ネタニヤフの挑発とイランの戦略

今日はこの話題です。
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1.レバノンから退去せよ


中東での紛争拡大懸念が強まる中、欧米各国が自国民にレバノンからの退去を促しています。

無論、これは、先日、ハマスの最高指導者ハニヤ氏が暗殺されたことをめぐり、イランがイスラエルへの報復を宣言しているからです。

在レバノン米大使館は、米国民に対し「入手可能な航空券」を予約するよう呼びかけ、英国のラミー外相は「今すぐ出国」するよう求めています。

フランスも8月4日、国民に対し「一刻も早く」レバノンから出国する準備を整えるよう呼びかけ、トルコはレバノンへの渡航勧告を更新。レバノンに滞在する必要のない人は商業便が運航している間に出国するよう促しています。

カナダ政府も「交戦が深刻化すれば出国に影響が出る」と指摘し、イスラエルへの旅行を避けるよう自国民に求めました。

既に、エールフランス、ルフトハンザ、クウェート航空などの航空会社はレバノンの発着便を取りやめており、他の航空会社もレバノンから航路を迂回。アジアの民間航空機にも運休が相次いでいます。

アメリカやイスラエルの複数の政府当局者は、早期にイランがイスラエルを攻撃するとの見方を示し、緊張が高まっています。


2.アメリカ大統領を甘く見るな


戦争のリスクが高まる中、ネタニヤフ首相にエスカレーションを警告/バイデン大統領がネタニヤフ首相に不満か ハマス指導者暗殺巡り

8月3日、アメリカ空母打撃群、戦闘飛行隊、追加の艦船を中東に派遣しました。これはガザ紛争初期以来、この地域への最大規模の派遣とみられています。

その一方、バイデン政権は、ネタニヤフ首相をなんとか抑えようと必死になっています。

8月1日、バイデン大統領が、ネタニヤフ首相と電話会談を行っていますけれども、バイデン大統領は、想定されるイラン側からの攻撃に対する防衛支援を伝える一方、イスラエルがその後再び緊張を高める行動を取った場合には、アメリカの支援を期待しないよう警告しました。

ネタニヤフ首相は、7月下旬にホワイトハウスでバイデン大統領と会談し、停戦について協議していました。にも関わらず、その後、ハマス幹部のハニヤ氏が殺害されたことで、バイデン大統領は、この日の電話会談でネタニヤフ氏に対し、「会談で停戦合意について話したにもかかわらず、暗殺に踏み切った」と不満を示したようです。

更に、バイデン大統領はネタニヤフ首相にハマスとの停戦合意と人質解放に向けた交渉について「今すぐ取引に応じるべきだ」と迫ったのですけれども、ネタニヤフ首相が「我々は交渉を進めている」と強調すると「出鱈目を言うな……アメリカ大統領を甘く見るな」との異例の強い表現で交渉の進展を求め、会談を終えたとのことです。

米紙アクシオスは、会談の背景と目的について次のように説明しています。
・バイデン政権は、イスラエルとハマス間の人質および停戦合意を 中東における戦後戦略全体の中心に据えている。
・バイデン氏は合意に達するための取り組みに個人的に関与しており、これを残り6カ月の任期における自身の功績の中核となる要素だと考えている。
・バイデン氏がネタニヤフ首相に電話したのは、イランとヒズボラによる報復に対する米イスラエル合同軍事準備について話し合うためだったが、同時に、イスラエル首相が先週取った方向性に満足していないことを明確にするためでもあった。
アクシオスによると、会談でバイデン大統領は、ハマスとの停戦合意について「声を荒げ、1週間から2週間以内に合意に達することを望んでいる……人質と停戦合意が現在最も重要だ」と語り、「我々は転換点にいる…たとえ合意が完璧でなくても、戦争を終わらせ地域の安定を達成するために全力を尽くす必要がある。ハマスは今すぐ合意を望んでいる。合意は変わるかもしれない」と迫ったそうです。

一方、アメリカ政府高官が「ネタニヤフ氏は交渉ではなく戦闘を長引かせようとしている」と指摘、イスラエルに武器弾薬を提供してきたアメリカの支援継続が「難しくなってきている」と漏らしているところをみると、バイデン政権はネタニヤフ首相を制御できていない印象を受けます。


3.ハニヤ暗殺に関する西側の報道は心理作戦


一方、イラン側は、ハニヤ氏殺害後の影響についての西側メディアの報道は「心理作戦」だという見方もしているようです。

8月4日、テヘランタイムズは「暗殺事件の報道」という記事で次のように述べています。
・イスラエル政権がテヘランでのハマス政治指導者イスマイル・ハニヤの暗殺による影響を封じ込めようと躍起になる中、差し迫ったイランの報復の恐怖がイスラエルに重くのしかかっている。それを受けて、西側メディアはイスラエルが自らの行動の結果に直面することを防ぐため、根拠のない主張を野火のように広めるというおなじみの手法に戻った。

・8月1日、ハニヤ氏がテヘランの仮住居で暗殺された翌日、ニューヨーク・タイムズ紙は嘘と欺瞞の連鎖を一気に終わらせた最初の西側メディアとなった。同紙は、ハニヤ氏が部屋に仕掛けられた爆弾によって殺害されたと主張する記事を発表した。その爆弾は2か月前に部屋の中に隠されていたものだった。

・NYTは、この主張を行うにあたり、「中東当局者7人」とされる匿名の情報源のみを頼りにしていた。この報道がイラン当局に否定されると、同紙は証拠を提示する代わりに、2つ目の記事で捏造した報道を倍増させた。

・8月3日に発表された2番目の記事は、再び身元不明の情報源を頼りに、イランがハマスの政治指導者の暗殺を可能にした「屈辱的なセキュリティ違反」の疑いで、上級情報部員や軍関係者を含む「20人以上を逮捕した」と主張した。ニューヨークタイムズが拘束されたと主張する20人以上の人物の身元や役割については、詳細は明らかにされていない。

・このアメリカの新聞がトレンドを作った後、他の西側メディアも、その新聞が作り上げようとしていた物語をそのまま繰り返し始めた。例えばテレグラフ紙は、爆弾は1部屋ではなく3部屋に隠されていたと伝え、またモサドは当初、5月に故エブラヒム・ライシ大統領の葬儀に出席したハニヤ氏を暗殺する計画を立てていたと主張した。

・NYTと同様に、ハニヤ氏の死の状況を報道する他の西側メディアも、自らの主張を裏付ける具体的な証拠を提示できていない。

・イスラム革命防衛隊(IRGC)はハニヤ氏の暗殺後に3つの別々の声明を発表し、最後の声明では、パレスチナ指導者はテヘランの自宅の外から発射された「短距離弾」によって殉教したと説明した。

・イランとハマスの当局者、そして目撃者から提供された他のすべての説明は、IRGCが発表した詳細と一致している。

・「私はイスマイル・ハニヤが殉教した場所を自ら視察した。外から見ると壁には破壊の跡があり、天井は内側に崩れ落ちていた。もし室内で爆弾が爆発していたら、その後の状況は全く違ったものになっていただろう」とイランのハマス支局長、ハレド・アル・カドゥミ氏はテヘラン・タイムズに語った。

・「西側メディアが常にシオニスト政権のストーリーを真似しようとしていることは、私たち全員が知っている。西側メディアは常に、捏造され、巧妙に練られたシナリオで視聴者を騙そうとしている。彼らはそれをやる専門家になっている」と彼は付け加えた。

・西側メディアは、イスラエルの利益にかなう嘘や捏造を流布してきた長い歴史がある。40人の赤ん坊の首を切られたという悪名高い事件、10月7日のハマス勢力による強姦疑惑、パレスチナのロケット弾がアル・アハリ・アラブ病院を襲ったという捏造された話は、過去10か月間にアメリカやヨーロッパのメディアが流したあからさまな誤報のほんの一例に過ぎない。

・もちろん、西側メディアは自らの主張の証拠を示す必要性を感じていない。これは主に、意図的な虚偽ニュースに対して責任を問われることがほとんどないからだ。たとえ最終的に誤りを認めたり訂正したりしたとしても、その虚偽ニュースは一般大衆の信念に根付いているため、被害はすでに生じている。

・今回は、西側メディアがイスラエルに対するイランの報復に対する国民の支持を弱めようとしているようだ。

・「イスラエルがシリアのイラン大使館を攻撃した後、イランが『トゥルー・プロミス作戦』を実行したとき、その種のものとしては前例のないものであったにもかかわらず、さまざまな国とその国民がこの作戦を支持した。それは、世界がテヘランにはイスラエルの侵略に応じる法的権利があると信じていたからだ」と、プレスTVウェブサイトの元ディレクターで西アジアアナリストのマフディ・カナリザデ氏はテヘラン・タイムズに語った。

・カナリザデ氏は、世論が再びイランに同調し、イラン領土内でパレスチナ指導者を狙った政権のテロ攻撃に対し、イランは反撃する権利があるという考えを支持していると指摘した。「ニューヨーク・タイムズ紙やその他のメディアが、事件は攻撃ではなく治安と諜報の失敗によるものだと示唆しているが、これは暗にハニヤ氏の暗殺に対する軍事行動は不当であると主張していることになる。これは、イランのイスラエルに対する報復の正当性を弱めることになる。」

・ガザに関する10か月に及ぶ露骨な誤報の後、西側メディアの報道の正確性について人々の疑念が高まっていることを考えると、西側メディアがイスラエル側に人々の理解を得るのは困難かもしれない。しかし、たとえ西側メディアの最新のプロパガンダ作戦が実を結んだとしても、イスラエルを処罰しようとするイランの意志に影響を与える可能性は低い。

・「イランと抵抗勢力は、何があろうともハニヤ殉教者の血の復讐をするつもりだ」とアル=カッドゥミ氏は宣言した。「シオニスト政権はあらゆる国際法を破り、この地域の隅々に混乱を引き起こしているため、国際社会も行動を起こして抵抗枢軸に加わる必要がある」
8月3日のエントリー「中東大戦はイラン次第」で、ハニヤ氏の殺害について、筆者は、イラン革命防衛隊が運営していた建物に爆弾を仕掛けて殺害したことに違和感を覚えると述べていましたけれども、テヘランタイムズは、ハニヤ氏殺害の具体的証拠を提示していないと指摘しています。

そして、ハニヤ氏殺害を暗殺ではなくイランの治安の問題だと矮小化することで、イスラエルへの報復の正当性を弱めようとする情報戦だというのですね。


4.ネタニヤフの挑発とイランの戦略


ネタニヤフ首相がどこまで本気で停戦を考えているのか分かりませんけれども、世界のイスラエルに対する風当たりは増々強まっています。

8月3日、イスラエル中部テルアビブなど各地で、停戦交渉を妥結させ、人質解放を進めるよう政府に要求するデモが行われました。

ハマスはガザで約120人をいまだに拘束しているとされ、そのうち半数以上は既に死亡したとの推計もあり、人質の家族らは焦りを募らせています。

今回殺害されたハニヤ氏は交渉の中心人物だったそうで、今回の殺害でハマスは態度を硬化させています。

デモに参加した女性のアイリスさんは「交渉への影響は甚大だ……人質解放が最優先課題だ」と訴え、男性のハレルさんは、「なぜこのタイミングだったのかが理解できない。交渉をさらに停滞させただけだ」と暗殺を批判する声も上がっています。

同じく3日、モロッコの首都ラバトでも抗議活動が行われ、ハニヤ氏の肖像画を掲げた何千人ものモロッコ人がパレスチナ人への支持を表明しました。

また、インドネシア各地では3日、ハニヤ氏の殺害に抗議するため、数千人のデモ参加者が首都ジャカルタに集まり、インドネシアとパレスチナの国旗を振りながら、ハニヤ氏のポスターと「我々の指導者の血はパレスチナの子供たちの血よりも価値がない」と書かれたプラカードを掲げ、厳重に警備されたアメリカ大使館まで行進しています。

デモ参加者はパレスチナ支持のスローガンを叫び、イスラエルの占領からのパレスチナの土地の解放を求め、イスラエルのガザに対する大量虐殺戦争に対する米国の支援を非難しました。

韓国でも週末に親パレスチナ集会が行われた。ソウル中心部のデモ参加者はハニヤ氏の暗殺を非難し、ガザでの大量虐殺の終結を訴え、トルコのイスタンブールでも反イスラエル抗議デモが行われています。デモ参加者はハニヤ氏の殺害とイスラエルによるガザでの残虐行為を非難しています。

イギリスのロンドンでも数万人の抗議者が横断幕を掲げ、「大量虐殺を終わらせよう」「中東戦争反対」といったスローガンを叫んで、自国のイスラエル支援を非難。政府に対し、ネタニヤフ首相の政権への武器供給をやめるよう要求しました。

更に、オリンピックが開催されているパリでも抗議活動が行われました。

自電車競技中、パリ20区を通過する際、デモ参加者はパレスチナの国旗を掲げ、「パレスチナを解放せよ」と叫びました。また、何百人ものデモ参加者もナシオン広場に集まり、ガザへの攻撃の停止を求め、イスラエルの攻撃で殺害されたパレスチナの子供たちの写真が描かれた横断幕を掲げました。

もはや抗議対象がイスラエルを支援する自国政府にまで及んでいます。敵の味方は敵。このままではイスラエルどころかイスラエルへの支援も段々とできなくなってくるかと思います。

となると、おおきな流れでは、イスラエルとその支援国は国際的孤立に置かれることになります。

昨年12月のエントリー「陸の島国イスラエルとスエズ運河」で、イスラエルは、その物流を海運に頼っている陸の島国だと述べましたけれども、イランの戦略として、何も直接攻撃などせずとも、小田原水攻めのように、他国からの支援をさせなくすると同時に「全面攻撃するぞするぞ詐欺」でもして、イスラエルを丸ごと極度な緊張体制に置き続けることだって考えられなくもありません。

現にイスラエルの人々は物資の備蓄を進めていて、エルサレム市当局は、住民に防空施設を整えておくよう勧告するとともに、90秒以内に避難できるようにしなければならないと警告しているそうです。

まぁ、数日や数週間くらいであれば、イスラエル国民も頑張れるかもしれませんけれども、年単位でこれが続けられるとも思えません。

実際、ヒズボラがミサイル攻撃を断続的にやっていますけれども、もうこれだけで緊張状態を強いられることになっているのではないかと思います。国民が先に参ってしまえば、戦争もクソもありません。

ネタニヤフ首相の挑発とイランの戦略。そして、国際社会のイスラエル支援の限界点。中東情勢がエスカレートするのか、緩和に向かうのか。それは、これらが複雑に絡み合って進んでいくのではないかと思いますね。




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