ヒズボラのロケット攻撃と懸念する欧米

今日はこの話題です。
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1.マジダル・シャムスへのロケット攻撃


7月28日、イスラエルはレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの拠点を攻撃しました。

これは現在イスラエルが占領するゴラン高原マジダル・シャムスで、27日、サッカーの試合中に子供を含む12人がロケット弾攻撃を受けて死亡、他44人が負傷したことへの報復だとしており、さらに攻撃を行う可能性も示しています。

この日、イスラエルの安全保障内閣は閣議を行い、ネタニヤフ首相とヨアブ・ギャラント国防相に、ゴラン高原でのロケット攻撃に対するイスラエルの対応の規模と時期を決定する権限を与えたとしています。

また、イスラエル国防軍は、ロケット弾攻撃で死亡したとみられる12人の子供のうち10人の葬儀に、北部のドゥルーズ派の村の住民数千人が集まる中、サッカー場で見つかった破片がイラン製のファラク1ロケットと一致することを示す証拠を発表しています。

イラン製のファラク1は50キログラムの弾頭を持ち、射程は10キロ。このファラク1はレバノンではヒズボラが独占的に使用しているとされています。

更に、イスラエル国防軍は、レバノン南部のシェバア地域から発射された大型ロケットの飛行経路も公表しています。

イスラエル国家安全保障会議の報道官エイドリアン・ワトソン氏は声明で「それは彼らのロケットであり、彼らが支配する地域から発射された……普遍的に非難されるべきだ……ヒズボラを含むイランが支援するあらゆる脅威に対して、イスラエルの安全保障に対する我々の支援は鉄壁で揺るぎないものだ」と批判。イランが支援するテロ集団は「イランのいわゆる『抵抗の枢軸』に属するもう一つのテロ組織ハマスとの連帯を主張し、10月8日にイスラエルへの砲撃を開始した」と付け加えています。




2.ゴラン高原


ゴラン高原とは、シリアの南西部クネイトラ県に存在する平均標高約1000m、面積約1750キロ平方メートルの岩地の高原です。ヘルモン山の南麓に位置し、ヨルダン川流域を見渡せることから、軍事戦略上はもちろん、水源確保の意味でも重要な拠点となっています。

ローマ時代にはガウラニティスと呼ばれ,バグダード、ダマスクスと地中海沿岸を結ぶ隊商路でした。7世紀アラブに征服され現在のアラビア語名がつけられ、1916年のサイクス=ピコ協定でシリア領となります。

1948-49年の第1次中東戦争以後はシリアの軍事要塞となり、1967年の第3次中東戦争以後、イスラエルによって占領されていいます。

人口は1967年の戦争前は約4万。この戦争によりイスラム教徒の大半が移動し、1971年推定で約5000~6000となっています。1968年からイスラエルの入植が始まり、1973年までに入植村17が建設されました。

1973年の第4次中東戦争後、イスラエルの入植活動はさらに活発となり、1981年には事実上併合状態となりました。1990年までには、さらに35の入植村が建設され、ユダヤ教徒の数は約1万3000人となっています。これに対しシリア人は約1万6000人で6ヵ村に住んでいる状況です。シリアは現在もゴラン高原の全面返還という基本姿勢を変えていないのですけれども、イスラエルはここにイスラエル政府の行政支配権を確立しようと目論んでいるとされています。


3.アイアン・ドームの故障


一方ネットでは、ヒズボラのロケット攻撃ではないという書き込みや動画も散見されているようです。

マジダル・シャムス上空で撮影されたというある動画では「アイアン・ドームの故障と、イスラエルの迎撃ミサイルがスタジアムのアラブ市民の頭上に落ちた瞬間を映している」という説明付きで爆発している様子を映したりしているほか、「救急隊員を含むイスラエルの目撃者は、ヒズボラがマジダルシャムスにロケット弾を発射したとする軍の主張に異議を唱え、それがアイアンドームミサイルだった可能性を示唆している」という動画もあるようです。

タイムズ・オブ・イスラエル紙は28日の記事で「ヒズボラは土曜日、マジダル・シャムス近郊のイスラエル国防軍基地にファラクロケットを発射したと発表したが、北部の町で民間人が犠牲になったとの報道が出ると、同テロ組織は方針を一転し、関与を否定した」と報じています。

実際、ヒズボラは、これまでもゴラン高原にあるイスラエル軍の基地を攻撃しています。

3月11日、ヒズボラはゴラン高原にあるイスラエル軍の防空前哨基地をドローンで攻撃したと発表しました。ヒズボラは、パレスチナ自治区ガザのパレスチナ勢力への支持を示すためにこうした攻撃を再度実施したと表明し、4機のドローンを投入し、正確に目標を攻撃したとしています。

仮に、ヒズボラがマジダル・シャムス村近郊のイスラエル基地にファラクロケットを発射したとしても、イスラエルがロケット弾迎撃用の防空システムであるアイアンドームで迎撃するのは至極当然ともいえ、結局どちらの可能性もあることになります。





4.紛争拡大を恐れる欧米


今回の件に絡んで、欧米各国はイスラエル対ヒズボラの紛争拡大を懸念しています。

7月28日、日本で日米2プラス2共同記者会見が行われたのですけれども、そこで今回の件についての質問が飛びました。該当部分のみ引用すると次の通りです。
【前略】

WSJ記者: わかりました。マイケル・ゴードン、 ウォール・ストリート・ジャーナルです。

【中略】

中東の危機を鑑みて、ブリンケン国務長官に一つ質問があります。米国は、サッカー場を襲ったゴラン高原へのロケット弾攻撃はヒズボラの仕業だと評価していますか?米国は現時点で、この地域でのより大規模な戦争を回避するためにどのような措置を講じていますか?そして、もし戦争が勃発した場合、米国はイスラエルを支援し、イランのミサイルとドローン攻撃に対して行ったように、イスラエルを守るために軍事介入するでしょうか?

【中略】

ブリンケン国務長官: マイケル、ゴラン高原に関して、まず申し上げたいのは、我々は目撃した人命の損失に深い悲しみを覚えているということです。テロを正当化する理由は全くありません。あらゆる兆候から、ロケット弾は確かにヒズボラからのものであることがわかります。

我々はイスラエルがテロ攻撃から国民を守る権利を支持します。そして我々がガザでの停戦に懸命に取り組み続けている理由の一つは、ガザのためだけではなく、イスラエルとレバノンの間のブルーラインを越えて平穏、永続的な平穏をもたらす機会を本当に(聞き取れず)得るためです。我々はガザ紛争を終わらせると決意しています。紛争はあまりにも長く続いてきました。あまりにも多くの命が失われました。我々はイスラエル人、パレスチナ人、レバノン人が紛争と暴力の脅威から解放されて暮らす姿を見たいのです。

そして、ブルーラインに関しては、私たちが紛争の鎮静化を支援することが非常に重要です。紛争の激化や拡大を防ぐだけでなく、鎮静化も支援する必要があります。イスラエルとレバノン両国には、家を追われた非常に多くの人々がおり、イスラエル人は6万から7万人、レバノン人もほぼ同じ数です。安全な環境がなければ、彼らは家に帰ることができません。ですから、私たちはそれを実行する決意です。

我々はイスラエル政府と協議中です。繰り返しますが、私はイスラエルが国民を守る権利を持っていること、そして国民がそれを確実に行えるようにするという我々の決意を強調します。しかし我々はまた、紛争が激化することを望んでいません。紛争が拡大するのを見たくないのです。これは10月7日以来、我々の目標の1つであり、今後もそれを続けていきます。しかし、繰り返しますが、それを持続的に行う最善の方法は、我々がほぼ1日中毎分懸命に取り組んでいるガザでの停戦を実現することです。
イスラエルとレバノンは公式な外交関係を持たず、形式的に戦争状態にあります。

1982年6月、レバノンに侵攻したイスラエルはレバノン国内に独自のセキュリティ・ゾーンを設けました。このセキュリティ・ゾーンは2000年6月、イスラエル軍の完全撤退により解消されたのですけれども、このとき、国連はレバノンとイスラエルの境界線を画定しました。これがいわゆる「ブルーライン」です。

レバノン政府は、イスラエル撤退後の地域に徐々に支配力を及ぼしはじめ、国連レバノン暫定軍(UNIFIL)をブルーライン付近に展開するようになりました。同時に、ヒズボラの民兵もこの地域に入り、事実上、ヒズボラがブルーラインのレバノン側地帯を支配し始めたのですね。

ブリンケン国務長官は、ブルーラインの安定と紛争の拡大阻止を訴える一方で、イスラエルが国民を守る権利を持っていることを強調するとイスラエル支持を明らかにしています。

また、フランスのマクロン仏大統領はネタニヤフ首相との電話会談で、マジダル・シャムスへの攻撃を「最も強い言葉で」非難したのですけれども、ヒズボラについては言及せず、「フランスは紛争の全当事者にメッセージを送り、この地域での新たな緊張の高まりを回避するために全力を尽くすと約束している」と述べました。

更に、イギリスのデービッド・ラミー外相も「イギリスは、少なくとも12人の命を奪ったゴラン高原での攻撃を非難する……我々は、さらなるエスカレーションと不安定化のリスクを深く懸念している。ヒズボラは攻撃を停止しなければならないと明確にしてきた」とツイートしています。

けれども、今回のゴラン高原マジダル・シャムスの攻撃が、ヒズボラのロケット攻撃か、イスラエルのアイアンドームの故障ないし迎撃失敗なのかどうかで話は違ってきます。

イスラエルとアメリカはヒズボラのせいにしていますけれども、マクロン大統領が攻撃を批判しつつもヒズボラについて言及しなかったことを考えると、ヒズボラの攻撃だと断定するのは早計かもしれません。

なんにせよ、これ以上戦火が拡大しないことを祈ります。


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