欧州三ヶ国のパレスチナ国家承認

今日はこの話題です。
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1.欧州三ヶ国のパレスチナ国家承認


5月22日、アイルランド、スペイン、ノルウェーはパレスチナを28日付で国家として承認すると発表し、他の西側諸国による追随を期待するとコメントしました。

この3カ国は、パレスチナ国家承認はパレスチナ自治区ガザにおけるイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘休止に向けた取り組みを加速させることが目的としています。

ノルウェーのストーレ首相は記者会見で「ノルウェー政府は、パレスチナを国家として承認することを決定した。何万人もの死傷者が出ている戦争のさなかにあって、イスラエル人とパレスチナ人双方に安全な住まいを提供できる唯一のもの、すなわち平和に共存できる2つの国家を存続させなければならない」と語りました。

ノルウェーは、両国の境界は1967年以前の国境に基づいて設定され、エルサレムを両国の首都にすべきとした一方、こうした国境に関するノルウェーの認識が最終的な国境を巡る交渉に悪影響を与えてはならないとしています。

現在、国連加盟193カ国のうちロシアや中国、インドなどを含む約146カ国がパレスチナ国家を承認していますけれども、欧州連合(EU)加盟27カ国で承認しているのはわずかで、その大半が旧共産主義国です。

3ヶ国のパレスチナ国家承認を受け、22日、ドイツはさらなる対話が必要との見解を示したほか、フランスは条件がまだ満たされていないとする一方、イギリス、オーストラリア、スロベニア、マルタも地域の恒久的な平和には2国家による解決が不可欠だとして、直近の数カ月でパレスチナ国家を承認する意向を示しています。

また、アメリカは、パレスチナ国家は「一方的な承認」ではなく、当事者間の直接交渉によって実現されるべきとの立場を堅持。国家安全保障会議(NSC)の報道官は「(バイデン大統領は)2国家解決の強力な支持者だ」と述べています。

アイルランド、スペイン、ノルウェーのパレスチナ国家承認にイスラエルは激怒。

イスラエルのネタニヤフ首相は声明で、パレスチナ国家承認は「テロリズムへの報酬」と指摘。「これはテロ国家になる。10月7日の大虐殺を何度も繰り返そうとするだろう。われわれがそれを認めることはない……テロリズムに報いることで平和がもたらされることもなければ、われわれがハマス打倒をやめることもない」と表明。イスラエルは、3カ国の駐在大使に即時帰国を指示しました。

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2.それぞれの事情


では、なぜ、ノルウェー、アイルランド、スペインの3ヶ国がこのタイミングでパレスチナを国家承認したのか。

これについて、JBPRESSは25日付の記事で説明していますけれども、該当部分を引用すると次の通りです。
【前略】

ノルウェーは30年以上前、長年対立の続いたイスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)との間に恒久的な和平を目指した「オスロ合意」の舞台となった。当時ノルウェーは両者の仲介役を果たし、その後もイスラエルとの友好関係を保ってきた。

しかし昨年10月以降、多数の民間人の犠牲者を伴うガザへの攻撃については、イスラエルの戦闘行為が国際人道法違反であると糾弾してきた。ヨルダン川西岸や東エルサレムにおけるイスラエル人の入植についても、地域和平最大の障壁の一つであるとして、強く反対の立場を取っている。

【中略】

アイルランドのハリス首相は22日、パレスチナの国家承認に関する会見で、「私たち自身の歴史からこのことが何を意味するかを知っている。承認は、強力な政治的、また象徴的な価値を持つものだ」と述べている。

アイルランドは長きにわたり、英国の統治下にあった。ハリス首相は1919年、アイルランド自体が国際社会に独立国家となる権利を求めたことに言及し、「今日、私たちはパレスチナを国家として承認することを支持するために、同じ言葉を使っている。自由と正義が国際法の基本原則であると信じ、恒久的な平和は自由な国民の自由意志に基づいてのみ確保できると信じているからだ」と話した。

アイルランドはまた、1998年まで続いた北アイルランド紛争における悲惨な暴力の応酬も経験している。自国の歴史をパレスチナの状況と重ね合わせる人々が多く、パレスチナを支持する人々が多いのだという。

ハマスによるイスラエル襲撃後の昨年11月に行われた世論調査では7割以上もの人たちが、イスラエルによる「反撃」が、不均衡に厳しいものだと答えている。

【中略】

スペインでは22日、サンチェス首相が議会でパレスチナ国家承認を宣言すると、大半の議員が起立し、拍手で歓迎の意を表した。

スペインでパレスチナの国家承認への勢いが増したのは、今年4月、ガザ地区で食料支援活動をおこなっていた米NGO「ワールド・セントラル・キッチン」へのイスラエル軍による「誤爆」が引き金だったという。死亡した7人の職員の中にスペイン人はいなかったものの、同団体の創設者はスペイン系米国人のセレブ・シェフであり、人々の怒りに火をつけた。

当時サンチェス首相は、この攻撃についてネタニヤフ首相が、イスラエル軍が「意図せず無実の人々を攻撃した」などと述べたことに対し、ネタニヤフ首相の対応が「不十分かつ容認できない」と非難。なお、ネタニヤフ首相は当時「戦時にこうしたことはつきものだ」などと、まるで他人事のような発言も行なっている。

スペインはまた、人口の5%程度に当たる230万人ほどがイスラム教徒だ。他方、ユダヤ系は5万人程度。米ラジオ局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)によれば、昨秋のハマス襲撃以来、パレスチナ支持のデモが頻繁に起きている一方で、イスラエル支持のデモは極めて少ないという。

また、スペイン国内にはカタルーニャ自治州や、バスク地方(注:後者の現在は沈静化)で分離独立派が存在してきたが、皮肉にもこうした人たちの中にも、イスラエル支配と戦うパレスチナへの共感が強いのだともいう。

サンチェス首相は他の西側諸国に対し、より多くの国が歩調を合わせることで、ガザ地区における停戦と、ハマスによる人質解放に向けた力につながるとして、パレスチナの国家承認に追随するよう呼びかけた。欧州では、すでにマルタやスロベニアが正式承認を検討すると表明している。

【後略】
つまり、これら3ヶ国は、それぞれの歴史や国内事情によってパレスチナ国家承認を行ったというのですね。ただ、そうした行動に踏み切ることができたのも、これらの国が民主国家であり、国民がそれを支持すればこその話です。

件の記事では、ベルギーのデクロー首相が、承認には「正しいタイミングが必要だ」と発言していることや、7月4日に総選挙が実施される予定のイギリスの野党労働党が、今回政権を獲得すれば、パレスチナの国家承認に向けた本格的な協議を開始したいと述べていることなどにも触れていますけれども、なんだかんだいっても、民主国家である限り、国民の意見は国家意思として繁栄されるということです。


3.カードの切り時


このアイルランド、スペイン、ノルウェーによる国家承認宣言について、5月23日、BBCはイギリス、フランス、ドイツなど他の欧州国家に対し、後に続いてパレスチナの自決を支持せよという圧力をかけることになるだろうという記事を掲載しています。

件の記事の概要は次の通りです。
・欧州の数カ国が22日、パレスチナ国家を正式に承認すると決めた。だがこれによって、パレスチナの持つ国家樹立の野望の前に、依然として大きな壁が立ちはだかっているという現実が克服されるわけではない。

・、アイルランド、スペイン、ノルウェーによる国家承認の宣言は、イギリス、フランス、ドイツなど他の欧州国家に対し、後に続いてパレスチナの自決を支持せよという圧力をかけることになるだろう。

・「これは極めて重要なことだ」と、あるアラブ国家の外交官は話した。「イスラエル政府が聞く耳をもたないことに対する、欧州のいら立ちを反映するものだ」。「そして、EU(欧州連合)に後に続くよう圧力をかけるものだ」

・一方、イスラエルの閣僚らは今回の動きについて、ハマスを勇気づけ、テロに見返りを与えるものだと批判。交渉による解決の可能性をいっそう小さくすると主張している。

・パレスチナ国家については、ほとんどの国(139カ国ほど)が正式に承認している。

・今月10日の国連総会では、国連加盟193カ国のうち143カ国が、パレスチナの国連正式加盟に賛成した。正式加盟は国家にしか認められないことだ。

・国連においてパレスチナは現在、拡大版オブザーバーのような地位にある。議席はあるが、投票権はない。

・一方、アラブ連盟やイスラム協力機構など、さまざまな国際機関からもパレスチナは承認されている。

・欧州の少数の国々もすでにパレスチナ国家を承認している。ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、チェコ、スロヴァキア、ブルガリアは1988年に認めた。スウェーデン、キプロス、マルタも承認している。

・しかし、ヨーロッパの多くの国々、そしてアメリカは、中東での紛争の長期的な政治的解決の一部としてのみ、パレスチナ国家を承認するとしている。

・これは「二国家解決」と呼ばれる。イスラエル人とパレスチナ人の双方が、国境のある国家をそれぞれもつことに合意するというものだ。

・欧州諸国とアメリカは、いつパレスチナを国家として承認すべきかをめぐり、意見が分かれている。

・アイルランド、スペイン、ノルウェーは、和平への政治プロセスをスタートさせるために、今すぐ承認するとしている。現在の危機を持続的に解決できるのは、当事者双方が何らかの政治的地平を目指せるときだけだと主張している。

・これら3カ国の決定は、パレスチナ人への支持をもっと示すよう求める、それぞれの国の政治圧力に応えるものでもある。

・かつて、多くの西側諸国はパレスチナの国家樹立について、最終的な和平合意の「賞品」であるべきだとの立場を取っていた。

・しかし、イギリスのデイヴィッド・キャメロン外相や欧州のいくつかの国はここ数カ月、そうした立場を変更。政治的解決の機運を高めるため、パレスチナ国家の承認を早める可能性があるとしている。

・フランスのエマニュエル・マクロン大統領は2月に、「パレスチナ国家の承認はフランスにとってタブーではない」と発言。フランスは今月の国連総会の採決で、パレスチナの国連加盟を支持した。

・アメリカは内々に、この問題について欧州の同盟国などと協議している。だが、慎重な姿勢を保っており、国家承認が現実的にどんな意味をもつのか、より明確に見極めたい意向だ。

・こうした状況から、パレスチナ国家の承認をめぐる舞台裏での重要な議論は、保留している国々がいつ承認に回るかということになる。イスラエル人とパレスチナ人の間で正式な和平交渉が始まったときなのか、イスラエルとサウジアラビアが国交を正常化したときなのか、イスラエルが特定の行動を取らなかったときなのか、あるいはパレスチナ人が特定の行動を取ったときなのか。

・これは言い換えると、承認を保留している国々は、自分たちの承認を、外交的成果が達成される大々的な瞬間にしたいと考えているということだ。

・「これは西側諸国が切ることになる大きなカードだ」と、西側当局者の1人は言った。「私たちはそれを手放したくない」。

・問題は、パレスチナ国家の承認は、それに付随する重要な問題に取り組まなければ、象徴的な意味しかもたないことだ。

・国境はどうあるべきか。首都はどこに置かれるべきか。実現のために双方はまず何をすべきか。これらは、何十年もの間、満足のいく合意も、回答すらも得られていない難問だ。

・現時点で、ヨーロッパのさらに数カ国が、パレスチナ国家は存在すべきだと考えている。支持者はこの動きを応援し、反対者は非難するだろう。パレスチナ人の厳しい現実は変わりそうにない。
BBCは、パレスチナ国家の承認をめぐって保留している国々がいつ承認に回るかということが舞台裏での重要な議論になっているとした上で、承認を保留している国々は、自分たちの承認を、外交的成果が達成される大々的な瞬間にしたいと考えていると指摘しています。

と同時に、たとえ承認したとしても、それだけでは口だけになる、とも批判しています。


4.イスラエル外交の行きつく先


それでも、今回の欧州3ヶ国によるパレスチナ国家承認は、ガザにおける民間人犠牲者の問題などにより、イスラエルが国際的に孤立を深めていることを改めて明らかにしたことは否定できません。

オスロ合意を仲介したノルウェー外交チームの一員を務めたヤン・エーゲランド氏は、今回の発表はパレスチナ地域の占領を終わらせなければならないというイスラエルへのメッセージだと述べています。

また、イスラエル外務省の元幹部で、ネタニヤフ政権に批判的なアロン・リエル氏はロイターの電話取材に、3カ国の動きはイスラエル世論に重要な影響を与える可能性があると指摘。国際社会でイスラエルとパレスチナの地位を同等にすることは「イスラエルの現指導部にとって悪夢」だと語っています。

ネットでは、ナチスのホロコーストから生還したというルネ・リヒトマン氏のコメントが動画で上がっているのですけれども、彼はイスラエルがガザで行っていることは「ジェノサイド」だと語っているようです。

無論、イスラエルのガザでの行為を「ジェノサイド」だと見る見方は他にもあり、南アフリカはラファ攻撃を防ぐよう国際司法裁判所(ICJ)に求める中で、イスラエルがラファを含むガザ各地で「ジェノサイド(集団虐殺)的な」作戦を行っていると非難し、「停止命令が必要だ」と主張しています。

これを受け、5月24日、国際司法裁判所(ICJ)のナワフ・サラム裁判長は、イスラエルはラファ地区において軍事侵攻と、パレスチナ人の「物理的破壊」をもたらし得る「その他のあらゆる行動」を「ただちに停止しなくてはならない」と命令し、状況はさらに悪化したと指摘しました

サラム裁判長はさらに、ガザ地区でのジェノサイドの疑いを調査するあらゆる国連機関によるカザ内での活動を、イスラエルは無制限に認めなくてはならないと命じ、ガザで基本的な公共サービスと人道援助を「妨げなく、大規模」に提供できるようにするよう、あらためてイスラエルに命じています。

イスラエル政府は国際司法裁判所(ICJ)のこの判決を拒絶。判決が読み上げられてから数分後、イスラエル軍機はラファ中心部のシャブーラ難民キャンプに複数回の空爆を繰り返しました。

このままでは、どんどん国際的孤立が深まるだけです。たとえ、ハマスを壊滅することができたとしても、そのあとに何が残るのか。

イスラエルはロシアのような広い国土もなく、資源にも恵まれてはいません。人口も950万人と1000万人もいません。そのうち、約17万人がイスラエル軍人で予備役を入れても63万人程ですから、ロシアのウクライナ戦争のような人的損失を無視するかのような肉弾戦は出来ないでしょう。

アメリカが後ろ盾になってくれなくなれば、途端に国家存続は厳しくなるのではないかと思います。

戦争は外交の延長だという言い方もありますけれども、今のネタニヤフ政権は、何の外交的成果を得ようとして、ガザ戦争をしているのか非常に疑問です。

万が一、それが、パレスチナ人のジェノサイドなのであれば、やがてそれは、大きな因果となって自身に降り注ぐことにならないか危惧します。





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