不屈のフランス

今日はこの話題です。
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1.左派が最大勢力となったフランス下院


7月7日、フランス国民議会(下院、定数577)の決選投票が行われました。

その結果、左派連合の新人民戦線が180議席を獲得して最大勢力になりマクロン大統領率いる中道の与党連合は、163議席と、解散前の250から議席を大幅に減らしました。

そして、事前の予測では第1党になるとみられていた”極右”の国民連合(RN)は連携する勢力と合わせて143議席と、予想外の第3の勢力にとどまりました。

決選投票では、国民連合(RN)の躍進を阻止するため、新人民戦線と与党連合は決選投票の前に当選の可能性が殆どない候補をそれぞれ戦略的に撤退させる候補者調整を行ったのですけれども、その「共和国戦線」が功を奏した形です。

それでも、180議席と最大勢力となった新人民戦線でも過半数の289議席には遠く及ばず、今後、不安定な政治状況に陥るのではないかと見られています。

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2.不屈のフランス


この選挙結果に市場はすぐに反応し、アジア時間、8日の取引でフランス国債先物は下落し、ユーロは売られました。フランス国債先物は一時28ティック下落し、ユーロは0.1%安の1ユーロ=1.0828ドル前後をつけています。

フランスの公的財政状況を懸念する投資家にとって、左派である新人民戦線の勝利はリスク要因となる公算が大きいと見られています。というのも、選挙戦で新人民戦線は、公共支出の大幅拡大や最低賃金の引き上げ、定年退職年齢の引き下げを公約に掲げていました。

これら政策は、欧州連合(EU)との深刻な対立を引き起こす可能性があるとみられていて、シンクタンクのモンテーニュ研究所は、新人民戦線の選挙公約を実現するには年間約1790億ユーロ(約31兆2000億円)の追加資金が必要になると試算しています。

ちなみにモンテーニュ研究所は、国民連合(RN)の計画には約710億ユーロ、与党連合には約210億ユーロの追加支出がそれぞれ必要になると算出しています。

マクロン大統領としては、自身の政策を進めるためには、下院で多数派を形成しなければならないのですけれども、左派、中道、右派と、対立する3陣営は選挙前に比べ勢力が均衡する形となり、多数確保を狙ったマクロン大統領の思惑は外れました。

となると、マクロン大統領は左派ないし右派と組んで多数派形成を図らなくてはならないのですけれども、右派の国民戦線(RN)を決選投票で勝たせないために、左派連合と候補者調整したことを考えると、当然左派連合と手を握るかと思いきや、マクロン大統領は、左派連合の中心となる、急進政党「不屈のフランス(LFI)」のジャンリュック・メランション党首に対して強い拒否反応があるとされています。

また、「不屈のフランス(LFI)」のメランション党首も、7日、支持者に対し、新人民戦線として公約の政策を全て実行すると述べ、マクロン大統領と取引することを拒む考えを明らかにしています。

この状況について、マクロン政権で最初の首相を務めたエドゥアール・フィリップ氏は「過半数を握る勢力と政府の不在はフランスとフランス国民を極めて大きな危険にさらす」とした上で、主要政治勢力は政治状況の安定につながる合意に取り組むという極めて重要な責任を負っていると指摘しています。


3.もはや圧倒的な政党は存在しない


欧州議会選挙で”極右”を大勝させ、今回の国民議会選挙でも第1回投票で”極右”を大勝させたフランスの国民は、ギリギリのところで”極右”政党が議会を制することにNoを突き付けたのですけれども、わずか1週間前、「国民連合」が300議席近く獲得すると予想されていたのになぜこんなことになったのか。

ヨーロッパ政治に詳しい東京大学法学部の中山洋平教授は、大きく2つの要因があるとして、次のように分析しています。
要因1:かつて人種差別や移民排斥を公然と掲げていた極右政党の流れを引く国民連合に対して、国民の間に根強い警戒感がある。1回目の投票の結果を受け、反国民連合の有権者がこのままでは国民連合の政権が誕生し、フランスという国が変わってしまうという強い危機感をもって投票に行くようになった。

要因2:1回目の投票のあとアタル首相が中心となり、与党連合と左派の連合が普段の対立を乗り越え、候補者の調整を進めた。これによって国民連合の候補者を落とすための「包囲網」を作ることに成功し、有権者もこうした調整を理解したうえで投票した。
このように、極右への国民の警戒感と、与党連合と左派連合の候補者調整が勝因だったとしています。

ただ、その為に払った代償は、安いものではありませんでした。

なぜなら、先にも述べたとおり、圧倒的多数を占める政党が消えたということです。左派連合180議席、中道連合163議席、右派国民連合143議席と三者とも見事に拮抗することとなりました。

ベテラン政治評論家のアラン・デュアメル氏は、「もはや圧倒的な政党は存在しない。7年前にマクロンが政権を握って以来、フランスは政治勢力の解体期にあった……そしておそらく今、再構築の時期を迎えている」とコメントしています。

デュアメル氏によると、フランス政界は、現在の左派、極右、中道の3大ブロックと、更に中道右派という、政治勢力の多極化がみられるようになったのだそうです。しかも、それらの中に競合する動きや政党が存在している。議会が分裂しているというだけでなく、政党自体が分裂しているのだと分析するアナリストもいるくらいです。

どの党も議会で主導権を握れないため、中道右派から左派までの新たな連立の形成を目指す長期間の交渉が避けられないと関係者からはみられているようですけれども、これまで、連立を組む可能性のある各党が、互いに嫌悪感を表明し合ってきたことを考えれば、連立がどう組まれるかはまったく分かりません。

こうした状況を背景に、マクロン大統領の権力は段々、衰えていくだろうとの見方もあるようです。


4.マクロン大統領の敗北は明らかだ


フランスの憲法や政治の専門家は、今後の政権について最も可能性が高いのは、大きな変化を目指すことなく国の運営を維持できるような最低限の政策を持つ政権だと指摘しています。

パリ政治学院の憲法専門家であるメロディ・モックグリュエ氏によると、1947年-54年のバンサン・オリオール大統領の時代までさかのぼらなければ、同じような状況は見られないそうで、モックグリュエ氏は、政権が成立するには「少なくとも数週間はかかるだろう」と指摘した上で、新人民戦線を構成する政党は異なるグループを形成する可能性が高く、マクロン大統領は社会党や緑の党と交渉する可能性があると述べています。

また、第一生命経済研究所の田中理・首席エコノミストは、フランスの次期政権の枠組みとして次のように述べています。
次期政権の枠組みとしては、①第一党となった左派連合が非多数派政権を発足するケース、②左派連合と与党連合で連立政権を発足するケース、③次の議会選までの暫定政権を発足するケースが考えられる。

①の場合、現在の政権と同様に憲法上の特例を使って必要な予算や法律を通し、政権運営を行うことはできるが、野党となる現与党連合、国民連合、共和党が団結すれば、議会で内閣不信任案を可決することが可能。不服従のフランス、かつて二大政党の一角を占めた社会党(PS)、環境政党・欧州・エコロジー=緑の党(EELV)、共産党(PCF)の4党は、選挙戦の劣勢を挽回するため左派連合を結成したが、各党間の意見相違から首相候補を予め一本化できなかった。68~74議席程度で左派連合内の最大勢力となる不服従のフランスは、過去数回の大統領選挙にも出馬したメランション党首を首相候補に推すとみられる。63~69議席程度で不服従のフランスに迫る議席を獲得するとみられる社会党は、6月初旬の欧州議会選挙での党勢回復の立役者である欧州議会議員のグリュックスマン氏や、極右政権誕生阻止のために政界復帰を決断したオランド元大統領などが首相候補となろう。

左派連合の選挙公約には、マクロン改革に逆行する内容(年金支給開始年齢の引き下げなど)、大規模な財政拡張につながる内容(年金改革や失業保険改革の撤回、公務員の賃金引き上げ、VATの軽減税率の適用範囲拡大、エネルギー料金の凍結など)、EUに懐疑的な主張(EUの財政規律の適用除外、EUの競争法や共通農業政策の見直しなど)が並ぶ(図表3)。極右政権以上に財政拡張的な内容で、財政運営を巡る不安が広がりやすい。

②の場合、左派連合と与党連合で議会の過半数を上回るとみられ、超党派の支持が得られる首相候補をみつけることができれば、連立政権を発足することは不可能ではない。その場合もどの勢力が政権の主導権を握るかを巡って、激しい争いが繰り広げられるであろうことは想像に難くない。

初回投票から決選投票までの1週間という短い期間であれば、両勢力は反極右の御旗で結集することができたが、連立政権の運営となると話は別だ。最大勢力となる左派連合は、首相輩出を含めて政権の主導権を握ることを主張するだろう。与党連合が左派の極端な主張を中和することが出来ない場合、①の場合と同様に、財政運営を巡る不安が広がることが予想される。また、両勢力の政策相違が大きく、政権発足に漕ぎ着けた場合も、短命政権に終わる可能性が高い。

左派連合が分裂し、極端な主張が目立つ不服従のフランスを連立政権から除外することも考えられる。その場合、議会の過半数に届かなくなる可能性があり、4番手につけたドゴール派の共和党(LR)が連立に加わることも考えられる。共和党は今回の選挙を前に、国民連合との協力の是非を巡って党が分裂。現在、共和党に残っているのは極右との協力に反対したグループ。この場合、極左と極右を除いた挙国一致内閣となり、財政運営に対する不安は後退する。

③の場合、次に議会選挙が可能となる来年央までの間(現行の憲法規定で、議会選挙は1年に1回しかできない)の選挙管理内閣の色彩が強い。1年後に予想される議会選挙での極右政権誕生への不安が払拭されることもない。日々の国家運営に必要最低限の立法行為や現状維持に近い予算策定はできるが、政策転換につながる立法行為や予算策定は難しい。この場合、極端な政策が採られないのと同時に、必要な構造改革や財政再建も進まないことを意味する。フランスは財政再建が計画通りに進まず、最近も国債が格下げされたほか、EUの財政規律に抵触する恐れがあるとして、是正措置を開始する勧告が行われたばかりだ。①のように拡張的な財政運営のリスクが高まる訳ではないが、財政再建が進まず、更なる格下げや規律違反を問われる恐れが高まる。

こうしてみると、何れの場合もフランスの政局不安や政策停滞が続く恐れがある。財政運営を巡っては、①の場合に最もリスクが高まり、②の場合は極左が主導権を握るかどうかで財政リスクに大きな振れが生じ、③の場合、財政再建が停滞するリスクが高まる。
これをみると、マクロン政権は「レイムダック」ではないかとさえ思えてくるのですけれども、ここまで国内政治が不安定となると、外交にどこまで力が入れられるのか分からなくなってきます。

マクロン大統領も、これまでの路線をそのまま続けるのは大分厳しくなったかもしれませんね。



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