。

ファラージ氏は、パンデミック条約は、イギリスの主権を放棄するものだと主張しているのですけれども、WHOはこれをデマだと批判したのですね。


4.陰謀論が蝕むパンデミック条約と国際保健規則


パンデミック条約については、ファラージ氏のいう各国の主権放棄の懸念など様々な指摘がされていますけれども、推進派は推進派でパンデミック条約締結に向けて動いています。

NPO法人アフリカ日本協議会(AJF)は、5月21日に先述した慶応義塾大学法学部の詫摩教授を招いて「パンデミック条約」に関するウェビナーを開催しています。

このウェビナーの説明文に「『パンデミック条約』とは何か、世界レベルでパンデミックに備え、また、公平な医療アクセスを実現するうえでどのような意義があるのか、SNSで散見される『反対論』には根拠がるのか、といったことについて、グローバル保健ガバナンスの専門家、詫摩佳代さん(慶応大学法学部教授)と一緒に読み解いていきたいと思います」とあるのですけれども、このAJFのサイトの記事に「陰謀論がむしばむパンデミック条約と国際保健規則」というのが掲載されています。

件の記事の見出しを拾うと次の通りです。
・政治主義的な陰謀論を排しつつ、反対論の広がりは事実として受け止め教訓とすることが必要
・市民による監視は必要不可欠
・なぜパンデミック条約が必要か?
・パンデミック条約交渉は国際交渉の中でも透明性が高い
・交渉は主権国家が主人公:「主権が譲り渡される」は「誤り」
・「グローバル製薬企業の利益を守る条約」という認識も「誤り」
・反対論の広がりから得られる教訓
反対派からみれば突っ込みどころだらけかもしれませんけれども、AJFにいわせると反対派は「陰謀論」に蝕まれているそうです。

この記事の最後にある「反対論の広がりから得られる教訓」についてその説明を次に引用します。
反対論の広がりから得られる教訓

「国際保健規則」「パンデミック条約」に関して、現在広がっている懐疑論、反対論の多くは、多国間主義に反対する政治主義的な陰謀論の影響を受け、大きく歪んでしまっている。このような陰謀論や懐疑論に陥らず、事実に基づいた建設的な関与・参画を行うことが、これらの交渉に関与する市民社会にとって極めて重要である。

一方、これらの反対論は、グローバルなパンデミック対策に関わる市民社会に対して、また、日本をはじめ、交渉の「主人公」となっている各主権国家の政府に対して、また、メディアに対して、大きな課題を投げかけている。一つは、単に文書や会合の動画を公開して交渉過程の透明性を高めるだけでは、反対論を抑えることはできず、各国語で情報を普及し、既存メディアにおいて事実に基づいた報道を促進し、SNSにおいても、事実に基づいた情報が流通するようにしなければ、各国で市民レベルに届く情報の乏しさに巣くう陰謀論は駆逐されないということである。

もう一つは、パンデミックに際して、医薬品開発の迅速性を追求するあまり、医薬品の安全性が損なわれないようにすること、また、副作用等について、事前の段階から情報の公開と透明性の確保、被害の救済についても積極的に行い、副作用がある医薬品にアクセスしない権利についても十全に保障する必要があるということである。特にワクチンや検査、各種の予防手段については、治療薬などと異なり、患者・感染者のみならず、全ての人にかかわる課題である以上、その効果や副作用等について、早い段階から積極的に情報の公開と透明性の確保に努める必要がある。さらには、安全性や副作用への懸念からワクチン接種に消極的な人々が社会的な烙印を押されたり、社会から排除されたりすることがないようにしなければならない。このことは、これらの条約に対する反対論の国内外でのいわば「爆発的な広がり」に対して、為政者や、課題に取り組んできた市民社会を含むステークホルダー全てが教訓とすべきところであろう。
AJFは、陰謀論は各国で市民レベルに届く情報の乏しさによって発生するため、事実に基づいた情報が流通するようにしなければならないとし、ワクチンや検査、各種の予防手段について、その効果や副作用等について、早い段階から積極的に情報の公開と透明性の確保に努める必要があると提言。反対論が爆発的に広がったのは、それらがなかったからだと訴えています。

4月にワクチン接種後死亡した方の遺族らが国の広報が不十分だとして集団提訴していますけれども、打て打てどんどんとメリットばかり報じて、デメリットを広報してこなかったことの証左ともいえます。

AJFは、反対論の広がりを教訓にせよ、といっていますけれども、過去を振り返ってみれば、厚労省は「サリドマイド」、「スモン」、「HIV」など、薬害を発生させています。

それを考えると、単に市民に届く情報の乏しさで済ませてよい問題とも思えませんし、たとえ情報を得た上でワクチンは打たないと判断したとしても、国から強制接種されるのであれば、何の意味もありません。

AJFは「主権が譲り渡される」のは「誤り」であり、主権国家が主人公だとしていますけれども、その主権国家が国民に強制接種させれば同じことです。

政府のWCH超党派議連の勉強会の動画をみても、厚労省は官僚答弁に終始するばかりで、AJFのいう情報公開や透明性があるようには見えません。

人命が掛かっている以上、パンデミック条約含め、ワクチン政策その他も、情報の公開と透明性の確保がなされてから考えるべきものだと思いますし、少なくともワクチン集団訴訟で訴えている政府広報が適切だったかの結論が出るまでは保留すべきではないかと思いますね。



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この記事へのコメント

  • 素浪人

    今晩は。大変ご無沙汰しております。

    ワクチンなどの医薬品は、本来、国の治験を経てから承認されるものなのに、コロナワクチン、略してコロワクでは緊急性の名の元にそれがすっ飛ばされ、国民に接種されました。これだけでも、コロワクが接種するに値しないものだと言えます。

    驚くべきことに、日本国民の7割以上が、そんな訳も分からない『イヤクヒン』を自分達の体に打たせたのが、愚生には信じられません。コロナウイルスもそもそも存在しないという説も有り、温室効果ガスによる地球温暖化説と共に、愚生が現在疑っている問題です。両者に共通するのは、煽り立てて利権(再生エネ業者・製薬会社ら)を作り出した連中が居ることです。

    パンデミック条約を推進する連中も、製薬会社とつるんでいると思えて仕方有りません。一部の人間が他の人間に何かゴリ押しする時には、概ね鳩胸、十中九割九分九厘、人倫に反する良からぬことを考えているものです。
    2024年05月28日 00:22
  • 日比野庵

    素浪人様

    おはようございます。お久しぶりですね。

    >そんな訳も分からない『イヤクヒン』を自分達の体に打たせたのが、愚生には信じられません。

    今になって、ようやく巷でもワクチンは危ないのでは、と囁かれるようになり、海外では、はっきり結論が出てきましたけれども、当時の「訳も分からない」状態で判断を下さなければならなかった人、あるいは恐怖に煽られ、あまり考えずに打った人もいるかもしれません。

    筆者は、2022年元旦のエントリーで、十分な情報がない状態でも判断しなければならないときには、頭と心の両方でそれぞれ判断してみるという方法を書いたことがあります。

    https://kotobukibune.seesaa.net/article/202201article_1.html

    2021年4月当時、私は、mRNAワクチンの仕組みを調べて、「頭」ではmRNAワクチンの有用性を理解する一方、「心」では「鬼滅の刃」の鬼になってしまうという「イメージ:直観」が浮かんでいました。

    https://kotobukibune.seesaa.net/article/202104article_30.html

    頭と心でそれぞれ判断をして、互いの結果をみて総合的に判断する、というやり方は、「訳も分からない」状況下では意外と使えるのではないかと思っています。

    今後ともよろしくお願いいたします。
    2024年05月28日 07:31