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1.ガザ休戦案
5月31日、アメリカのバイデン大統領は、パレスチナのガザ地区での紛争を終わらせるための新しい停戦案を発表し、ハマスに受け入れを呼びかけました。
イスラエルによる新しい停戦案は三段階で構成されています。第1段階で6週間の休戦中にハマスが人質の一部を解放。第2段階でイスラエル軍がガザから撤収、ハマスが人質全員を解放。第3段階で復興計画に踏み出す内容となっています。
これは、ハマスは5月に受諾した仲介案とほぼ同内容で、提案内容はカタールに、カタールにいる仲介者を通じて、ハマスに伝えられたそうです。
6月4日、ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官は、このガザ停戦案について、イスラム組織ハマスからの回答を待っていると説明。そして、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官がカタールの首都ドーハを訪れ、ガザ停戦案についてカタールの仲介者らと協議する予定だとコメントしています。
2.分裂するネタニヤフ政権
件の停戦案はアメリカとイスラエルで作成したものなのですけれども、バイデン大統領は、イスラエルのネタニヤフ首相の同意を求めることなく公表していたことが明らかになっています。
政府関係者によると、一方的に発表するという決定は、アメリカが友好国に対して講じる措置としては異例だが意図的なもので、イスラエルやハマスが合意を避ける余地を狭めると説明しています。
ある政府高官は匿名で「われわれは休戦案を発表する許可を求めなかった……イスラエルに対し、ガザの状況について演説すると伝えたが、それがどのようなものなのか詳しくは話さなかった」と述べています。
これについて、テキサス大学オースティン校のジェレミー・スリ教授は、「イスラエルが提案した」と位置付けて休戦案について発表したのは、停戦への期待を高め、ネタニヤフ首相に圧力をかける意図があったと分析。「バイデン氏はネタニヤフ氏に提案を受け入れさせようとしている」と解説しています。
対するイスラエルは、バイデン大統領の停戦案発表直後の6月1日、永続的な停戦に合意する前に、イスラエルが掲げる「ハマスの軍事および統治能力の破壊。人質全員の解放。ガザがもはやイスラエルを脅かさないよう確実にすること」という条件が「満たされることを強く求め続ける」と強調。それまではどのような合意に署名することもできないと発表しています。
また、ネタニヤフ首相も声明で、戦争目的が達成されるまでは戦争は終わらないとし、戦争目的とは人質全員の帰還と、ハマスの軍事・統治能力の排除であって、今回の提案によってイスラエルは目的を実現することができると述べています。
更に、バイデン大統領の発表はネタニヤフ首相に圧力をかけるための試みだったのかと問われたイスラエル当局者は、イスラエルによるハマス壊滅は誰も阻止できないと強調。「圧力をかけることでイスラエルが国益に反する行動を取るという考えは馬鹿げている。圧力をかけるのはハマスであるべきだ」と反発しています。
加えて、ネタニヤフ政権の極右派閣僚であるスモトリッチ財務相とベングビール国家安全保障相は、停戦案案をネタニヤフ首相が受け入れれば辞任し、連立政権を崩壊させると警告しています。
スモトリッヒ氏はSNSに投稿した声明で、ネタニヤフ首相に対し「提案された概要に同意し、ハマスを壊滅させ、人質全員を返還することなく戦闘を終わらせる政府の一員にはならない」と「明確に伝えた」と述べ、「ハマスを壊滅させ、人質全員を返還」し、「ガザとレバノンでまったく異なる安全保障を実現」するまで戦闘を続けるよう要求しました。
そして、ベングビール氏はこの合意を「無謀」で「テロを勝利」させるものであり、イスラエルに安全保障上の危機をもたらすものであると批判し、「もし首相が今日発表された条件の下で無謀な取引を実行すれば、それは戦闘を終結させ、ハマスの排除を断念することを意味し、オツマ・イェフディット(ユダヤの力)党は政府を解散するだろう」と述べています。
明らかにネタニヤフ政権が分裂しています。これをみると、バイデン大統領がネタニヤフ首相の同意も取らずに停戦案を発表したのは、ネタニヤフ政権の崩壊を狙ってわざとそうしたのではないかと穿ってしまいます。
3.この紛争を終わらせよう
西側各国は今回の停戦案に支持を表明しています。
5月31日、イギリスのキャメロン外相はソーシャルメディアで、「戦闘が止まったのを見届けられるよう」この提案を受け入れるべきだとハマスに呼びかけ、「正しく進む用意が全員にあれば、戦闘の中断をやがて永続的な平和に変えていくことができると、かねて訴えてきた……今のこの機会を捉えて、この紛争を終わらせよう」と訴えました。
また、国連のグテーレス事務総長もこの展開を歓迎し、世界は「ガザであまりにひどい苦しみと破壊が起きるのを目撃してしまった……終わりにする時だ……停戦と人質全員の解放、妨害されない人道援助が妨害されずに届く保証、究極的には中東での持続的な平和の実現のためのこの機会を、全当事者がつかむように」と働きかけています。
更に6月3日、日米欧の先進7ヶ国(G7)首脳も声明で、バイデン米大統領が示した停戦案を「全面的に支持する」と発表。ハマスに対し、この停戦案を受け入れるよう求めると共に、ハマスが確実に提案を受け入れるよう、ハマスに影響力を持つ国々に対し後押しを要請しています。
対するハマスは、提案に永続的な停戦や、ガザからのイスラエル軍撤退、ガザ再建、人質と囚人の交換の交換といった条件が含まれることから「前向きに、そして建設的に交渉」する用意があるとしたうえで、それにはイスラエルが合意内容の「明確な堅持を宣言する」ことが前提になると述べています。
また、交渉内容に詳しい別のパレスチナ高官によると、今回のイスラエル案の文書には、戦争終結の保証や、イスラエル国防軍のガザ完全撤退を保証する文言は含まれていないと説明しています。
4.子供の人権を侵害する国
今やネタニヤフ首相は、四面楚歌に陥りつつあります。
イスラエルの最大野党を率いるヤイル・ラピド氏は、「この政権はイスラエル史上最悪で最も無謀な政府だ。政権のために、この地では永遠に戦闘が続くだろう。責任能力も管理能力もゼロ、完全な失敗だ」とネタニヤフ首相が提案を受け入れるよう支援すると表明し、スモトリッチ氏とベングビール氏の発言は国家安全保障や人質を無視していると非難しています。
G7が停戦案を支持する声明を出していることは先述しましたけれども、それ以外に国連もじわりと圧力をかけています。
6月8日、国連のデュジャリック報道官は、今月公表する予定の子どもと武力紛争に関する年次報告書で、グテーレス事務総長がイスラエルを「子どもの人権を侵害している国」と認定していることを明らかにしました。
デュジャリック報道官は詳細は明かさなかったものの、国連事務局がイスラエルのエルダン国連大使に内容を通達したと報道陣に語りました。件の報告書は14日に国連安全保障理事会で報告され、18日に公表される見通しとのことです。
事務総長が毎年発表するこのリストには、紛争下での子供の殺害、援助へのアクセスの拒否、学校や病院への攻撃などが含まれていて、報道によれば、ハマスとパレスチナ・イスラム聖戦もリストに含まれるようです。
イスラエルのエルダン国連大使は、この決定を「恥ずべきことだ」と述べ、カッツ外相は、この決定は「イスラエルと国連の関係に影響を与えるだろう」とコメント。ネタニヤフ首相も、国連は自らを「歴史のブラックリスト」に加えたと述べ、イスラエル軍は「世界で最も道徳的な軍隊」だと語りました。
6月7日、CNNは、ガザ地区中部ヌセイラトの難民キャンプで国連運営の学校がイスラエル軍が空爆を行い、少なくとも45人が死亡、200人以上が負傷。更にそこでアメリカ製の爆弾が使われたことが、現場映像の分析で明らかになったと報じています。
学校を空爆です。国連が子供達に暴力行為を行っている軍隊のリストにイスラエル軍を加えるのも当然といえます。
イスラエルが、自軍を道徳的な軍隊だのなんだの、いくら正当性を主張したところで、やっていることがこれでは、説得力に欠けます。
先日のネタニヤフ首相に対するICCの逮捕状請求といい、ネタニヤフ政権もいよいよ煮詰まってきたように思いますね。
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