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1.とっとと出てけよ
7月18日、長野県茅野市にある蓼科山聖光寺が開催する、夏季大法要に出席したトヨタ自動車の豊田章男会長の発言がネットを中心に炎上しました。
発言はメディアの囲み取材で、豊田会長が「今の日本は頑張ろうという気になれない」、「ジャパンラブの私が日本脱出を考えているのは本当に危ない」などと発言。さらに報道陣に「強い者をたたくのが使命と思っているかもしれないが、強い者が居なかったら国は成り立たない」と海外移転を匂わせるような発言をしたと報じられたのですね。
この発言にネットでは《とっとと出てけよ》、《豊田章男の逆ギレ自己正当化、ほんとに滑稽だな》、《今すべきなのは己の不正と正面から向き合うことであるはず》と炎上。
また、日本大学危機管理学部教授の西田亮介氏は「端的な居直りであり、論点のすり替え。日本における型式指定のコストや妥当性は正面から問題提起すべき。朝日新聞は、日本を代表する企業の会長の法令遵守意識の妥当性について、英語版などを通じてむしろ世界に向けて報じ、問題提起していけばどうか」と指摘。東京大学大学院教育学研究科教授の本田由紀氏も「傲慢のひとことにつきる」と切って捨てています。
こうした批判の声について、2ちゃんねるの開設者で実業家のひろゆき氏は「『とっとと出てけ』とかいう人は、日本経済を壊そうとしてるのか、トヨタが日本から居なくなって経済が落ち込んで社会が回らなくなることがわからないぐらい頭が悪いのか、どっちなんですかね?」とコメントしたのですけれども、これに対してフォロワーからは「トヨタ出て行ったらヤバいでしょ」「不正について聞かれてこの答えじゃ出てけいわれてもしゃあないわ」「むしろ愛国云々の連中に下品な人が増えた?」などのコメントが寄せられました。
2.正しい事実を見て評価してほしい
では、豊田会長は本当に日本を出ていくぞと逆切れしたのか。
これについて7月23日、ベストカーWebは「豊田章男会長『今の日本は頑張ろうという気になれない』の本当の宛先は…メディアだった」という記事を掲載しています。
件の記事の一部を引用すると次の通りです。
今回話題となっているトヨタ自動車豊田章男会長の「今の日本は頑張ろうという気になれない」という発言があったのは、2024年7月18日に長野県茅野市にある蓼科山聖光寺で実施された、交通事故死者の慰霊や負傷者の快復を祈願する「夏季大祭」での、メディア向け囲み取材でのことだった。この記事によると、豊田会長はメディアに対して自動車業界の「事実」を報道してほしい。さもないとみんな日本から出ていくよ、と一般論として注文したのですね。
「聖光寺」は1970年にトヨタグループの発案で交通事故死者の慰霊と安全祈願のために建立されたお寺で、毎年トヨタグループの代表者が夏季大祭に参加している。
なぜこうした背景が重要かというと、(取材に参加したメディア関係者は全員わかっていて、あえて一部しか報じていないが)今回の豊田会長の発言は「交通安全をさらに進めるためには何が必要か」という文脈の延長で出た話である、という点があるから。
そもそも認証不正問題とは関係がない。
豊田会長は、「交通事故防止のためには、自動車会社だけ、クルマ側だけでは、出来ることには限界がある。交通安全を推し進め、事故死者ゼロを本気で進めるのであれば、道路インフラ側や歩行者側、自転車や(電動キックボードなどの)新モビリティ側など、社会全体が一体になって進める必要がある」と語った。
「こうした話は、なかなか自動車会社からは言えない。言っても広がらない。我々もがんばりますが、そこは(メディアの)皆さんのお力を借りたい」と、豊田会長は続ける。
より具体的に言えば、今後50年先を見据えて、本気で自動車事故を減らすために(自動車会社だけでなく)行政や道路整備、自転車、歩行者といった社会全体で手を取り合って「安全」や「モビリティを含む社会のありかた」を考えましょうよと語り、その「社会全体」へ訴える手段のひとつとして、メディア関係者に語ったわけだ。
そのうえで、この日、豊田会長は当該発言について、実際には以下のように語っている。
「日本のサイレントマジョリティは、日本という国にとって、いま、日本の自動車産業が世界に対して互角以上に戦っていることについて、ものすごく感謝してくれていると思います。
ところがそれが、日本という国ではすごく伝わりづらいんですね。当たり前になっちゃっているのかもしれない。
もし日本に自動車産業がなかったら、いまの日本は違ったかたちになってしまうでしょう。それに対して感謝してほしいと言っているわけではありません。ただもうちょっと正しい事実を見て、評価してほしい。
(自動車関連会社が)間違ったことをしていたら怒ればいいと思います。そのうえで、応援していただけるのであれば、応援しているということが、自動車業界の中の人たちにまで届いてくれると、本当にありがたい。
そうしないと本当に、本当に、みんなこの国を捨てて出て行ってしまいます。出て行ったらこの国は本当に大変ですよ。
ただ、いまの日本は、ここで踏みとどまって、頑張ろうという気になれないんですよ。
(居並ぶメディア関係者に一瞬目線を送って)
強いものを叩くことが使命だと思ってらっしゃるかもしれませんが、強いものがいなければ、国というものは成り立ちません。強いものの力をどう使うかということを、しっかり皆さんで考えて、厳しい目で見ていただきたい。強いからズルいことをしているだろう、叩くんだ、というのは、これはちょっとね……、でもそこは自動車業界の声として、ぜひお考えいただきたいと思います。」
上記の発言をよく読めばわかるとおり、豊田会長は第一にメディアに向けて語っているということがわかる。この点、ベストカーも含む自動車情報専門メディアにも大いに責任があり、耳が痛い。すみませんでした。
この記事を信ずる限りでは、豊田会長が逆切れして脅した、なんてのは当たらないと思います。
3.メディアは犯人捜しになるんです
そもそも、マスコミのトヨタ叩きの切っ掛けとなった認証不正問題にしても、本来の目的である安全性試験の観点からみれば、不正どころか国際基準に乗っ取ったものです。
7月9日、文春オンラインは「トヨタ自動車・豊田章男会長が認証不正問題の渦中に独占告白!」という記事を掲載しています。
件の記事の概要は次の通りです。
トヨタでは、7つの車種について6つの試験で不正が発覚し、現在生産中の「ヤリスクロス」「カローラアクシオ」「カローラフィールダー」の3車種は7月以降も生産停止の状況が続いている。インタビューで豊田氏は認証制度についての率直な考えを吐露している。トヨタは、クルマの後ろから重い台車をぶつけるテストで日本の認証制度基準である1100キロではなく、アメリカの基準を意識して、日本の基準より700キロ重い1800キロの台車をぶつけて試験しそのデータを使ったのだそうです。
〈認証制度は絶対に守らなければいけない制度です。ただ、例えば、今回トヨタがやっていた試験では、クルマの後ろから重い台車をぶつけるテストがありましたが、基準より700キロ重い台車をぶつけたんです。それでそのデータを使った。これはアメリカの基準を意識したものでした。だけど日本の制度は「1100キロでやりなさい」となっているから、1800キロでやるのは法令違反。(中略)
その試験で守るべき保安基準とか、品質管理のやり方を決めているのが認証制度です。厳しい条件で試験を行っても、日本の法規に沿っていなければ法令違反と認定されます。このルールは見直しませんか、ということを今、われわれの口から言ってはいけないことはわかっています。言ってはいけませんが、でも本音を言えば、いずれかの時点では見直す議論が出ても良いと思っています〉
認証不正が発覚した6月3日の夕方、トヨタは緊急記者会見を開いた。そこには佐藤恒治社長の姿はなく、会長である豊田氏自らが登壇して状況を説明している。現在の心境を問われて豊田氏が「ブルータス、おまえもか」と発言したことには批判の声も上がっていた。
〈あれには前段がありましてね。グループ会社では、最初に日野自動車の認証不正が発覚しました。社内で問題が分かった段階で、私は「早く発表した方が良い」と3回も4回も繰り返し言ったんです。ところが発表は結局、1年以上も遅くなってしまった。
ダイハツの場合は最初、内部告発から始まりましたから、私は告発があった工場に行って、「ここに内部告発した人がいるそうだけど、ありがとう」と御礼を言いました。その人のおかげでわかったんだから。周囲にも「犯人捜しをするなよ」と言いました。だけどダイハツも世の中に説明するまでに、時間がかかった。それでトヨタグループの信頼を失うところまで持っていってしまった。(中略)
グループに問題が起きれば、メディアは再発防止=原因追及=犯人捜しになるんです。だからあの会見では「私が犯人です」と自首したわけです。私が自首すると何がいいかというと、現場が落ち着くんです。私は誰のせいにもしませんから。私が出て行って、「信頼を失ったのは私の責任です」と明確にすることによって、組織はもう一度動き始めるんです。(中略)
あれ(「ブルータス、おまえもか」の発言)は考えていました。考えたのは私です。想定問答をやった時に、私だったら「ブルータス、おまえもか」とまず言うなと。そうしたら、やはり「会長はどう受け止めたか?」という質問が来ましたので、あのように答えたわけです〉
今回のトヨタ自動車の認証不正は内部告発ではなく国交省が指導した調査によって発覚している。そのためトヨタ自動車の現場には、不正があっても見過ごしてしまう「もの言えぬ」雰囲気が蔓延しているのではないか、との指摘もあがっていた。
〈私が再三言ってるのは、絶対に完璧なんかないということ。だから間違いはするという前提でやっている。そして現場の人たちは、絶対に本音なんて言いません。だから現場の人たちが何か言ってきた時に、本当は何が言いたいんだろうなと想像力を働かせないとやっていけません。だから私の段階ではないと言っているのはそういう意味です。大切なことは、私がどれだけ感知できるかです。ただね、37万人もの従業員がいて、1000万台も売って、世界中で作って売っているんですよ。すべてを感知できるかというと無理です。ぜんぶを完璧にやるなんて無理だと思います〉
【以下略】
認証基準よりもより厳しい条件でテストしてクリアしたのだから、本来は褒められるべきものの筈です。それが法令違反とは。
更にトヨタ会長は、グループに問題が起きれば、メディアは犯人捜しになるから、先手を打って会見では「私が犯人です」と自首することで現場を落ち着かせたというのですね。自分は知らなかったなどと嘯くどこかの裏金議員に聞かせてやりたいセリフです。
4.制度の合理化と妥当性
このトヨタ側の言い分について、不正発覚直後の6月4日、国土交通省の大臣記者会見で記者質問がありました。
質問のやり取りを抜粋すると次のとおりです。
(記者)国土交通省は、日本の型式指定制度は、国連の自動車認証制度に沿ったもので、国連基準に規定された試験方法になっているというのですね。
昨日私も、ユーチューブ、生会見とメーカーの会見を拝見していました。
大臣も御案内のとおり、国際基準調和でやっているので、本来認証についていうと、メーカーが品質面で国際基準調和を下回るような品質は元々ないということで、各社割と品質については自信がある、ただ認証のルールを破ったのは申し訳なかったという言い方を口を揃えて言っているのですが、当局としても、順次国際基準調和について日本のルールとすり合わせをやっているものの、一部はまだこれから手を付けなければいけないものもあります。
この辺の当局の考え方はどうされているのか。
それからメーカーの一部もおっしゃっていましたが、業界として国のルールをしっかり守っていくことについては各社決意を示されていました。
大臣として、例えば自工会の幹部の方々と対話をするなどのお考えはありますでしょうか。
(大臣)
昨日の各社の記者会見の模様については、一字一句全部見たかどうかは別として把握をしています。その上で今回各社調査の結果、各社においては型式指定申請での不正行為があったことが判明しており、各社においてはまずは不正行為の再発防止に注力いただくことが重要と考えています。
また、まだ調査が終わっていない会社もあります。
その会社においては不正行為にかかる調査を進め、速やかに最終的な調査結果を提出するよう求めているところです。
また、日本の型式指定制度は、国連の自動車認証制度(WP29)がありますが、国連の自動車認証制度の枠組みと調和したものとなっており、試験方法についても、国連基準に規定されているから、これに沿った取り扱いとする必要があります。
その上で、各国で規定する認証の提出書面等に関する詳細手続きについては、合理的なものとなるよう常に見直しを行ってきたつもりですが、これからもメーカーとの意見交換はしっかり行いつつ、合理化できる部分については合理化していかなければならないと考えており、自動車メーカー等関係者の皆さまともしっかり意思疎通、意見交換しながら自動車認証制度が適切に運用されるようしっかり対応していかなければならないと思っています。
もう一度繰り返しますが、根幹は国連の自動車認証制度の枠組みと調和した試験方法、国連基準に規定された試験方法を取っているということです。
トヨタで不正が判明したとされる試験は次の六つで、乗用車に関する国連基準43項目に含まれ、不正の内容は日本だけでなく国連の基準にも反していたとされています。
〈1〉オフセット(前面一部分)衝突時の乗員保護前述した台車を後ろからぶつけるというのは〈3〉の後面衝突に当たります。
〈2〉歩行者の頭・脚部の保護
〈3〉後面衝突
〈4〉エンジン出力
〈5〉前面衝突時の乗員保護
〈6〉積み荷移動の防止
また〈2〉の歩行者の頭・脚部の保護について、トヨタは記者会見などで、国の定める「衝撃角度50度」ではなく、開発試験の「65度」のデータを使ったと説明。50度で再試験すべきだったと謝罪しつつ、「65度の方がより厳しい条件だ」と主張していますけれども、国側は安全面でより厳格な試験になるか否かはボンネットの形状などでも変わり、角度の違いで一概に決められないとしているようです。
トヨタを含む5社は不正が明らかになった38車種について、「国の基準に適合しており、乗り続けて問題ない」などとしていますけれども、国交省は独自に試験するとしています。
メーカー側からは改めて、国際競争力の観点などから「制度の合理化」を求める声が出ていますけれども、国のいう基準通りにやらなかったのは、やらないだけの理由がある筈で、その辺りの詰めを放置していては、この種の問題はいつまで経っても消えないと思います。
一部ネットなどでは、国土交通省によるトヨタ虐めだ、なんて批判の声もあるようですけれども、国はメーカーと協力して基準の決め方やその妥当性について、十分議論した上で広く世に公知すべきではないかと思いますね。
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