マクロンの敗北と普通になった極右政党

今日はこの話題です。
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1.大躍進の国民連合


6月30日、フランスで議会下院にあたる国民議会選挙の開票作業が行われ、地元メディアは内務省の発表をもとに、極右政党の国民連合と連携する勢力が大きく躍進し、合わせて33.2%と首位にたち、左派の連合の新人民戦線が28%、マクロン大統領の与党連合は20.8%で3位にとどまったと伝えました。

フランスの議会は、下院にあたる国民議会と上院にあたる元老院の二院制となっています。

元老院議員が地方公共団体の代表として間接選挙によって選出されるのに対し、国民議会議員は、直接選挙によって選出されます。国民議会の議員定数は577で、そのうち本国に539、海外領土に27、在外フランス人代表に11の議席が割り当てられています。

国民議会議員は、18歳以上のフランス国民であれば立候補でき、小選挙区二回投票制の直接選挙によって投票され、任期は5年。第一回投票で、有効得票総数の過半数かつ登録有権者数の25%以上の票を得た場合、その候補者が当選します。条件を満たす候補者がいない場合は、第二回投票が行われる仕組みです。

第一回投票での上位得票者二名と登録有権者数の12.5%以上の票を得た候補者が、第二回投票に進むことができ、第二回投票では最多得票者が当選し、得票が同数の場合は年長者が当選することになっています。

今回の選挙では、577の選挙区のうち1回目の投票で当選者が決まったのは76で、有力紙ルモンドは各勢力の当選者について、国民連合と連携する勢力があわせて39人、左派の連合の新人民戦線が31人、与党連合は2人だとしています。

残った501の選挙区では7日に決選投票が行われる予定で、今回は300を超える選挙区で3人以上が決選投票に進んだと伝えられています。

今回、極右政党・国民連合が躍進した背景について、ヨーロッパ政治に詳しい同志社大学の吉田徹教授は、「移民問題などを含めてマクロン大統領に対する失望が国民連合に対する期待値として表れたことと、国民連合が世論を分断するような論点は避け、インフレ問題などに対応する現実主義路線を掲げたことが国民連合への支持に表れたのではないか」などと分析しています。


2.マクロンの計算は全て間違っていた


首位の得票を得た「国民連合(RN)」は、1回目の投票で当選が決まった76選挙区のうち36選挙区で勝利し、過半数を超える297選挙区で首位に立ちました。「国民連合(RN)」のジョルダン・バルデラ党首は6月30日、「過半数を与えられれば首相になる」とする一方、単独過半数にならなければ首班指名を受けない意向も明らかにしています。

フランスの首相は大統領が任命するのですけれども、これまでは多数派勢力から任命されてきました。「国民連合(RN)」は一回目の投票で、過半数を超える297選挙区で首位に立ったことを考えると、二回目投票でも勝利し、バルデラ党首が首班指名される可能性は十分あると思います。

バルデラ党首も翌7月1日、BFNテレビで「国民連合(RN)は絶対多数を得られると思う。その絶対多数を基盤に挙国一致の政府を作り、先に示した回復プロジェクトを実施するつもりだ」と語っています。

これに対し、与党連合のガブリエル・アタル首相は6月30日、「今日の教訓は、極右が権力の入り口に立っているということだ…われわれの目的は明確だ。国民連合(RN)が絶対多数を占めるのを阻止することだ」と支持者に向かって発言しました。

2回目の決選投票に、3人の立候補者が進んだ場合、3位の候補者は他の主流政党が国民連合(RN)を破る可能性を高めるために、辞退する動きもあります。

左派連合、新人民戦線のジャンリュック・メランション氏は、自陣営の3位候補に辞退を促すと述べ、マクロン大統領は「第2ラウンドでは幅広く、明らかに民主的で共和主義的な同盟を」と呼びかけていますけれども、今回の決選投票では306の選挙区で三つ巴の戦いになっていました。

7月2日、決選投票の立候補の届け出が締め切られたのですけれども、地元メディアは、決選投票に進む資格を得た候補者のうち、与党連合と新人民戦線から200人以上が立候補を辞退したと伝えています。有力紙ルモンドによると、候補者が2人の選挙区は400を超えたそうです。

マクロン大統領は、6月上旬に行われた欧州議会選の国内投票で、国民連合(RN)が第1党となったことを受け、今回、国民議会の解散に踏み切ったのですけれども、フランス国民に根強い「極右」への警戒感をテコに支持を中道に取り戻せると見込んでの「賭け」だったともみられています。

けれども、国民連合(RN)と同時に支持を伸ばしたのが、マクロン氏の与党連合ではなく、マクロン氏と対立してきた左派政党連合だったことから、フランスメディアは「マクロン氏の計算がすべて間違っていたことが証明された」などと厳しい評価をしているようです。


3.極右が普通になる世界


今回、国民連合(RN)の大躍進の背景には、国民連合がもはや「極右」とはみなされなくなってきたフランス国民意識の変化がある、という見方があります。

左派支持層と中道支持層の中では、依然として「極右」に対する拒否感・警戒感は根強いのですけれども、右派支持層の間では、「極右」に対する警戒感が薄れ、国民連合はかつての「極右」のように危険な政党ではないという考え方がじわじわと浸透してきているとされています。

ルモンド紙など左派系のメディアでは、依然「極右」を国民連合(RN)の代名詞として使い、マクロン大統領も常に国民連合を「極右」呼ばわりしています。その一方、フィガロ紙など右派系メディアでは、いつの間にか、国民連合を「極右」と呼ぶことを無くしています。

こうした「極右」のレッテルが剥がれ始めているのは、マリーヌ・ルペン元党首が進めてきた、党の「脱悪魔化」戦略の成功によるものだと言われています。

「脱悪魔化」とは、父親のジャンマリ・ルペン党首時代の「国民戦線」が喧伝していた、ナショナリズム、排外主義、反ユダヤ主義、復古主義、反共和主義などの極右的な主義主張を封印し、超保守的な基本姿勢は保ちつつ、穏健化した政策であるフランス第一主義、反グローバリズム、反EU、移民規制の強化、治安対策の強化、反エリートなどを前面に出すことで、極右性を払拭し、右派の中の「普通の政党」となることを目指す戦略のことです。

2011年に2代目党首に就任したマリーヌ・ルペン氏は、この「脱悪魔化」路線の下、生活苦や治安の悪化に悩む庶民の味方、フランス人の権利を第一に考える愛国者、それでいてリベラルで個人主義的な家族政策や女性の権利拡大にも熱心なフェミニスト、というソフトなイメージを、国民の中に植え付けることに成功しました。このイメージ・チェンジは、2018年に党名を今の「国民連合」に変えたことで、さらに確かなものになったとされています。

実際、現在の国民連合の公約には、かつてのEU離脱やユーロ離脱などの過激な主張は姿を消し、移民に対しても、出生地主義から血統主義への変更や二重国籍者の権利制限、不法滞在者への罰則強化など、海外の多くの国が実施している規制と同じ程度のものを主張している程度です。

また、燃料・エネルギーに掛かる消費税の引下げや、社会党政権時代に導入されマクロン政権下で廃止された金融資産課税の復活、マクロン政権が行った年金改革の撤回などは、「金持ち優遇のエリート」のマクロン大統領とは正反対の、やさしい庶民の味方を印象付けています。

それに対し、フランス国民の間ではマクロン政権に対する不満が強まっています。

物価高や重税に伴う購買力の低下、年金支給開始年齢の引上げに伴う社会保障の後退、ウクライナ戦争の影響による燃料・エネルギー価格の高騰などにより、庶民の生活は苦しくなる一方なのに、マクロン大統領は平然とグローバル化とEU統合を進めています。

また、移民の多く住む都市の郊外地区を中心にして、治安の悪化が恒常化しており、マクロン政権がそれに有効に対処していないとの不満も鬱積していました。

こうした不満を吸い上げてマクロン大統領を舌鋒鋭く批判する国民連合に共感する人々が、底辺層から中間層、更に右派支持層にまで広がって、国民連合の支持基盤の拡大につながったとされています。

マクロン大統領はフランス国民の「極右嫌い」に賭けて、総選挙に打って出て、見事に裏目に出ました。

その理由が、もはや国民が国民連合(RN)を「極右」と思っていないことにあるのだとしたら、飛んだ読み違いというか、国民の意識変化を認識できていなかったマクロン大統領の責任は大きいと言わざるを得ません。

国民の声を聞かず、一方的なグローバル化には、いつか国民の審判が下ります。

どこかの極東の島国でも同じことが起こらないとは言えないと思いますね。



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