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1.ウクライナのNATO加盟は第三次世界大戦を保証するものだ
7月11日、スロバキアのフィツォ首相は、ウクライナのNATO加盟について「ウクライナの願いは理解している。ウクライナは主権国家だ。だが、ウクライナのNATO加盟は第三次世界大戦を保証するものだ」とウクライナがNATOに加盟すれば世界的な紛争を引き起こすだろうとフェイスブックの動画で述べました。
フィツォ氏はまた、NATO首脳会議でスロバキアの代表に対し、ウクライナは加盟条件をすべて満たし、NATO加盟国すべてが承認した場合にのみ加盟できると改めて強調するよう指示したと付け加えています。
スロバキアは2004年からNATOに加盟。2006年から4期目を務めているフィツォ首相は、ウクライナへの軍事援助を停止すると約束し、首都キエフでは「戦争は起きていない」と主張しています。
更に、フィツォ首相は、先週ロシアのプーチン大統領を訪ねるためにモスクワを訪れたハンガリーのオルバン首相について「ぜひ同行したかった」と語っています。
2.暗殺未遂の背景にはウクライナに対する自分の見解があった
フィツォ首相といえば、5月15日に銃撃され、暗殺されかけたことは記憶に新しい事件です。
フィツォ首相は5月30日に退院し、自宅療養に移り、今月から徐々に公務に復帰していました。フィツォ首相は7月11日以外にも自身の動画を投稿していて、6月5日、動画を通じて、暗殺未遂事件以来初の公の場での発言を行っています。
件の動画でフィツォ首相は、ウクライナ問題で欧州の主流派と対立する立場を取ったために標的にされたと考えているが、3週間前に自身を重傷させた銃撃犯に対して、「憎しみは感じていない……私は彼を許す」とし、法的措置を取るつもりもないと述べました。
それでもフィツォ首相は、野党やその他の人々に対しては「結局のところ、彼は悪と政治的憎悪の使者に過ぎなかったことは明らかだ」と激しく非難しています。
フィツォ首相は、ロシアのウクライナ戦争やその他の問題に対する自身の見解が欧州の主流派と大きく異なるため、自らが被害者になったと示唆し、「こう言うのは残酷だが、欧州連合では異なる意見を持つ権利は存在しなくなった」と西側諸国も非難しています。
フィツォ首相は昨年10月25日に連立政権が発足した後、ウクライナに対する自国の軍事援助を終了。更にロシアに対するEUの制裁に反対しており、ウクライナのNATO加盟を阻止したいと見られています。
3.オルバンの平和ミッション
そのフィツォ首相が「ぜひ同行したかった」と語ったハンガリーのオルバン首相は、7月になってから、キエフ、モスクワ、アゼルバイジャン、北京、ワシントン、そしてアメリカ・フロリダ州のマール・ア・ラーゴまで、矢継ぎ早に歴訪して回っています。
オルバン首相はウクライナでの即時停戦を主張し、両国の和平交渉を促す「平和ミッション」と称して、これらの国々を訪問。その締めくくりとして、7月11日にアメリカのトランプ前大統領と会談しています。
オルバン首相は、これまでもトランプ前大統領と何度か会談しているのですけれども、オルバン首相は、11月の米大統領選挙でのトランプ前大統領の再選を公然と支持し、バイデン大統領の敗北は「とても、とても可能性が高い」と発言しています。
オルバン首相は今回の訪問について、「私たちは平和を作り出す方法を話し合った。今日の良いニュース:彼はそれを解決する!」と述べています。
また、フェイスブックに連日投稿する動画で、オルバン首相は「ロシアとウクライナの戦争は、放っておいても平和は自然と実現するというものではない。誰かが平和を作らなくてははらない」と主張しています。
4.トランプが勝てばウクライナはロシアと交渉する
このオルバン首相の行動について、欧州連合(EU)やアメリカの首脳達は激怒しています。
ハンガリーは今後6ヶ月間、持ち回り制のEU議長国を務めるのですけれども、EU加盟国27ヶ国で構成される欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は、EUを代表してロシアとかかわる権限は、持ち回りの議長国に与えられていないと批判しています。
オルバン首相はそれを認めつつも、「自分は事実関係をはっきりさせようとしている……いろいろと質問しているのだ」と力説。キエフで、ゼレンスキー大統領に対し「意図を理解できるよう、越えられない一線は何なのか、平和のためにどこまで彼は動くことができるのかを理解できるよう」に、ゼレンスキー大統領に「三つか四つ」の質問したのだと説明しています。
オルバン首相はまた、ワシントンでのNATO首脳会議に出席したエルドアン大統領と会談した際、すでに無効になった黒海経由の穀物輸送合意を念頭に「これまでにただ一人、ロシアとウクライナの間に合意を成立させた」と讃えています。
そして、トランプ前大統領についても「一度も戦争を起こさなかった」と評価。大統領選での再選を強く支援しています。
オルバン首相は、NATOの他の同盟諸国と異なり、ロシアが2年半前からウクライナで続ける戦争は、二つのスラヴ国家同士の内戦で、その片方をアメリカが支援するから長引いているのだと考えているそうで、ゆえに11月の大統領選でトランプ氏が勝利すれば、ウクライナとロシアは交渉のテーブルにつかざるを得なくなると考えているとされています。
5.ハンガリーは仲介役ではない
オルバン首相について、ウクライナも反発しています。
7月8日、ゼレンスキー大統領は訪問中のポーランドで記者会見し、「世界には仲介役になれる国がたくさんあるかと聞かれれば、多くはない」と言明。アメリカや中国がこうした役割を担うという見解を示した上で、EUについては、「1つの国ではなくEU全体が仲介役になり得る」と述べました。
そして、プーチン大統領が「たとえ特定の国と会談したとしても、それは戦争の終結を望むという意味ではない」と指摘。ウクライナは平和への道筋を形作る方法について他国からの提案を引き続き受け入れるが、それらは自身が提案した10項目の和平計画に沿ったものである必要があるという考えを改めて示しました。
EU全体が仲介役になるためには、EUとして意見が一致している必要があるのですけれども、オルバン首相の考えはEUのそれとは一線を画しています。
7月11日、NATOのストルテンベルグ事務総長とゼレンスキー大統領が共同記者会見をしているのですけれども、その場でオルバン首相についての質疑がありました。
件の質疑は次のとおりです。
BBC:ゼレンスキー大統領。まず、同盟国はロシア領内でロシア軍の標的を攻撃するために長距離兵器を使用することに対する規制を緩めたのでしょうか、それともまだ十分な対策を講じていない国があるのでしょうか。また、これとは別に、最近、ヴィクトル・オルバン氏が大統領を訪問し、その後プーチン大統領のもとを訪れました。今日、ヴィクトル・オルバン氏はトランプ大統領と会談しますが、あなたは、オルバン氏が大統領に内緒で裏取引をしているのではないかと心配していますか。では、事務総長にも同じことをお聞きしたいのですが、オルバン氏がトランプ大統領と会うことを知っていましたか。何を話すか知っていますか。そして最後に、事務総長、米国とドイツが合意した、米国の長距離兵器をドイツに随時持ち込むことを許可するという米国の決定についてお聞かせください。これはロシアを敵に回す可能性はありますか、それとも賢明な動きだと思いますか。もしそうなら、その理由は? ありがとうございます。ゼレンスキー大統領もストルテンベルグ事務総長も、ハンガリーのオルバン首相はEUを代表してロシアと交渉する資格はないと批判しています。
【中略】
ウクライナ大統領:彼はキエフにいました。プーチン大統領や中国に行くとは知りませんでした。そしてあなたは今トランプ氏に言いました。はい。では、彼が明日どこに行くのかという問題は何ですか?わかりません。彼はまたウクライナに来るかもしれません。わかりません。つまり、私たち全員に敬意を表しますが、大国も小国もすべての国に敬意を表しますが、すべての指導者が交渉できるわけではないことを理解する必要があります。これにはある程度の力が必要です。
NATO事務総長:わかりました。同じ質問ですが、まずは最後の質問、ドイツに配備された米国の長距離ミサイルの問題についてお答えします。
【中略】
それから、さまざまな同盟国の指導者やハンガリー首相が行ったさまざまな会合についてです。さまざまな同盟国の指導者がさまざまな政治指導者と会談し、時にはさまざまな国の野党指導者と会うこともあります。さまざまなNATO指導者の渡航計画を規制するのはNATOの役割ではありません。NATOにとって重要なのは、すべてのNATO同盟国が方針に同意することです。そして昨日、私たちは32の同盟国による非常に強い宣言に同意しました。この宣言はウクライナへの支持を表明し、ウクライナの領土保全と主権を支持しています。そしてウクライナへの支援を継続し、さらに強化することを誓っています。
そして、ゼレンスキー大統領が今言ったことに私は賛成です。もちろん言葉は重要ですが、行動は言葉よりも雄弁です。ですから、もちろん加盟、不可逆的な道、加盟に関する言葉は重要です。しかし、多くの点で、私たちがウクライナを支援するために具体的に何をするかの方がさらに重要です。そして、私たちは現在、ウクライナが勝利できるようにする防空システムの提供を強化しています。そして、ウクライナが加盟国になる唯一の方法は、ウクライナがヨーロッパの独立主権国家として長期的な誓約、NATO司令部、二国間安全保障協定、相互運用性を提供することです。これらは、私たちがウクライナと一緒に行う具体的なことであり、資金を提供し、一緒に行うことです。そして、私にとっては、これらの行動は言葉よりも雄弁です。言葉は重要ですが、より重要なのは、私たちがウクライナと一緒に行っている具体的な行動であり、すべての同盟国がこれに同意しています。ですから、それがNATOの言葉であることが重要です。野党や役職のリーダーが誰であろうと、NATOの首相や大統領が誰であろうと、我々が合意した内容の重要性が損なわれたり軽減されたりすることはありません。
6.オルバンはEUの中で一番優れた指導者だ
もっとも、オルバン首相にしても、他のEU加盟国から批判されるのは分かっていた筈です。にも関わらずなぜ、ウクライナ、ロシア、アゼルバイジャン、中国、アメリカへの外遊に及んだのか。
これについて、拓殖大学日本文化研究所客員教授で作家の川口マーン惠美氏は、7月12日の現代ビジネスへの寄稿記事「ゼレンスキー、プーチン、習近平と次々会談…!ハンガリー・オルバン首相「サプライズ行脚」の狙いは何か?」で、次のように述べています。
・EUの欧州理事会の理事長国は6ヵ月の輪番制で回ってくることになっていて、今月の後半はハンガリーの番だ。「現在のEUの首長の中で一番優れた指導者」とは、随分、オルバン首相を評価しているようですけれども、川口マーン惠美氏は、オルバン首相の行動に活路を見出しているようです。停戦に向けて話が進むのか。注視していきたいと思います。
・理事長国の首相や大統領は、その半年の間に指導力を発揮し、自分が重要と思う懸案を実現することも可能。ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相(フィデス党)の腕の見せどころとなる。
・そのオルバン首相が、理事長を引き継いだ翌日の2日、キーウにゼレンスキー大統領を訪問した。さらにその5日には突然、モスクワでプーチン大統領と会見したため、EUは爆弾が炸裂したかのような大騒ぎ。EUのエリートたちの慌て方は尋常ではなかった。
・オルバン氏は1963年生まれで、ハンガリーの伝統を重視する保守の政治家だ。国民の支持は高く、しばしば5割を超える。1998年から2002年、さらに2010年から現在までは4期続けてハンガリー首相。極めて知的で、冷静で、しかもヒューマニズムに富んだ人物だ。
・ただ、氏の保守的で愛国的な思想が、左傾化の激しいEU上層部としばしば対立し、EU首脳の爪弾きになってすでに久しい。しかも、今回、欧州理事会の理事長となったオルバン氏が、“Make Europa great again!”をスローガンとして掲げたため、EUの指導者たちはのけぞった。EUの政治家の間では、トランプ大統領は完全に悪魔化されており、氏のスローガンの焼き直しをEUの目標とするなど、けしからん話なのだ。
・オルバン首相は以前よりトランプ氏を高く評価しており、弱体してしまったEUを復活させるには、まさにこの“Make Europa great again!”が必要だと考えている。思えばEU結成の元来の目的は、アメリカとアジアに対抗できるヨーロッパ圏を作ることで、脱炭素でも、難民の無制限受け入れでもなかったはずだ。ちなみにオルバン首相は、トランプ氏が大統領ならウクライナ戦争は絶対に起こらなかったとも断言している。
・オルバン首相とEUの意見の相違は他にも多々ある。例えば、氏はウクライナへの武器や資金のこれ以上の供与には断固反対。また、中東からの不法移民の受け入れ拒否、ロシアのガスボイコット反対、LGBTを広めるような教育を小・中学校で行うことは禁止等々。そして、これらの論点のほとんどが、1対26、つまり、「ハンガリーvs.その他の全てのEU加盟国」という構図になっている。
・実は、EUにはつい最近まで、ハンガリー、ポーランド、チェコの右派トリオが存在したが、ポーランドとチェコで政権交代が起こり、現在はオルバン首相が一人で踏ん張っている。それもあり、氏はEUの足並みを乱す良からぬ人物となっており、今やEUエリートに敬遠されているだけでなく、独裁者の汚名を着せられ、EUの規則を守らないとして罰金まで取られている。
・ちなみに、私は個人的には、オルバン首相が現在のEUの首長の中で一番優れた指導者だと思っており、氏の主張の見事な論理性、ぶれない思想、深淵な歴史の知識、そして、26人の首脳陣を敵に回してもびくともしない胆力は、ドイツや日本の政治家には、ちょっとやそっとでは真似のできない技である。
・さて、そのオルバン氏の言動が、最近とみに冴えている。3月の米国訪問では、ホワイトハウスは素通りで、トランプ大統領をフロリダの別荘に訪問。EU首脳は、今も米民主党と共にバイデン大統領を囲んでいるが、オルバン首相はすでにその輪を離れ、「米国の政権交代は、米国のみならず、世界にとってプラスになるだろう」と、最近のインタビューで述べている。
・6月30日には画期的なことが起こった。ウィーンで、オーストリアのFPÖ(オーストリア自由党)のキクル党首、チェコのバビシュ元首相(ANO2011)と共に、欧州議会における新しい右派の会派「欧州の愛国者」を結成したのだ。オルバン首相のフィデス党は、以前は欧州議会における最大会派EPP(欧州人民党グループ)に属していたが、意見の相違により21年に脱会。以来は一匹狼だった。
・しかし、オルバン首相は今、EU改革のために、早急に右派勢力を結集させる必要性を感じているらしく、「欧州の愛国者」の結成後、「愛国心のある政党は参加してほしい」と呼びかけ、また、フランスのル・ペン氏と、イタリアのメローニ首相には、仲違いをやめるよう促した。
・その結果、数日後には「欧州の愛国者」に、イタリアのサルヴィーニ氏の同盟(Lega)、フランスのル・ペン氏の「国民連合」、オランダのヴィルダー氏の「自由党」など、名高い右派政党が次々と合流。「欧州の愛国者」はあっという間に欧州議会で3番目に大きな会派となった。数は力なり。こうなれば、これらの党は「極右」でも何でもなく、正当な政治勢力だ。今後、「欧州の愛国者」の代表を、最多30人の議員団を擁するフランス「国民連合」のバルデラ党首が引き受けることも決まった。
・思えばこれまで多くの政治家がEUの改革を叫んできたが、具体的な進展はなかった。しかし、それをここまで緻密に計画し、一歩一歩、着実に実行に移していく手腕のある政治家が、ハンガリーという小さな国に潜んでいるなど、誰が想像したことか!
・いずれにせよ、オルバン氏が、今こそがEU改革の潮時であると見ていることは確実で、おそらくそれは正しいのだろう。「ウクライナ戦争はこれから数ヵ月、さらに熾烈に、さらに残酷になる」と氏が主張したのが7月6日。それが米国の大統領選挙と関連していることも示唆している。氏は何かを予感しているに違いない。
・EUの改革の手始めは、まずは欧州委員会2期目の委員長就任が決まったフォン・デア・ライエン氏の力を削ぐことではないか。彼女ほど強権を行使し、EUのお金をザルのように使い、しかも、EUを弱体化させた政治家はいない。現在、ファイザー社とのコロナワクチンをめぐる不正ディール、官庁への越権介入、証拠隠蔽、利益相反行為などで訴えられているが、しかし、ブリュッセルのEUの中枢は氏を庇い続けている。
・さて、冒頭に記した通り、ゼレンスキー大統領に会った3日後、オルバン首相はモスクワでプーチン大統領に笑顔で迎え入れられた。「プーチンは対話をする意思などない」という西側の主張は、これによってあっけなく崩れた。ちなみに、プーチン大統領を国際裁判所で裁き、EUに入ったら逮捕だとして、プーチン抜きでウクライナ支援会議をしていたのは欧米側だ。
・プーチン大統領との会談後、インタビューを受けたオルバン氏は、自身の行動を「平和を取り戻すためのミッションである」と語った。「ブリュッセルで心地よいソファに座って話し合っても、平和は訪れない」から、立ち上がったのだと。
・オルバン氏は、和平交渉の結果として停戦に到達するのではなく、まず、期限付きの停戦を実施し、それから和平交渉をするよう提案していた。そうすれば、早く戦争を終了させたいという力がより強く働くと、氏は言った。
・いずれにせよ、一刻も早く戦争を終わらせるために、EUは一致協力して、戦争支援ではなく、戦争終結に向かわなければならない。誰が正しいかということは、今、論議すべきことではない。何よりも大切なのは、これ以上、命が失われないことだというのが氏の強い主張だった。
・ところが、このモスクワ訪問のニュースが流れた途端、EU幹部やドイツの政治家、そして主要メディアによる激しいオルバン攻撃が始まった。欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長はXに、「宥和政策はプーチンを止めない」「EUが結束することだけが、ウクライナに恒久的な平和をもたらす」とバッシング。結束を乱すオルバンはEUの裏切り者だと言わんばかりだ。
・また、ウクライナへの武器供与を誰よりも強く主張し続けてきた自民党のシュトラック=ツィマーマン氏は、「オルバンが戦争犯罪者のプーチンを訪問」「EUの理事長国という役職を売名のために濫用」など、やはり(おそらく会談の内容は知らずに)バッシング。
・一方、ショルツ首相は、「EUの外交はシャルル・ミシェルが行う」と書き、オルバン首相には何の権限もないことを主張。つまり、氏のロシア訪問はEUの意志とは無関係であるということ。同じくNATOのシュトルテンベルク事務総長も、「オルバンはNATOの意見を代表していない」とのコメントだった。あたかも縄張り争いだ。
・彼らの怒りは、自分たちが武器を供与するだけで、終戦への努力をしていないことが暴かれた恨みなのか? それとも、戦争が終わってしまうかもしれないことに対する “危機感”?
・バッシングはメディアも同じで、オルバン首相を「プーチンの操り人形」とバカにし、「今後、欧州理事会での会議では、オルバン首相がプーチン大統領に告げ口する可能性があるから気をつけろ」などと警告する米国人ジャーナリストもいた。ウクライナ戦争終了のために努力することは、すでに悪事である。
・ただ、EUの政治家やNATOの事務総長が、いくらオルバンの行動はEUともNATOとも関係ないと主張しても、ロシア側はオルバン首相を丁重に扱っており、瀟洒な部屋でプーチン大統領とオルバン首相が並んで座り、それを囲むように両国政府の要人が着席している映像は、ドイツのニュースでも流れた。プーチン大統領の横にはラヴロフ外相がいたから、まさに豪華メンバーであった。
・しかし、それでも、政治家やメディアは、オルバン氏の主張にも、氏がモスクワでプーチンと何を話し合ったかについても、ほとんど言及しなかった。
・ちなみに、この会見については、「ビルト」紙のジャーナリストが、6日にブダペストでオルバン首相を待ち構えるようにして物にした長いインタビュー映像が公開されている。
・このときのインタビュアーはあまりにもお粗末だったが、それだけにオルバン氏の突出した能力がよくわかる貴重なビデオであるとも言える。
・なお、オルバン首相はこのインタビューで、サプライズは翌週も続くと予告していたが、8日の月曜日、今度は北京に出没し、習近平と会った。和平ミッションの続きだ。
・オルバン首相によれば、戦争は、米国とNATOと中国が止めようと思えば、“必ず終わる”。
・奇しくもそのNATOは翌9日より、アラスカで大々的な軍事演習をしている。
・一方、ワシントンでは、NATO創立75年を記念して10日に大式典が開かれ、NATO加盟国の全首脳が集合。もちろん、オルバン首相が手にしているプーチン大統領と習近平国家主席に関する情報が、ここで話題にならなかったはずはない。要するに、全てはオルバン首相のシナリオ通りと言える。
・オルバン首相の努力が実るかどうかは、わからない。しかし、たとえ結果がどうであろうと、氏の行動は試みる価値があるものだ。ドイツでは、武器の供与ではなく、停戦の交渉を求める国民がすでに7割を超えた。EUの新しい会派「欧州の愛国者」のメンバーも、皆、停戦派である。
・EUはきっと変わる。オルバン首相は、そんな希望を私たちに与えてくれる。オルバン首相のことを反民主的だと罵倒するEUの首脳らは、自分たちの支持率を見ながら、誰が民主的なのかをよく考えてみるべきではないか。
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