ヒズボラの報復とハマスの新停戦案

今日はこの話題です。
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1.ヒズボラの大規模イスラエル攻撃


7月4日、レバノンのヒズボラは4日、イスラエルに対し大規模なロケット弾とドローンによる攻撃を開始。イスラエル軍施設10か所にロケット弾200発以上と無数のドローンを発射したと発表しました。

イスラエル軍によると「約200発の発射体と20以上の不審な空中目標がレバノンからイスラエル領内に侵入した」とのことで、そのうちのいくつかはイスラエルの防空部隊と戦闘機によって迎撃されたとしています。

イスラエル軍は、この迎撃でドローンと迎撃機の破片の一部が火災を引き起こしたとし、多数の火災を引き起こした砲撃で軍将校1人が死亡したと発表しています。

また、イスラエル空軍はレバノン南部の2つの村、ラミエとホウラの地域で「ヒズボラの軍事施設を攻撃した」と述べ、レバノンのメディアは、ホウラの町でイスラエルの無人機による攻撃があり、1人が死亡したと報じています。

ヒズボラは今回のイスラエルへの大規模攻撃について、ヒズボラ最高幹部の一人であるモハメド・ナセル氏を殺害された報復だと主張しています。

ヒズボラの幹部ハシェム・サフィディン氏は、ベイルートでナセル氏を追悼するイベントで演説し、「敬愛する指導者ハッジ・アブ・ニマ(ナセル)の暗殺に対する反応は昨夜、急速に始まった……この一連の攻撃は、敵が攻撃されるとは思っていなかった新たな場所を標的にし続けることになるだろう」とヒズボラが攻撃対象を拡大する意向を示しています。


2.ナセル司令官殺害の報復


ナセル氏は7月3日のイスラエルの無人偵察機による、ティレ市東部で車を標的とした攻撃で殺害されました。

ヒズボラは声明で、殺害されたのはモハメド・ナセル氏で「殉教者」と表現し、ヒズボラ戦闘員1人と民間人1人も死亡したとしています。

ナセル氏は、レバノン南部の3つの地域部門の1つで、イスラエルとレバノンの国境の東部地区を担当しているアジズ部隊長でした。

ヒズボラはナセル氏を司令官と呼んでいるのですけれども、なんでも、過激派グループは、イスラエルの攻撃で殺されたその上級メンバーを司令官と呼ぶことはめったにないそうです。裏を返せば、ナセル氏はそれ程重要人物だったと推測されます。

これまで、イスラエルの攻撃で殺害された、司令官と呼ばれた、ヒズボラの上級メンバーには、ナスル地域師団の司令官で先月殺害されたタレブ・アブドラ氏、そして1月にイスラエルによって殺害されたラドワン・ウィッサム・アル・タウィル副部隊長が数えられます。

ロイターの集計によると、レバノンでのイスラエルの攻撃により、これまでにヒズボラ戦闘員300人以上と民間人87人が死亡。イスラエルによると、レバノンからの砲撃で兵士18人と民間人10人が殺害されたとしています。

ナセル氏の殺害を切っ掛けに、ヒズボラのイスラエル攻撃は一段の激しさを増している訳ですけれども、それ以来、緊張を緩和するための外交努力が活発に行われています。

イスラエルのガラント国防相は、イスラエル軍はヒズボラを「毎日激しく」攻撃していると説明し、交渉による合意に達することが望ましいが、ヒズボラに対して必要なあらゆる措置を講じる準備があると述べ、国連とアメリカは、イランや他の同盟国も巻き込む可能性のある戦争が破滅的な結果をもたらす可能性があると警告しています。


3.全面戦争回避への外交圧力


アメリカは、イスラエルでの戦闘の激化を抑えるための外交努力を主導しています。

ホワイトハウス当局者によると、アメリカのアモス・ホックシュタイン特使が、7月3日、フランス当局者らと会談し、平穏回復に向けたフランスとアメリカの取り組みについて話し合っています。

当局者は、「フランスとアメリカは、ブルーラインを挟んだ現在の紛争を外交的手段で解決し、イスラエルとレバノンの民間人が長期にわたる安全と安心を保証されて帰国できるようにするという目標を共有している」とコメントしています。

この前日、フランスのマクロン大統領はイスラエルのネタニヤフ首相との電話会談で、すべての当事者が外交的解決に向けて迅速に動くことが緊急に必要であり、最大限の自制の必要性を強調、現在進行中の外交努力についても議論したようです。

翌3日、イスラエルのヨアブ・ギャラント国防相は「我々はヒズボラを毎日激しく攻撃しており、レバノンで必要なあらゆる行動を取る完全な準備態勢を整える、あるいは強い立場から合意に達するつもりだ……我々は合意を望んでいるが、現実がそうさせるのであれば、我々は戦う方法を知っている」と述べているところを見ると、イスラエルにも、全面戦争回避への外交圧力が掛かっているものと思われます。

一方、ヒズボラも全面戦争は望んでおらず、7月2日、ヒズボラ副指導者のナイム・カセム氏はAP通信のインタビューで次のように述べています。
・ガザでの停戦が実現すれば、何の議論もなしに停戦する
・ヒズボラのイスラエル・ハマス戦争への参加は、同盟国ハマスの「支援戦線」としてのものであり、戦争が止まれば、この軍事支援はもはや存在しない
・ガザで起こることが、停戦と停戦なし、戦争と戦争なしが混在するものだとしたら、その形も結果も影響もわからないのだから、(どう反応するか)今は答えられない
・イスラエルがヒズボラと本格的な戦争を開始する能力を持っている、あるいは決断したとは現在考えていない
・イスラエルは、限定的な戦争、全面的な戦争、部分的な戦争など、何を望むかを決めることができる。しかし、イスラエルが戦争を仕掛けるということは、その範囲や参戦者をコントロールできないということだ
・土曜日(6/29)にベイルートでドイツのオーレ・ディエ情報副長官と会談した
・ホワイトハウスのホッホシュタイン特使は最近、仲介者を通じて、ヒズボラがハマスに圧力をかけ、バイデン米大統領が提示した停戦と人質交換案を受け入れるよう要請したが、ヒズボラはこの要求を拒否した。ハマスが決定することであり、何かを求めたい者はハマスと直接話すべきだ
・アメリカは、ガザでのハマスの存在を終わらせようとするイスラエルの計画を支持している
・建設的な取引とは、戦争を終結させ、イスラエルをガザから撤退させ、人質の解放を確実にすることだ
・停戦が実現すれば、ガザ内部とレバノンとの戦線における取り決めを政治的なトラックで決定することができる
カセム氏は、イスラエルがレバノンで本格的な戦争に至らない程度の限定的な作戦を開始するつもりであっても、戦闘が限定的なものにとどまることを期待すべきではないとし、レバノンで本格的な戦争が起これば、ヒズボラの同盟勢力、いわゆるイラク、シリア、イエメンなどの武装グループ、そして潜在的にはイラン自身も参戦する可能性があり、イスラエルはもとより、アメリカも巻き込まれるかもしれないと警告しています。


4.ハマスの新提案


7月3日、イスラエル首相府は「モサド主導の交渉チームが仲介国のアメリカ、カタール、エジプトからハマスが提示した新たな停戦案を受け検討している」と明らかにしました。同じくハマスも「ガザ地区での戦争の終息に向け仲介国と考えを交換した」と声明を通じて発表しました。

これまでの停戦案は、アメリカが提示した「3段階停戦案」です。すなわち、「イスラエル軍がガザ地区の人口密集地域から撤収して6週間停戦する第1段階」、「生存する人質を交換しイスラエル軍がガザ地区から撤収する第2段階」「ガザ地区再建を始める第3段階」という案です。

これに対し、ハマスが永久停戦を前提にすべきというこれまでの考えを曲げない修正案を提示した。事実上バイデン大統領の提案を拒否し、停戦交渉は膠着状態に陥っていました。

今回ハマスが新たに提示した修正案の具体的な内容はまだ明らかになっていないのですけれども、タイムズ・オブ・イスラエル紙はイスラエル高位関係者の話として「イスラエルは6週間の停戦後、いつでも戦闘を再開したいが、ハマスはひとまず第1段階に入ってから停戦持続の保証を得たい。新しい案は交渉を進展させられとみられる」と伝えた一方、アメリカメディアのアクシオスは、「重要な進展があるとみられるが、依然として進む道は長いだろう」と予想しています。

もっともアクシオスは、ハマスの提案に対し、イスラエルの交渉チームが直ちに回答の検討を開始し、ハマスが6月12日に送った最初の回答よりもはるかに良いものであると判断したとイスラエル当局者2人が語ったと伝え、両当事者間の最大の溝の原因となっている第8条と第14条について合意に達することが可能になるとも述べています。

第8条は、第1段階である6週間の間に行われるイスラエルとハマス間の交渉に関するもので、第14条は、協定の第1段階と第2段階の間の移行を扱っているものであるのですけれども、これまでイスラエル側が「ハマスは合意の第1段階後にイスラエルが戦闘を再開するのを防ぐという基本条項を合意概要に盛り込むことを主張し続けているが、これはイスラエルにとって受け入れられないものだ」という立場をとっていたことを考えると、もしも、ハマスの新停戦案で合意できたとすれば、イスラエルが大分折れたことなります。

その裏にはもちろん、ヒズボラの存在があることはいうまでもありません。

このまま戦火が拡大することなく、停戦合意されることを望みます。



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