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1.右派勢力が躍進した欧州議会選挙
6月6~9日、欧州連合(EU)加盟27カ国で欧州議会選挙(定数720)が実施されました。
欧州議会選では、欧州各国で計約3億6000万人の有権者が新しい欧州議会議員(MEP)を選びます。投票率は51%と推定、前回2019年をわずかに上回る見通しです。
9日夜の初期の開票推計などによると、欧州各国で中道右派が優勢となっており、「欧州人民党(EPP)」が186議席を獲得する見込み。欧州人民党を率いるウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、「中道は維持される」と述べ、勝利をたたえました。
続いて、「欧州社会・進歩同盟(S&D)」が135議席を獲得し、大方の予想どおり、「欧州人民党(EPP)」に続く第2会派になる見通しです。
とりわけ、今回注目を集めているのが、いわゆる極右政党の躍進です。
イタリアの「欧州保守改革(ECR)」は73議席と4議席増。フランスの「アイデンティティーと民主主義(ID)」は9議席増。一方、リベラル派の「欧州刷新(RE)」は23議席、「緑の党(Greens/EFA)」はともに18議席ほど減らす見込みとなっています。
もっとも、現時点では、EPP、ECR、IDが連立を組んでも過半数の議席には届きません。現在の連立の組み合わせであるEPP、S&D、REは、過半数に達しています。
あと、無所属の95議員がどのグループを支持するかは不明で、それらの議員には、ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相の右翼政党「フィデス」や、ドイツでオラフ・ショルツ首相が率いる社会民主党に勝利した極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のメンバーらもいるようです。
2.EUの三本柱
EUの構造は、3本の柱から成り立っています。
第1の柱は、欧州共同体(EC:EuropeanCommunity)と欧州原子力共同体(European Atomic Community: Euratom)です。第2の柱は、共通外交・安全保障政策(CFSP:Common Foreign and Security Policy)で、第3の柱は、警察・刑事司法協力(PJCC:Police and Justice Cooperation for Criminal matterです。
欧州連合(EU)は、その活動の整合性および継続性を確保するために、これら3 本の柱それぞれ対応する別個の機関を設置するのではなく、最高意思決定機関である欧州理事会の指針の下に、EC諸機関が全ての柱に共通の機関として活動しています。
ただし、第1の柱が超国家性を有する一方、第2の柱は主権国家の政府間協力の色彩が濃く、第3の柱は、その中間的な性格を有しているという違いがあります。 これら3本の柱は、それごとに性格が大きく異なるため、各機関における立法・政策決定および執行は、それぞれ異なる手続をとっています。
EUの政策決定過程では、最高協議機関である欧州理事会(首脳会議)が方針を決めます。欧州理事会は、加盟各国の首脳および欧州委員会委員長から構成され、議長国は、6ヵ月交代の輪番制です。
閣僚理事会は、加盟各国政府の立場を明らかにする権限を与えられた閣僚級の加盟国代表から構成され、議長国は、閣僚理事会が全会一致で決定する順番に従い、6ヵ月交代の輪番制です。
そして、欧州委員会は、1 加盟国より1名ずつ任命される委員27名から構成されています。委員の任期は5年で、再任が認められています。
これに対し、欧州議会は、欧州理事会とともに立法を担う機関で、EUの政策や予算を承認します。議員は法案を提出することはできないものの、修正などを求めることで影響力を発揮します。
欧州議会の定数は720議席。EU27カ国の市民が直接選挙で各国の代表となる議員を5年ごとに選ぶことから「EU市民の代表」とも呼ばれています。
当選した議員は出身国にかかわらず政治思想・信条に基づき欧州議会の会派に加わって活動し、議員は主にブリュッセルで活動することが多いとされています。
この欧州議会で、いわゆる極右政党が躍進したことで、EU議会の勢力図が変わるだけでなく、欧州委員会などの主要な人事が変更される可能性もあり、EUのこれまでの方針や政策決定プロセスへの影響もあるとみられています。
3.何ごともなかったように振る舞うことはできない
欧州議会全体では、右派政党は過半数を占めるには至っていませんけれども、国別でみれば、偏りが出てきます。
たとえばドイツでは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」がドイツに割り当てられた96議席のうち、15議席を獲得して中道右派の国政最大野党に次ぐ第2党に躍進。中道左派「社会民主党」などショルツ首相の連立与党3党のいずれをも上回る結果となりました。
また、フランスでも、28歳のバルデラ氏が党首を務める極右政党「国民連合(RN)」が31.4%の票を得て国内第1党になる見通しで、マクロン大統領率いる与党連合は15%に届かず大敗を喫しています。
この結果に6月9日、マクロン大統領は「何ごともなかったように振る舞うことはできない」と国民議会(下院)の解散を表明しました。
フランスで大統領が議会を解散するのは1997年のシラク大統領(当時)以来のことで、この時はシラク氏の中道右派与党が惨敗し、左派の首相との保革共存政権を迫られています。
総選挙の1回目投票は今月30日、2回目は7月7日になるとのことで、総選挙の結果次第では、国民連合(RN)のルペン前党首の出馬も取り沙汰される2027年の次期大統領選に向けて、国民連合(RN)勢いづく可能性も指摘されています。
4.グローバリズムは成功だったのか失敗だったのか
マクロン大統領は自らを「中道主義者」、あるいは「情熱的な欧州人」と呼んでいるそうですけれども、もし、国民議会の総選挙の結果次第では、マクロン大統領はEU懐疑派の極右首相と仕事をすることになります。
普段からマクロン大統領の宿敵として描かれる、極右政党「国民連合」のマリーヌ・ルペン前党首は、6月9日、「国民連合」には政権を担う用意があると宣言しています。
フランスでは、大統領が最大の権力をもつものの、前述したシラク大統領の事例のように、大統領と首相の所属政党が別々だというのは、これまでもありました。
けれども、新首相が極右政党から出ることは、フランス初なのだそうです。
今回の欧州議会選挙では、EUの多くの地域で、極右とナショナリスト右派が躍進しました。その背景には、移民問題やインフレ、環境重視の改革のコストなどに、有権者が反発を示したという事情があります。
もっとも、欧州議会全体としてみれば、その過半数の議席は、依然として中道政党が占めています。
つまり、EUの政策に右派政党が影響を与える為には、右派はEU全域で団結し、その影響力を強める必要があるのですけれども、それほど単純な話ではありません。
というのも、右派・極右の考えや政策は、その国毎に優先事項が違うからです。
とはいえ、すべてのEU市民の暮らしに関わる問題で、右派政党が影響を及ぼしているものもあります。「環境改革」です。気候変動対策で世界のリーダーを長年目指しているEUにとって、数兆ユーロ規模の優先課題だ。
今回の欧州議会選挙では、環境政策に力を入れる「緑の党」は議席を一気に20も失っています。
EUの新しい環境規則は、新型の住宅暖房システムや汚染物質の排出が少ない自動車の購入を求める内容になっているのですけれども、生活費の上昇に苦しむEUの納税者は、これに不安感を募らせ、抵抗さえしています。
また、EU各地の農家は、環境規則を不公平で、自分たちの生活を破壊するものだと批判し、大規模な抗議行動を展開しています。
右派・極右政党はこうした不満を目に見える形で利用し、自分たちを国民の代弁者と位置づけ、EUや各国政府の「遠く離れたエリートたち」に立ち向かっているとアピールしたその結果、農薬規制を含む多くのEU環境規制が薄められたり撤回されたりしています。
極右勢力の欧州議会での台頭は議席の数だけで言うと左程でなくとも、それなりに影響を与えつつあります。
今回の選挙結果を受けて、欧州議会は引き続き中道政党が多数派を維持すると見られていますけれども、極右勢力への対抗手段として、今後「大連立」の協議が行われるかもしれないという見方も出ているようです。
また、EU加盟27カ国中、13カ国の首脳は、欧州議会の右派会派に所属していることから、各加盟国の内政状況が、欧州議会での協力態勢に圧力となってのしかかるとも見られています。
これまで、いわゆる「グローバリズム」が幅を利かせてきましたけれども、EUを欧州限定のグローバル共同体としてみるならば、その範囲でされも、足元の各国ではそれぞれのナショナリズムが復権しつつあるように見えます。
今の「グローバリズム」の試みが成功だったのか失敗だったのか。その答えは意外と早くでるのかもしれませんね。
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