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1.日経大暴落
8月2日、日経平均株価が暴落。売りが売りを呼び、7月につけた史上最高値から6000円以上安い、3万5909円で取引を終えました。
前日からの下げ幅は2216円。ここまでの値下がりは、遡ること37年。1987年にコンピューターの自動売買システムが引き起こした世紀の大暴落「ブラックマンデー」の翌日に次ぐ下げ幅となりました。
連日の暴落の背景にあるのは、円高とアメリカの株安が指摘されています。
7月31日、日銀が利上げを決めた後、相場は大きく円高に振れたのですけれども、これについて、マネックス証券チーフでFXコンサルタントの吉田恒氏は、次のように述べています。
2006年から2007年にかけて、日銀はゼロ金利解除と追加利上げと2度の利上げを行った。ただCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、日銀の利上げにもかかわらず円売りの流れは変わらなかった。吉田恒氏は円高になったのは、投機筋がそれまでの円売りの手仕舞いに動くタイミングに、日銀利上げが重なったからではないかと述べています。
この2006~2007年にかけての局面で、投機筋は記録的な円売り拡大に動いていたが、その最大の拠り所は、当時日米政策金利差米ドル優位・円劣位が5%という大幅な状況が長期化していたことだった。そう考えると、日銀の利上げでも、金利差米ドル優位・円劣位縮小が極めて小幅にとどまる中で、円売りの流れが変わらなかったのも辻褄が合うところだ。
最近の米ドル/円を取り巻く状況は、特に大幅な日米金利差米ドル優位・円劣位など2006~2007年とよく似ている。
【中略】
ところが、7月31日の日銀の金融政策決定会合を前にして、一部報道などにより利上げ決定の可能性が高まると155円台から152円台へ大きく米ドル安・円高が進み、さらに正式な利上げ決定後に一段と米ドル安・円高が拡大した。なぜマーケットは今回、日銀の利上げに対して大きく円買いで反応したのか。
投機筋の代表格であるヘッジファンドは、120日MAなど過去半年平均値を大きく下回ってくると買いポジションの手仕舞いを本格化させる傾向がある。これは買いポジションの損失拡大を回避することなどが目的と考えられる。
以上を参考にすると、今回日銀会合前に米ドル/円が120日MAを割れてきたことで、ヘッジファンドなどは大きく米ドル買い・円売りに傾斜したポジションの手仕舞い、つまり米ドル売り・円買いを本格化していた可能性があり、そうした中から基本的に円買い材料である日銀利上げに敏感な反応になったということではないか。
【中略】
今回は、4月の日銀会合とは反対と言ってもよい、投機筋が米ドル買い・円売りポジション手仕舞いに動く中で、日銀利上げは素直に米ドル売り・円買い材料になった可能性が高かったのではないか。
2.アメリカ経済の不確実性は増していく
今回のアメリカの株安は、8月2日に発表された7月雇用統計で失業率が2年9か月ぶりの高さになるなど、経済の見通しへの懸念が一気に深刻化したためと言われていますけれども、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は7月30~31日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利のフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を現在の5.25~5.50%に据え置くことを決定しています。
これについて、アメリカ経済を専門とする大和総研の矢作大祐主任研究員は、東洋経済ONLINEのインタビューに次のように答えています。
――今回のFOMCの結果をどう見ますか。矢作氏は、アメリカ経済は大幅な景気悪化を経ずにインフレが減速していくという、ソフトランディングに向かって進展しているとした上で、パウエル議長が今回のFOMCで雇用環境の悪化に対しても注意すべきと指摘したことから、利下げ可能性を示唆したのは、景気や雇用環境の悪化を知っていたからではないか、と市場は受け止めたと指摘しています。
FOMC後の記者会見でパウエル議長は、インフレ減速に向けた自信が高まったことを強調するとともに、雇用環境の急激な悪化に関して注意深く見守るというようなスタンスを示した。これはインフレ高止まりのリスクと、雇用環境悪化のリスクがより均衡しつつあることを意味する。
こうした景気・インフレ判断のもとで、利下げはデータ次第という前提は維持しつつも、早ければ次回9月のFOMCで利下げが選択肢となりうると述べている。
市場の中では、9月のFOMCでの利下げに向けて明確なフォワードガイダンスが欲しかったという声もあった。しかし、FOMCとしてはインフレ減速に向けて進展が見られている一方で、高止まりのリスクの有無を慎重に判断する必要がある。その中でも、パウエル議長が9月の利下げの可能性を指摘したことは、市場に対して最大限の配慮を示したといえるだろう。
――インフレや個人消費が減速し、金融市場では、年内にFRBが複数回利下げすることへの期待も出ています。FRBと市場のそれぞれの先行きの見通しについてどのように評価されますか。
9月のFOMCでの利下げ可能性が示唆されたことで、市場の注目は利下げのペースに移った。これに対し、パウエル議長は、どのようなペースで利下げを進めていくかは本当に経済のデータ次第であり、不確実だと記者会見で述べている。
そもそも6月のFOMC時点で、参加者のFF金利予想は、2024年内の利下げ幅は25ベーシスポイント(0.25%pt)であり、9月に利下げを実施すれば、その後は据え置きということになる。仮に2024年内に0.25%ptの利下げが2回以上行われるとすれば、FOMC参加者が想定する以上にインフレが減速しているか、雇用環境が冷え込んでいることが前提となるだろう。
例えばPCE(個人消費支出)価格指数に関しては、FOMC参加者による2024年10~12月期のPCE価格指数見通し(中央値)は前年同期比+2.6%だ。4~6月期の実績値は2.6%と、すでにFOMC参加者による見通し(中央値)と同等となっている。
2024年10~12月期までPCE価格指数が1カ月当たり前月比+0.2%程度で推移すれば、このまま中央値を達成できることになる。言い換えれば、1カ月当たり前月比+0.2%よりも伸び幅が小さくなれば、FOMC参加者が想定する以上にインフレ減速が進んでいることになり、2024年内に0.25%ptの利下げが2回以上となることも想定され得るだろう。
雇用環境に関しては、6月のFOMC時点でFOMC参加者による2024年10~12月期の失業率見通し(中央値)が4.0%となっている。4~6月期の失業率の実績値は4.0%となっており、すでにFOMC参加者の見通し(中央値)と同等まで上昇した。失業者数の四半期当たりの増加ペースが前期差+8万人程度であれば、10~12月期においても失業率は4.0%程度となる。
他方で、失業者数の四半期当たりの増加ペースが前期差+16万人程度(2024年1~3月期、4~6月期の平均増加ペース)、+31万人程度(4~6月期の増加ペース)となれば、10~12月期の失業率はそれぞれ4.1%、4.3%とFOMC参加者の見通しの中央値を上回ることになる。
失業率が4.1%にとどまれば、FOMC参加者の想定内といえるが、直近の失業者数の増加ペースが続き、失業率も4.3%まで上昇するような兆しが見られれば、少数のFOMC参加者しか予想していない水準ということになる。7月の雇用統計で失業率が4.3%まで上昇したことは、2024年内の利下げ回数を増やす根拠となり得るだろう。
――今回のFOMCとその後の会見の内容につながった足元のアメリカ経済や今後の注目点は何でしょうか。
アメリカ経済は大幅な景気悪化を経ずにインフレが減速していくという、ソフトランディングに向かって進展している。CPI(消費者物価指数)やPCE価格指数は4~6月期におおむね減速した一方で、先週公表された4~6月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.8%と堅調な伸びを示した。
民間最終需要(個人消費、設備投資、住宅投資の和)が同+2.6%となり、内需主導で景気は堅調と判断できる。そのため、利下げを急ぐほどの景気悪化の兆しは見られない。むしろ、7月に利下げを判断しようものなら、景気悪化が非常に近いことをFRBだけが知っているというような印象を市場に与えてしまうだろう。
ただ、インフレの高止まりリスクと景気下振れリスクのどちらもが同居している点は注意が必要だ。生産者物価指数(PPI)は前年比ベースで加速している一方で、CPIは前年比ベースで減速している。これは企業収益が悪化する可能性がある。
企業は薄利多売で収益を確保する選択肢も持つが、それは景気が万全のときだろう。景気に下振れリスクがあれば、薄利多売はしにくい。企業が値下げに躊躇すれば、結果的に最終販売価格、言い換えればCPIも下げ渋る可能性がある。
カギとなる景気に関しては、足元まで堅調ではあるものの、低中所得層を中心にクレジットカードの延滞率やカーローンの延滞率は上昇している。また7月半ばから起きた株価の調整は、高所得層の所得効果を減らし得ることから、個人消費が減速する可能性はあるだろう。
――ソフトランディングがメインシナリオということですが、8月2日には日経平均も歴代2番目の下げ幅(5.8%下落の2216円安)となりました。足元で新規失業保険申請件数の上振れや製造業景況感指数の悪化で、アメリカ経済の下振れリスクが懸念されたことも拍車をかけたようですが、アメリカ経済は悪化傾向を強めますか。
これまでは、「Bad News is good news」(悪いニュースはいいニュース)と捉えられていた。しかし、インフレが落ち着きつつあり、景気の下振れリスクが懸念されつつある中で「Bad News is bad news」(悪いニュースはやはり悪い)と捉えられたといえよう。
こうした背景には、パウエル氏が今回のFOMCで景気、とりわけ雇用環境の悪化に対しても注意すべきと指摘したことがあるだろう。パウエル議長が利下げ可能性を示唆したのは、景気や雇用環境の悪化を知っていたからではないか、と市場は思ってしまう。
他方で、景気の下振れリスクに関しては、ISM製造業景況感指数を過信するべきではなく、新規失業保険申請件数も昨年の同時期に増加したように季節性が出やすいことを考慮すべきだ。景気の下振れリスクを意識すべきか否かは、最注目の雇用統計とISM非製造業景況感指数の結果次第といえる。
こうした中で、7月の雇用統計は失業率が上昇しただけでなく、非農業部門雇用者数も市場予想を大きく下回ったことから、雇用環境の悪化を示唆している。ISM非製造業景況感指数は6月に好不況の分かれ目である50%を下回っており、7月も下回れば景気悪化リスクが一層意識されやすくなるだろう。
――ハードランディングの可能性や今後リスクシナリオにつながると注目する要素やポイントは何でしょうか。
金融・株式市場、移民流入など、これまでアメリカ経済を支えてきた諸要素が急変しないことがソフトランディングのカギとなる。例えば、債券利回りが大幅に低下してしまえば、インフレ圧力が大幅に緩和してしまう。
逆に債券利回りが大幅に上昇すれば、金融環境が急激にタイト化し、金融システムに負荷をかけたり、景気に悪影響を及ぼしたりする。また、株価が大幅に上昇すれば、資産効果が生まれる。他方で、株価が調整局面となれば、資産効果は減り、個人消費の下振れリスクともなりうる。
また移民に関しては、これまで労働供給増加の担い手であるとともに、需要増加の担い手でもあった。バイデン政権は6月以降、移民規制を強化したが、移民が急激に減ってしまえば、労働需給の緩和が進みにくくなり、インフレ圧力が温存しかねない。
適度な金融環境や移民流入がソフトランディングを可能にするが、それが逆回転すれば、ソフトランディングの蓋然性は低下する。つまり、これまで通りを維持することが重要だといえる。金融政策運営を通じてこれまで通りのアメリカ経済の実現をサポートできるかがFRBに求められている。
――大統領選まで約3カ月です。またハリス氏もトランプ氏も積極財政の姿勢ですが、市場や経済にどのような影響が考えられそうでしょうか。
従来の大統領選挙と景気の関係は、景気が良ければ現職に有利、景気が悪ければ対抗馬に有利というものだった。景気悪化を伴わずに、高インフレから脱却し、利下げへとこぎつければ、バイデン政権には追い風だ。
ただ、今回バイデン氏は大統領選挙から撤退し、ハリス氏が代わりに参戦する見込みだ。ハリス氏もバイデン政権の中心人物のひとりであるが、アメリカ経済のソフトランディングがハリス氏の実績として認識されるかは不透明といえる。
大統領選挙後のアメリカ経済に関しては、議会で民主・共和党のどちらが多数派をとるかによって積極財政の実現度が左右される。ねじれ議会など、大統領と議会の多数政党が異なれば、議会の承認が必要な財政政策は実現が難しくなる。
11月の上下院選挙に関しては、上院は共和党が優勢、下院も僅差で共和党が優勢だ。トランプ氏が大統領選挙で勝利すれば、減税は打ちやすくなると考えられる。ただし、共和党内で財政規律を重んじる議員も存在することから、大幅な多数派にならない限りは、トランプ氏でも大規模な景気対策は難しくなるかもしれない。
他方で、ハリス氏が勝利した場合は、ねじれ議会となることが想定される。ハリス氏は分配政策や気候変動対策に積極的だが、法案成立のハードルは高い。大規模な財政政策が難しいということは、需要喚起によるインフレ圧力の高まりを避けるという意味ではポジティブとも考えられるだろう。
現大統領であるバイデン氏が撤退した以上、トランプ氏が勝利するにせよ、ハリス氏が勝利するにせよ、政策の不確実性は高くなる。景気悪化を避け、インフレの高止まりを避けることだけでも困難であるにもかかわらず、当面は政治要因によってアメリカ経済の不確実性を増すことへの心の準備が必要だろう。
そして、大統領選の結果に関わらず、政治要因によってアメリカ経済の不確実性は増していくだろうと予測しています。
3.バブルは弾ける
今回の株価暴落について、既に識者から警告が出ていました。
JBpressは年2月23日の対談記事「《中野晴啓の正しい投資》澤上篤人×中野晴啓対談(前編)」で、次のように述べています。
──株価の急騰が続くなか、今年1月から新たなNISAが始まり、多くの投資初心者が資産運用を始めるきっかけとなっています。ともに独立系運用会社を創業したお二人は、出足をどう評価していますか。澤上氏は、株価について、バブルを生み出している3つ要素である「過剰流動性」「年金マネー」「金利ゼロ」が、どれも限界にきていることから、暴落すると述べていますけれども、この記事が掲載された2月23日から約半年経って日経大暴落が起こった訳です。
中野:いろいろな場所で講演をする度に「これまで何もやっていなかったのだけど、NISAをどう始めたらいいですか」という質問をたくさん受けます。新NISAで資産運用への関心が一般化したのはすごくいいことだと思います。長い目で見れば、貯蓄から投資へお金の流れを変える第一歩になりえますから。
ただ、今は「よーい、どん」で多くの人が飛びついた状況で、この先、「こんなはずじゃなかった」という戸惑うタイミングが押し寄せると思います。
──どういうことですか?
中野:投資に対する理解が浅薄のまま始めてしまった人が非常に多いのではと懸念しているのです。
例えば、多くの人が「オルカン」に飛びついていますよね。「オールカントリー」、全世界株式のインデックス型の投資信託です。米株式指標の1つである「S&P500」にも大量の資金が流入しています。このタイミングでオルカンやS&Pに投資をした人の中には、過去20年などの実績だけを見て、「確実に儲かる」と思い込んでいる人も少なくないでしょう。
でも、いずれ株価は下落トレンドに必ず転じます。そのとき、パニックになる人が出てくることを心配しています。株価が回復するまで、ぐっと耐えて長期保有できればよいのですが、資産運用に関する理解が浅いと、株価が下落していく怖さに耐えられません。その結果、かつてのバブルが崩壊した時のように様々な社会問題が噴出してくる可能性もあります。
澤上:新しいNISAは、制度はいいがタイミングが悪い。そして、やり方も悪い。
今、マーケットは異常なカネ余りの最終段階で、株価はいつ弾けてもおかしくない。近々、大暴落しますよ。そんなタイミングで新たなNISAが始まり、マーケットの過熱ぶりにさらに火をつけてしまっています。
やり方も悪い。政府が「資産所得倍増」だと煽っている中、金融業界は「これは儲かる」と飛びつきました。NISAは彼らにとって、マーケティング上の格好のテーマだからです。これを機に口座をいちはやく、大量に獲得しようと、金融機関は大騒ぎで、それにみんな踊らされてしまっています。
だから、後で社会問題になりますよ。あの大騒ぎはなんだったのかと。
──今、大暴落は間近とおっしゃいましたが、足下では日本株は大きく上昇し、日経平均株価はバブル期の最高値を更新しました。そのような状況で、「こんなタイミングでNISAに踊らされて大丈夫か」という危機感がある?
澤上:大丈夫か?って、ダメに決まっています。確かに、オルカンもS&P500も、長期で持ち続けられればいいですよ。だけど、これから暴落して長期低迷するとしたら、そのときにみなさん、耐えられますか。いま、日経平均は34年ぶりの高値とか言われていますよね?逆に言えば、元に戻るまでに34年かかったわけです。
中野:政治はマーケットの状況まで考えて新NISAを始めたわけではないですからね。岸田首相にしてみれば、自分が総理の時に始めないと政治的に意味がなくなってしまうから急いだ、という背景もあるのではないでしょうか。
澤上さんは「暴落」と言いますが、私も大きな調整は近い将来必ず来ると思っています。株価が上がることだけを前提に始めた人は、その調整局面を乗り切れずに損失覚悟で資産を売却してしまうでしょう。そうなると、非課税メリットもへったくれもありません。
──澤上さんが「大暴落する」と断言する根拠はなんですか。
澤上:根拠は、バブルを生み出している3つ要素が、どれも限界にきているということです。
1つは、過剰流動性です。そもそも、過剰流動性は1971年のニクソンショックあたりから始まり、これまでに大きく2回、金融引き締めのタイミングがありましたが、リーマン・ショックやコロナ禍をへて、もはや誰も過剰流動性が危険だということ言わなくなりました。かつて、米連邦準備理事会(FRB)のグリーンスパン議長は「根拠なき熱狂」と言いましたが、ブレーキをかけることはなく、それが今まで続いてきてしまった。
そして2つ目が、相場を押し上げてきた年金マネーの膨張も、そろそろ限界が来ているということです。資産運用会社はこれまで、巨大な年金マネーを獲得しようと、次々とベンチマーク(運用の指標とする基準)やシャープレシオ(投資効率の良さを数値化した指標)など成績判断尺度を開発し、毎年の運用成績をアピールしてきました。
資産運用会社の多くは、年金マネーを獲得するためのマーケティング会社に成り下がってしまった。本来、年金は何十年という長期で運用すべきものなのに、短期の運用成績を重視するようになり、マーケティングで集めた年金マネーで債券や株式を買いまくり相場を押し上げてきたのです。
ただ、少子高齢化により毎年の現役世代が納める保険料を高齢者世代への給付額が上回り、年金マネーは「純流出」の状況になります。もはや、相場を押し上げる年金マネーの力は弱くなり始めているのです。
3つ目が、「金利ゼロ」の世界がいよいよ終わるということです。これまではゼロ金利で個人も企業も安易にカネを借りてきました。その結果、世界の債務残高はGDP(国内総生産)比で336%。2021年に記録したピーク時の362%を下回っているものの、地球の経済の3倍以上の借金を抱えていることになります。過去10年で100兆ドルも積み上がっています。
それに対し、世界的なインフレ圧力で金利は上昇してきています。となると、ゼロ金利時代に積み上げた借金(金融契約)は、いずれも大きな負担となっていくわけです。
こんな異常な金融緩和バブルは長続きするわけがありません。実際、インフレが起きているのは、経済合理性が働き始めたと見るべきです。すでに金利が上がり始めており、ゼロ金利で積み上げた借金は返せなくなります。資産バブルがはじけたら、どうやって膨大な借金を返したらいいのか。金利上昇ですでに尻に火がつき始めていると考えたほうがいい。
──バブルはいつ弾けるのでしょうか?
澤上:明日弾けてもおかしくないでしょう。世界の運用マネーの大半を握る機関投資家は、音楽が鳴っている間はダンスを止められないので、マーケット動向から離れようとしない。つまり、自分の判断で独自の投資行動をするリスクを取ろうとしない。彼らがマーケットの動向にべったりだから、これほどマーケットはしぶとく高値に張り付いているんですよ。
中野:過剰流動性で相場がずっと右肩上がりになってきたという成功体験から抜けられないんですよ。これまで投資をしてきた人も、実は本当の意味での「資産運用」ではなくて、上がり続けることを前提に資産を買うこと自体が目的化してしまって場合も少なくないと思います。その典型が、インデックス型投資信託へのマネー流入ではないでしょうか。
しかし、先ほど澤上さんがおっしゃたように、市場全体が右肩上がりになっていくという状況は、もう終わりに近づいています。
澤上:すでに金利が上がってきているので、ゼロ金利を前提に経営してきたゆるい会社は早晩、立ち行かなくなります。そうした会社が倒れ始めたら、マーケットは一気に崩れる。みんなを踊らせてきた音楽は、突然止むんですよ。
我々は炭坑のカナリアみたいに警鐘を鳴らしているけど、マーケットの人たちはみんな無視している。でも、歴史的な大きな流れをみたら、もういつ弾けてもおかしくないわけです。大きな流れを見るのが長期投資の本質ですが、誰もそういうことを語らなくなりました。
私は50年以上、この世界にいるから過剰流動性が始まった時からの状況を全て見ています。ところが、今現役の運用者のほとんどはカネ余りの状況しか知りません。構造的に、かなり根が深い問題ですよ。
一度、暴落が始まったら、リーマン・ショック以上の落ち込みになると見ています。金融当局も、もはや救済する有効な手段を出し尽くしてしまっていますから。
中野:目に見える変化が起きないと、誰も投資行動を変えられないんです。
──どこから崩壊が始まりますか。
澤上:どこから、なにからでも始まる可能性はあります。
中野:中国から始まるかもしれませんね。中国経済はかなりまずい状態だから、中国の方たちが日本株を買って相場を押し上げています。極めて不思議な現象で、その点からも今の日経平均の上昇が長期的なトレンドであるはずがないんです。
【以下略】
4.新NISAの二つの嘘
前述の対談で、今年1月から始まった新NISAで、多くの投資初心者が資産運用を始めるきっかけとなったと指摘されていますけれども、経済アナリストの森永卓郎氏は、6月5日放送のニッポン放送 『垣花正 あなたとハッピー!』で次のように述べています。
・NISAの投資に関する多くの経済評論家の発言には「嘘が2つある」森永氏はここから3割くらいの円高がくると述べていますけれども、放送された6月5日前後の円は1ドル155~156円でした。ここから3割高くなると109円前後になります。
・「分散すればするほど安全だ」というのは大きな間違いで、分散すればするほど利回りが落ちる。そして「長くやれば安定する」と言いますが、長くやるほど損する
・みんなが信じ込んでいるので、目を覚まさせるのは大変なんです
・バブルが崩壊すると株価がドーンと落ちるわけです。さらに新NISAで『オルカン』『S&P500』などを選んででアメリカにお金を流していると、これから3割ぐらいの円高がやってきますから、『株価下落』と『円高』というダブルパンチであっという間にあなたの老後資金は半額以下になりますよ
・資産運用亡国になるというのが私の見立て
・海外マネー特区は日本人の貯蓄を外国資本の草刈り場にしようとしているのが岸田構想
・老後資金は、絶対にバクチを打ってはいけません
もし、このときに新NISAに投資した人は今回の暴落で大きな損失を出していることになりますし、109円くらいまでに高くなるとするど、もっと損することになります。
森永氏は、新NISAについて「分散すればするほど安全だ」と「長くやれば安定する」の2つは嘘だと述べていますけれども、嘉悦大教授の高橋洋一氏は1月5日の段階で、NISAのデメリットとして次のようにのべています。
この新しいNISAのポイントは、非課税保有期間の無期限化▽口座開設期間の恒久化▽つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能▽年間投資枠の拡大(つみたて投資枠が年間120万円、成長投資枠が年間240万円の合計最大年間360万円まで投資が可能)▽非課税保有限度額は全体で1800万円(成長投資枠は1200万円。枠の再利用が可能)―というものだ。高橋教授も新NISAは分散投資に向かないと指摘しています。
非課税枠の拡大など、新NISAはこれまで金融商品投資をしてきた人にとっては好都合だ。これから投資を始めようとする人にとってもメリットが多いだろう。もっとも、多くの銘柄投資をして自らリスク分散している人にとって、損益通算ができないのは注意すべきだ。
通常、複数の口座の利益と損失を合算した金額で税金計算を行うが、NISAは適用除外になっている。また、損益通算で引き切れなかった損失を最大3年間繰越利益と差し引く繰越控除もNISAは適用除外になっている。要するにNISAで損失が出てもこれらの制度の恩恵を受けることができない。NISAで投資できる年間の上限額があるため、複数銘柄に分散させると各銘柄への投資額が少額になるので、分散投資にも向かない。
「株式投資信託で十分」という声もあるが、金融機関による間接投資を好まない人には解決法にならない。筆者のように、金融商品ではなく、身の回りで観察できる実物投資を志向する人にもNISAのメリットは何もない。
高橋教授は今回の暴落について、自身の動画で、円高と米国株の下落で大体説明できるとし、今回、材料が両方出尽くしで、これ以上「つるべ落とし」で下がる可能性は低いとも述べています。
来週どう動くかは注目です。
5.国が推してるものには裏がある
さらに、高橋教授は、先述の動画で、NISAのように国が推すものはあまりお勧めしない、とも述べていますけれども、芸能人の中にもそう発言した人もいます。「ゆうこりん」ことタレントの小倉優子氏です。
1月6日、小倉優子氏はABCテレビの『~ニュースを知ればボロ儲け!?~がっぽりNews!2024』に出演した際、新NISAについて、「手を出していないです。国が推してるじゃないですか。国が推してるものにいいものがあるのかなって。何が裏があるんじゃないか」と懐疑的な見方を示しました。
このとき、司会のさらば青春の光・森田哲矢氏が永久的に非課税となる「新NISA」がいかにお得なのかを力説するも、小倉優子氏は「私は預けないです。放ったらかしにしていてもとか、そんな甘い話は世の中にない。永久っていう言葉も信じていません」と完全拒絶。その理由として「私、株やってたから分かるんです。エステに行って終わったら、リーマン・ショックで株が暴落していて痛い目にあいました……1回下がっちゃうともう上がらないんじゃないかって気持ちになって、すぐ売りたくなる」と語っていました。
ところが、わずか1ヶ月後の2月14日。小倉優子氏は自身の動画で、お金の見直しをしてみましたとして、「本を読んでみました!」「iDeCoも入りました!」「オルカンとS&P500に投資してます!」 と意見を変えています。
この発言は、ネットなどで叩かれたようで、ホリエモン氏やひろゆき氏なども批判していましたけれども、「アタマワルイ」とか「政府が信用できないなら日本からでてけ」というのは反論でもなんでもありません。
デメリットを殆ど言わず、メリットばかりいって推すのなら、それはどこかのワクチンと同じです。
6.政府は国民の為の政治を行っているか
8月2日、岸田総理は「金融経済教育推進機構(J-FLEC)」の立ち上げ式を視察し、「国民の金融リテラシー向上に向け、国民目線に立った活動を進めていただきたい」と職員を激励しました。
金融経済教育推進機構は、「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」に基づき、国民の金融知識の向上を目指す教育機構として、2024年4月に設立された認可法人です。
これまで日銀や金融庁、金融機関などが別々に取り組んできた金融教育の司令塔となる機構で、設立にあたっては、金融広報中央委員会(事務局:日本銀行)、全国銀行協会、日本証券業協会が発起人となっています。
この日、金融経済教育推進機構は電話による無料相談を開始。岸田総理は機構の個別相談室も視察し、「金融トラブルを防ぐ観点でこうしたサービスは不可欠だ……顧客の立場に立った認定アドバイザー制度を適切に運営し、多様なサービスを提供することが重要だ」と述べ、この秋にも認定アドバイザーへの相談料を8割引とするクーポン券の配布を検討するよう要請しています。
岸田総理は、視察後、金融界関係者との会合を行い、「JーFLECを中心として、官民一体で幅広い世代に適切な金融経済教育を提供していくことが重要だ」と述べ、今後、金融経済教育に関する業界団体などのハイレベル会合を定期的に開催する方針を示しました。
けれども日経平均がブラックマンデーに次ぐ大暴落の中、国民の金融リテラシー向上が大事だとは、間の抜けたというか、遅すぎるコメントに聞こえます。4月に設置した金融経済教育推進機構の立ち上げ式が8月になるのも意味不明ですし、本当に国民の金融リテラシー向上が大事だと思っているのであれば、4月時点からそう広報すべきですし、ゆうこりんの疑問にも懇切丁寧に回答してしかるべきです。
今回の暴落で、新NISAに投資して大損害を負った人も多くいるのではないかと思います。
そんな中で、「金融リテラシーが大事だ」なんていわれても、「国のいうことは信じるな」としか聞こえない人も出てくるのではないかと思います。
要するに、政府が国民の為の政治を行っているのかどうか、岸田政権はますます厳しい目で見られるのではないかと思いますね。
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