

1.もう岸田政権で上がることはないだろう
5月24日から26日にかけて、テレビ東京と日本経済新聞社が世論調査を行いました。
その結果、岸田内閣の支持率は「支持する」は前回4月の調査から2ポイントプラスの28%で、ほぼ横這い。一方、「支持しない」は2ポイントマイナスの67%となりました。
岸田政権としては、物価高対策として6月から行う所得税と住民税の減税などで局面を打開したい考えでいるようですけれども、「この減税が物価高への支援策として効果がある」と思うか聞いたところ、「効果があると思う」との答えは19%、「あるとは思わない」は75%と4分の3は効果がないと回答しています。
また、政治とカネの問題をめぐる岸田総理の一連の対応については、「評価する」が10%、「評価しない」が83%となっています。
2024年に入ってから日経調査の内閣支持率は25~28%の範囲内で上下する「低位安定」状態です。
これは他の世論調査でも同じで、NNNと読売新聞が今月17日から19日まで行った世論調査でも、岸田内閣の支持率は26%と、7ヶ月連続で20%台となっています。
過去の政権では、支持率20%台が長く続いた政権は、大体は、その後の衆議院選挙で敗北、退陣しています。直近では、麻生内閣が2008年の12月から2009年の5月までの6か月間、20%台が続いた後、最後は10%台になり、このときも総選挙で敗北、退陣しました。
過去20%台以下が最長だったのは、1992年の10月から翌93年の6月までの9ヶ月間連続を記録した、宮沢内閣です。
一方、小渕恵三内閣が4ヶ月連続で20%台が続いた後、復活したというケースもあります。ただ、小渕内閣は内閣発足時に20%台でスタートし、その後回復したケースです。殆どの内閣は発足当初が高くで段々と下がってくるというのが相場です。
岸田内閣の低支持率について、永田町では、当初は、小渕内閣のように復活するかもしれないという見方もあったようですけれども、ここまで低迷が続くと、ちょっと復活は難しいという見方が大勢のようです。ある自民党議員は、「もう岸田政権で上がることはないだろう」と零し、別の自民党議員は「無党派層の支持が離れていくのは良いけれど、自民党の支持層が離れていくのは致命的だ」と指摘しています。

2.定額減税の給与明細への明記義務化
5月22日、参院予算委員会で岸田総理は、6月から始まる所得税と住民税の定額減税について「減税の金額は、所得税については、給与やボーナスの明細において明記することを本年3月に定めている……住民税については来月の天引き額がゼロになるという形で来月給与明細で確認することができる。これらが現金支給額に上乗せされることとなるため、この分手取りが増えるという形で、来月から国民の皆様が減税の効果を実感できると考えている」と述べていますけれども、これが非常に評判悪いようです。
これは、住民税を「0円」にして、年間の住民税から減税分を引き、それを11で割った金額を11ヵ月にわたって支払うというのを明記するよう義務づけているのですけれども、2月5日に国税庁が『令和6年分所得税の定額減税Q&A』という案内の中で「給与支払明細書には、実際に控除した月次減税額の金額を「定額減税額(所得税)×××円」、「定額減税×××円」などと、適宜の箇所に記載していただくことになります」と謳っているのですね。
この給与明細に減税額を明記することについて、『税理士法人KAJIグループ』の加地宏行代表は、「定額減税の計算方法など、事業者からの問い合わせは非常に増えています。社員の扶養家族をきちんと把握し、そのうえで、控除額を計算し給与明細に反映させなければならない……給与明細では計算ミスなどがおきれば社員の生活にも関わりますし、二重控除など面倒なミスが起こる可能性もあります。定額減税は毎年あるわけではないのに、計算ソフトをアップデートさせなければならないなど、民間企業にとって非常に負担となっており、混乱を招いています」と負担が増えて混乱を招いていると述べています。
実際、減税の実務を担う自治体や企業の担当者からは作業の煩雑さなどから「割に合わない」との声も上がっているようで、都内のある区役所で課税業務を担当する職員は「土日返上で働いて、同僚もバタバタ倒れている」ような状況とのことです。
政府は事前に告知しているとしていますけれども、あるテレビ局関係者は、「こんな書類をPDFで国税庁のHPでシレっと発表されても、忙しい経営者らの中で気付く人は少ない。私たち報道関係者でも一部の新聞が報じるまで全く知らなかったですよ。おそらく各局の世論調査が20日前後に発表されたので、そのあとに意図的に政府関係者が情報をマスコミに流した可能性は高い……手続きの煩雑さから、経営者などの世間からの反発が大きいことは予期できた。世論調査の前に発表すると、”経営者イジメ”という声が大きくなり、さらに政権の支持率が落ちる事態になりかねないですからね」と、支持率を気にして、世論調査の後に発表したのではないかと指摘しています。
けれども、そんな策を弄したところで、75%が減税は効果がないと回答しているのをみれば、ほぼ意味がなかったと思われます。
ネットでも、「たかだか4万程度の減税で何をほざいているのか? どれだけ物価が上がっていると思っているの?」「“増税クソメガネ”と言われたことを気にして給付じゃなく減税にしただけだろ!」など、怒りの声が書き込まれています。
3.来年だって考えなければいけない
こうした世論の反発に慌てたのか、5月26日、自民党の木原誠二幹事長代理はフジテレビの番組で、6月から始まる1人当たり4万円の定額減税について、必要に応じて来年も実施することを検討する考えを明らかにしました。
木原氏は「足元の円安は1月からさらに進んでいる。これだけで全部がよしとまで申し上げるつもりはないが、定額減税は必須だ……仮に物価の状況が改善せず、またデフレに戻る可能性があれば来年だって考えなければいけない」と語りました。
また、給与明細への明記義務化で、企業側の事務作業が増えることに反発が出ていることについても「少し所得が増えていると実感していただこうと思った。悪意はなかったが、もうちょっと配慮することがあってもよかったかもしれない」と言い訳しています。
これについて、東京大学先端科学技術研究センター教授の牧原出氏は、「来年の減税措置に言及するとは、9月の総裁選挙での岸田総裁続投が前提です。ただ、国民から支持されていない措置をさらに繰り返すというあたりが、政権の混迷ぶりを表しています。他にアイディアらしいアイディアがないことをも意味しています。総裁続投という言外の意図とは別に、政権の限界を表しているでしょう」と苦言を呈しています。
4.パンとサーカス
現在、岸田総理の続投の目はないというのは、大方の見方だと思いますけれども、そうなると次期総理を狙う人たちが動きだしてきます。
5月9日に公開されたユーチューブチャンネル「ReHacQ―リハック―」に出演した自民党の茂木幹事長は、番組インタビューの後半で、「パンとサーカス」発言を行いました。
茂木幹事長は、「どうですかね。今国民の皆さんが求めているのは、多分ローマ時代のパンとサーカスで言ったら、パンじゃない、サーカスなんだと思うんですよ……例えば、給付金の支給も悪いことではないですけど、それよりも景色が変わった、何かやっぱり新しい日本が見える、自分たちの未来が見えると。ある意味、コロッセオで展開したのとは違った決闘ですけど、サーカスなんです、やっぱり」と述べたのですね。
この発言にすかさず、インタビュアーを務めた映像ディレクター高橋弘樹氏が、「パンが食べられない人もいる。切り取られて炎上しますよ」と窘めると、茂木幹事長はそんな風に返されるとは思ってもいなかった様子で、笑いながら「訂正致します」と応じたのを見ていると、どこまで本気で訂正するといったのか疑問です。
茂木幹事長は、その後もパンとサーカスの話を続け、「今の日本でどちらが必要かと言うと、景色が変わること。一人一人にチャンスが生まれる、豊かになっていると実感できることが大切だ」と述べています。
これについて、政治アナリストの伊藤惇夫氏は「発言の裏には、『今の総理じゃ、観客が全く沸かない』『総理を代えることで違う景色を見せるんだ』という意味が含まれているのでは……『パンとサーカス』という言葉が意味するのは愚民政策だ。国民なんて食べ物と娯楽を与えておけばよい、という上からの目線の発想をしていると受け取られても仕方ない」と指摘しています。
「パンとサーカス」とは、古代ローマの詩人ユウェナリスの「熱心に求めるのは、今や二つだけ パンとサーカス」という風刺詩から来ている言葉で、「パン」は、食料として無料配布された小麦、「サーカス」はコロッセオで行われる剣闘士と猛獣の決闘などの見せ物を指しています。
これが転じて、今では、権力者が民衆に食べ物や娯楽を与え、政治への批判精神を忘れさせる愚民政策を象徴する言葉となっています。実際、茂木幹事長は、2012年の講演で「今の政府のやり方は明らかに『短期のバラマキ』。ローマ帝国の末期で言うパンとサーカスの世界です」と当時の民主党政権を批判する言葉として使っていました。
ただ、茂木幹事長は今回「パンとサーカス」ではなく「サーカス」といった。パンよりもサーカスなんだ、と。
ここからは単なる筆者の妄想に過ぎませんけれども、今の岸田政権は、能登半島放置にせよ、外国人労働者政策にせよ、他国へのばらまきにせよ、国民の方を見ていない政策が目立ちます。
これはあたかも、コロッセオに立つ日本人闘士が素手なのに、相手の外国人闘士には武器から甲冑から何もかも持たせるのみならず、外国人闘士には反則してもお咎めなし。日本人闘士にはルール違反に厳しいペナルティを課すという「超ハンデキャップマッチ」をさせているようなものです。
畢竟、見ている日本人観客には、フラストレーションが溜まりまくっていて、それが支持率低迷に繋がっている。
もし、茂木幹事長がそれを認識した上で、「サーカス」といったのであれば、不法移民の排除など、国民受けする政策をやる腹積もりがあって、それを「サーカス」という言葉で表現したのではないかという気がします。
けれども、サーカスはサーカス、所詮見世物であって、国民の実生活が良くなることとは別に考えるべきではないかと思います。
5.七月解散メール
次期総理を狙った政局が始まる中、岸田総理は7月解散を目論んでいるという噂が永田町を駆け巡りました。
5月27日、週刊現代は「岸田総理の『ヤケクソ解散』と永田町を駆け巡った『7月解散メール』」という記事を掲載しています。
件の記事を一部引用すると次の通りです。
〈岸田(文雄)総理と山口(那津男)代表が、6月23日までの国会会期を2週間ほど延長したのち、7月の会期末に解散を打つことで合意した〉岸田総理は、政治資金規正法改正案の共同提出を巡って決裂したことを利用して、公明案を丸呑みする形で解散に打って出るというのですね。
5月16日夜、こんなメールが与党関係者の間で出回り、政界に戦慄が走った。公明党の山口代表が首相官邸を訪れ、政治資金規正法の改正について協議した2日後のことである。
「このメールのもともとの作成者は不明で、最初は怪文書の類いではないかと受け止められましたが、メールには7月23日公示、8月4日投開票と具体的な日付まであり、情報に信憑性がありました」(自民党閣僚経験者)
自民党と公明党は、政治資金規正法改正案の共同提出をめぐって交渉が決裂。結局、自民党は単独で改正案を出すハメになった。関係が冷え込んでいるこのタイミングで、山口代表が岸田の解散提案に同意したとはにわかには信じがたい。
しかし、このメールによれば改正案を巡る「自公決裂」も、「7月解散」への布石になるという。
「会期ギリギリで自民党が公明党案を丸呑みして法案成立にこぎつけ、公明党に手柄を取らせて解散に踏み切る……と記されていたのです」(同前)
岸田総理はやはり解散をあきらめていなかったのか—たった一本のメールによって、永田町は一気に緊張に包まれた。
この7月解散説を裏付けるかのように、岸田は突如、精力的に動きだした。外務省幹部が語る。
「総理はいま、6月中に日朝首脳会談を実現させるようにと、しきりに外務省の尻を叩いています。外務省が頼りにしている北との交渉ルートから『拉致被害者2名と引き合わせることが可能』との情報がもたらされているからです」
訪朝さえ成功すれば支持率は急上昇する。そうすれば選挙に勝てる—岸田の描く「シンプルな生存戦略」だ。
しかし、これらはすべて「もしも」を前提とした計画だ。訪朝実現の可能性はあまりに低く、公明党が自民党の案に乗ってくるとも限らない。
【後略】
けれども、記事にあるように、これらは全て「もしも」を前提とした計画です。恩着せがましく減税を給与明細に書かせたとて、それで支持率が上がるとも思えません。
青山繁晴参院議員によると、例の車座対話にしても、現場では、対話にならず罵られるだけという凄まじい状況のようです。
国民の声をあまりに無視していると、その反動は必ずやってきます。その時には「サーカス」程度では誤魔化せるものではなくなっていることを覚悟すべきではないかと思いますね。
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